『娼婦少年(後編)』

 思えば、雪広は初めから、僕に何かを求めてなんかいなかった。
「どう思われてもいい。おかしいのは俺だから……」
 僕は雪広が言ったセリフを思い出す。
「尾道が好きだ……」
 放課後、学校からの帰り道。僕達は並んで帰宅していた。校門から出てすぐ向こうの交差点までの短い距離を、僕達は一緒に歩いていた。
 夕日が西に傾き、空が深い茜色に染まる時間帯。雪広は不意に切り出した。
「ごめん……。どうしても我慢が出来なかったんだ。嫌いになってもいいよ。別に変態だって思われても構わない……」
「ふーん」
 僕は表情を変えない。
 好きなんて言葉は、今まで仕事中にいくらでも言われてきた。同級生から言われるのだって初めてじゃない。こういうことには比較的慣れっこだった。
 だから、僕は彼を撃退することに決めた。
「僕、カラダ売ってるんだ。ヤりたいなら、ヤらせてあげる。……お金を払ってくれるならね」
 雪広の足が止まった。
 その表情も複雑なモノだった。痛みの原因が分からなくて、泣くに泣けない赤ん坊みたいな顔をしていた。
 僕は雪広に自分の詳細を話した。父親の借金と自殺、暴力団の存在。売春行為。全部、正直に話してしまった。
 コイツとはこれで終わったと思った。現に、それ以降の二ヶ月間、僕は雪広とろくすっぽ言葉を交わさなかった。

 しかし、僕は今日、こうして雪広と並んで歩いている。一歩一歩、ホテルへと近づいている。
 僕は自分が言い出したこととはいえ、今ひとつ納得がいっていない。本当に、お金を貰ったからといって、このまま雪広に抱かれていいものなのかどうか……。
 こんなの、……なんだか、初めての気分だ。今、僕は自分がどうしたいのかよく分からない。本当に、自分自身が分からない。
 なんでこんなに胸が疼くんだろう。……分からない。
 その時、僕はまだ雪広に言っていなかったことを思い出す
「……そうだ。ルール説明をしてなかったっけ」
「ルール?」
 そう、ルールだ。いくら男娼相手のセックスだからって、そこには決まり事がある。いや、こういう仕事だからこそ、明確な規則が必要だ。……まあそんなの、払う金額でいくらでもねじ曲がる代物ではあるんだけど。
「まず、今日やるのは普通のセックス。コスプレもナシ。縛りもナシ。クスリなんかも絶対にナシ。ただ、裸で抱き合って、挿入するだけ」
「うん……」
「フェラチオなんかも、するのもされるのも基本的には別料金。まあ、少しくらいはサービスするけど、それでも調子にのったプレイは厳禁」
「破ったら?」
「恐いお兄さんが飛んでくる」
 僕は頬に指を当てて下に引っぱる。顔についた傷のゼスチャーだ。雪広にも意味は通じたのだろう。彼はゴクンと唾を飲み込む。
「まあ、そんなものは金さえもらえれば、どうにでもなることなんだけどね。でも、これだけは絶対ダメということもある」
「なに……?」
「キス」
 僕は上唇に人差し指の先を押し当てる。
「ここだけは、絶対にダメ。何があってもダメ」
「キスしちゃ……いけないんだ……」
「うん。それだけは、ダメだよ……。こんな仕事をしてる人間にも、守るべきモノはあるんだ……」
 僕はうつむく。
 雪広も目を反らす。
 街並みを少し外れ、ほどよく人通りも少なくなった脇道。ラブホテルっていうのはこんな所に建っている。



 手持ちの金額のこともあり、僕達のとった一室はとてもシンプルな部屋になった。
 部屋の真ん中にこれ見よがしのダブルベッドがある以外は、まるでそこらへんのビジネスホテルだ。
 シャワールームがガラス張りになっているなんてこともないし、天井に鏡が貼ってあるわけでもない。サードボードにコンドームの入った小さな籐のカゴがあるくらいか。まさにヤるためだけの部屋ってカンジだ。
「はあぁ…………」
 雪広はこんなところにはいるのは、もちろん初めてらしい。こんななんにも無い部屋でも、目につくモノ全部が珍しいのか、上を見たり下を見たりキョロキョロしている。
「おっけー。それじゃ、雪広、脱いでよ」
「え、脱いでって……、もう?」
