愛するがゆえ2。〜僕らで育てる華〜

 

 

一度目は、眼鏡のいけ好かない上級生の時で、

二度目は、多分ロックハートの時‥、

三度目は‥‥‥いや、一度目になるのかもしれない‥‥。

僕が傷を確認できたのは、たったの一度きりだから‥、この考えが正しいとは限らないし、思えない。

 

ドラコはベッドの上に身体を投げ出したまま、ぼんやりと天蓋の裏を眺めて、溜息を吐いた。

数日前から体調が優れない。

異変に気付いた時は、風邪ぐらいにしか思って居なかったのだが、中々改善されない症状に、流石に身を案じ昨日から授業を休んでいる。‥のだが、ドラコは退屈で仕方が無い。

症状といっても、常に吐き気が付き纏って、胸がムカムカするといった、これと言って「何の病気」と言う訳ではない。強いて言えば、気分が悪くて、体調が優れないと言った所。

ただ、吐き気だけでなく、ドラコの身体は全く食べ物を受け付けなくなった。ドラコは食べ物を見ただけで、その匂いを嗅いだだけで、気分が悪くなり洗面所に駆け込んでしまう。

生きていくには、食べ物を食べない訳には行かず、かと言って食べる事も出来ず、結局ドラコは保健室で栄養剤の点滴を受けながら、暫く安静。という処置を施された。

保健室では、常に監視の目が光っているので、長時間のレポートや予習復習の類は禁止され、読書以外にやることが無かった。そして何より、恋人であるネビルに会えない事が辛かった。

気付けばいつも、ドラコはネビルの事を考える。

今までだって、考えなかった時間がないくらい、ネビルの事を思ってはいたけれど、それ以上にネビルの事を考えた。過去にネビルが言った言葉。過去にネビルがやった事。ネビルが好きなものは何で、その理由は何なのかの再確認。その逆の、再確認。考え出したらきりが無い。だから、厳密に言うと、ドラコの脳は暇ではない。常に何か‥と言っても、激しく一つに限定されるが、その事を考えていた。しかし、過度に使い過ぎると、頭がパンクする。エンジンで言う、オーバーヒートの状態が訪れる。そうすると、眠るか、思考を止めるかして、頭を休めなければいけなくなる。その、ふとした瞬間にドラコは、ネビルの傍に居られない現実を、一気に自覚して、寂しさの波に飲まれてしまうのだ。それから逃れるには、早くここを出てネビルに会って、抱き締めて、口付ける事が何より必然だった。

しかし、一向に良くならない。故に、ここを出られない。

 

‥‥ネビルに逢いたい。

 

気付けばドラコはいつだってそう思っていた。

今だけじゃなく、今までもずっと。

数ヶ月前に、ネビルの口からようやくドラコは聞き出した。ずっと自分が恐れていた事の、答えを。

「過去に何度自殺未遂をしたのか?」

についての、答えを。

自分が出会う前の、ネビルが自分に心を許してくれる前のネビルなら、自分にはどうすることも出来ないけれど、‥‥もし‥。

‥‥‥‥もし、過去の自分が一度でも、ネビルの手首に剃刀を当てさせていたら‥と思うと、ドラコはぞっとする。

それくらい酷い事を、過去の自分はネビルにしてしまった‥その自覚があったから。

ドラコは以前、たった一度だけネビルの手首に傷を見つけたことがある。ネビルの細くて真っ白い手首の内側に、縦横に数回深く切りつけられた傷跡を、見たことがある。

初めてネビルを抱いた夜、ドラコが初めて見たネビルの身体は、その数日前から下劣な男に強引に関係を強要されていたせいで、酷く傷付いていた。白くて綺麗だったであろうネビルの身体は、その男の付けた傷や痣で埋め尽くされていた。その中で、一際真新しい傷が手首の傷だった。ドラコはそれを、何も見なかったふりをして魔法で消してしまった。

ネビルはきっとその傷を見たくないと思うだろうし、見てしまったら嫌な事も同時に思い出すだろう。そして、再び手首を切りつけるかもしれない。そう思ったら、消さずにはいられなかった。

その時からずっと、ドラコは恐れている。

自分のせいで、ネビルが死を選ぶようになってしまう事を。そして、過去の自分の浅はかで愚かな行為のせいで、ネビルが死を選んだ事は、無かっただろうか?という事を。いつも恐れている。

 

ずっと、一緒に居たいと思う。それは決して綺麗事ではなくて、文字通り死の瞬間までずっと‥‥だ。

ネビルが自らの手で死を望むのなら、自分を殺してからにして欲しい。ネビルが居ない世界に、一人取り残されたくない。

今この瞬間に、ネビルの身に何かがあったら‥と思っただけで、ドラコは胸が張り裂けそうで、胃が酷く痛む。駆け出して、ネビルを抱き締めて、自分の手で守ってやりたい。たとえ自分が死んだって、ネビルの傍に居たい。

