愛するがゆえ6。〜センチメンタル☆ジャーニー(後編)〜

 

 

「先生、ちょっとよろしいですか?」

その日、その場所で、その時間にドラコがスネイプに出会ったのは本当に偶然だった。

いつものように会釈をして、擦れ違おうとしたドラコの脳裏に数日前に頭に浮かんだ考えが蘇ったので、思い立って声をかけた。

「何だ?」

スネイプはまるで興味の無い様子で、ドラコを見る。

「少し・・・・お聞きしたい事があるのですが・・・その、花の事で」

少しだけ声のトーンを落としたドラコに、スネイプは無言で自分の後をついて来いというジェスチャーをした。

 

 

 

「ネビル・・・本当に、胸無いの?本当に女の子じゃないの?」

陽だまりの午後、中庭の片隅にのんきなルーナの声が聞こえる。

「無いよ、僕男の子だもん」

くすくす笑って、ネビルはルーナの問いを否定した。

「変なの・・・なんか最近、ネビルすっごく女の子みたいなんだよねぇ・・・」

首を傾げてそんな事を言いながら、ルーナはネビルの平らな胸を服の上から何度もぺたぺたと無遠慮に触る。

「そんな事無い・・・・・と思うんだけど、ハナが居るからね・・・お母さんだからかな?」

誰にも言えない自分の秘密を唯一知っている友人に、ネビルは心から安らかな表情を晒す。

最近彼は少し疲れていた。

気兼ねなく何でも話せる友人の前だからなのか、数分もすると優しい午後の日差しに照らされたベンチの上で、ルーナの肩に頭を預けて寝入ってしまう。

「・・・・・疲れてるんだね・・マルフォイにちゃんと話してあげたら良いのに・・・・知らないよ?喧嘩しても」

そんなネビルを微笑んで見詰めながら、全てを見通す力を持った少女は小さく呟いた。

 

 

「ポッター・・・・・ネビルを知らないか?」

その日の夕食後、レポートの為に図書室へと向かっていたハリーを、ドラコが物陰から呼び止めた。

「え?マルフォイの所じゃないの?」

聞かれたハリーは困ったように首を傾げた。

「・・・・・・どういう事だ?」

ハリーの言葉に、怪訝そうに眉を顰めてドラコが問いただす。

「え・・・・と、・・・・・僕、そう聞いた気がするんだけど・・・・もしかしたら、ルーナと一緒なのかな?」

にわかに漂いだした嫌な気質の空気に、ハリーは慌てて言葉を選んだ。

ここ数日、ネビルは夕食が終わると直ぐに「ドラコの所へ行ってくる」と言い残して、部屋から姿を消していた。

ネビルの不在を誤魔化す立場に居るロンとハリーは、連日続くネビルの外出に「マルフォイの体調でも悪いのか?」と楽観視していた。

しかし、その考えをだんだん訂正せざるを得なくなってきている。大広間や授業で見かけるドラコは、相変わらず憎たらしいほど元気そうだし、・・・・かと言って、真面目なネビルが連日連夜、恋人と夜遊びと言う事も無いだろうし。深夜のうちに帰ってきているのか、それとも朝帰りなのか、いつもネビルは疲れた顔をしていて、2人はいまいち強く問いただせないでいる。

2人としても、同室者たちにする言い訳に尽きてきている事もあって、そろそろドラコにネビルを毎晩連れ出すのを止めてくれと忠告しようと思っている所だった。

その矢先のドラコからの願ってもみない接触。しかし、それはまだ見ぬ混乱を色濃く孕んでいた。

ネビルは「ドラコの所へ行く」と言って部屋を出ているのに、当のドラコがネビルの行き先を知らない。そんな事って・・・。

ネビルに限って浮気はあり得ない。

それを確信しているハリーは、咄嗟にネビルを庇った。

ルーナの名前を出したのは、最近ネビルが彼女と良く一緒に居るから・・・・思わず。口からでまかせだった。

「・・・・・ポッター、嘘を吐くなよ?」

ハリーの瞳に揺れる狼狽の色を目聡く察知したドラコは、疑いの眼差しをハリーに向けた。

「嘘じゃないよ、・・・・そんなに心配だったら、明日にでもネビルに直接聞いてみたらいいだろう?」

これ以上ボロを出すと、とんでもない火種をばら撒いてしまいそうだったので、ハリーは一方的にそう言って会話を終わらせて、その場を去った。

残されたドラコは、その場に留まり険しい顔で何かを考え込んでいた。

 

 

翌朝、朝食へ向かう生徒の波の中に見慣れた栗毛を見つけたドラコ。

少し強引にその腕を取ると、人波に逆らって人気の無い場所へと彼を連れ出した。

「痛いよ、・・・・ドラコ、何?どうしたの?」

ドラコの行動の意味を理解できていないネビルは、無遠慮に掴まれた腕の痛みに悲鳴をあげた。

「ネビル・・・昨日の夜、どこに居た?」

そんなネビルの声を無視して、ドラコは掴んだ腕を開放せずにネビルに問い詰めた。

「え?・・・寮に居たけど?・・・・・それがどうかした?」

ネビルは目をぱちくりと瞬かせて、ドラコを見上げる。

「僕に嘘をつくな」

ネビルの瞳に揺れる動揺を、ドラコは見逃さなかった。

「嘘なんか・・・」

「ネビル」

それでも自分の主張を変えないネビルに、更に強く詰め寄るドラコ。

「・・・・・・・・・」

真っ直ぐで強いドラコの視線に晒されて、ネビルは言葉を失う。

2人はそのまま無言で睨み合った。

 