「もうもなにも……」
 僕は雪広の 後ろに回り、Tシャツの裾に手をかける。
「え……っ?! 真咲、ちょっと……」
「うるさいッ!」
 僕は雪広のシャツを一気に上へ持ち上げる。雪広は勢いで上に腕を上げさせられる。そのままTシャツを引っぺがす
「真咲ぃ……?!」
「ほら、そのままベッドに寝るっ!」
 僕は雪広の尻を蹴飛ばす。
「わッ!」
 雪広は体勢を崩し、ベッドのスプリングに倒れ込む。
 俺は自分のシャツのボタンを外す。床に脱ぎ捨て、ズボンのベルトも外す。
「わ、わわ……ッ! なんで真咲まで脱ぐの? シャワーとか浴びるんじゃないの、こう言う時って……」
「めんどい」
 僕はズボンを脱ぎ、いっしょにブリーフも引き下ろす。雪広の前で、僕はいきなり一糸まとわぬ全裸になる。
「…………あ……あぁ」
 雪広は言葉を失う。視線は僕の肌に釘つけになっている。……顔も真っ赤だ。
「ほら、雪広も全部脱いで。……それとも、僕に脱がせてもらいたい?」
「……ぬ、脱ぐよ」
 雪広は慌ててカチャカチャとバックルを外す。そのままジーパンを下ろし、ようやくトランクス一枚の姿になる。
 そこには、布きれ一枚では隠しきれないくらい大きくなったペニスがある。
(そうだよな……。どんなに口ではカッコイイこと言ったって、こうなるよな……)
 雪広だって、あいつらと同じだ。僕は少しだけ安心し、少しだけ悔しくなる。
 僕はゆっくり、ベッドの前にひざまつく。視線の高さに雪広の股間がある。その上には、呼吸を荒くした雪広の顔が見える。
 そっと、張りつめた陰茎に手を乗せる。
「……ひゃッ!!」
 パンツの上から少し触られただけで、雪広は一際高い声を出す。腰がビクンと跳ね上がり、快感に眉根が歪む。
「なんだよ、女の子みたいな声上げて……。まさかオナニーもしたことないの?」
「あ、あるよ……。あるけど……、全然違うよ……。なんか、変……」
 僕はまだ何もしていないのに、雪広は他人に触られたという実感だけで、興奮をつのらせている。
 布越しに触るペニスはとても熱く、ビクビクと大きく震えている。なんだかいきなり射精してしまいそうな勢いだ。
 僕はまだ直接それに触れない。ただ布越しにジワジワと竿を撫で上げ、もう一方の手で、精巣をタプタプと揉む。
「ひ……ッ、ひいッ!」
 雪広の悲鳴。白い肌は薄紅色に上気している。手はシーツを無意識に握りしめ、アゴを強く引いている。
 なんだろう、雪広は普通にはあり得ないくらい敏感だ。少なくとも、僕は今までこんな反応をする人にあったことがない。年配の方が多い普段のお客様は、こんな可愛い反応をしてはくれない。
 これで、僕の持っているテクニックを全て使ったらどうなってしまうのだろうか。
 僕は股間から手を離し、雪広のトランクスを下ろす。雪広も合わせてお尻を不器用に持ち上げる。そして、僕のよりも若干大きいくらいのペニスが、部屋の空気に晒される。
 心臓の鼓動に合わせてか、雪広のペニスは縦に激しく揺れている。太い血管が浮かび上がり、先っぽには小さく液溜まりが出来ている
 まだまっさらの、幼いペニス。
 僕はそそり立つ肉柱に指を這わせる。握力はあまり入れず、そっと包み込むように敏感な皮膚の表面を刺激していく。
「あ……、あぁ…………、うあぁ…………」
 丁寧にしごいていくと、雪広の全身が小刻みに震えだす。足の指は丸まり、目が硬く閉じられていく。
 もっと強く握れば、あっという間に雪広は果てるだろう。でも、僕はそんなことしない。ただ優しく、そっと静かに、雪広の性感神経をなぞっていく。
 男性の場合、多くの人はオナニーの仕方が間違っている。たいてい、ただ単純に射精しようと強引に陰茎をしごく。
 しかし、そこを我慢し、快感曲線の傾きを低くに押さえれば、射精寸前の絶頂感が延々と続くことになる。大切なのは時間をかけること、それがコツだ。
 今、雪広が感じている快感は、おそらく彼にとっては未知の、信じられないくらいの大きさだろう。
