柵の着いた保育ベットで泣いている裕美ちゃん。俺は慌てて抱きかかえ、口にほ乳瓶を含ませる。うわ、オシメまで濡れちまってる。出しながらまた飲んで、赤ちゃんは大変だ。
浩志くんと加奈子ちゃんはブロックのパーツを巡って喧嘩している。三歳児といえども内容は壮絶で、加奈子ちゃんのチョークスリーパーは浩志くんを完全に極めちまってる。洒落にならないのでハリセンでスパンとつっこみを入れる。
じっとビデオを見てる享くんは面倒を見るのは楽だけど、将来がちょっと不安だ。誰だよアダルトビデオを棚に混ぜた奴! 俺は大急ぎで散らかった部屋のどこかにあるだろうリモコンを探す。
その他、0歳から7歳までこの託児所は毎夜騒がしい。俺はせっかく作ったカップラーメンもほったらかしに、とにかく右往左往だ。
東京都豊島区西池袋の雑居ビル、七階。ここは近くのキャバレーに勤めるお姉さん達専用の託児施設だ。俺は小学六年生ながら、どうにかこの子達の面倒を見ている。
実を言えば、俺はここのOBだ。それに親はいない。12年前のある日、いつのまにかここのベットで寝かされていたらしい。
施設に送られて当然の俺を、親切なここの人達はこの託児所で育ててくれた。オーナーさんが保護者になって、学校にだって通わせてもらってる。
まぁオーナーは厳しい人なので、働かざる者食うべからず。俺は毎晩ここで子供達の面倒を見ることになった。
そしてこの環境、ぜんぜん嫌いじゃないんだよ、俺は。
「お疲れ様でした」
俺は眠ったままの裕美ちゃんを富野さんに渡して、頭を下げた。
「はい、拳ちゃんもお疲れ様。じゃあねー」
富野さんは裕美ちゃん抱きかかえ、そのままエレベーターで下りていった。しばらくすると、キコキコと自転車をこぐ音が聞こえてくる。まったく、母は強い。
夜も二十四時を越えれば、とりあえず仕事も終わりに近づいてくる。残りは拓也くん一人になった。
拓也くんはタオルケットを抱きながら部屋の隅で寝ている。一段落。俺は心地いい溜め息を吐き出す。
さてと、学校の宿題でも片づけますか。算数のドリルが2ページ。あの先生、ノートを提出させるからめんどくさい。
その時、背後でバンッと玄関のドアが開かれた。
「拳ちゃーん、おっひさー♪」
「成田さん?!」
「みぃこって呼んでくれなきゃいやーん」
みぃこさんは俺の肩に手を置いて、そのままグデーッと玄関マットに崩れ落ちた。
一拍おいて、香水とお酒とタバコの全部混ざった匂いが俺の鼻に届いてくる。駄目だこの人。なにがお店であったか知らないが、完全にできあがってしまってる。
「……えっと、いま水持ってきます。ちょっと待っててくださいね」
俺は無理矢理みぃこさんの腕を振りほどく。が、今度は背中から抱きつかれてしまった。あーもうっ、おっぱい当たるってば!
「ふみーん、なんであんなラブラブなヤツが店に来るんだーっ。新婚はおとなしく家にいろってんだ。のろけんなー!」
俺はなんか喚いているみぃこさんを引きずって、どうにかリビングに到着した。強引にみぃこさんを引っぺがし、床に転がす。
とりあえずキッチンへ移動。冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを出して、コップについで持ってくる。とにかく酔いを覚まして貰わなければ話にならない。
戻ってきたら、みぃこさんは泣いていた。
「うぅ……、ふにいぃ……、なによぉ、そんなに幸せなのが偉いのかってんだぁ……。あたしだってがんばってるんだぁ……」
確かにみぃこさんは頑張っている。それは認める。でも、カードで借金を作ったのは自分でしょう? 俺はみぃこさんがこの仕事を続ける事情をよく知ってるだけに、あまり同情できない。だらしないことは罪だ、うん。
「とりあえず、お水飲みましょう、お水。ほら」
「拳ちゃんも一緒に呑もぉ……」
「はいはい」
俺は水の入ったコップを差し出す。みぃこさんはそれを両手でかわいく挟んで、コクコク飲む。
「…………水じゃん」
「そう言いましたが」
「ここ、お酒はないんだっけ?」
「託児所ですよ。あるわけないでしょう」
みぃこさんは納得いかないのか、立ち上がり、フラフラした足取りでキッチンに向かった。しばらくすると、なにかいろいろひっくり返す音が聞こえてくる。……まてこら。
「おーさーけーはーっ!?」
「ありませんっ!!」
「うぅーっ……」
いや、うなられたって無いものは無い。だいたい何しに来たんだこの人は。俺は宿題をやらなきゃいけないんだ。小学生をなめるな。
「まあいいやぁ。ほれ、拳ちゃんも一緒に飲めー」
みぃこさんは俺用のコップに水を汲んで持ってきた。千鳥足なものだから、ポタポタ縁から水がこぼれる。まったくもう……。
「かんぱーい」
「……はい」
俺達はカチンとコップをぶつけて、水を飲み干した。
…………!?