この部屋に軟禁され始めた頃から、ドラコのその思いはどんどん強く、深くなっていった。

保健室の中に居て、ドラコが嫌だと思う瞬間は、暇な事や監視されている事以外に、もう1つある。それは、怪我や病気をした誰かがここへやって来て、その付き添いの人間が好奇心で満ちた目で、カーテンの中を覗いて来る事だった。

弱っている姿を、他人に見られるという事が、プライドの高いドラコにはどうしても受け入れ難い。

そんな事をぼんやりと考えていると、誰かが扉を開ける音がした。

思わず、ドラコは溜息を吐く。

また誰かに覗かれるのか‥と、憂鬱な気分で寝返りを打った。

マダムポンフリーが、誰かと話している声が途切れ途切れに聞こえるのを、背中で聞きながらドラコは「早く帰ってくれ」と、心の中で悪態を吐いていた。

 

「あら‥ごめんなさい、薬が切れてるわ‥‥スネイプ教授に頂いて来るから、少し待っていてね」

そう言って、マダムポンフリーが席を外したので、少年はチャンスだと思い、席を立った。

そして、一番奥にある1つだけカーテンの閉めきられたベッドへと歩いて行く。

「‥‥‥ドラコ?起きてる?」

寝ているかもしれないと、彼を気遣って少年は小さな声と共に、カーテンの合わせ目から頭を覗かせた。

誰かが近付いてくる足音がして、ドラコの機嫌は絶好調に悪かった。

しかし、聞こえてきた思っても居ない声に、目を見開いて、慌てて上体を起こして振り返った。

「ネ‥‥ネビル!?」

カーテンの合わせ目から心配そうな顔を覗かせていたのは、ドラコがずっと逢いたいと願っていたネビルだった。

元気そうなドラコの様子を見て、ネビルは笑顔でカーテンの中に入ってきた。

「良かった、元気そうで‥‥ずっと、心配してたんだよ?」

ネビルはそう言って、ドラコの居るベッドの上に腰を下ろした。

ドラコは、当然の様にそのネビルの身体を抱き締めていた。

「‥‥逢いたかった」

数日振りのネビルの感触を確かめる様に、ドラコはぎゅうっと強くネビルの身体を抱き締めた。それに「僕もだよ」と、頷いてネビルはドラコに抱かれるままに、身体を彼へと預けた。

 

「ドコか怪我でもしたのか?」

背中からネビルを抱きしめたまま、ドラコが心配そうにネビルに問う。今の時間、グリフィンドール生は飛行術の授業の筈だった。

その言葉に、ネビルは少し言い難そうに、頷いた。

「見せてみろ」

顔の見えないドラコに真剣な声で言われて、ネビルはしぶしぶ腕と足をドラコに見せた。

制服が捲くられて露になったネビルの肌に、無数の擦り傷が出来ていた。傷が深い箇所からは、血が固まらずに今も流れている。

「‥また、箒から落ちたんだな?」

ネビルが何も言わなくても、ドラコには何でもお見通しだ。

「‥‥違うの、落ちたんじゃなくて‥その‥‥壁にぶつかって、怪我したの‥」

「でも、その後落ちたんだろ?」

言い訳がましくドラコの言葉を訂正したネビルに、ドラコは容赦無く言い放つ。そう言われてしまうと、ネビルはもう返す言葉が無い。

「‥‥‥‥‥ごめんなさい」

そして、ネビルの口から漏れたのは、何故か謝罪の言葉。

「どうして、謝る?」

ドラコが問うと、ネビルは泣きそうな顔をした。

「だって‥‥ドラコ、怒ってる‥」

「怒ってない」

「怒って‥‥んぅ」

「‥‥‥怒ってない」

ネビルの唇をキスで塞いだ後、ドラコは優しくネビルの耳元に囁いた。

 