 トロトロとカウパーが漏れる。これだけでも、精輸管を通る感触は射精の疑似体験のように感じられるハズだ。雪広はいま、止まらない精液の放出と同等の快感に苦しんでいる。
 僕はさらに、雪広の快感をとろ火で煮込むように、やんわりと性器周辺を刺激する。陰嚢、会陰部、内股、アヌス周辺。どれも指先で触れるだけの、優しい愛撫をほどこす。
 雪広はガクガクと感染症のように全身を震わせる。時々、発作的にベッドの上で腰が跳ねる。鈴口が、精液を出したい出したいと、懇願するようにピクピク開閉する。
「ひ……ひぃ…………」
 雪広の声に、嗚咽が混じり始める。どうやら、泣くほど苦しいらしい。
「なんだよ、雪広……、まだ、触ってるだけなんだよ? 舐めてもいない、入れてもいないのに……」
「ひうぅ……、だ、だって、こ、こ、こん……なッ! ひうぅッ! うッ!」
 雪広がは歯を食いしばる。ギリリという骨を食(は)むイヤな音が聞こえる。シーツを掴んでいた指には、さらに力が入り、ベッドには深い山折り谷折りが出来る。
 快感に耐えきれないのか、雪広の腰はカクカクとピストン運動の様な動きを始める。射精に至る強烈な一撃を得ようと、僕の手に肉の杭を打ち込もうとする。
 僕は手から力を抜き、その動作を無効にする。雪広の腰が虚しく宙をもがく。
(大丈夫。そんなことをしなくても、すぐにイかせてあげるから……)
 僕は雪広の会陰部に手を添える。ここは前立腺の下にあたり、強く押し上げることで、強制的な射精を促すことも出来る。
 同時に陰茎を強く握りしめる。そして、一気にこする。
 ……シュッ! シュッ! シュッ! シュッ! シュッ!
「あ、あひいぃッ!!」
 限界まで引き延ばされた射精の際。僕はその絶頂の先まで、雪広の官能を引き上げる。
 グイグイとマッサージされるように揉まれる会陰部。本来のオナニーよりずっと乱暴なペニスの刺激。
 雪広の背筋が、ギュンと反り返る。さらにアゴを突き上げ、声を甲高くして、絶叫する。
「ひぎッ! ま、真咲……ッ! ま、まさき、まさきぃッ! や、やあぁッ! まさきいぃッ!!」
 部屋に僕の名前がこだまする。会わせて、僕も手にも力が入る。
「ま、まさき……ッ! い、イく……、イ……イぃッ! ……ま、まさッ! あ、ああぁぁッ!!」
 ドビュルウウウゥゥッ! ビュルウゥゥッ! ドビュウゥッ! ドビュウゥッ! ビュルゥゥッ! ビュッ! ビクンッ! ビクンッ!
 雪広は、射精した。
 まるでゼリーのように濃い精液が、一本に繋がりながら放出された。駆け上がったその量は果たして何十センチなのか、圧倒的な熱をはらみながら、大量の白濁液が雪広のカラダに降り注いだ。
「あ…………、あぁ…………、ま……さきぃ……」
 雪広は僕の名前を呼びながら、まだ体を硬直させている。射精も今だ収まらず、まるで間歇泉のようにピュルピュルと鈴口から精液が噴き出している。お腹の上に、白い液体が広がっていく。
 青臭い匂いが、部屋に広がる。
(雪広……すごい……。なんか、すごいよ……)
 同級生が泣きながら喘ぎ、射精しながら震えている。僕の名前を叫んで……。
 胸が疼く。
「雪広……」
 僕はベッドの上に上がり、雪広の顔をのぞき込む。まだイきっぱなしの雪広は、目の焦点があっていない。光の失われた瞳が、涙でトロンと溶けている。
「雪広……、聞こえる……?」
「あ……、まさき……、まさきぃ…………」
 引きつる呼吸を強引に押さえ、雪広が僕の名前を呼ぶ。
「どうして、僕のことが好きになったの……? お互い、クラスメイトで、ほんの少し喋っただけだよ。ねえ、どうして……?」
 僕は突然、聞いてみたくなった。
 なぜ、人は人を好きになるのか。
 いままで、僕のコトを好きだと言ってくれた人は大勢いた。善意、詐称、その場しのぎ、いろいろな「好き」を僕は聞いてきた。
 でも、その中に、一つでも僕の心を震わすモノなんてなかった。だから僕は、愛とか恋とかは、なんだかとても卑屈なモノだと思ってきた。
 しかし、それなら、この胸の疼きはなんだろう? 僕はどうして、こんなヤツのことがこんなに気になるんだろう?
