君を、僕だけのものにして、ずっと飼っておきたい。

 

猫 *2

 

ネビルが目を覚ましたのは、翌朝になってからだった。

一晩中、ネビルの寝顔を見ながらドラコは、疲れて眠ってしまっていた。

目を覚ましたネビルは、閉じていた大きな瞳を何度か瞬かせ、視界が冴えてくると、無意識に身体を伸ばして大きく伸びをした。

途端、身体を襲う激痛。

「・・・・・ぎゃっ!!!・・・」

尻尾を踏まれた猫を連想させる、耳障りな音がその口から漏れた。

身体を強張らせて、背を丸め、寝かされていたベッドの上でただ震える。

猫になったネビルにも、自分の身に起こった事が理解できた。

ドラコに、痛い事をされたのだと言う事は、理解が出来た。

猫のネビルに優しかったドラコ・・・・・・・でも、今はそんな彼が怖い。

 

 

そうして、何十分も悪戯に時間が過ぎた。

ドラコが目を覚ますと、ベッドの上は自分ひとりだけで、ネビルの姿が見えない。

・・・・・・・・・・・・・逃げたのか。

あんな酷い事をしてしまったのだから、猫じゃなくたって逃げるだろう。

そう思って、ドラコは溜息と共に、暗い表情で気だるい身体を起こした。

そして・・・気が付いた。

自分の身体の上に覆いかぶさるように眠る、猫の存在に。

安らかな寝顔で、すやすやと寝息を立てていた。

「・・・・・・・・ネビル・・・」

ドラコは、安心と不安が入り混じった声でその名を呼んだ。

ドラコの声が聞こえたのか、ネビルが身じろぎ、ドラコの身体に擦り寄ってきた。未だ、眠りからは覚めていない。

「すまない・・・・痛かっただろう?」

そんなネビルを労わるように、栗色の髪に指を絡ませ、頭を撫でた。

理性を保てなくて、犯してしまった昨夜の過ち。

初めての彼には、もっと優しく・・・接してあげるべきだったのに。昨日の自分は、少し軽率だった。

何度も髪をすいては謝罪の言葉を繰り返すドラコ。

そのくすぐったい感触と、声に、ネビルはまどろみの中からゆっくりと意識を覚醒させた。

最初に見えたのは、真っ白いシーツ。

それから・・・・温かい誰かの体温と、優しい声を感じた。

「・・・・・・・ん〜・・・・・ぅにゃあ・・・」

小さな伸びと共に、気の抜けた声をこぼしたネビルはそのまま、コロンとドラコの膝の上に寝返りを打って、仰向けに寝転んだ。

「・・・・・ネビル?」

ドラコは小さくその名を呼んで、申し訳なさそうな視線でネビルを見下ろす。

言葉の通じない彼に、どうやって謝罪を伝えるべきか悩んでいた。

そんなドラコを、大きな潤んだ瞳で見上げたネビルは、ふっとその顔に笑顔を浮かべた。

 

「にゃお〜・・・・にゃん」

まるで、おはようとでも言っているような仕草で、ドラコを見上げる大きな一双のヘーゼルアイ。

「・・・・昨日は・・・悪かった・・・・・・・身体は大丈夫か?」

ドラコは結局、人間の言葉で気持ちを伝えた。

それ以外に謝る方法なんて、ドラコは知らない。

ネビルはドラコの言葉を理解できないのか、不思議そうに首を傾げた。

晴れない表情で自分を見下ろすドラコに、何度か無言で瞬きを返すと、そのまま再度寝返りを打って、今度はドラコの腹の辺りに顔を寄せる。

地下のこの部屋が寒いのか、ネビルは手足を丸めて縮こまり、ドラコの腹に頭をすりすりと寄せた。

「寒いか?」

ドラコが聞いてもネビルは答えなかった。

ただ心地良さ気に目を細めて、ドラコに擦り寄るのを繰り返す。

ネビルのその仕草に、取り合えず嫌われては居ないらしい事を理解して、ドラコはネビルの身体にふわりと毛布をかけてやった。

温かくなった身体に、嬉しそうに微笑んだネビルは、ドラコの服を無意識に掴んだままで、再び寝入ってしまった。

 

 

次にネビルが目を覚ました時、部屋の中には誰も居なかった。

昨日の記憶を忘れていなかったネビルは、真っ先にバスルームへと向かった。ドラコの行き先を、ここしか知らなかった。

しかし、昨日は閉まっていたバスルームへと続くドアが開いていた。

部屋の中には、灯りすら灯っていなかった。

遠目で見ても、中にドラコが居ないのは明白だ。

それでもネビルは四つん這いのままで部屋の入り口まで行き、中を覗きこむ。

「にゃ〜・・・・にゃぉん」

呼んでみたが、広い空間に自分の鳴き声が空々しく響くだけで、答えなんて返ってこない。

ネビルは無性に悲しくなった。

今のネビルにとって、ドラコはたった1人の人間。

自分の世話をしてくれて、優しくしてくれる、「良い人」。

彼が居なくなったら、自分はどうなってしまうんだろう。

ネビルの大きな瞳から零れ出た涙は、ぽろぽろと頬を伝って床を濡らした。

涙を拭く術を知らない。

涙を止める術を知らない。

涙を拭ってくれるのは、ドラコだけ。

他の人は知らない。

ドラコが居ない事が、悲しい。

ネビルはその場から動かないまま、ずっと泣き続けていた。

 