「あらあら・・・・・朝から夫婦喧嘩ですか?感心しませんね」

そんな2人の所へ、運悪く出くわしてしまったマクゴナガル。

廊下の先から呆れた顔で2人を見ていた。

「お止めなさい、話し合いは放課後にでもゆっくりとしたら良いでしょう?・・・・今はそんな暇は無いはずです・・・そうですね?」

そのままヒールをカツカツと響かせ2人に近付いて、彼女は強制的に2人の時間を終わらせた。

結局それ以上の詮索も出来ぬままにネビルと別れたドラコ。彼の胸には重石のように不安と不快感が残った。

ネビルが自分に何かを隠しているのは明らかだ。

元来彼は嘘を上手に吐けない、損な性格。

少し問い詰めただけで、あっさりと態度でそれを肯定してくれた。

それなのに・・・・・嘘を吐き通そうとする態度は、夫婦として誠実さに欠ける。

不誠実を嫌う筈の彼が、どうして夫である自分に嘘を吐くのだろう。

ドラコの不審はそれだけじゃない。

さっき見たネビルの首筋・・・・・ネックレスがかかっていない。

風呂に入る時に外して、そのまま付け忘れたのか・・・・・あり得ない。生真面目なネビルに限ってそんな事。

現に、数年前にあげたルビーのブレスレットを彼は、一時的に失くしていた数日間以外、一日たりとて付け忘れた事など無い。さっきも、彼の腕にちゃんとルビーの存在を確認できた。

ブレスレットを外さずに、ネックレスを・・・・指輪だけを外すなんて・・一体、何をしたらそんな状況に?

まさか・・・・・・・・もしや・・・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・浮気か?

「馬鹿らしい」

自分の愚かな思考が導き出した答えを、ドラコは即座に否定した。

結婚を許された時、泣いていたネビルを思い出す。

自分の過去の傷を、穢れと感じ「傍に居たいけど、居られない」と、泣いていたネビル。

そこまで自分を想っていてくれる彼に限って、浮気なんてある得るはずが無い。

しかし・・・・。

ドラコの脳裏に、1人の人物が浮かぶ。

金髪の不思議な少女、ルーナ・ラブグット。

彼女の存在は、ドラコにとって少し脅威だ。

気付けばいつもネビルと一緒に居て、ハナの存在も知っている。

ドラコの知らない占いや、植物など、ネビルとの共通の趣味を持っている彼女。

ドラコに無いものを持つ彼女に惹かれたのか。

なにしろ、ルーナは女性だ。

子供を産んだとはいえ、根本的に男であるドラコにとって、その事が一番の脅威だった。

 

 

その日一日を悶々としたまま過ごしたドラコ。

放課後になるや否や、部屋にも戻らずにネビルを探して校内を走り回った。入っていた予定など、全てボイコットした。

そして、ようやく目的の人物を見つけたのは中庭の隅。しかも、ご丁寧にルーナも一緒だ。

ベンチに座って静かに本を読んでいたルーナは、近付いてくる足音に顔を上げて、その人物を見た。

「話がある」

自分に気付いたルーナを険しい顔で睨み、ドラコは一言呟いた。

普通の女の子なら、ドラコの纏う怒気に竦みあがったかもしれないが、そこは変人の称号を有するルーナ、飄々とした表情を崩さなかった。

「そろそろ来ると思っていたよ」

まるで何もかもを見透かしている口調でそう言って、ルーナは口元に静かな笑みを乗せた。

「・・・・」

ドラコは無言でルーナを睨む。

「でもねぇ・・・・・今は、ネビルを起こすといけないから、夕食が終わったら話してあげるよ・・・・ネビルの事でしょう?」

何も言わないドラコの思考を的確に読んだ彼女は、傍らのネビルにちらりと視線を向けてそう言った。

そのネビルは、こともあろうにルーナの膝枕で、安心しきった顔で寝入っている。

「夕食後、この場所でいいな?逃げるなよ?」

命令口調でそう言い残すと、ドラコは来た時と同じ様に怒りの滲む荒々しい歩調で去っていく。

これ以上無いくらい・・・・恋人同士に見えるくらいに、仲の良い2人の様子をこれ以上見ていられなかった。

言いようの無い苛立ちと、敗北感だけがドラコの胸を苛んでいた。

 

「遅かったね」

ドラコが約束の場所へ行くと、そこには一方的な約束通りルーナが既に待っていた。

遅れてきたのはドラコの作戦だった。

兵法の初歩の初歩。

敵を待たせる余裕の無い者に、勝利などあり得ない。

このままみすみす大事なネビルをルーナに渡す気なんて、ドラコにはさらさら無い。

どんな手を使ってでも、たとえ目の前の少女に一生の傷を負わせようとも、ネビルを死守してみせる。そんな悲壮な決意を胸に、ドラコはこの場に臨んでいた。

「そんな怖い顔しなくても、・・・あんたが思っていような事は何も無いよ」

何も言わないドラコの思考を、ルーナは憎らしいほど読んできた。

「五月蝿い、ごたくはいい・・・・さっさと話せ」

ドラコはルーナに挑発的な視線を向けたまま、傲慢な物言いでルーナに話を促した。

「・・・・・・わかったよ、実はね・・・」

呆れたように一度ドラコを見た後、ルーナは話を始めた。

 

 

 

 