 だから、その答えを、直接聞いてみようと思った。
「まさきぃ……」
「ねえ、雪ひ……キャッ?!」
 突然だった。僕の腕は雪広に掴まれ、体を強引に引っぱられた。そのまま胸に腕を回され、僕は雪広の上に乗りながら、強く抱きしめられた。
「ゆ、雪広ッ! な、なに……?! 雪広ぉッ!」
 雪広の体にかかった精液が、僕達の間で潰れる。発熱した体を全身の皮膚で感じる。
 顔と顔の距離が凄く近い……。ドクドクというバスドラムみたいな心臓の鼓動が、僕の方にまで響いてくる。
 そのまま、雪広は僕のことを抱き続ける。
「雪広……?」
「…………好き」
 そっと、耳元で囁かれる。
 ゾクンと、首の産毛が逆立つ。
「好きだよ……、真咲のことが好きなんだよ。いつの間にか、真咲のことをずっと見ていて……、そのことに気づいたら、真咲のことしか考えられなくなって……、そして、なんか胸の奥がジンジンして……」
「ゆ、きひろぉ……」
「気持ちいい……、真咲の体……、とっても気持ちいい……。さっき、精液だしたときより、気持ちいい……」
「え……?」
 その言葉を、僕にはにわかに信じられなかった。あれだけの痴態を見せつけられて、それより今の方が気持ちいいなんて、僕には到底思えなかった。
「そんなわけないじゃん……。じゃあ、今、射精しちゃうの? 雪広は」
「そうじゃ……ないよ……。伝わらないかな……、俺の、気持ちよさ……」
「………………」
 僕には分からなかった。
 確かに、雪広の体は温かい。とても落ち着く。でも、これは気持ちいいということなのだろうか? 僕が知っている快楽とは、全然違う。
「ごめん、雪広。伝わらないよ……、雪広がなに言ってるのか、分からない……。もしかしたら、大切なことなのかも知れないけど、僕は習ったことがない」
 僕は、雪広の首に手を回す。そのまま、体をさらに雪広に寄せていく。二人の鼓動が、重なっていく。
 雪広の耳に唇を寄せて、僕は囁く。
「やっぱ、僕が間違えてるのかな……? こんなことを今までしてきたから、分からないのかな……?」
 雪広が、僕の耳元で囁く。
「ううん……、俺だって、習ったことはないもん。そう感じてるってだけで……」
 囁く。
「僕も、そう感じたいな……」
 囁く。
「うん、感じさせてあげたい……」
 僕達は、そのまま抱き合う。時間が少しずつ過ぎていく。
 でも、夜明けまでに、僕は仕事をしなければいけない。



 お尻を少し手持ちのローションで濡らしただけで、窄まりは開いていく。僕の体は、とてもイヤらしいものになってしまっている。
 ベッドにうつぶせに寝そべり、腰を高く上げる。顔をクッションに埋め、両手でお尻の割れ目を開く。
 今日、すでに内藤さんとのプレイがあったため、アナル周辺は少し赤く腫れている。そんなこと、雪広には言わなきゃ分からないだろうけど、僕は少しだけ恥ずかしい。
 やっぱ、同級生だからだろうか、僕の心には小さな恥じらいのシコリが生じる。雪広に、お尻の穴を見られることが、とてもイケナイことのように思われてくる。
「雪広……、いいよ。入れて……」
 僕は背後で膝立ちする雪広に声をかける。
 雪広は自分の屹立したペニスにローションを塗りながら、息を荒げている。やはり視点は僕のお尻に集中しているようだ。
 また僕の胸がズクズクと疼き始める……。少しせつない……。
「ちょっと、早く入れてよ……。雪広ぉ、何してんのぉ……ッ!」
「う、うん……。ちょっと待って……」
 雪広が僕の腰を掴む。そのまま前に寄り、ペニスの先端を僕にあてがう。敏感な部分に、きめ細かい触感の亀頭粘膜が張り付く。灼けそうな程、熱い。
「いい……? いくよ……。中、入れるよ……?」
「うん……。少しくらい乱暴にしてもいいから……、一気に、押し込んで……。多分、平気だから……」
 僕の言葉に、雪広は頷く。
 改めて、両手で腰が持ち上げられる。そして、次の瞬間、
 ズウウウゥゥッ……ッ!!