舌が熱くなった。いや、口の中全部が熱い。ノドが焼ける。……な、なんだこれ?! 俺は思わず咳き込んだ。
「ごぼっ……、ぶっ、ごふっ、ぶえぇっ! な、何か入れました? みぃこさん!」
「へっへーん♪」
みぃこさんは口の端を鎌のようにもちあげ微笑むと、ハンドバックからなにやら取り出した。
アルミか何かでできた水筒、しかもえらく小さいやつだ。たぶん中身はお酒……、指で蓋の先を摘んで、フルフルと振っている。
「ジン……、か、なにか……?」
「おおっ、小学生で酒の味が分かるとは、さすが拳ちゃん」
「もおっ……! いい加減にしてくださいっ!」
さすがの俺もブチ切れ、大声を上げながら立ち上がった。しかしその瞬間、クラッと部屋が傾き、俺はその傾斜に足を取られて絨毯に手をついた。
「あ、あれ……?」
「ありゃ、もう回って来ちゃったの? 弱いなぁ……。うわ、顔赤っ!」
「……な、なんなんだよぉ。なんなんだよ、もおっ!!」
俺はとにかくみぃこさんを一発殴ろうと、腕を振り上げた。でも今度は部屋が前に傾いて、俺はみぃこさんにつんのめってしまった。顔が柔らかすぎる胸にムギュっと埋まってしまう。
「ふぐううぅ……」
「うわぁ……、拳ちゃんだいたーん。みぃこ嬉しーなーっ」
そのままギュッと抱きしめられてしまった。さらにグリグリと揺すられてしまう。俺の頭はどんどんスポンジみたいなおっぱいに食い込んでいく。
「ふっざ……けるぅ……なあぁっ!」
俺は両手で力いっぱいみぃこさんのアゴを押し上げた。しばらく力は拮抗していたが、やがて俺が勝って二人は千切れるように離れた。一緒のタイミングで尻餅をつく。
「いやーん、拳ちゃんの意地悪ぅ。一緒に幸せになろーよーっ!」
みぃこさんは意味不明のたわごとを喚くと、四つん這いでこっちに寄ってくる。一方、俺は大の字に寝ころんだまま何もすることができない。天井がクルリと回って、また戻って、ぶれたり揺れたりしている。
ふいに影が差し、みぃこさんのドアップが視界に割り込んできた。なぜかほっぺたが膨れている。
「みぃこひゃん……? にゃ……」
ろれつの回らない俺の口は、みぃこさんの唇で塞がれた。舌でこじ開けられた口内に、唾液と一緒に大量の液体が流れ込んできた。空気に触れた瞬間、蒸発しそうなくらい熱い水だった。
「むぐうぅっ……うぅ……ふうぅっ……」
もちろん正体はお酒だ。みぃこさんは口移しで大量の水割りを俺に注ぎ込んできた。俺はどうにか逃げようと首をひねるが、右に動けば右に、左に動けば左に唇は追いかけてくる。その間にも、お酒は万有引力の法則に従って、俺の奥にゴボゴボと入ってくる。
「かふっ、く、ううぅ……、こふっ! ふぶうぅっ!」
熱いアルコールは口から吹き出たり、こぼれたりしたけれど、それでも半分くらいは俺の中に入ってしまった。
ようやくキスが終わると、俺の頭はいよいよ働かなくなってきた。体もうまく動かないし、顔に力が入らない。意識はどこか覚めているけれど、肉体の方が言うことを聞いてくれない、そんな感じだ。
「あら拳ちゃん、すごいヨダレでちゅねー。ほっぺもリンゴみたーい、ほらプニプニー」
俺は顔をグリグリと撫でられる。そして、頬を粘土のようにこねくりまわされ、摘まれる。
「ううぅ……、みぃこひゃん……いつかころひゅ……」
「今、殺してよー。拳ちゃんになら何されてもいいよぉ、ほらー」
そういうと、みぃこさんはシャツのボタンを上からはずし始めた。俺が驚きの声を上げる間もなく、ブラのフロントホックまではずされた。
そして、ポロンとたわわなおっぱいが中からこぼれ落ちる。
本来なら慌てて目をそらすだろう所だが、俺はなぜか朦朧として、視線をはずすことができなかった。
みぃこさんは構わず、俺の両手首を掴むと、自分の胸に俺の掌を押し当てた。みぃこさんのおっぱいは指の隙間からムニュッと肉がはみ出てくる程柔らかく、掴みきれない程大きかった。
「あんっ……、拳ちゃんうまいなぁ……、すっごいソフトな感じ。いいよぉ……」
「……ふあぁ?」
俺の指は雄の本能なのか、勝手にモソモソと動き出していた。ゆっくりと上下しながら、吸い付くような肌の上を這い始めている。
「あれ……、えぇ?! おれ……こんなこと……な、なんで……」
「それはね、拳ちゃんが優しいからだよぉ」
みぃこさんは俺の手の甲に、自分の手を重ねてきて、二人で一緒におっぱいを揉むような形になってしまった。
「拳ちゃんはさ、すっごくいい男になるよ。かっこよくってさ、あたしなんか手の届かないくらい、いい男になっちゃう。あたし、それはとっても嬉しいし、とっても悔しいよ」
「み、みぃこひゃん……」
「だからさ、せめて『初めて』くらいは、欲しいんだよなぁ……」
みぃこさんは目をつぶって、首を傾けてきた。この後することはもちろんキスだ。小学生だってわかる。そしてその後は……。
頭の中でビービーと警報音が鳴る。でも、体は勢いに流され、俺のまぶたはどんどん下がっていく。
みぃこさんの匂いがどんどん近づいてくる。静かな吐息が鼻を撫でる。あと一センチ、あと一ミリ……。
ズパアァァンッ!!