 

「ネビル?」

ドラコが部屋に帰ってきた。

ベッドの上に居るであろうネビルに声をかけたが、返事が無い。

眠っているのかと、ベッドの上を探すが彼の姿はそこには無かった。

しかし、部屋のドアは閉まっていたし、猫になった彼には暖炉を使って移動する事なんて出来ないだろうし・・・この部屋の中に居る事は間違いない筈なのだが・・・。

「ネビル・・・どこだ?ネビル?」

名前を呼びながら、部屋の中を見渡す。

「にゃあ・・・・・にゃぁ〜ん・・・」

ドラコの声が聞こえたのか、ネビルはバスルームへと続く扉から出てきた。

勢い良く駆けて来て、嬉しそうにドラコの足に纏わりつく。

「そこにいたのか・・・風呂に入りたかったのか?」

自然と綻んでいく自分の表情を自覚しながら、ドラコはネビルを抱き上げた。

「にゃあ、・・・にゃあ、にゃお〜」

ネビルは満面の笑みでドラコを見上げて、赤い舌でドラコの頬をぺろぺろ舐めた。

「おい・・・・くすぐったいぞ・・・・・・・・ん?お前・・・・泣いてたのか?」

至近に迫ったネビルの顔。その可愛らしい様子に微笑んだドラコだったが、その頬にくっきりと残ってる涙の跡を見つけて、眉を顰めた。

ドラコの言葉が通じないネビルは、にこにこ笑いながら、ドラコの頬に自分の頬を摺り寄せた。

「・・・・・寂しかったのか?・・・すまない・・・もうどこにも行かないから、泣いたりするな」

自分がほんの数十分出かけている間に、ネビルを泣かせてしまった事を知って、ドラコの胸に小さな罪悪感が湧く。

言葉が通じない彼に、ドラコの・・・人間の常識は通じない。

その理解と配慮に欠けていたのを、少し申し訳なく思った。

謝罪の意味を込めて、赤い唇にちゅっと可愛らしくキスをしてやると、ネビルは嬉しそうに瞳を細めた。

 

「ホラ、飲めよ・・・・あぁ、上手じゃないか」

それからドラコは、ソファーに座り、自分の膝にネビルを座らせた。

そして、さっき調理場から貰ってきたミルクのコップをネビルの口元に運んだ。

ネビルはきょとんとしていたが、コップが傾くのを察して口を薄く開いて流し込まれる甘い液体を、喉を鳴らして飲み干した。

「腹が減っただろう?・・どれから食べたい?」

ミルクをこぼさずに飲み干したネビルを、あやしながらドラコはテーブルの上に広げた食べ物を指差した。

しかし、ネビルの視線はドラコの指先ではなく、ドラコの顔を見ている。

「・・・・・ん?どうし・・・・おい」

それに気付いてドラコがネビルに声をかけかけたが、ネビルは悪戯な瞳でドラコを見上げ、ドラコの頬をぺろりと舐めた。

まるで、ドラコを食べたい・・・・とでも誘っているような仕草に、ドラコは場違いな感覚が背筋を這い上がるのを感じる。

「ったく・・・・少ししつけが必要だな・・・ネビル・・君という子は、・・・いけない子だ」

ネビルの瞳を覗き込み、細い身体を抱き寄せながら、ドラコは口元をいやらしく歪める。

そして、ネビルの唇に深いキスを落とす。

ネビルはうっとりと目を閉じて、嬉しそうにしている。

嫌がっては居ない。

そう判断して、ドラコは行動を次の段階へと移した。

優しい仕草でネビルをソファーへ押し倒し、その上に覆いかぶさった。

ネビルはドラコの首に腕を回したままで、されるがままにドラコを受け止め、足を大きく開いてその間にドラコの腰を挟みこんだ。

 

「ひゃっ……はぁん…んにゃっ…」

昨日の過ちを後悔しているドラコ。今日は出来るだけネビルに優しく接してあげようと、裸に剥いたネビルの身体を丹念に愛撫した。

ドラコの舌と指先が肌に触れるたびに、ネビルの白い身体は過剰なほどに反応し、赤い唇から甘い声を零す。

「んぅ…にゃん…」

人間の言葉では無いけれど、舌足らずな猫の鳴き声に快感が混ざっている事を確認し、ドラコはゆっくりと…しかし、確実に行為を進める。

「あっ…ぅう〜…にゃ…」

ドラコの指が下腹部を通り過ぎ、既に大きく反応を示すネビルの股間を愛撫し、その先の場所へ辿り着いた時、ネビルの身体が強張った。昨夜の痛みを忘れていないのか、涙をいっぱいに溜めた大きな瞳でドラコを見上げて、眉根を寄せた。