「マダムは?」

「‥‥薬が、切れちゃったんだって‥スネイプ‥先生の‥‥所に、貰いに‥行ってる」

ドラコが悪戯に、耳に息を吹き込み、耳たぶを甘噛みするので、ネビルの言葉は吐息に紛れてしまって、色っぽい。

「ふ〜ん、じゃあ‥‥あと15分は戻ってこないな」

にやりと笑ってそう言うと、ドラコはネビルの身体をベッドの中に引き込んだ。

「‥やっ‥ちょ‥と、ドラコ‥やめっ‥‥‥駄目ぇ‥」

ネビルの身体を押し倒し、首筋に唇を寄せてくるドラコに、ネビルが弱々しく抵抗を見せる。

「‥‥安心しろよ、最後まではしないから‥」

その言葉通り、安心させるように柔らかく額にキスをしたドラコに、ネビルは瞳に沢山涙を溜めながら、小さく頷いた。

「‥‥うん‥」

それから、ドラコはネビルの首筋に赤い花をいくつか付けると、あっさりとネビルを開放した。

ネビルは少し残念そうに、自分から離れていくドラコを見上げた。

「‥そんな顔をするな、抑えられなくなるだろう?」

ドラコは苦笑して、それからネビルの身体を抱き締めた。

「‥‥‥‥ね、ドラコ‥キスして?」

「‥ネビル?」

ドラコの背に腕を回しながら、ネビルは潤んだ瞳でドラコに言った。滅多に見られないネビルの甘えた声と仕草に、ドラコは少し驚いた。

ネビルは、縋るような瞳でドラコを見ていた。

ドラコは望み通り、ネビルの唇に自分の唇を押し当てて、ゆっくりと深く交わっていった。

「‥寂しかったのか?」

長いキスの終わりに、ドラコが聞くとネビルは恥ずかしそうな仕草で頷いた。

 

「‥‥マダム、遅いな‥」

「‥そ‥‥だね」

いつマダムが戻ってきても大丈夫なようにと、キスの後二人は、何事も無かったかのように準備を整えて、彼女の帰りを待っていた。

しかし、いつまで待っても一向に戻ってくる気配が無い。

一度火が付きかけた身体の熱を理性で押さえ、少し間を置いて座る二人は、その間妙に気まずくて仕方が無かった。

誰も居ないこの場所で、ご丁寧にも目の前にベッドがあって、暫く逢えなかった恋人と2人きり。

この状況は、身体に悪い。かと言って、最中にマダムが帰ってきたら、流石に言い訳は通用しないだろう。しかし‥‥。

2人は、時折視線を交わしながら赤面し、慌てて視線を逸らす事を繰り返す。

「そ‥そう言えば、ネビル‥傷、痛くないか?」

ドラコは、平静を装いネビルに声を掛けた。

「え!?‥‥あ、あぁ傷?‥うん、痛くないよ?‥大丈夫」

ネビルは、真っ赤な顔でドラコに振り向き、不自然に明るい声で答えた。

そして、沈黙。

2人は多分、同じ事を考えている。若い身体は、欲望に正直だった。

ようやくマダムが帰って来た時には、2人ともお互いの顔をまともに見る事が出来なかった。

 

ネビルは手当てを受けて、一度だけドラコに笑顔を向けて授業に戻って行った。

それを見送ったドラコは、自分の中に言いようの無い寂しさが込み上げてくるのを感じる。寂しかったのは、なにもネビルだけじゃない。

あんな短い逢瀬で満足できる程、ドラコの愛は薄情ではなかった。ドラコの身体も、また然り。

「マルフォイ‥‥具合はどう?」

マダムに問われて、ドラコは試しに嘘を吐いてみた。

「もう大丈夫です、‥帰っても良いですか?」

ドラコの言葉を聞いたマダムは、露骨に眉を顰めて言った。

「‥‥嘘おっしゃい!」

‥‥‥最初から、そう決め付けるのなら、聞かないでくれ。と、ドラコは思った。

それから、ドラコは溜息を吐いて、天井を見上げる。

次にネビルに逢えるのは、いつになるだろう‥そんな事を考えて、乱暴に身体をベッドに横たえた。

マダムは、ドラコの傍らでカルテを睨み、解せぬ顔をして「女の子だったら‥」とか、「そんな訳無いわよね‥」とか、1人でぶつぶつ言っていた。

 

その日の夜、夕食が終わった頃の時間に、昼間吐いたドラコの嘘が、思わぬ効力を発揮した。

「いつまでもここに居てもつまらないでしょう?夜だけなら、部屋に戻って良いですよ」

マダムがそう言って、部屋に戻る事をドラコに許した。

昼間の余韻が身体に残るドラコにしてみれば、思ってもみない幸運だった。

数日振りに保健室を出て、足取り軽く部屋へと帰る。ドラコの頭の中は、ネビルの事で埋め尽くされていた。

騎士の像から短い廊下に差し掛かり、私室の扉の前に来たドラコは、扉が少し開いていることに気付き、身構えた。不逞な輩が侵入しているのかと、一瞬嫌な予感を覚えた次の瞬間、鼓膜を振るわせた泣き声に、ドラコは身体の力を一気に抜いた。