頭頂部をハリセンで殴られた。乾いた気持ちいい音が、託児所に響き渡る。
「なにをしているんだ、このガキはあぁっ!!」
「か、かあひゃん……?」
「彰子さん?」
振り向くと、そこには鬼の形相をした母さんが立っていた。右手にハリセン、左手に一升瓶というシュールな出で立ちだ。また下(六階は俺達の家)で呑んでいたらしい。
母さんと言っても、もちろん血はつながっていない。彼女はオーナーの奥さんってだけだ。ただ、「母さん」と言うことで愛情が伝わるなら俺はいくらでも「母さん」と呼ぶ。もっとも、彼女は三人目の母さんだったりするのだが。ちなみに今でも現役のホステス。かなりの美人さんだ。
「なんで、店の女の子を襲ってるんだよ、小学生が! そんな子に育てた覚えはないぞ!!」
母さんが俺を一喝する。いや、俺も一年半くらいしか、あなたに育てて貰った覚えはないのだが……。
「いやあぁぁっ、犯されるうぅっ!」
「……ええぇっ?!」
ちょっと待て! なんでそこでみぃこさんが悲鳴を上げるんだよ! 逆じゃん! 俺が襲われてたんじゃん!
「まったく、上が騒がしいと思って見に来れば、とんだ不祥事態だ……。オーナーの息子が何してんの?!」
「いやーん、おーかーさーれーるーっ!」
「……あ、あの、……ちょっと」
酔っぱらった頭では、これがどういう状況なのかもよく分からない。なんでこんな事になるのかまったく理解できない。とにかく言い訳したいけど、俺の口からはうまく言葉が出てくれない。
「……拳坊、そこに横になりなさい」
「なってまひゅ……、な、なんで……」
「お仕置きするから」
その言葉を聞いて、俺の背筋に悪寒が走った。発作的に立ち上がり、この場から逃げる……つもりだったが、足は絨毯の上を滑り、手は空しく宙を掻いただけだった。もう、体には平衡感覚が残っていなかった。
じたばた床でもがく俺は、半裸のみぃこさんにあっさり取り押さえられた。肩に掌を押しつけられただけで、俺はもう動けなくなってしまった。
「お仕置きってなんですかぁ、何するんですかぁ?」
「んー、みぃこちゃん、知りたい?」
母さんは不適に笑い、俺の足首を持ち上げた。そのまま、自分の足は俺の股間に照準を合わせ、徐々に近づけていった。
「あーっ、電気あんまじゃないですかぁ。楽しそーっ!」
みぃこさんは歓喜の声を上げた。なんだよそれ。ちっとも楽しくなんか無い! イヤなんだよ、これぇ!
母さんはこの悪ふざけが好きなのか、隙を見つけてはよく俺に仕掛けてくる。そのたびに俺は逃げ回るのだが、駄目だ、今回は完全に極まっちまってる。
「うぅ……、やぁ、やめてぇっ……!」
しかし、俺の抗議は完全に無視される。ついに土踏まずが俺の股間に押し当てられ、ブルブルと揺れ動き始めた。
ブルルッ! ブルブルブルブルブルルルウゥッ! ブルルルルウゥッ!