夕食後のざわつく廊下を、ドラコは全速力で走り抜けた。

脇目も振らずに私室へと飛び込んで、暖炉に煙突飛行粉を投げつける。

勢いよく燃え出した緑色の炎の中へダイブするように飛び込んで、ドラコは叫んだ。

「ログボトム家!!」

数秒の飛行の後、見慣れた居間の暖炉に辿り着いたドラコを、ソファーの上に疲れた表情で座り、テーブルに肘をつき頭を支えていた祖母が、少し驚いた表情で振り返る。

「・・・・ドラコさん」

週末でもないのに突然暖炉に現れたドラコを見て、祖母は疲れた表情の中に少しだけ安堵を覗かせた。

「お祖母様、ネビルは?」

そんな祖母に、ドラコは挨拶もせぬままに問いかける。

「2階の自室です・・・・行って、少しこらしめてあげてください・・・・・私にも非はございますが・・貴方に何も伝えなかったあの子に問題があります」

ドラコの非礼を全く気にしていないらしい祖母。厳格な彼女にしては、珍しい事だ。

静かな表情でドラコに告げると、心底疲れた溜息を洩らす。

「わかりました・・・・お祖母様、後の事は僕に任せてください・・・貴方は少しお休みならないと・・」

疲労困憊している祖母を気遣って、ドラコは表情を和らげて彼女に言った。

「すみません・・・・私がもう少し若ければ、こんな事にはならなかったかのでしょうが」

常の彼女らしくも無く、弱気な台詞を吐いて立ち上がった彼女に、ドラコは首を横に振った。

「いいえ、いざと言うときに役に立たない僕の両親が悪いんです」

そう言って、祖母の為に居間から廊下へと続く扉を開けた。

「そんな事を言ってはいけませんわ、・・・・・タイミングが悪かったのだから」

ドラコの言葉を活気の無い笑顔で咎めながら、祖母はドラコのエスコートに従って廊下へと歩み出る。

「それでは、頼みましたよ・・・・・くれぐれも厳重に、あの子を叱ってやってください、二度とこのような事が起こらぬように・・・」

それ以上のエスコートを拒んだ祖母は、ドラコを見上げて彼の背中を緩く押した。

「はい」

ドラコは祖母の言葉に頷いて、階段を上っていく。

 

 

『・・・・実はね、石占いで見たんだけど、

ハナちゃんが高熱だしたらしいんだ・・・・それで、ネビルのお祖母ちゃんがネビルに知らせてくれたみたいなんだけど、

あんたの両親、今魔法省で尋問受けているでしょう?勝手に引っ越したりとか、ハナちゃんの出生届の両親の欄が男同士だとかで・・・

で、お祖母ちゃん1人じゃどうしても面倒見切れなくなったらしいんだ、それでネビル4日前から毎晩家に帰って夜通しハナちゃんを看病してる。

忙しいあんたに迷惑かけたくないからって、あんたには内緒にしてた・・・・あたしはそのネビルの判断、間違ってると思うんだ。あんたもそう思うでしょう?

最初は2・3日で終わると思ってたから、あたしもネビルのお祖母ちゃんもまだ誰にも話してない・・・・でも、あんたには知る権利があるよね?

ハナちゃんの親だもん・・・・・行ってあげてよ、ネビル結構疲れてる・・・そろそろ限界だから・・・』

 

ドラコはつい十数分前に、ルーナから事の顛末を聞いた。

(どうして教えてくれなかった?)

祖母もルーナも、ドラコと同じ考えだ。

自分たちの子供なのだから、同じフィールドに立つ親なのだから、世界でたった2人しか居ない親なのだから・・・・伝えるべきだ。

子供のためなら、多少の生活苦などなんとも思わないのに。

現にネビルは4日も睡眠時間を削っている。

ドラコだって、それくらい出来る。

ドラコに迷惑をかけたくない・・・・というネビルの配慮は、逆にドラコに何も期待していないという事実しか与えない。

(冗談じゃない、ハナは僕の・・・・僕たち2人の子供だ)

言いようの無い純粋な怒りに、ドラコは噛み締めていた奥歯をぎりと鳴らした。

 

 

「良かった・・・・ハナ、熱下がったね・・・・・まだ微熱だけど・・朝までには下がると良いね?・・・・・ゆっくり寝て、ちゃんと治そうね」

体温計でハナの体温を確認したネビルは、その針が示した数値に安堵の溜息を吐き出した。

高熱のための不快感からか、ずっと泣き喚いていたハナも、今は落ち着きを取り戻してぐっすり眠っている。

腕に抱いた愛しい我が子の額にキスをして、ネビルは彼を柔らかいベビーベッドの上に静かに寝かせた。小さな身体に、肌触りの良い毛布をかけてやる。

そこで人心地ついたのか、盛大な溜息と共に大きく伸びをしたネビル。

正直、ここ数日間の睡眠不足はけっこう身体に負担がかかった。

毎朝こっそり元気爆発薬を飲んで、どうにか毎日の講義をこなしているけれど・・・・ここの所、毎日ルーナに午睡の世話をしてもらっている。

(ハナの熱が下がったら、ちゃんと謝ってなにかプレゼントでも贈ってあげなきゃ)

そんな事を考えて、ネビルの思考は少し淀んだ。

「・・・・・・ドラコ、怒るだろうな・・」

思わず呟いてしまった伴侶の名前。

この4日間、ずっと隠し通してきた。

ハナの熱の事も、自分が毎晩規則を破って家に帰って来ている事も。

そろそろ夜に忍んで行かないと怪しまれるし、それでなくても今朝にはもう何かを疑っている様子だった彼。

『ドラコさんにちゃんとお話なさい、夫婦として最低限のルールです』

この4日間、ずっと祖母にもそう言われ続けてきた。

ネビルにだってわかってる・・・・自分のしている事の不当性。

だけど・・・・どうしても言えなかった。

以前までは、ドラコの方から誘ってきてくれていた逢瀬。週末の時間調整の為に、無くなってしまったその時間。

深夜に予告無しに会いに行くと、いつもとても喜んでくれる彼。

まるで塔に閉じ込められているお姫様に毎夜王子様が会いに行く、御伽ばなしみたいなそんな切ない関係が続いてる。同じ屋根の下に暮らしているのに・・・・夫婦なのに。

どうしても言えなかった。伝えてしまったら、彼はきっと無理をする。これ以上の負担は、彼を壊してしまうかもしれない。・・・・そんなの嫌だ。

怒られても良い。彼には監督生として、クィディッチの選手として、職務に専念して欲しかった。

この思いは、ネビルの完全なエゴだ。

長く一緒に居るうちに、気付けばドラコだけでなく、ネビルもしっかりエゴイストになっていた。

 