「ふうぅ……ッ!」
 入ってくる灼熱の肉棒に、僕は呻く。
 熱い……ッ! なんで……、なんで雪広の体はこんなに熱いんだろう。こればかりは、僕が今まで体感したことのない感覚だった。
 ガツンと、僕の尾てい骨に衝撃が走る。雪広のペニスが根本まで入れられる。
「は、入った……。真咲の中に……、入った……」
「うん……、そうだね……」
 はぁはぁと、僕は口で息をする。雪広の感触は、そんなに大きいわけではないけど、ひどく充実感がある。お尻の穴を隙間なくぴったり埋められたような不思議な感じ。僕は顔をベッドに押し当て、シーツを握りしめる。
「……動くの……かな? 真咲……動いていいの?」
「いいよ。雪広の気持ちいいように、動いて……」
「うん……」
 僕の言葉に雪広はうなずく。そして、僕のウエストを改めて掴み、自分の腰を大きく引く。
 ズルンと、ペニスが直腸を滑る。張ったカリクビが粘膜の壁を擦り上げる。
「ひゃ……ッ!」
 亀頭付近まで引き出された陰茎が再び力強く打ち込まれる。尻肉がバチンと音を立てる。
 そして、再び長めのストロークで注挿が繰り返される。
 リズムはゆったりめ。タップリ塗られたローションと、開いた括約筋がこの動きを可能にする。雪広は本能的な衝動に導かれ、腰を動かしていく。
「真咲……、はぁ……はぁ……、ま、真咲……」
「うん……いいよ。そのまま……突いて……」
 僕も雪広のペースに合わせて体を揺らす。お尻が自然とリズム合わせて締まり、僕は雪広の形を感じ取る。
 それにしても、雪広のセックスは優しい。もっとガツガツ腰を振ったっておかしくないのに、まるで腫れ物にでも触るかのような感じで、僕を犯す。
 ジンジンと体がせつなくなっていく。なんか、焦らされているみたいだ。雪広に、こんなテクニックがあるはずないのに……。
「ゆ、雪広……、もっと強くしてもいいよ……」
 しかし、雪広は答えない。何か迷いがあるのか、動きが止まる。
「雪広……?」
「…………なんか、違う」
 ついに雪広は僕の中からペニスを抜いてしまう。
「……ちょ、ちょっと雪広ッ?! なんだよそれ! 違うって……ッ!」
 僕は体勢を起こし、雪広の方に向き直る。
 その刹那、僕は押し倒される。
 ドスンと、体がベッドに沈む。いつのまにか僕は両肩を押さえられている。雪広は両腕を立てながら、じっと僕の顔を見つめている。
「……ッ! なんだよ、雪広」
「俺、真咲の顔を見ていたい……」
 雪広の目は真剣だ。彼はどうやら、僕を正常位で犯したいらしい。
 そう言われれば、僕には断ることはできない。
「いいよ……、じゃあ、このまま入れてよ」
 僕は股間を大きく開く。そのままブリッジのような体勢でお尻を上げ、雪広のペニスを導く。
 雪広が自分のものをつかみ、亀頭をふたたび窄まりにあてがう。
 雪広はその間も僕のことを見続けている。股間の様子を確認したりもしない。ずっと、僕の顔、いや目を見つめ続けている。
 僕も彼の視線を外すことが出来ない。僕達はベッドの上で、延々と見つめ合っている。
 やがて、雪広のペニスが入ってくる。それはやはり、とても硬くて、熱い。ゆっくりと根本まで入れられる。
「雪広……、いいよ……、う、動いてぇ……」
 僕は雪広に懇願する。正直、こんなに焦らされるなんて思っていなかった。同年代の少年だし、もっと激しくされるモノだと思っていた。でも、雪広の動きは緩慢で、性器への刺激もない。ただ、僕の官能ばかりがつのっていく。
 僕の言葉に、雪広は首を横に振る。
「動かなくて、いいよ……」
「え……っ?」
「動かなくても、いいと思う。真咲の中は気持ちいいし、俺はこうしてるだけでも射精しちゃうと思う……。それなら、俺はもっと、真咲のことを見ていたい」
 ……なんか信じられない言葉だった。動かない。そんなの、僕の知っているセックスにはない。そんなプレイ、見たことも聞いたこともない。
「ダメだよ……。たぶんそんなの、気持ち良くない……」
「お願い、こうさせて……。真咲が気持ち良くないなら、僕が真咲のおちんちんをいじるよ……。だから、もう少しだけ、こうさせて……」
 そこまで言われたら、もう押し黙るしかない。僕はこの奇妙なプレイを了承する。
 雪広は僕の顔をじっと見続けている。顔こそ真っ赤だけど、その表情は真剣そのものだ。僕は力強い視線に射すくめられる。