「うああっ! はあっ……あっ……うああっ! ははっ……あはっ……ううぅっ……やあぁ……、くくうぅっ! あははぁ……、ああぁっ!」
暖かい足の裏から伝わる振動は、とてもむず痒く、くすぐったかった。腹が勝手によじれ、息が詰まった。俺の声はまさに泣き笑いになっていた。
「うわぁ、拳ちゃん気持ちよさそー」
「そりゃそうよ。女の子に股間弄られちゃってるんだもの。気持ちいいに決まってるじゃない。ほーら、ぐりぐりー」
「お、女の子って……年かよぉ……。……うああっ! うぐうぅっ! あははっ、あっ、ああぁっ! やあぁっ……いやあぁっ!」
これがいつもなら、無理矢理にでも体をひねって脱出するのだが、背筋に力も入らず、肩を押さえられては抵抗もままならない。なすがままの俺に、無慈悲な振動がガクガクと伝わってくる。
股間は母さんの好きなようにブルブルと震わされている。俺の反応が面白いのか、母さんは強弱を変えたり、位置をずらしたりと徹底的になぶりにかかる。
みぃこさんは、俺を押さえつけながら、ずっと楽しそうに笑いかけ、その目もキラキラ輝いている。でも、やっぱり俺にキスしたいのか、時々唇をとがらしては、顔を近づけてくる。
一方、俺はいよいよ笑い声も上げられないほど、苦痛が強くなってきた。息がせわしなく吐き出され、酸欠気味なのか意識がはっきりしなくなってきた。時々起こる、体の芯からの震えに呻き、爪で絨毯を掻いた。
駄目だ、これ以上されたら本当に死にそうだ。俺はプライドをかなぐり捨てて泣きの一手に出ることにした。
「………ふぐうぅっ! ……う、うぅ……うぁ……、うああぁっ! やぁ……、かあひゃん……もぉ……ゆるひてぇ…………、ゆるひてくださいぃっ……」
「じゃあもう女の子襲ったりしない? 手をつけない?」
「しにゃい………、しにゃいよぉ…………、だから……ゆるひぃ、うぐぅっ! かっ、かはあぁっ!」
背筋もアゴも反り返った俺を見て、ようやく限界に気づいたのか、母さんは足を離してくれた。俺は息を整えることもできずに、ただ股間から広がる甘い痺れに、だらしなく酔っていた。
「ありゃ、もうやめちゃうんですかぁ」
「まぁ、これで懲りたでしょ。あんたも服着なさい、まったく……」
「うーん、まだ消化不良ですよぉ……。みぃこ的にはぁ」
みぃこさんは不満の声を上げたが、もう勘弁して欲しい。アルコールと電気あんまの二重奏で俺の脳はマジで溶け始めている。かなりやばい。
みぃこさんもとりあえず大きな胸をブラジャーに押し込みはじめた。
よかった……。ようやく、この地獄の責め苦も終わりか……。
「ちわーっです。遅くなりましたーっ。拓也引き取りにきましたよぉー。おーい拳ちゃーん」
玄関から明るい声が聞こえてきた。拓也くんのママ、瑞穂さんだ。最近いい人でもできたのか、こっちにくる時間が遅くなりつつある。
「あー、瑞穂っち。こっちこっちー。今、面白いことやってるよー」
みぃこさんは手を振って瑞穂さんを招き入れた。
「……おもしろぉ……ってぇ……、うぐうぅ……」
俺はまだ上手く喋れない。体はフワフワするばかりで、視界もドロドロだ。もうマグロ以下。
「おー瑞穂、遅いじゃん。まだあの人と続いてんの?」
「ありゃ、彰子さんにみぃこちゃんまでいる。なにしてるんですか?」
「婦女暴行犯にお仕置きでーす。犯されちゃったー」
ついに、ヤったことにされちまった。なんなんだよ、俺の人生……。
「うわ、拳ちゃん最低ですね。お仕置きじゃすみませんよ、そんなの。おちんちん切らないとだめです」
瑞穂さんは口調こそ明るかったが、発言が怖すぎた。この人、言葉は丁寧だが、ホントにやりかねない空恐ろしいところがある。
「うーん、それじゃもうちょっとだけ、お仕置きしちゃおうか?」
場の勢いなのか、母さんは処罰の再開を提案した。なぜかすっごい笑顔……。
「はーい、今度はみぃこがやるぅ」
「え、何するんですか? 私もやります。ちんこ切ります」
「……い、いかげんにぃ……しろおぉっ!!」
俺は精一杯の叫び声を、喉から絞り出した。
「……だめ、なんだよぉ……。……これ以上……されたら……おれぇ……ほんとにぃ…………も、漏らすぅ……」
「もらす……、漏らすって、なに? まさかおしっこ……?」
母さんが聞いてくる。他のみんなもいっせいに俺を見る。
俺は黙ってうなずく。
そうだよ、もう本当に限界なんだよ! お酒なんか呑んだからなのか、チンポはさっきから尿意でブルブル震えている。立てるものなら、さっさと立ってトイレに直行している。