「当然だろう?ネビルがこんなに僕を見くびるなんて、思いもしなかった」

突然聞こえた声に、ネビルは肩をビクリと大きく揺らした。

驚いて振り返ったネビルの視界に、この場所にいるはずの無い人物が映る。

ネビルの伴侶で、スリザリンの王子様。神経質なまでに撫で付けられたプラチナブロンドに、腕を組んで首を傾げる、いつものポーズ。

「・・・・・ドラコ・・・なんで?」

目を見開いて、震える声でネビルが呟く。

ドラコは無言のまま、威圧感さえ漂う視線でネビルを拘束した。

そしてそのまま、酷くゆっくりとネビルに歩み寄る。

「え・・・・・・と、・・・・・・その、これは・・・」

何も言わないドラコに恐怖を感じたネビルは、言葉にならない声で一生懸命に何かを伝えようとした。

しかし、震える唇は言葉らしい言葉を何一つ紡げなかった。

「この僕が、赤ん坊の看病も出来ないなんて・・・・・ネビルがそんな風に僕を蔑んでいるなんて、知らなかった」

ネビルの目の前まで歩みを進めて、ドラコは冷たい声で言い放つ。感情の欠片も感じられない声だった。

「・・・・・・・・そ・・・・んな・・・つもり・・・じゃ・・・」

ドラコの無言の怒気に気圧されながらも、ネビルは辛うじて反論を返す。

「じゃあ、どういうつもりだ?」

恐怖と狼狽で震えだしたネビルの身体は、立っているのもやっとの状態だった。それを知っていて、ドラコは更にネビルに冷たい言葉を吐く。

「僕の子だ・・・・僕がお腹を痛めて産んだ子だ!!何故知らせてくれない?何故自分1人で全てを決めてしまう?僕たちは夫婦じゃなかったのか!?」

ネビルの肩を力任せに掴んで、ドラコは声を荒げてネビルを責めた。

自分の非を充分理解しているネビルは、何も言い返せない。

何も言い返せないまま、黙ってドラコの瞳を見詰めた。

「答えろ!!ネビル!!!」

何も答えないネビルに、ドラコは更に強く詰め寄って、声を荒げた。

「・・・・・・・・・・・ごめん・・なさい・・・」

自分の非を責められて、ネビルが紡げたのはたった一言の謝罪だけだった。

 

 

「あぅ・・・・ん・・・くぅ・・・」

ドラコはネビルを乱暴にベッドの上に押し倒し、手足を縛った。

おおよそ愛の欠片も感じられない、暴力に近い荒々しさで、容赦無くその細い手足を縛り上げる。

時折漏れるネビルの苦痛の呻きに、ドラコは一切関知しない。

それくらいに彼を怒らせている自覚のあるネビルは、ドラコの怒りのままにその身を捧げ、一切の抵抗をしなかった。

「・・・・・・どうして教えてくれなかった?」

ドラコが呟いた。

「ハナの親は君1人じゃないのに」

恨み言のように。

「・・・・ネビル、君を許せない」

怒気を滲ませたその言葉に含まれているのは、怒りだけじゃない。

もどかしさも、苦しさも、全てが含まれているドラコの激情。

奥歯を噛み締めたその顔が苦痛に歪み、アイスブルーの瞳に深い悲しみを称えている。

自分を見下ろす悲壮な美丈夫を、ネビルは穏やかな表情で見上げた。

「・・・・嬲って良い、殴って良いよ・・それでドラコが許してくれるなら、僕はなんだって受け入れられるから・・・・ごめん・・・・・・・・・僕が、間違ってた・・・・・・でも、お願い・・・捨てないで」

静かな謝罪と、切ない哀願を吐き出して、ネビルは潔く瞳を伏せる。

両手を頭上で強く固定され、足は大きく広げさせられて・・・・そんな状態で、「自分を殴れ」と言ったネビル。「捨てないで」と静かに訴えたネビル。

ドラコの顔が苦虫を噛み潰したように歪む。

そんな事を言わせたいんじゃない。そんな顔をさせたいんじゃない。・・・・・・それなのに、治まらない怒り。

 

「んんっ・・・・・んあ・・・・・はぅぅ・・・・・ひっん・・・」

ドラコの荒々しい愛撫に、縛られて自由の利かない身体を一生懸命捻って、ネビルは唇を噛み締める。

達せない欲情の根元には、しっかりとドラコのネクタイが幾重にも縛り付けられていて、与えられる快感は苦しさしか生まない。

ドラコの巧みな指先や舌先は、そんなネビルに構わずにどんどんネビルを追い上げる。

白くて綺麗なネビルの身体は、快楽に朱に染まり、ドラコの付けた怒りの証である歯形や鬱血の跡で、痛々しいくらい朱さを増していく。

眠っているハナを起こさないように気を使ってか、ネビルはいつも以上に声を殺した。

その耐える姿が妙に艶かしくて、ドラコの嗜虐心をそそる。

「咥えろ」

端的に用件だけを述べたドラコ。

ネビルは従順に、歯型の刻まれた、切れて血の滲む唇を、薄く開く。ネビルに馬乗りになったドラコが、股間の膨張したものをネビルのそこに宛がうと、素直に口に含んで愛撫した。

「んっふぅ・・・・んぐ・・・・んん・・・んぁっ・・・・」

ぴちゃぴちゃと、淫猥な音と、ネビルのくぐもった呻き声だけが聞こえる深夜の静寂。

自分の鼓動が耳に痛いネビルの鼓膜に、微かにハナの寝息が聞こえる。

ドラコを追い立てていたネビルは、いつものように吐き出される精液を飲み干そうと、無意識に喉の奥へとドラコを誘い込んだ。

しかし、そんなネビルの意図に反して、与えられる快感を貪っていたドラコは、自ら腰を引いた。

そして、ネビルの可愛らしい顔目掛けて射精した。

咄嗟の事に目を閉じられなかったネビルは、その飛沫で眼球まで汚された。突然襲った激しい痛みに、ネビルは身体を激しく硬直させて、涙をぽろぽろ零しながら出来る限り首を捩ってシーツに顔をこすり付ける。