 僕はそんな雪広を、どんな顔で見たらいいのかわからない。ボンヤリと薄目を開けながら、雪広の濡れた瞳を見ている。
 お尻の中のペニスはドクンドクンと脈を打っている。亀頭はちょう前立腺を押し上げるような位置に当たり、ひどく圧迫感がある。カウパーが押し出されてしまいそうな圧力だ。
 自然と僕のお尻にも力が入る。括約筋やPC筋がピクピクと震えはじめ、雪広の逸物を締め上げる。
 お尻に、雪広の体温を感じる。僕は雪広の腰に足を絡ませ、せめて、密着感だけでも高めようと苦心する。
(やだ……、これ、エロい……。なんか、凄く恥ずかしい……)
 僕にも羞恥プレイの経験はある。裸のまま立たされたり、バイブを入れられたまま、そのまま放置されたり。
 でも、僕はずっと人の前で裸を晒すことを商売にしていたわけだから、特に羞恥心を感じたことはない。僕の行う反応は、お客さんを喜ばすための演技以上のものではない。
 でも、今日は違う。今、僕は恥ずかしい。じっと、雪広に見られているのが、もの凄く恥ずかしい。
 僕はたまらず手で顔を隠そうとする。
 しかしその時、肩を押さえていた雪広の手が一瞬離れ、パッと僕の二の腕を押さえつける。手のひらは、顔まで届かない。
「な……ッ?! なんだよ雪広! ちょっと、離して……!」
「ダメ……。俺は真咲の顔を見たいんだ……。隠しちゃダメ……」
「…………っ?!」
 雪広はじっと僕の顔を見ている。とろけそうな快感に耐えながら、眉をひそめて、フルフルと震えて……。
 その目は、とても真摯だ。
「や、やあぁッ!!」
 僕はたまらず目をつぶる。アゴをそり上げ、少しでも顔を雪広から離す。
 でも、雪広は視線を外さない。直接見なくても分かる。雪広は恥ずかしがっている僕の表情まで、頭に焼き付けるようにジッと見つめている。
「あ……あぁ…………」
 恥ずかしいッ!! 圧倒的な羞恥心に、僕は脳が茹だってしまいそうだ。……熱い。頭の中がとても熱い。
 僕は雪広の下で身もだえる。どうにかこの視線の拷問から抜け出そうと、身体が勝手に暴れ出す。
 しかし、両手を固定され、腰を押さえられているこの状況では、脱出なんて出来やしない。僕の体はピンクのシーツの上で虚しくのたうつ。
 全身の筋肉が硬直しはじめる。お尻にもキュンと力が入り、僕は雪広のモノを激しく強く締め上げる。
「あうッ! あ、……あぁ、……真咲ぃ」
「ゆ、雪広ぉ……」
 僕は少し目を開けて、雪広の顔を確認する。やはり、雪広は僕の上から、ジッと顔を見続けている。その呼吸は深く、荒い。湿った息が、頬にかかる。
 僕はもう耐えきれず、目をギュッとつぶる。……ダメだ、恥ずかしすぎる。僕は雪広と目を合わせることさえ出来ない。
 感じる。雪広の視線がザクザクと突き刺さる。まるで、頭の中を直接見えない光で犯されているみたいだ。思考がグチャグチャになり、理性が消えていく。
「ひあ……、や、やらぁ…………。み、見ないで……。見ないでぇ…………」
 僕は哀願する。もう、限界だ。これ以上恥ずかしい顔を見られたら、僕は死んでしまう。羞恥心に潰されて、息が止まってしまう。
 しかし、こんな息も絶え絶えの僕を、雪広は許してくれない。
「ううん……。僕は真咲を見てるよ……。ずっと、見てる。目を反らされても、閉じられても、ずっと見てる。嫌われたって、僕はずっと見てる……」
「ひあ……、あ……あぁ…………っ」
 僕の背筋が反り返っていく。こみ上げてくる快感に、身体がガクガク震える。
「好きだよ……。真咲のこと、好きだよ……。どんなに好きって言っても追いつかないくらい、好き……。どうしたらいいか分からないくらい……。死んじゃいたいくらい、好き……」
「や、やめてぇ……、もう、言わないでぇ…………、らめぇ……、は、恥ずかしいのぉ…………恥ずかしくって、し、死んじゃうのぉ…………」
「俺は、もっと見たい。かわいい真咲の顔を、もっと見ていたい……。ねえ、見せて……。恥ずかしい真咲を……もっと、見せてよ……」
「だ、ダメぇッ!! ひ、ひあッ! あッ! ああぁッ! ダメ、ダメ、ダメえぇッ!」
 僕は泣き出す。顔を真っ赤にして、涙をボロボロとこぼし始める。身体がこわばって、奥歯がカタカタ鳴りだす。
 腰にに力がかかり、雪広のペニスが前立腺をグイグイ押し上げる。トロトロと流れるカウパーが、僕のお腹に糸を引いて落ちる。
(な、なんで……。なんでこんなに気持ちいいの……ッ! おかしい、こんなのおかしいッ!)