「見たーいっ!!」
歓声を上げたのはみぃこさんだった。最悪だ、この人。でもなりふり構っていられない。俺はとにかく懇願する。
「やだぁ……、漏らすの、やなんだよおぉっ……! おねがい…………と、トイレぇ……つれて……ってぇ…………」
「かわいいです……」
瑞穂さんがボソッとつぶやいた。そんなこと言われたって嬉しくない。恐いだけだ。今はただ、本当にトイレに行きたい。
「しょうがないな、ほら、拳坊つかまりな」
母さんがだらしない格好で転がっている俺に手を伸ばした。俺も精一杯の力を振り絞って捕まろうとする。
しかし、それを阻んだのは瑞穂さんだった。母さんの手をハシッと掴んで、なぜか首を横に振っていた。
「駄目で彰子さん。そんな安易な解決を与えてしまっては教育になりません」
「教育?」
「ここはお仕置きもちゃんと与えた上で、オシッコの問題も解決するべきだと思います。幸い、私にアイディアがあります」
「あいでぃあー?」
「はい、ここは託児施設でありますからして……」
そういうと、瑞穂さんは俺のズボンに手をかけた。
テキパキとズボンとブリーフが引き下ろさる。ヒョイとお尻が持ち上げられて、一枚の布が敷かれてしまう。
そして、あっという間にサササと布が腰に巻かれ、端を安全ピンで止められてしまう。これって、まさか……。
「オムツ……?」
「うわああぁ……、やっぱ拳ちゃんかわいいです! 自分でやっておきながら、信じられません。私、グッジョブ!」
「いや、ホントに瑞穂っち、グッジョブ!」
瑞穂さんとみぃこさんは、互いに親指を突き出しあっている。なんだかわからないけど、強い連帯感が生まれたらしい。
いや、そんなことはどうでもいい。俺は今、死ぬほど恥ずかしい。もうすぐ中学に入ろうかって人間が、オムツぅ? なんだよこれ、……拷問? このまま俺を羞恥心で殺すつもり? そりゃ完全犯罪だ……。
「いや、その年で赤ちゃんプレイはなかなか体験できないぞ、我が息子よ」
「……かあさん……た、助け……」
俺は持てる力を振り絞って母さんに訴えかけた。が、帰ってきたのはかなり的はずれな返事だった。
「思えば私はあんたに何一つ母親らしいことをしてあげることができなかった……」
当たり前だ。あんたが母親になったのはついこの前だ。
「ここであなたが赤ちゃんになっちゃったのも、一つの天恵よね……」
そんなことはないだろ! あんたが自分の子供を欲しがっているのは知っているけど、こういう形でのストレス発散は勘弁して欲しい。俺はマジで泣きそうだ。
「これでいくら漏らしてもモウマンタイです。さあ彰子さん、お仕置きどーぞ!」
「ふむ、それではいかせてもらいます。じゃあ、私が終わったら、次は交代ね」
みぃこさんと瑞穂さんは歓声を上げた。一方、俺は頭を抱える。
終わったらっていうのは、どうしたら終わりなのか……、さらに交代制……、もう考えるだけでイヤになる。
「じゃあいくよ、覚悟しなさい、拳坊」
母さんは俺の足首を再び掴み上げ、まな板の上の鯉に死刑宣告をした。絶望……。
そして、拷問は始まった。
ブルルウウウゥ! グリュリュリュリュリュリュウウゥッ! ブルブルブルブルブルブルブルブブブブウウゥッ!
「ひぐううぅっ! ふうぅっ……うっ! ううぅっ! うああぁっ!!」
俺は悲鳴を上げていた。上げたくて上げた声じゃない。勝手に喉がねじれて、肺の空気が喉をこすって出た声だった。
体は動かないのに、顔には引きつりそうなくらいの力が入る。眉に深く皺が走り、口が間抜けに開いていく。
ボロボロと目尻からは涙がこぼれる。そして、もうとっくに限界だった尿意がいよいよ堰を切ろうとしている。
ビクビクと股間が震え、腰はとにかく苦痛から逃げようと左右にグリグリと回転する。
でも、母さんの足は止まらない。疲れることもないのか、一定間隔の振動が延々と俺の股に響き続ける。
「わあ……、拳ちゃん必死ですね。おしっこ漏らすの恥ずかしいんだ。やっぱこれハードですねぇ」
「漏らしちゃえ、漏らしちゃえ。みぃこさんがしっかり見ててあげまちゅからねぇ。ばーぶー」
「…………やだぁ、……やだやだやだあぁっ! いやだあぁっ!!」
俺のせっぱ詰まった金切り声がリビングに響く。恥ずかしい、俺は本当に、本当に恥ずかしい!
赤ちゃんの格好で、赤ちゃんみたいに泣いていて、赤ちゃんみたいにお漏らしするなんて……、最低だ、最低だ、死んだ方がましだ!
でも、駄目だ。もう……震えが止まらない……、力が入らない……だめ、だめぇ……!!