「うぁっあ・・・・あぁ・・・・・痛ぅ・・・・うぅ・・・」

奥歯を喰いしばっているんだろう、くぐもった嗚咽を零し必死で痛みから逃れようとしているネビル。

そんなネビルを無表情で見下ろしていたドラコは、体勢を変えネビルの上から退くと、背けられているネビルの顎を無理やり掴んで自分の方を向かせた。

涙と精液で視界を遮られたネビルには、ドラコの表情など全く見えない。

そんなネビルを、瞳を細めて見詰めたドラコは、精液が入ってしまった右目に舌を這わせる。

「や・・・・だっ・・・ドラっ・・・・・・何?・・・・・・・・や・・・痛ぃ・・・」

自分の身に起きている出来事を上手に把握できていないネビルは、顎を掴んでいるドラコの手を引き剥がそうと、不自由な身体で一生懸命に抵抗した。

ネビルのそんな抵抗を無視して、ドラコはネビルの顎を強い力で拘束し続け、瞳に舌を這わせ続ける。

痛みと、熱さと、何かが押し当てられている感覚。

ネビルは身に起こった出来事を把握できぬまま、ドラコにされるまま抵抗を止めた。

ドラコの行為が自分の痛みを和らげてくれると、ようやく気が付いたのだ。

 

「大丈夫か?」

未だ大量の涙を流してはいるが、もう痛みは感じていないらしいネビルの顔を覗き込み、ドラコが聞いた。

霞んではいたが、正常に機能し始めたネビルの視界が捕らえたのは、心配そうに自分を見下ろすいつものドラコの顔だった。

「・・・・・・・・・・・・ん・・・・も・・もぅ・・・・いた・・く・・・・・・・・ない」

泣きじゃっくりを繰り返し、上手に紡げない言葉と共に、ネビルは何度も頷いた。

「良かった」

ドラコはそう言って、ふわりと柔らかく微笑んだ。

そしてそのまま、ネビルの唇を深く奪う。

強く自分を求めてくれるドラコに、ネビルは嬉しそうに瞳を閉じて求められるまま、吸われるまま、舌を絡ませ、喉を鳴らす。

いつもなら縋れる広い背中。思わず動かそうとしたネビルの腕は、どんなに頑張っても、きつく縛りあげられていて、少しも動かない。そのもどかしさに焦れて、無意識に腰が揺らいだ。

腕同様、きつく縛り上げられているその場所は、内側から無理やりに体積を増そうとして、引き攣るような痛みを訴えていた。

「ん・・・・・・ふ・・・・ふぁん・・・・・あ・・・・あふ・・・」

何度も角度を変えては深く犯され、飲み込みきれない唾液は絶えず頬を伝ってシーツを濡らす。

口の中を余す所無く、際限の無いくらいに犯されて、ネビルは眩暈を感じる。

ベッドの上に居るのに、ふわふわと浮いているような・・・・・どこかへ落ちていくような、おかしな感覚に襲われる。

ドラコの手に堕ちてどこかへ連れて行かれるなら、どこへでも行きたい。

ドラコと一緒なら、どこに居てもきっと自分は幸せを見出せるから。

ネビルは、霞む思考でそんな事を考えた。

 

「僕たちは家族だよな?」

長いキスからネビルの唇を開放したドラコは、ネビルのピンと勢い良く反応している胸の突起を強くつまみ上げながら、ネビルに問う。

「ひゃっああぁぁっ・・・・あぁん・・・あっ・・・あっ・・・」

摘み上げた突起をそのまま指先でクリクリと転がし、引っ張る動作を繰り返す。ドラコのその仕草に、ネビルの赤い唇は、ドラコの問いに答える事が出来ず、喘ぎ声だけを紡ぐ。

「僕は君に聞いているんだが?・・・・・ネビル、答えてくれないのか?」

ネビルが答えられない原因を自分で作っているくせに、ドラコは悲しげな声音で更に問う。

「あん・・・・んぁ・・・・・・あああっ・・・・あっ・・・んっ・・・・・そ・・・・・っだよ、ドラ・・・・・・・ひゃっ・・あ・・・」

悲しげなドラコの声に、ネビルは健気にも喘ぎを堪えて一生懸命言葉を紡ぐ。

いつの間に伸ばされたのか、ネビルの乳首を弄っていない方のドラコの手は、ネビルの戒められた股間に添えられている。

「・・・・・なら、僕らの間で隠し事は無しだよな?」

依然乳首に強い刺激を与え続けながら、ドラコは更にネビルの股間の先端に指を添え、そこを強く擦り上げながら、再度問う。

「あっあひぃ・・・ん・・・・・あっや・・・や・・・ぃやっあぁん・・・・んはぁんっ・・」

同時に二箇所に与えられた強い刺激に、狂いそうなくらい乱れるネビル。

意思とは関係無しに快楽に反応し、喘ぎを零す唇。言葉を紡げない代わりに、何度も首を縦に振った。

「僕の不審を煽っておいて・・・・君は、何を考えている?」

感じやすいネビルの身体を、嬲る様に愛撫し続けながらドラコが問う、ネビルの真意。

「ん・・・・うぅ・・・・・うはぁ・・・・はっ・・・あ・・・あぁ」

快楽で霞む視界に一生懸命ドラコの姿を捉え、ネビルは腰を揺らめかせる。

答えを促す彼の手によって、答えを紡げない生殺しの状態に、「許して」と泣き喚きたい衝動を一生懸命理性で押しとどめた。

悪いのは自分。それをちゃんとわかっているネビルは、ドラコの凶行を受け入れ、彼の望む通りに踊らなければいけない。

「僕を怒らせて、夫である僕に嘘を吐いて・・・・・僕を裏切った」

激しい快楽を上手に処理できずに、荒い呼吸で悶えるネビルを無慈悲に見詰めて、ドラコの静かな恨みの言葉は続く。

「許さない」

ドラコが自分の身体を嬲る音と、どちらのものかもう区別のつかない荒い呼吸と、自分の押し殺した喘ぎ声。

耳を支配するたくさんの音の洪水の中、ネビルの思考にやけに静かに響いていく、ドラコの言葉。

怒らせてしまった自覚はある。

許してくれなくても良い。

でも・・・・・捨てられたくない。

震える身体は、ドラコの望む答えなど与えてやれない。けれど精一杯、ネビルは視線に想いを込めてドラコを見上げ続けた。

 