 僕にはこの快感がとても信じられなかった。雪広はさっきから少しも動いていない。ただ、僕の顔を見続けいているだけだ。なのに、僕はもう射精寸前まで登り詰めてしまっている。
 いや、このままでは僕は放出してしまう。ペニスに触れてもいないのに、頂点に達してしまう。
「ひやあぁ……、あぁ……、あ…………、あうぅ…………」
 ダメだ。もう、何も考えられない。頭の中が真っ白になっていく。強大な快感に、意識が掻き消されてしまう。
 引き延ばされた快感は、僕により深い法悦を運んでくる。さっき僕が雪広にしたことが、こんどはこの身に返される。
「ゆ、ゆきひろぉ……、しん……じゃう…………、はず……かしぃ………………、し、しぬぅ…………」
「うん、見てるよ。真咲がイっちゃうとこ、見ててあげる……。この目に、一生焼き付けるよ」
「ひ、ひいぃッ! ゆ、ゆきひろおぉッ!!」
 その瞬間、熱い奔流が駆け上がってくる。精液が、ペニスへの刺激なしに、一気に噴き上がる。
「やあああぁッ!! ひ、ひんらうぅッ!! ……ひぃ、ひやあぁぁあぁぁッッ!!」
 ブビュウウウウウゥゥッ! ビュルウウゥッ! ビュウウウゥッ! ビュルウゥッ! ビュウゥッ! ビュッ! ビュウウゥッ!
 僕の全身が硬直する。直腸が蠕動し、雪広のペニスを絞り上げる。そして、雪広が達する。
「ま、まさきぃッ! ……まさきいいぃぃッ!!」
 ビュクンッ! ブビュウウウゥッ! ビュルウウゥゥッ! ビュウゥッ! ビュッ! ビュクンッ! ドビュウウゥッ!
 下腹部に広がっていく大量の熱。身体の中が爛れてしまう錯覚。
 僕は、このまま死ぬと本気で思った。気絶しそうなほどの快感にさらわれ、全身が痙攣した。
 雪広の顔が霞む。とても優しい笑顔が遠い。
「ゆ……き……ひろぉ……」
 僕の切望に、雪広は二の腕から手を離す。そして、優しく僕の背中に手を回し、僕を抱きしめる。
 絶頂と同時に何かが決定的に欠けた心に、また新しい何かが染み渡っていく。
 伝わる体温と重なる脈拍。そして、とても近くにある雪広の笑顔。
 そのまま浮いてしそうなくらいの多幸感が、全身を駆け回る。
(……あぁ、これだ。…………雪広の言っていた、気持ちいいのって、……このことだ)
 僕は理解する。セックスより気持ちいい充実感を。わき上がってくる幸福を。……恋心を。
 僕達は、今、繋がっている。



 朝。
 僕達は何事も無かったかのように別れ、何事もなかったかのように登校する。
 何事もなかったかのように、授業を受ける。
 僕はノートにシャーペンの先を走らせながら、チラリと雪広を見る。
 彼は、何事も無かったかのように黒板を見続けている。
 それなら、僕も先生の言うことに耳を傾ける。

 朝がすぐ来るように、夜もすぐ来る。放課後、僕は帰宅の途につく。今日もこれから仕事だし、事務所の方に顔を出さなければならない。僕は西武池袋線椎名町駅に向かう。
 僕は校門を出て、雪広がそれに追いついてくる。後ろからそっと歩速を合わせ、やがて僕の隣に並ぶ。
「………………」
「………………」
 お互い会話も交わさないで幾数歩。家並みは少しずつ流れていき、僕達は駅に近づいていく。
「……真咲」
 雪広がついに口を開く。
「昨日のこと、夢じゃないよな……。俺達、セックスしたんだよな……?」
「…………あれは、……セックスだったのかなぁ?」
 僕は正直、自信がない。昨夜のプレイは、やっぱりかなり特殊なものだったと思う。
「俺、真咲のこと、抱いたんだよな」
「お金を払ってね」
 僕は雪広をちょっと冷たくあしらってみる。
「……あ、……うん、そうだね。俺は真咲を買ったんだ。……それで、気持ちが伝わるならって、買ったんだ」