ブシュウウゥッ! ジョロ、ジョジョジョジョオオォッ……、ジョロロロロロオオオォッ…………。
俺はついに失禁した。膀胱に限界まで溜め込まれた小水は細い尿管を抜け、ジョボジョボと木綿のオシメに吸い込まれていって。
暖かい液体がどんどん布地の中を広がっていき、吸い込まれずに肌を伝った汚水はお尻まで伝っていった。腰が全て温かい液体で包まれた。
俺の心は一瞬だけ排尿の開放感を喜んだが、次第にそれを上回る羞恥心と罪悪感がのしかかってきた。頭がいっぱいいっぱいになって、もう何も考えられなくなってしまった。
みんなが「かわいー」とか「これ欲しいー」騒いでいるようだけど、俺にはその言葉を理解する理性は残っていなかった。
圧倒的な屈辱感だった。このまま消えてしまいたかった。
「じゃん、けん、ぽん!」
俺の顔の上で、拳と掌が戦っていた。なんだよ、これは……。
「勝ちました。次、私です。拳ちゃん、よろしくお願いします」
瑞穂さんは俺の顔の上で、丁寧に頭を垂れた。
「はい、じゃあこれ。あんまり無理はしないようにね」
「お任せください。不肖、中村瑞穂、拳ちゃんをとっても気持ちよくさせるものでありますです、はい」
足首の引き継ぎがなされ、こんどは瑞穂さんが俺の股間に足を乗せ始めた。
「……ちょ…………う、うそぉ……?」
「あきらめなさい、拳坊。でも、悪い話じゃないよ? こんな美女に囲まれて、こんなにいじり倒されるなんて、最高じゃない」
「はーい、みぃこも気持ちよくさせるでありますでーす」
母さんの無責任な発言を受け、みぃこさんは俺の頭を両手ではさんだ。赤らんだ顔のアップが上下反転で視界に入ってくる。
「では、いきますです♪」
瑞穂さんは明るく宣言すると、俺の股間に振動を送り始めた。
ブルルルルウウゥッ! ブルッ、ブルルッ、ブルルルウウゥッ! ブブブブブブブウウウゥッ!
「うぐううぅっ……、ふううぅ…………うぅ………うっ! ううぅっ! ふぐうぅっ!」
股間に振動が走り、俺はくぐもった声を上げた。しかし、みぃこさんの唇が俺の悲鳴を遮った。
グジャグジャにキスされてしまった。二枚の唇を交互に吸われて、舌が押し込まれた。唾液がトロトロと俺の中に流れ込んできた。
一方、股間もブジョブジョという音を立て、俺のチンポを責め立て続けていた。
瑞穂さんの電気あんまは母さんのものよりずっと優しい、弱めのものだった。だが、場所が最悪だった。
柔らかい土踏まずが俺の陰茎全てを押さえていた。それはスイッチ弱のマッサージ器のような調子で俺のチンポをゆっくりと揺すっていた。
さらに踵は袋を押さえ、柔球二つを丁寧に撹拌していた。本来潰されることを恐れ縮み上がってもいいようなものなのに、そこはチンポの刺激と同等の気持ちよさを俺に与えた。
さっきまでの苦痛とは全く別のスイッチが押されてしまった。濡れたオシメの感触とも相まって、俺の性衝動は一気に高まっていった。
みぃこさんはキスしながら、俺の顔を撫でていた。頬をゆっくりとさすって、涙を拭って、右手で首筋をくすぐった。左手は髪を梳いていた。
「拳ちゃんの髪、柔らかいねー。みぃこ羨ましいよぉ」
みぃこさんの声はとてもエッチだった。耳の穴から零距離で、誘うような声で囁かれて、俺の理性はいよいよ壊れてきた。
「うわぁ、拳坊気持ちよさそうだ。ヨダレだらだらたらして、まるっきり赤ん坊だね。瑞穂、このままいっちゃいな」
「はいです」
母さんの指令を受け、瑞穂さんはさらにゆっくりとチンポを足の裏でこすり始めた。それは自分の手でするよりもさらに気持ちいい、もの凄いテクニックだった。
足の指が器用に波打って、俺の短い陰茎を揉みしだいていった。左右にひねりまで入れられて、俺の快感曲線は急激に上昇した。
かたや、みぃこさんは俺の上半身を犯しまくっていた。キスは口から離れ、鼻、目、頬とどんどん舐められていった。耳の穴に舌を入れられて、耳たぶをキュニキュニ噛まれた。俺は首を肩に押し当て、筋がつりそうになるくらい力を入れてしまった。
息がいよいよせっぱ詰まったものになってきた。とても熱く、荒い呼吸だった。こんな環境で育てられたから。女の人にはいろいろ可愛がられたこともあるけど、射精まですることはなかった。それが、足なんかで、こんなこと、こんなことぉ……。
「うああぁっ……、やあぁ……出る、出ちゃう……、はあっ……うあっ! ふあああぁっ!!」
「拳ちゃん、なんだか女の子みたいな声だしてるよぉ? すっごいエロエロ」
「ホントです。じゃあ、もっと気持ちよくさせてあげましょう。えーいっ!」
ズンッっと、お尻の穴を踵で踏まれた。前立腺に強烈な一撃をくわえられ、俺は強制的に射精させられた。
「ふぎゅうぅっ! うぅ、うぐぅっ! うあああぁぁっ!!」
ドビュルウウゥッ! ドビュウゥッ! ドビュッ! ビュルウゥッ! ビクンッ! ブビュウウゥッ!