「大丈夫だ…今度は優しく………愛してやるから…」

ドラコは優しく微笑んで、ネビルを安心させるようにその頬にキスをした。それでも不安げにしている瞳や、赤い唇にも、何度もキスの雨を降らせる。柔らかい感触と、身体を襲う甘い疼きにネビルの表情もだんだんと和らいでいく。

「アクシオ」

愛撫の合間にそう呟いて、手元に香油の瓶を引き寄せたドラコは、片手で器用に蓋を開けて、中身をたっぷりと指に付けた。そして再びネビルの最奥へと指を忍ばせる。

ぬめりを帯びたドラコの指は、するりとネビルの中へ挿入された。

「ん……ぅん…ふっにゃ…あ…」

身体の中に感じる異物感に、ネビルは苦しそうに眉を寄せたが、痛がっては居なかった。それを確認して、ドラコは差し込んだ指を根元までネビルの中へと押し込んだ。そして、内部の壁を探るようにして、指の腹で撫でたり、関節を曲げたりを繰り返す。その度に、ネビルは可愛らしく首を振って、反応を返した。

ネビルに負担がかからないように、時間をかけて愛撫を続けたドラコは、その場所が自分の指を3本めまで難なく飲み込んだ事を確認し、一度全てを引き抜いた。

「にゃっは…はぁ…ふにゃ〜…」

圧迫感が無くなって楽になったのか、ネビルは大きく息を吐き出した。

その安心しきった顔を見て、思わずドラコの表情まで和らいだ。

思わずネビルの顔中にキスの雨を降らせると、ネビルはうっとりと瞳を閉じてかすかに微笑んだ。

「…苦しいだろうけど、我慢しろよ?…じきに気持ちよくなるから」

気の済むまでネビルにキスを繰り返してから、ドラコはそう言った。そして膨張して硬くなった自分の半身を、ネビルの身体の入り口へと押し当てる。

指とは明らかに違う熱の塊に、ネビルの身体は本能的に強張った。昨日一度経験しているとはいえ、慣れぬ行為に緊張と恐怖を感じずには居られないようだった。

「怖がるな…虐めているわけじゃない」

そんなネビルを安心させるように、額に優しいキスをして、ドラコはネビルの瞳を至近で覗き込む。お互いの視線が絡み合うと、ネビルは魅入られたようにドラコの瞳をじっと見上げた。

「そう…力を抜け……良い子だ」

視線をネビルの瞳に据えたまま、ドラコはゆっくりと腰を押し進める。

香油で濡れたネビルの蕾が、ドラコの大きな肉棒に押し開かれて、ぐちゅりと淫猥な音を奏でた。

身体の中に侵入してくる熱にネビルは怯えたように眉根を寄せ、縋るような視線でドラコを見上げる。

「わかるか?お前の主人は僕だ…感じるだろう?」

ゆっくりと…確実にネビルの中に肉棒を押し込みながら、ドラコはそんな事を囁く。

ロンの誘惑に負けて、始まってしまったこの関係。始まってしまえば引き返すことなどできない。ドラコが意図した関係ではないけれど、今確かにネビルの身体を支配している。ドラコの欲情を満たすためには、やはり主従関係は必要不可欠だった。猫であるネビルには、可愛らしい声で「ご主人様」と鳴く事が出来ないけれど、ペットとしてドラコの欲情を満たす為の存在でなければならなかった。

ドラコの綺麗なアイスブルーの瞳に魅入られたネビルは、そこから視線を外す事が出来なくなっていた。猫として…動物として、本能的に自分を支配するものに従順に従った。

身体の中にドラコの熱が全て埋まった時、それまで声を出さずに身体を震わせていたネビルは、まるで先刻のドラコの言葉に答えるように一言、小さく「にゃあ」と鳴いた。

「良い子だ」

ネビルの理解できぬ鳴き声を肯定と勝手に受け取って、ドラコは微笑み腰を少しだけ引き、再び奥まで埋める。

「あっ…にゃぅ」

些細な…でも、身体の中にダイレクトに与えられた刺激に、ネビルの身体は大きく跳ねた。

「あにゃ…はっ……にゃっ…ん」

ネビルの身体に負担がかからないように、ドラコはゆっくりとした律動を繰り返す。

激しく突かれる感覚とは違い、ドラコの動きが生々しく伝わる行為に、ネビルは自分の身体の中に主人の楔が打ち込まれている事を認識していく。

静かすぎる行為。

喘ぎ声は吐息と大差の無いささやかな声で、繋がっている部分から奏でられるぐちゅぐちゅといういやらしい音だけが部屋を支配していた。

「愛しているよ…ネビル、君はコレからずっと僕のものだ」

きつい締め付けを愛しく感じながら、ドラコはうわごとのようにそう囁く。

「にゃ…あ…ぁう…うにゃん…」

ネビルは細い腕で精一杯ドラコに縋り、与えられる快感と支配される術を学んでいった。

 

 

続く。

なんかもう、猫なのかなんなのか…。

ドラコもそうだけど、深月も混乱してきた…。ごめんなさい。

2005・11・20

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