それから静かに部屋へと入り、泣き声の聞こえるベッドにそっと歩み寄り、何も言わずにそこで泣いていたネビルの身体を抱き締めた。

ネビルは悲鳴をあげた。けれどドラコはネビルの身体を離さなかった。

「‥ひぐ‥ドラコ?‥ドラコなの?」

泣き濡れて、ぐすぐすになった声で、ネビルがドラコの名を呼んだ。

暗闇の中、顔が見えなくても、恋人の声や温もりは、愛の力で判別できる。

 

「何でこんな場所で泣いてるんだ?」

優しくドラコが問うと、ネビルはドラコにしがみ付いてきた。

「だって‥‥ドラコ、居ないんだもん‥‥」

子供のようにそう言って、更に泣きじゃくる。可愛らしい事この上ないネビルは、実はもう五年生。

15歳の男の子。世間一般的にはこんな仕草は許されない年ではあったが、ドラコの愛しい恋人には、どうしてか似合ってしまう。

「寂しい思いをさせて、すまなかった」

そう言って、ドラコはネビルにキスをした。

 

真っ暗な闇の中に、濃密な甘い空気が充満していた。

時折聞こえる布擦れの音に紛れて、ネビルの甘い吐息が部屋に響く。

ドラコは夢中でネビルの肌を貪った。

服を脱がせるのももどかしく、すべらかな首筋に無数に赤い花を咲かせては、舌を這わす。

「んっ‥‥んあっあ‥‥‥はぁっ‥あん‥」

そんなドラコの急速な愛撫に、ネビルは過剰な程に反応を示した。

寂しさは、若い恋人たちに飢えをもたらす。その渇きを潤すような、2人の熱は逢えなかった時間のせいで、一気に燃え上がった。

ドラコの指が、確かめるようにネビルの肌の上を這い回る。

胸の突起に辿り着き、摘み上げた瞬間に、ネビルの身体は甘い声と共にビクンと大きく跳ねて、好い反応をドラコに伝える。同時に、ドラコの腹に熱い感触が伝わった。

既に何も見に付けていないネビルの腹の辺りに指を這わせて、そこに散った粘着質な液体を確認すると、ドラコの顔に自然と笑みが浮かんだ。

「‥‥もうイったのか?‥ネビルは、暫く逢わない間に淫乱になったんじゃないのか?」

喉の奥で笑い、意地悪く言うドラコに、ネビルは肩で大きく息をして、呼吸を整えながら切れ切れの言葉を返す。

「あっ‥はぁ‥‥‥だ‥って‥‥‥‥ドラコ、‥前より‥‥やらしい‥」

熱に浮かされて、既に虚ろになった瞳で、一生懸命に言葉を紡ぐネビルに、ドラコは妖艶に微笑んでネビルの頬にちゅっと何度も口付けた。

 

「‥‥ネビルのせいだ‥」

耳元で、甘く囁く声にネビルはうっとりと瞳を閉じた。伏せられた睫毛の間から、透明な雫がぽろぽろと零れて頬を伝う。

暗闇の中で、2人はキスをした。何度も舌を絡め、唇を甘噛みし、それでも足りなくて、更に深く舌を絡ませた。

ドラコはキスの最中に、自分の首筋に回されたネビルの腕を解き、自分の腰へと導いていった。

布の上からでも、ドラコの立ち上がった欲望はありありと形を成し、その熱をネビルに伝えている。

ネビルは、ビクンと肩を震わせ、自分の手がその場所に押し付けられた意味を、霞む思考で考えた。‥気付いたら、脳が答えを出す前に身体が動いていた。

ドラコのズボンのベルトを解き、片手でたどたどしくボタンとジッパーを外し、下着の中に手を差し込んで、ドラコの熱に指を絡めて奉仕した。

キスは続いたまま、お互いがその行為に没頭している中で、ネビルの手だけが別の生き物の様に蠢き、ドラコを愛撫する。

自分の手の動きに反応して、熱を増し、大きさを増していくドラコに、ネビルは嬉しくなって、更に強い快感へとドラコを誘っていった。

キス以外、何の刺激も受けていない筈のネビルの欲望は、ドラコを愛撫しているうちに、手の中のドラコと同じくらい硬く張り詰めていた。

「‥上手だ‥ネビル‥‥‥‥一緒にイくか?」

一度唇を離して、ドラコが低く擦れた声でネビルの耳元に囁いた。

ネビルは答えなかったが、手の中にドラコを捕らえたまま、もう一方の手を使い、ずっとドラコの腰に覆いかぶさったままだった下着を取り去った。それから自分の剥き出しの欲望と、ドラコの熱の先端同士を擦り付けて、そこに激しい手の動きを加えていく。

