梅雨前線異常なし


 『雨がザーザー降ってきて〜♪』

 小雨の降る林の中を、まるでそこだけが晴れたかのような明るさを撒き散らす一行、もとい一行の一部があった。
 巨大な葉っぱを各自傘代わりに差している。

 「あられがポツポツふってきて〜」
 「三角定規にひびいって〜」

 直前まで調子よくはもっていた少年と少女の歌詞がここで対立した。

 「・・・。」

 「フェニックス、その歌詞間違ってない?」
 「あれ、間違ってないよ。」
 「だってこれ、『かわいいコックさん』でしょ?」
 「ん〜?ちょっとまってよ。」
 そう言うと、フェニックスが一人ぶつぶつ歌い出し、そして。
 
 「あられがぽつぽつ降ってきて〜、あっというまにたこにゅうどう っ。・・・、あ本当だ。」
 
 「歌詞や音程が同じだったりすると別の曲に行ったりするのよね〜。」

 あはは、と笑う二人を後ろからティキとアスカがあきれながら眺めていた。
 いや、実際本気であきれていたのはティキ一人だった。

 「あいつら何であんなにのんきなんだよ。」
 「・・・本当にそうだよな〜。」
 返事自体は同意のものであったが、その口調は明らかに意思が伴っていなかった。
 「なんだよアスカ。もしかしてお前も仲間に入りたかったのか?」
 ぞっとする、といわんばかりのティキの言葉にアスカが慌てて訂正した。
 「ち、違うってば。オイラ別に仲間になんか入りたくねーし、そもそも入れないしよっ。」
 「入れない、ってどういうことだよ?」
 何気ないティキの問いに、アスカは軽くうつむき答えた。
 「・・・。オレ、あんな歌シラネーもん。」

 様々な大人に囲まれていたフェニックスやアムルと違って、アスカには『何か』を伝えてくれる存在がいなかった。
 今アスカが身につけている物はすべて一人で培ってきたものだ。
 それが不幸だと思ったことはない。
 ここまで一人で生きてきて、生きてこれて、その結果がこの旅に役立っている。
 むしろ自分を誇らしく思うことが多いくらいだ。
 けれどあまりに育ちの違う事実が何気ない日常に現れると、どうしてもとまどってしまうことは否めない。
 
 「俺だってシラネーけどよ。」
 え?と思いながら声の方を見上げると、ティキがにっと人の悪い笑みを浮かべた。
 「それはつまり、知ってたら歌ってたかもしれねーんだな。」
 「じ、冗談じゃねーよ。あんなガキみたいな仲になんか誰が入るかってんだっ!」
 ないものはねだったってしょうがない。
 そもそもねだりたがってることを認めちゃいけない。
 ふんっと鼻息を荒く言い切ったアスカだったが、次の瞬間ガッとティキに首に腕をまわされた。

 「??」

 ビックリするアスカにかまわずティキが発した言葉はさらにアスカを驚かせるものだった。

 「おい、フェニックス。アスカがその歌教えて欲しいんだとよ。」

 「!?」

 「ああ、うんっ。アスカ、こっちおいでよ。」

 フェニックスが笑顔で振り向き手を振る。

 「ほらよ。」

 逃げられないようホールドしていた腕をほどくと、ティキがアスカの背中を前に押した。

 数歩踏み出しながらも、躊躇して一瞬足が止まる。

 イインダロウカ。

 誰に聞くというわけでもなく、足元を見つめながら自問がよぎった。

 「アスカ、『たこ』と『かわいいコックさん』とどっち先にする?」
 明るい声が胸に届く。
 はっと前をむくと、フェニックスの屈託のない笑顔もそこに飛び込んできた。
 
 曇天の中、何故かそこだけが明るく見える。

 何を立ち止まることがあるのか。
 
 ははっ、とかるく息を吐くとアスカはフェニックスの元に駆け寄った。

 「『たこ』っ!まずは絶対『たこ』!!」
 何故ってやっぱり食べられるものの方が歌っててうれしくなるではないか。

 気がつくと雨はあがっていた。

 そしてフェニックスの立っている方向から晴れ間が見え出したことにも気がついた。
 

 
 「じゃあそんなの道々でいいだろ。」
 そう言いながら、立ち止まっていた3人のそばをティキが通り過ぎた。
 過ぎようとした。
 はっしと手を握られたのだ。

 ティキを止めた黒髪の天使はにいっと笑いながら、明るく言った。
 「よし、じゃあティキにも教えてあげるよっ。」
 「ああ、そりゃあいいやっ!」
 にやにやしながらアスカが続ける。

 「ば、馬鹿いうなっ!そんなの対象年齢5歳以下が歌ってりゃいいんだ!!」
 「な〜に言ってるの。僕らのどこが5歳以下なんだよ。」
 「精神年齢の話をしてるんだっ!!」
 『この馬鹿』と言外に怒鳴る。
 「精神年齢って・・・、ちょっとそれどういうことだよ!!」
 「お前の頭の中が3歳以下ってことさ。」
 「は?3歳・・・?」
 違和感に腕を組む。
 「って、なんで下がってるの!!」
 「・・・そういう所が3歳なんだよ。」
 やれやれ、と再びあきれる。

 「アスカ、道々私が教えるのでいい?」
 歩き出したアムルが、やはり歩き出したアスカに提案した。
 「うん、っていうか、アムルの方が信用できるしな〜。」

 よく考えなくても、フェニックスが歌詞をきちんと覚えている保障はないのだ。
 合わせて、フェニックスはすぐにティキとのケンカに忙しくなるのだから。

 後ろを振り向くことなく、二人は歌いだした。


                     おわり



 

-Powered by HTML DWARF-

繝繝ャ繝ッ繝シ繧ッ縺ェ繧右C繝翫ン Yahoo 讌ス螟ゥ LINE縺後ョ繝シ繧ソ豸郁イサ繧シ繝ュ縺ァ譛磯。500蜀縲懶シ
辟。譁吶帙シ繝繝壹シ繧ク 辟。譁吶ョ繧ッ繝ャ繧ク繝繝医き繝シ繝 豬キ螟匁シ螳芽穐遨コ蛻ク豬キ螟匁羅陦御ソ晞匱縺檎┌譁呻シ 豬キ螟悶帙ユ繝ォ