俺は全身をガクガクと震わせながら、オムツの中に大量の白濁液をまき散らした。目の前で火花が散って、何が見えているのかよく分からなくなった。喉が引きつって、変なうめき声が口から漏れた。
「お、拳坊イっちゃった。アンアン泣いちゃって、なんか本当に赤ちゃんみたい……」
「かわいいですぅ……、瑞穂、大満足。……ふうぅ」
「エロいにゃー、拳ちゃん。じゃあ今度はあたしの番ねー」
まだあまりの快感に自我さえはっきりしない俺に、みぃこさんはまたキスしてきた。
みぃこさんはシャツのボタンをはずして、ブラジャーのホックをずらした。また巨大なおっぱいが俺の目の前にぶら下がった。
さらにみぃこさんは手を伸ばして、俺のオムツを外した。尿と精液でドロドロになった股間が空気にさらされ、勃起したチンポがあらわれた。
「おいこら、なんでオムツを取るんだよ、みぃこ」
「もちろん拳ちゃんの初めてをもらうためでーす」
「初めてって、なんですか? まさか、そんなことしちゃうんですかあ?」
ちょっと待てぇ! なんだよ、なにするつもりなんだよこの人は! まさか本当に犯るつもりかよ!
「筆下ろしかぁ……。まあ、見届けるのも母親の役割かもしれないな」
「うわあ、どきどきします……」
止めないのかよ、こいつら! し、信じらんねぇ。……みんな酔っぱらいすぎだ!
みぃこさんは俺の顔をまたいで、自分の股間を俺に晒した。
「見えるぅ、拳ちゃん。あたし、拳ちゃんのエロエロな顔見てただけで、こんなになっちゃったんだよぉ。もう、すぐにでも入れられるくらいベチョベチョ……。えへへ、恥ずかしいにゃー」
見えない、見えない! 見たくない! 駄目だ、これだけはやっちゃ駄目だ! 絶対駄目っ!!
「やめて……。それだけは………うぅっ………やめて……、お……おねがいぃ」
「やめてって、駄目なの? なんで。こんないい話ないってば。お願いしちゃえばいいじゃん」
母さんが無責任に言う。でも、それだけは承諾できない! 絶対にだ!
だから、……俺は嘘をついた。
「俺……好きな娘…………いるからぁ」
みぃこさんが止まった。止まってくれた。
「そっか、好きな娘いるんだぁ……。あたしが初めてじゃ、駄目かぁ…………」
みぃこさんは、本当に落ち込んでいるかのようだった。
そんな言葉を聞いて、みぃこさんは俺のことを悪ふざけじゃなくて本当に好きだったのかなんて、ちょっとだけ思ってしまう。でも、ゴメン。やっぱり駄目だよ、こんなこと。
「ありゃりゃ、みぃこさん振られちゃったです。拳ちゃん非道いなぁ」
「なにカッコつけてんだ、お前は……。女がやらしてくれるって時にやんなきゃ、絶っ対後悔するぞ?」
いいよ、なに言われても構わない。後悔もたぶんしない。だから、これだけは勘弁して欲しい。
「……ほかに、なにしても……いいからさぁ……。それだけは……やめてよ…………お願い……」
「わかったよ……。瑞穂っち、交代してぇ」
「はいです」
僕の足首はリレーのバトンのようにみぃこさんに手渡された。みぃこさんはそのまま足を握りながら、僕の股間を踏みつけにした。
「振られちゃったからねぇ、女の恨みは恐いわよぉ……。覚悟はいい?」
いいよ。もうどうにでもしてくれ。覚悟は決めた。
そして、みぃこさんは渾身の力をこめて、電気あんまを開始した。
ブルルウゥッ! ブルウゥッ! ブルブルブルブルブルブルウウゥッ! ブルブルウゥッ!!