ドラコは、まるで傍観者のように何もせず、ネビルの耳元で濡れた熱い吐息を吐き出し、快楽の証を奏でた。

「‥あっん‥‥ドラ‥コ‥‥もっ‥」

「‥‥‥良いよ、‥イけよ‥」

何時の間にか、ネビルの手の動きに合わせて、2人の腰が揺れている。それはお互いに無意識で、2人の意識は快楽を追い求める事にのみ、向けられている。

数秒後、ネビルの甲高い悲鳴のような喘ぎ声と、ドラコの押し殺した呻き声が、重なって暗闇の中に淫猥な彩りを添えた。

 

「‥‥‥‥声‥」

射精後の甘い倦怠感の中、自分に覆いかぶさる様にして身体を預けてきたドラコを受け止め、その背に腕を回したネビルがポツリとそう言った。

「‥‥ん?‥‥‥声?」

ネビルの肩口に頭を預けて、ネビルの鎖骨を指でなぞっていたドラコは、少しだけ顔を上げてネビルの顔を覗き込んだ。真っ暗闇の中、その闇に慣れたドラコの瞳は、薄く隙間の開いた扉から漏れるほの灯りの光源のみで、ネビルの顔を的確に捉えていた。

一方のネビルの瞳には、身体に感じる温もり意外、暗闇の中にドラコの影しか映らなかった。ネビルは少しだけ心細くなって、ドラコの頬に両手を添えた。

「‥‥‥ドラコの声‥僕、好きだな‥」

両手で捕らえたドラコの顔。その唇を指で辿りながら、ネビルは静かに言った。

そんなネビルの視線と言葉を、暗闇の中至近で受け止めたドラコは、唇に薄く笑いを称えて、そこに添えられた細い指に噛み付いた。その刺激に、驚いて指を引っ込めようとしたネビルの手首を、片手でそこに固定し、ドラコはネビルの耳元に顔を寄せた。ネビルの指を口に含んだまま、それを舌で弄ぶドラコの口からは、ぴちゃぴちゃといやらしい音だけがする。

耳の直ぐ傍で聞こえるその音は、ネビルの耳を犯し、そのまま頭の中まで侵入して、ネビルの理性を犯していく。

「‥‥やぁっ‥」

突然耳元で始まった、ドラコの舌と自分の指先の淫行に、思わずネビルは目を瞑り、喘ぎに似た悲鳴をあげて身体を捩った。

その時を見計らったように、ネビルの手首を拘束していたドラコの手がするりと解け、今度はネビルの頭を反対側の頬から、逃げられないように固定してしまう。

「‥‥‥声だけじゃなく、僕の全てを愛せよ‥ネビル‥」

普段より少しだけ低い、濡れた声色。ネビルが好きだと言ったその声で、ドラコはネビルの耳を更に犯した。

 

自分の反応を見て楽しそうにくすくすと笑う、ドラコの声を耳元で聞きながら、ネビルは真っ赤な顔でドラコを睨んだ。暗闇の中、残念ながらその視線は、ドラコには届いていない。聡い彼は、きっとこの事に気付いているのだろうけれど、わざと気付かないフリをして、ネビルの上に圧し掛かってきた。

「‥‥ネビル、‥‥今夜は、帰さないからな」

ドラコに言われる間でもなく、ネビルはそのつもりだったので、軽く頷いて目を閉じた。そして、肌の上を滑っていくドラコの指先の感触に、ネビルは安堵する。

保健室に行ったきりドラコが帰ってこなくなってから、グリフィンドールである自分は、面会すらも許されなくて、逢いたくても、逢えなかった。その事で、少し気分が落ち込んでしまったネビルは、凄く不安だった。もしかしたら、ドラコがこのまま帰って来ないんじゃないか‥なんて、馬鹿げた事を考えて、毎日悪戯に不安だけを増殖させて過ごしていたから。

「んっ‥あぁ‥‥ドラコ‥‥‥ドラコ‥」

自分の胸の突起に舌を這わせるドラコの頭を、抱えるように抱き締めてネビルは、確認するように何度もドラコの名を呼んだ。ドラコはそれに答えるようにして、ネビルの肌を吸い上げ、そこに小さく自己主張している突起を噛んだ。

ネビルは、素直に押し寄せる快感に身を委ね、甘い声を紡ぐ。

「あんっ‥あっ‥‥はぁ‥ん‥‥‥やんっ‥」

その可愛らしい嬌声は、ずっとドラコが聴きたかったネビルの歌声。快楽に鳴く、甘く愛しい声。

 