ドラコがネビルの首筋に新しい噛み跡を残そうと、身を屈めた時だった。

突然ハナが泣き出した。

まるで、静かな激情に身を委ねていた両親を非難しているように、深夜の空気を切り裂くように大声で泣き出した。

ベッドの上で折り重なっていた2人は、ほぼ同時に身体を大きく跳ね上げて、ハナを見た。

身動きの取れないネビルをベッドの上に置き去りにして、ドラコはハナへと歩み寄る。

「・・・・そんなに泣くなよ」

優しい声音で語りかけながら、小さな身体をベッドから抱き上げた。

ドラコの温もりに安心したのか、ハナは直ぐに泣き止んだ。瞳に大きな涙の粒を光らせながら、ドラコをじっと見上げている。

「よし・・・いい子だ・・・・・・涙なんて流すなよ」

微笑んでハナを視界に捕らえたドラコは、小さな頬を伝う涙を唇で吸い上げて、ハナを抱いた腕を慣れた動作で揺らす。

「う〜・・・・あ〜っくぅ・・・あ〜」

数日振りのドラコの匂いが嬉しいのか、ハナは機嫌良く言葉を発した。

最近、言葉らしい声を紡げるようになった小さな唇。

腕に抱く我が子を愛しいと思うのは、ネビルだけじゃない。

この子が苦しんでいる時に、何も知らずに、何も出来ずに居るなんて、ドラコにはやっぱり耐えられない。

「あっくぅ・・・・か、なんて言っているんだ?」

ハナの言葉を真似ながら、くすくす笑うドラコ。

「あ〜・・・うぅ〜っくぅ・・・・あっくぅ〜」

まるでドラコと会話をしているように、ハナは一生懸命言葉を続けた。

「早く・・・『パパ』、『ママ』と言えるようになると良いな・・・なぁ、ネビル?」

身動きが出来ないままで、ドラコとハナの様子を自分のあられもない格好も忘れて見入っていたネビル。

ドラコのハナに向ける気持の重さを改めて感じて、自分の過ちを再確認していた所へ、ドラコが意地悪く問いかけた。

「・・・・・・え?・・・・・・・・・・・・・う・・・ぅん・・・そう・・だね」

ドラコの意地悪い問いの意図を勘繰る余裕も無く、ネビルは視線をドラコたちから外して頬を羞恥で赤らめる。

そんなネビルの様子を見て、ドラコは意味深に鼻で笑う。

挑発的なその視線は、確信犯の眼差し。

「はしたない姿だな」

自分で仕向けておいて、酷い言葉を投げかけるドラコ。いつもは怒るネビルも、今日は怒れない。

「ハナ・・・・よく覚えておけよ?お前の母親の・・・一番美しい姿だ・・」

更に意地悪く続けたドラコの言葉を、ネビルは聞いていられなくなって、不自由な身体を精一杯捩って顔を背けた。

いたいけなハナの目の前に、こんな姿を晒すなんて・・・・情けなくて涙が出た。

腕に抱く我が子に「よく見ておけ」と言っておきながら、その実ハナの瞳がまどろみに閉じられている事を知っていたドラコは、そんな分かりやすいネビルの態度にますます笑みを濃くしていく。元よりネビルのこんな可愛い姿、たとえ息子と言えども自分以外の者に見せる気なんて無かった。

その後、静かにハナを抱いたままドラコが身体をゆるやかに揺すっていると、程なくハナは安らかな眠りに身を委ね始めた。

ハナが完全に寝入ったのを確認し、愛しい頬にキスをして、ドラコはハナをベッドへ戻した。

 

「さてと・・・・続きをしようか?奥様?」

常とは違う声音でそう言って、ドラコは再びネビルの上に覆いかぶさった。

先刻真っ赤になって顔を背けたきり、涙の滲む瞳をぎゅっと瞑って、ネビルは小刻みに身体を震わせていた。

「4日も僕に内緒でハナの世話をしていた割には、ハナから顔を背けて・・・・・随分と薄情じゃないか・・・ネビル?」

耳元で聞こえる意地の悪い声に、場違いに身体の熱を煽られるネビル。

そんなネビルの様子を知っているドラコは、意地悪なのかそれ以上の接触を一切せずに、ネビルの身体の上から退いた。

ドラコの意図を読めないネビルは、不安げな瞳を揺らして、ドラコの動きを視線で追った。

ドラコは部屋の中を淡く照らしている蝋燭の燭台を1つ手にして、ネビルの大きく開かされた足の間に陣取った。

「・・・・・・凄い有り様だな・・ハナに見られて濡れたのか?」

灯りに照らされたネビルの股間を観察し、恥ずかしげも無く感想をこぼす。

確かにネビルのそこは、ハナに見られている・・・と悟った瞬間に、浅ましくも熱を上げていた。

「や・・・・・・いやぁ・・・・見ないで・・・」

身動きが取れないネビルは、それでも一生懸命に腰を揺らし、ドラコの視線から逃れようともがく。

「そんなに強請らなくても、ちゃんと可愛がってやるから安心しろ」

くすくす笑ってそんな事を言い放つと、ドラコはネビルの震える蕾に指を這わす。

くちゅっと卑猥な音を鳴らし、ドラコの指がネビルの中に埋まっていく。

強い快感に晒されながら、ずっと触れてもらえなかったネビルのそこは、貧欲に収縮しながらドラコの指を締め付けた。

「いやらしぃな・・・綺麗な色をしているのに・・・ネビルのココは、いつだってモノ欲しそうに僕を受け入れる・・」

楽しそうに笑いながら、ドラコがネビルに意地の悪い言葉を投げつける。

「ん・・・・あぁん・・・・やっ・・・・・・駄目・・・・焦らしちゃ・・・やぁ・・・」

指を浅く差し込んだまま、悠長に感想を述べだしたドラコに、ネビルは首を左右に振った。

「甘やかしたら・・・・・また僕を裏切るだろう?」

けれどドラコはネビルの言葉に耳を貸さずに、新たな刺激を与えてはくれない。

 