何も履いてないスッパの股間を手加減無しで揺さぶられた。ガクガクと体ごと震わされるような強さだった。
「ふぐううぅぅっ! ううぅっ……ううっ! うぐううぅぅっ!」
俺はうめきながら、シャツの袖を掴んだ。むず痒さが背筋を駆け抜け、全身に広がった。体中がとてもつらくって、顎が反り返った。
それでも振動は止まらない。いつ終わるかも分からない。俺は首をひねりながら、耐えるしかなかった。
「なーに、意地を張っているのかね、この子は」
母さんは呆れた声をだしながら俺に近づいてきた。
俺の顔をのぞき込んだ。しかめっ面で、眉間にシワがよっていた。どこか寂しげな瞳だった。
母さんの手が俺の股間に伸ばされた。ビタビタをお腹の上でのたうっているチンポをそっと掴まれた。
「ううぅっ!」
俺の陰茎は母さんの筒状に保たれた手の中を、振動に合わせて往復した。柔らかい幾段もの指の腹が、俺の敏感な表面をすごい勢いで滑った。俺はあまりの気持ちよさに悲鳴を上げた。
腕に力が入って、引きちぎれるくらいにシャツが伸ばされた。その手にも、そっと柔らかい指が乗せられた。
それは瑞穂さんのものだった。瑞穂さんは俺の固まった指を一本一本外して、手を握りしめた。
俺のシャツが瑞穂さんにまくられた。そして露出した乳首に、キスされた。
俺はグチャグチャだった。股間を足蹴にされながら、チンポはやさしく包まれて、おっぱいをチューチュー吸われている。とても信じられないような、メチャクチャな光景だった。
そして、それを見ている人物がいた。
反り返った俺の頭は、部屋の隅で寝ている拓也君と目があった。拓也君はあまりの騒動に起き出していたのだ。
拓也君は怯えた目をしていた。四歳児には今ここでなにが起きているのかなんて理解できないだろう。いや、俺だって理解できない。拓也君はタオルケットを掴んだまま、少し震えているようだった。
そしてしばらくすると、そっぽを向いて壁に向かって寝てしまった。でも、肩がわなないている。まあ、おいしいトラウマにでもしてくれ。俺もそうやって大きくなった。
いや、そんなことを心配している場合じゃない。いよいよ俺は限界だった。せいぜい自分でこするくらいの性体験しかない俺にとって、この快楽は度が強すぎた。
悪い病気のように全身から汗が噴き出た。体中の筋繊維が引きつり、ビクビクと痙攣し始めた。
歯を食いしばってももう耐えられなかった。俺は一気に高まっていく快感にただ怯えた。
「ひぎいぃっ! い、イくうっ! イく、イくイくうぅっ! 出ひゃううぅっ!! うぅ、うあああぁぁっ!!」
ビクンッ!! ブッビュウゥッ! ビュルウッ! ビュルルウゥッ! ドビュビュウゥッ! ビキュンッ! ビクウゥッ!
大量の精液が俺の腹に巻き散らかった。振動ガタガタ揺れる先から、雫になって飛び散った汁がリビングに広がり、回りにいる人達にまで降りかかった。
俺は激しい呼吸をくり返しながら、泣いていた。勝手に目から涙が溢れていた。
それでも、瑞穂さんは俺の体中をうっとりした目をしたまま舐め続けて、薄い皮膚の上をさすった。
母さんはみぃこさんから引き継いで、俺の股間に狙いを定めていた。
そのみぃこさんは、俺の顔にキスしてきた。
結局、このローテーションがいつまで続いたかは覚えていない。ただ、俺は徹底的にいたぶられて、今までの人生、全て合わせたよりも大きい悦楽を、一晩で叩きつけられた。
空が白み、朝が近づいてきた。
「宿題……」
偉いぞ、俺。よく覚えていた。朝起きて第一声がこれなんだから、小学生の鑑だろう。
あたりを見回せば、なんだかすごいことになっていた。
カーテンの隙間からは、朝日が燦々と降り注ぎ、さわやかな一日を予感させるに十分だった。
でも、床には昨日の残滓がまざまざと残っている。尿、精液、その他の染み、なんかもろもろ……。
保育ベットには堂々と、みぃこさんが寝ていた。フニフニの笑顔で、思わずどつきたくなるような幸せ面だ。
部屋の隅の拓也君と、瑞穂さんはいなくなっていた。拓也君は保育園がある。さすが母親、瑞穂さんは朝一で自宅に帰ったらしい。
そして、俺と一緒に、部屋の片隅で母さんは寝ていた。
一緒の毛布で、本当の親子みたいに寝ていた。
少し感慨深いモノがあったけど、そんな場合じゃないのだ。宿題、宿題、宿題!
俺は慌てて洗面台に行き、顔に水を叩きつけた。タオルでこすって、着替えとランドセルを掴んだ。
はやく家に帰って、学校の支度をしなければならない。朝ご飯は諦めよう。すでに八時、時間は残されていない。
「拳坊……?」
母さんが目をこすりながら起き出した。
「あ、母さん。飯は自分で作って、俺もういくから」
「あ、いや、あのさぁ」
母さんは、少しバツの悪そうな態度で、俺に聞いてきた。
「好きな娘がいるって、嘘でしょ?」
「……うん」
俺は正直に応えた。まぁ、母さんに嘘をつく理由はない。
「じゃあ、なんでセックスしなかったの?」
今度は俺のバツが悪くなる番だ。いいや、嘘をつく理由はないんだ。
「好きな人はいるからね」
「好きな人?」
「みんなさ」
それだけ言うと、俺はドアに向かって走りだした。まだお酒が残っているのか足下がふらつくけど、とにかく靴を突っかけて下の自宅へ向かった。
着替えて、学校へ直行する。
階段を二段とばしで駆け下りて、いざコンクリートジャングルへ。さあ、はやく教室に行って、貴理子にでもノートを写させてもらおう。あいつのことだから、頭さえ下げればどうにかしてくれるだろう。
こんな裏通りでもサラリーマンの抜け道なのか、いろんな人とすれ違う。本当にいろんな人達と。
俺はここが好きだし、みんなが好きだ。だから当分このまま、生意気な童貞小僧でいいと思う。俺が本当の大人になる、その日まで。
小さな石に蹴躓きながら、俺は思う。――どうにもこうにも、幸せ者だね。
(了)
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