「‥‥力、抜いてろよ?‥無理なら、そう言え‥」

久しぶりの行為なので、ドラコは慎重に丁寧に、ネビルの身体を愛撫し、解していった。けれど、いざ挿入という段階になって、一度行為を中断しネビルに優しい声をかけた。

ドラコはいつも言葉の意図を、はっきりとは口にしない。

ネビルの身体を気遣う裏には、今日の怪我の事を心配している声音が含まれていた。

お互いに快楽を求め愛し合う行為は、色気の無い言い方をすれば運動で、その運動によって血液の循環速度は否応無しに速まっていく。ネビルの腕と足に出来た擦り傷は、魔法薬の治療のお陰で傷こそ消えてはいたが、そこにはまだ痛みが残っていた。思いの外、ネビルの傷は深いものだった。

「‥‥平気だよ‥心配しないで?」

暗くて顔は見えないけれど、きっと心配そうに眉根を寄せているであろうドラコに、ネビルは笑いを含んだ優しい言葉を返した。

ドラコを感じられる幸福の前で、痛みなんて気にする余裕は、ネビルの中には皆無だった。

「‥‥‥そうか‥」

ドラコの声は、少し不服そうだったけれど、ネビルの言葉に頷いて、行為を再開した。

ドラコが腰を押し進めると、ネビルの中に熱の先端がゆっくりと埋まっていく。

「‥‥はぁっ‥あっ‥あっあぁっ‥」

身体の中にドラコの熱を感じ、ネビルの声は艶を増す。

長い間その熱から遠ざかっていたネビルの身体は、必要以上にドラコを締め付けた。それは決して拒むものではなく、逆に取り込もうとしているかのように、収縮を繰り返しては、ドラコに快感を与える。

「‥ん‥‥ネビル、随分と情熱的じゃないか‥‥‥僕の知らない内に、やっぱり君の身体は淫乱になったな‥」

快楽に少し眉を寄せながら、ドラコは感想なのか、軽口なのか、わからない言葉を吐いた。

「‥‥‥ドラコ‥の‥‥せいだ‥よ、‥‥僕、さみしかっ‥たんだ‥からぁ‥」

喘ぎに乗せながら吐き出されるネビルの声に、ドラコは喉の奥でクツクツ笑う。そんな事ですら、ネビルの脳は快感へとすり替えて行く。

 

「‥それは、君にすまない事をしてしまったな‥‥」

涼しげな言葉とは裏腹に、ドラコの瞳は強い快感に狂喜を隠せないで居る。

視界が利かない暗闇で、ネビルはそのドラコの表情をしっかりと脳裏に思い浮かべていた。

目が見えないというこの状況は、酷くおかしな感じだが、ネビルはいつもよりも近い場所でにドラコを感じていた。

昔、何かで呼んだ事がある。五感の内の1つが欠落すると、他の四感がそれを補うのだという話。今の状況はまさにそれで、目が見えなくて不安な筈なのに、何故か恐怖に苛まれる事は無い。それどころか、感覚が研ぎ澄まされていて、ドラコが触れる場所で感じる快感が、普段よりも増してより一層気持ち良い。

普段は熱いくらいにしか認識できないドラコの熱が、今はその質量や感触までがよりリアルにネビルに伝わる。

「‥ごめ‥‥ドラコが‥‥‥謝る必要‥無い‥‥よね?‥具合悪かったんだもの‥‥‥忘れて‥ね?‥‥今の、‥僕の‥我侭‥だ‥‥‥‥あっ‥」

ドラコの熱に浮かされながら、ふと頭に浮かんだ言葉を、ネビルは無意識に口走る。身体は与えられる快感に、痙攣しそうなくらい喜んでいるというのに、変な具合に冷静な思考の一部が、自分の理不尽な台詞がどうしても許せなかった。

「謝るなら‥身体で僕に伝えれくれないか?」

くすくすと笑い、ネビルの身体に熱を帯びた欲望を全て埋め込んだドラコは、そう言って激しい律動を開始した。

 

「‥‥‥すご‥‥‥‥流石にちょっと‥怖いかも‥」

何度も愛しあい、お互いに腰が立たなくなった頃、ようやく眠りについた2人は、そのまま朝まで眠ってしまった。

先に起きたドラコはシャワーを浴びた後、ネビルを起こしてシャワーを浴びるように薦めた。ネビルは、それに従いドラコの部屋でシャワーを浴びた。そして、身体をタオルで拭いていた時に、ふと洗面所の鏡に映った自分の身体が目に留まった。思わずまじまじと鏡の中の自分を眺めた後に漏れたのが、この台詞。