達せ無い苦しさで、いつもよりも敏感になったその場所に更に苦しさを与えるドラコの指。

狂ってしまいそうな快感の波ともどかしさに、ネビルの頬を涙が伝う。

「懺悔を聞いてやる・・・・・許しを請え、・・・二度としないと、僕に約束して見せろ」

痛いくらいの快楽の中、ネビルをその中へと堕としてくれないのは、ドラコのこの声。

拘束力を持って紡がれる言葉の、見えない糸でネビルは雁字搦めに囚われる。

ドラコの視線を正面から受け止めて、ネビルは従順に頷く。涙と唾液、名残の精液に濡れた赤い唇を、薄く開いて吐息を吐いた。

「ごめんなさい・・・・ひぃう・・・ん・・・僕・・・間っ違って・・・・た・・・・ドラコ・・・・の事・・・・・あぁ・・・んはぁ・・見くびってた・・・・訳じゃない・・・・・・・・ひああっ・・・けどぉ・・・迷惑っ・・・かけたくなくて・・・・・・ごめ・・・・な・・・さい」

喋りだしたネビルの言葉を遮るように、ドラコの指がネビルの内部に深く進入し、中で蠢く。

快感に流されそうになる身体と思考を、一生懸命に押しとどめ、ネビルは言葉を紡ぐ。

「好き・・・だよ・・・・・・・あぁん・・ドラコ、・・・・嘘じゃない・・・・・・・から・・信じて、・・・・・馬鹿な僕を・・・・あぁうっ・・・叱って・・・・もっと酷い事して・・・・構わない・・・・だかっあぅ・・・・ら、・・捨てないで・・・」

指を抜き差しし、本数を増やしてネビルの中を無遠慮に激しく掻き混ぜるドラコ。

ネビルは懸命に言葉を紡いで、腰を絶えず揺らす。

「もぅ・・・・二度と・・・嘘・・・・・・吐かない・・・・・・ひゃあ・・・・から・・・・・・・・・あぁぁん・・・あっあっ・・・・そこはっ・・・・やっだめ・・・・・・・ぃやあぁっ」

ぐちゅぐちゅと、わざと音を立てながらネビルの内部を弄っていたドラコの指先が、ネビルの弱い部分を突いた。

悲鳴に近い声を上げて、背を仰け反らせたネビルは、理性の限界だった。これ以上の強い快楽は、神経を焼ききってしまいそうだ。

どんな事でも耐える、と明言しているネビルは、悲鳴と喘ぎの合間に荒い呼吸を繰り返しながら、持て余した震える身体を無視して、更に言葉を紡ごうとしている。

可哀相なくらい忠実に、自分の要求に応えてくれるネビル。ドラコの顔が恍惚に歪む。

確かにネビルのした事は間違っていた。しかし、それを一方的に攻め立てるだけの資格が自分にあるとは思わない。

だからドラコのこの行為は、虐めと変わらない。

そこに愛があるか無いか、ただそれだけの事で必然と勘違いしているだけだ。

 

「もう二度と僕を裏切るな・・・・・今度同じ事をしたら・・・・・・・・君を捨てる」

言っていて、自分でも空恐ろしい台詞だと思った。

同じ事をネビルに言われたら、絶望の果てに人生を終わらせたくなったかもしれない。

けれど、これくらいの意地悪をしなければ、ドラコの怒りが収まりそうに無かった。

ドラコの台詞に青ざめたネビルの顔を、なるだけ視界に入れないようにして、ドラコは猛っていた自分の欲望をネビルの中に突き立てた。

投げつけた言葉の残酷さに、ネビルが悲観的な答えを出す暇も無いくらい、めちゃくちゃに腰を打ち付けて悲鳴をあげさせる。

「いっあ・・・・ああ・・・あっあぁぁぁっ・・・あぅ・・・んあっあっ・・」

ハナの存在も、声を殺す事すら忘れて、与えられた痛みにも似た強い快楽を貪りながら、ネビルは縋れない身体を精一杯動かして、ドラコに腰を押し付けた。

ベッドの上で気絶するくらいネビルを攻め立てたドラコは、そのまま場所を風呂場へ移して、更に泣かせた。

 

 

「・・・・・嫌・・・・こっち、着たい・・」

足腰が完全に立たないくらい嬲られたネビルは、全裸のままでバスタオルに包まれ、ドラコの腕に抱かれて部屋に戻ってきた。

深い眠りに入っていたハナは、2人が部屋に居ない間も大人しくしていたようだ。

ネビルの身体をベッドへと横たえ、素肌に夜着を着せようとしたドラコの腕を、ネビルは拒んだ。

そして、ドラコが脱ぎ捨てたままベッドに無造作に置かれていたドラコのシャツを抱き寄せたのだ。

「・・・・・我侭言うなよ・・・そんなの着て、いい事なんて無いだろう?」

一日着続け、情事の最中も身に纏っていたシャツ。

せっかく綺麗に洗ったネビルの素肌にそんなものを着せたくなくて、ドラコは優しい声音でネビルを咎めた。

「ドラコの匂い好き・・・・・・だから、コレが良い」

どこか夢に浮かされたような、現実離れした表情でそう言って、ネビルは自分の意思を曲げたがらない。

「・・・・・・・・好きにしろ」

頑固なネビルの様子に呆れて、溜息と共にドラコが折れた。

自分は夜着のズボンを履いただけの状態で、ドラコはネビルの身体が横たわるベッドの端に腰を下ろした。

下着もつけずに、上半身に少し大きめのドラコのシャツを羽織っただけのネビルは、ベッドの上を芋虫のようにずるずる移動してきて、そんなドラコの太腿の上に頭を乗せる。

甘えたネビルの仕草に、思わず微笑んでしまうドラコ。

「・・・・・・・・・・ごめんね」

上目遣いにドラコを下から見上げたネビルは、ぽつりと呟く。

「良い・・・・・・もぅ、怒っていない・・・だから、気にするな」

ドラコは苦笑して、ネビルの濡れた栗毛を優しく指先で梳いてやる。

「僕・・・・忘れてた・・・・・・僕たちはもう、恋人同士じゃない・・・・自分たちだけの問題じゃないって・・・忘れてたんだ・・・・・・・あんな事で、許されないくらい馬鹿だった・・」