「……ははッ」
 思わず、笑ってしまう。
 だって、そんなことは言わなくていいことだから。気持ちが伝わるからなんて、そんなこと今更ってカンジだ。
 僕は雪広の前に回り込む。そのまま雪広と向かい合いながら、バックで歩を進める。まあ裏道だし危なくはないだろう。
「雪広、もうそんなことどうでもいいよ。雪広の心は全部伝わったから。うん、理解出来たよ。……あの時ね」
「あの時……」
 そう言うと、雪広の顔がカアァーッと赤くなっていく。なんでこいつは言葉一つでこんなに分かりやすい反応をするんだろう。見てて飽きない。
「だからさ、僕の考えていることだって、少しくらいは伝わってるんじゃないの? 当ててよ。僕が今、何を考えているのか……」
「え……?」
 雪広の歩きが止まる。その表情は硬く、眉毛が八の字の形に寄っている。
(……ってなんで困ってるんだよ、雪広。……まさか本当に分からないわけ?!)
 いや、コイツの場合、分かってるから押し黙っちゃうこともありそうだ。もしそうなら、僕は直接的な行動にでるしかない。
 僕は雪広の肩をつかむ。そして、一歩前に出る。顔を上に向け、口を前に突き出す。
 唇に、唇を押し当てる。
 キョトンとした雪広の目が見える。彼は脈拍が停止したかのように、ピクリとも動かない。
 でも、これで僕は伝わったと思う。だから、雪広から離れる。
「ま、真咲……、今の……」
「あー、サービスだってば、サービス。今後ともご贔屓にってさ」
 それは嘘。僕は今までムリヤリ奪われたことはあっても、自分からキスしにいったことはない。だから、これはある意味僕のファーストキスだ。
 僕の唯一残った初めて。雪広にあげる。
「真咲……あ、あのさ……」
「な、なんだよ……?」
「顔、真っ赤だよ……。そんなに、恥ずかしかった?」
「え?」
 僕は自分の頬に手を押し当ててみる。確かに、もの凄く熱い。
「え…………? や……、なんで?  ちょっと……、嘘ぉ?」
 そう思うと、僕はますます恥ずかしくなってしまう。なんだよ、もっと恥ずかしいコトなんて今までたくさんしてきたじゃん! なんでキスだけで、……こんな!
 僕はもうたまらなくなって、引けた腰つきで雪広と距離をとる。そして、そのまま駆け出してしまう。
「ま、真咲?!」
「ま、待ってるからね! 僕、ずっと雪広のこと、待ってるから」
 僕は雪広から逃げながら、大声で叫ぶ。
「待ってるって……。俺、もうお金なんてないし! それにもうあんなこと……ッ!」
「いつまでだって、待ってるから! ……僕、あの街でずっと、待ってるからぁッ!」
 僕達に距離はグングン開いていく。僕は全力で走り、雪広の足はすくんでいる。
 僕の頭の中は、嬉しいやら、悲しいやら、恥ずかしいやらでグルグルだ。自分が何を言ってるのかさえよく分からない。

 僕は池袋から逃げられない。事務所の人達は怒ると恐いし、母さんにだって時々は会いたい。
 だから、僕は待っている。雪広が二ヶ月に一度、いや半年に一度でも来てくれるのを、待っている。
(すごい変な気分……、気持ちいいのに泣き出しそう……。でも、顔は緩んじゃうし……)
 僕はすごい変な顔をしながら、夕刻の茜色に染まった街を走る。
 ありがとう、雪広。こんな気持ちを教えてくれて、本当にありがとう。
 僕は雪広のこと、ずっと待ってるよ。

(了)

[投下 : 2chエロパロ板『ショタ・少年総合スレッド』 2004年05月21日(079〜097)]

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