昨夜は暗闇の中、いつもよりかなり激しく行為に及んだ。その自覚はあるし、記憶もある。

しかし、流石にここまでは予想していなかった、というか気が回らなかったというか‥。

ネビルの肌‥‥スポーツも何もしていない、白くて細い身体のあちこちに、ドラコが付けた赤い斑点が生々しく浮き上がっていた。見ようによっては、集団私刑にでも遭ったみたいにも見えてしまう。それは既に、キスマークという範疇を大きく越えていて、所有印というよりは、虫刺されの跡か、おかしな病気の発疹に見えなくも無い。

しかしこの痕跡は、ドラコがそれだけネビルを愛してくれている‥という、1つの証明でもある。

そう考えたら、ネビルの顔には自然と笑みが浮かんだ。意気揚々と服を着て、ドラコが待つ部屋へと戻る。

ドラコは、ネビルのために紅茶を淹れて待っていた。

「‥‥‥おはよう、ドラコ」

そう言えば、さっき起こしてもらった時には寝ぼけていて言っていなかった事を思い出して、ネビルは随分と遅いあいさつの言葉と共に、ドラコに笑顔で抱きついた。

「おはよう、ネビル」

ドラコは笑顔でネビルを抱き締め返し、愛しいネビルに少し朝にそぐわないモーニングキスをする。

「‥‥‥スケベ‥」

唇が離れてからネビルはそう言って、ドラコを少し睨んだけれど、直ぐに笑顔になった。

目の前にドラコが居て、抱き締めて、キスが出来る事が、ネビルには嬉しくて仕方が無いらしい。

 

「そう言えば、ドラコ‥‥体調は?まだ良くないんでしょう?」

ドラコの淹れた紅茶を一口飲んだ後、ネビルが心配そうにそう聞いた。

昨晩、あれだけしておいて、体調が悪いも何も無い。‥と言う気はしたが、ドラコは自分の分の紅茶を用意しておらず、顔色も少し悪そうだった。

「‥‥‥‥その事なんだけどな‥‥‥ネビル覚えてるか?春に‥あった事」

珍しく言葉の歯切れ悪くそう言ったドラコに、ネビルはきょとんとした顔で、「春?」とドラコの言葉を繰り返し、首を傾げる。

「‥僕が、ネビルの薬を‥‥飲んだ時‥」

そんなネビルに、視線を合わさずにドラコは少し助言した。

ドラコの言葉に、ようやくドラコの言いたい事を理解して、ネビルの顔は、みるみる赤く変わっていく。

きっと今、ネビルの頭の中には、少女のドラコを犯した記憶がありありと思い出されている事だろう。あの時のネビルは、完全に「化けて」いた。ドラコですらも驚くほどに、受けだとばかり思われていたネビルが、見事に攻めに転じ、ドラコをいろんな意味でなかせてくれた。

ネビルは黙って赤い顔を俯かせている。ドラコは、少し気が引けた。ネビルはあの時の事を、未だに後悔しているのだ。ドラコが保健室に監禁されてしまう直前の一週間、2人の間に性交渉は一切無かった。それは、その時の記憶が行為の後に呼び起こされて、いつも酷く落ち込むネビルを気遣って、ドラコが自粛していたせいだった。昨夜の激しい行為の影には、そういった背景も影響している。

最近やっと、ドラコに謝らなくなり、以前の関係へと戻りかけていた矢先。ドラコがネビルに持ち出すにしては、少し酷な話題だった。

「‥‥‥悪い、ネビルを落ち込ませたい訳じゃないんだ‥‥その、‥‥」

ドラコは、ネビルを気遣いながらも、話を続けた。肝心なのは、これからだった。しかし、やっぱり気が引ける。愛する人の悲しそうな泣き顔は、誰でもあまり見たくはないものだ。

「‥‥何が、言いたいの?‥‥‥言ってよ、ドラコ‥僕、泣いたりしないから」

そんなドラコの様子を察して、ネビルは気丈な笑顔をドラコに向けた。震えた声で、弱々しい笑みだった。

「‥‥‥‥悪い」

ドラコは、作り笑顔のネビルに一度謝ってから、複雑な顔のまま一度深呼吸をした。

「‥で?何なの?」

ネビルの声に促されるまま、ドラコはようやく肝心な台詞を口にした。

 

「‥‥‥‥‥‥その、デキたらしい‥」

「‥‥‥‥何が?」

「‥‥‥‥‥‥‥赤ん坊が‥」

「‥‥‥‥‥‥‥誰に?」

「‥‥僕に、‥‥ネビルの、子供が‥‥」

‥‥‥‥‥‥。

‥‥‥‥‥‥‥‥。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

ガチャン!!