ドラコの言葉を聞いていなかったのか、意図的に無視したのか、ネビルは話を続けた。

「・・・・・・ネビル」

ドラコは、そんなネビルを困った顔で見ていた。

「ハナが居るのに・・・・・・家族が居るのに、自分勝手すぎたよね・・・・ごめんね・・・・」

切ない表情で言いながら、ドラコの頬に伸ばされたネビルの細い指。

「愛してる・・・・・捨てないで・・・」

静かに目を閉じて、ネビルはドラコに静かな哀願をした。

「ドラコが居なかったら・・・・僕、生きていけない・・」

閉じた瞼をゆっくりと開けて、もう一度。

「だから・・・・」

三度目の台詞は、ドラコの唇に塞がれて、紡げなかった。

ネビルの肩を抱き寄せて、少し無理な体勢でのキス。

唇を離して至近で絡み合った視線は、お互いの姿しか映していない。

「愛してる」

ドラコが言った。

「うん」

ネビルは瞳を少しだけ細めて、静かに頷いた。

 

窓の外の空はもう、東の方が白み始めていた。

「・・・・・スネイプ先生に、話を聞いたんだ」

優しくネビルの頭を自分の足の上に戻した後、ドラコが静かに話し出した。

ネビルは潤んだ大きな瞳の中に、ドラコの顔だけを映し、黙ってそれを聞いている。

「・・・・ずっと以前、僕たちが生まれる前に・・同性愛者の有名な集団が居たらしいんだが・・・・・・・その中に1人、妊娠した者が居たらしい。世間一般では、妊娠する事自体は決して悪い事ではないが・・・・同性愛者の集団にあって、その人の存在は異端だろう?妊娠が発覚し、仲間に激しく非難されたそうだ」

「・・・・・・酷い・・話だね・・・・・・妊娠したくてしたわけじゃなかったかもしれないのに・・・・乱暴されて出来た子だったかもしれないのに」

スネイプの話から、どうして同性愛者の集団の話になったのかわからないネビルだったが、思わず口を挟んでいた。

過去に数回、強姦されてしまった経験のあるネビル。被害者の気持は、身をもって知っている。

「あぁ・・・・僕も、そう思うよ」

ドラコはネビルの台詞に、少し傷付いた表情で頷き、ネビルの髪を慰めるように梳いた。それから、話を続けた。

「仲間から裏切りのレッテルを貼られ、居場所を失ったその人を、世間は受け入れてくれなかった・・・・・・・何故なら、その人は男性だったんだ・・・男性の身でありながら、愛する男の子を身篭っていたんだ」

ネビルの瞳が、驚きに見開かれる。

性転換薬が確立されていない世の中で、男が妊娠するなんて、ドラコが史上初だと信じて疑わなかった。

驚くネビルに、苦笑しながらドラコは話を続けた。

「それでも、愛しい人の子を産みたくて、その人は賢明に方法を探していた・・・・・・けれど結局、何も良い方法を見つけられぬまま臨月を迎えて、・・・・子供を流産するしかなかった・・・その時既に。彼の愛した人はこの世には居なかったそうだ」

「・・・・可哀相・・・」

ドラコの語った悲劇に、ネビルの瞳が思わず潤む。身篭っては居ないが、似たような状況を経験したネビルになら彼の気持が痛いくらいわかる。ドラコとの幸せを知っているネビルには、愛する人と、その子供までも失ったその人の悲しみを理解できた。

「その悲劇の男性の名前は・・・・・セブルス・スネイプ」

最後にドラコが紡いだ名前。それは、ネビルも良く知っている人物の名前だった。

「そんな・・・・・じゃあ、スネイプ先生が僕たちに優しくしてくれるのは・・・」

ネビルの声が震える。それを紡ぐ赤い唇も、震えた。

知らずに居たスネイプの過去。知っていたからと言って、何も出来なかったかもしれない・・・・けれど、知っていてあげなければいけなかった気がしてならない。

「あぁ・・・・・先生は、僕たちの姿に自分が築けなかった幸せを重ねているんだ」

あまりのショックに震えるネビルの身体を抱き寄せながら、ドラコは静かに言葉を紡ぐ。

 

「僕・・・・・・自分のエゴに浸って、・・・自分の事だけで精一杯で・・・ドラコの事も、ハナの事も、先生の事も・・・なにもわかってなかったんだ・・・」

抱き締めてくれたドラコの、広い背中に縋って、ネビルは自責のように言葉を吐き出す。その声が、涙に濡れている。

スネイプが長い躊躇いの後に語ってくれたこの話を、ドラコはどうしてもネビルに聞かせてあげたかった。

まだまだ未熟な状態の自分たち。たくさんの大人たちの手助け無しでは、我が子を育てられない自分たち。

その事に感謝し、彼らの期待に応えていかなければいけないんだと、改めて自覚しなければいけない。

身勝手なエゴで走ってはいけない。必ず幸せにならなければいけないんだと、ネビルに伝えたかった。

だからこそ、今回のネビルの行動を許せなかった。

泣きながら自分の過ちを詫びる、愛しいネビルの身体を抱き寄せながらドラコは思う。

必ず幸せにならなければ・・・と、強く思う。

「ごめんなさい・・・・ごめんなさい」

何度も謝罪を繰り返すネビルに微笑みながら、ドラコは優しくその背を撫でた。

 

To be continued‥‥。

 

今日のチヨリン。

千夜「ねえ、もしかして・・・・・このタイトルってさぁ・・」

凛「ん?ドラネビさんが16歳の話だからだよ?」

千夜「・・・・・・・・やっぱり・・・(深い溜息)」

凛「しっかし、長いねぇ・・・毎回、よく書けるね・・・(感心)」

千夜「・・・・・・ごめんなさい。短く出来ない・・・・(反省)」

チヨちゃんは、小説を長く書く癖のある変わった人です。

2005・02・13 蒼向上委員会

 

 

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