盛大な音を立てて、ネビルの手から最高級のウェッジ・ウッドのティーカップが落ち、机に当たって粉々に割れた。中身が飛び散って、テーブルからネビルの服まで、傍にあった全てのものに飛び散って、茶色い染みになった。

 

「‥‥‥‥‥‥‥‥嘘、でしょ?‥‥‥ねぇ、ドラコ‥嘘、だよね?」

ドラコの言葉を聞いた瞬間に、時間の流れが止まってしまっていたネビルは、ティーカップの割れる音で我に返って、震える声でドラコの冗談を正そうとした。

しかし、「何を馬鹿な事を」と笑い飛ばすには、妙にリアリティーがありすぎて、怖い。

確かに過去に、たった一度だけネビルは「ドラコ」と言う名の女性を抱いた。‥‥避妊は、していなかった。でも‥そもそも、あれはその場限りの事で、情事の後男に戻ったドラコに、子供を宿す器官は備わっていない訳で、‥‥妊娠なんて、常識的に言えば、有り得ない話だ。しかし、ここはホグワーツ。常に非常識な事が起き、それが常識としてまかり通ってしまう場所。

ネビルの哀願にも似た問いに、ドラコは答えなかった。

その事が、ドラコの言葉の意味を肯定している。

ネビルの顔は、先程の赤い顔から一転し、真っ青に変化した。

「‥あれから、三ヶ月だ‥‥僕の、最近の体調不良は‥‥多分、‥つわりだ」

確かに、ドラコは胸がムカムカして、食べ物の匂いが嫌だと、言っていた。

でも、しかし‥‥。ネビルは、混乱を覚える頭で、他の可能性を必死に示唆する事にする。ドラコが妊娠なんて、どう考えても受け入れられない。

「‥‥偶然、時期がそうだっただけで、‥ドラコの病気は、夏風邪なんじゃ‥」

ドラコは、静かに首を振り、ネビルに平たいペンの様なものを無言で差し出した。それは妊娠検査薬だった。

 

「‥‥陽性反応が出てる」

ドラコは、ショックを受けているネビルに、申し訳なさそうに、更にショックを受けるであろう台詞を呟いた。

目の前に差し出されたコレが、マグルの粗悪品だったらどんなに良かっただろう。

しかし、ネビルの恋人は、穢れた血を嫌う、純潔のマルフォイ。

彼が手にしているものは、決して間違いなど起こさない、魔法界の中でも信頼に足る名のある店の、最高級品であろうことは、聞くまでもなかった。

=ドラコの妊娠は、事実である。‥と、言う事。

‥‥‥‥‥‥。

‥‥‥‥‥‥‥‥。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

「‥‥‥‥殺される‥」

長い沈黙の後、ネビルがポツリと物騒な事を言った。

 

在学中に、しかも15歳と言う年齢で、恋人(しかも男)を孕ませてしまった。

こんな事実が祖母にバレたら、ネビルは間違いなく祖母に殺される。

そして、恋人の父親。魔法界ではその名を知らぬ者など居ない、いろんな意味で偉大な人物、ルシウス・マルフォイにも、確実に殺される。

ネビルの顔は、真っ青だった。

「‥まさか‥‥そんな事‥」

一度否定しかけたドラコだったが、結局否定は出来なかった。

厳格なネビルの祖母と、自分の父親。この2人だったら、ありえない事じゃない。

ドラコの顔からも、血の気が失せていった。

それから2人は、数時間何も喋らずに、ただ黙ってその場に居た。

手を繋いだまま、お互いに思考の奥深くに入り込んで、これからの事を考えていた。

 

「‥‥‥とにかく、マダムポンフリーに相談してみないか?」

昼頃になって、ようやく口を開いたドラコの言葉に、ネビルは力なく頷いた。

そして、2人は無言のまま、部屋を出た。

保健室へと向かう足取りは、重く、まるで死刑台の階段を上って行くような気持ちになる。

「‥‥大丈夫だ、僕が‥必ず君を守るから」

隣を俯いたまま歩くネビルに、ドラコが言った台詞は、キザだったけれど、これからの修羅場を彷彿とさせた。ネビルはいつもの様に「馬鹿」と、笑い飛ばす事が出来なかった。

「‥ドラコ‥‥ごめんね‥」

ネビルは俯いたまま、そう言った。

 

 

To be continued‥‥。

 

ある日のチヨリンさんの会話。

千夜「凛ちゃん、恥ずかしくて死にそうです」

凛「‥‥‥あんなの(一話)書いておいて、今更何を言うの?」

千夜「‥‥‥‥」

凛「‥‥(にやり)」

凛ちゃんは、根っからのサディストだと確信しました。(深月)

 

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