「うわぁ……」
目の前に広がるパノラマを見渡して、小太郎君は感嘆する。
こぼれ落ちそうなほどの満天の星だ。全視界に純白の山脈が連なっている。湖に寄せる波光。とても澄んだ美味しい空気。
そして、針葉樹の森の中に、一軒の丸太で組んだロッジが見える。
「ここが、ネギの生まれたところか……」
「まあ、レプリカだけどね」
僕たちは地面に描かれたゲート魔法陣を越え、丸太小屋へと足を向けた。
ここは、僕の故郷である山間の村をモデルに作ったジオラマだ。エヴァンジェリンさんの家にある修行塔のミニチュアを参考にして、僕が作った。
本当の大きさは僅かに牛乳瓶ほどのフラスコだ。それがいきなりイギリスの山間部に変われば、多少魔術に心得のある人でも目を疑うだろう。
もっとも、小太郎君は少し驚いた自分に腹が立ったようで、
「ふん、そんでもこんくらいのこと陰陽術でもできるわ。俺はできへんけど……、まあ、たぶん……」
などと悪態をつく。
僕はそんな小太郎君の態度を見て、ついクスクスと笑ってしまった。
「あーッ! なに笑ってんねん、ネギ! むかつくーッ!」
「ごめんごめん。でも、そんなこと言ってる暇はないんだよ。ここ、二時間しか保たないんだから」
「あ、そうか」
僕たちは少しだけ歩を早める。
エヴァンジェリンさんの修行塔は一時間が二十四時間もの時間になる。だが、未熟な僕の技術ではそこまでの物を作るのは難しく、このジオラマは一時間がたったの二時間にしかならない。
そして、二時間たったら強制的に部屋のロフトに戻ることになる。それまでに僕たちは用事を済まさなければいけないということだ。
……でも、でもだ。
小太郎君が僕に相談なんて、いったいなんだろう。
かつて住んでいた叔父一家の離れを模した部屋。少し広い1Kには暖炉やベッドなどの僅かな家具と、壁には趣味で集めたアンティークがいくつか飾ってある。
仮眠や倉庫を目的としたプライベートルームだったが、こんな目的で使うことになるとは思わなかった。まさか友達からの秘密の相談だなんて。
そして――。
僕が見せられたのは、なぜか真っ白なブリーフだった。
「……?」
僕はとりあえず両手でつまんでみる。
特に何か匂いがするワケじゃない。新品ではないだろうけど、別に変わったところのない普通の品だった。
もっとも、ただ一カ所だが薄黄色い染みみたいなものがあって……。
「な、おかしいやろ……。朝起きたらそんなになってたんや……」
「は、はぁ……」
これは何の冗談だろう?
もっとも、こんな物を僕の前に差し出した小太郎君本人は、いたって真剣なようで。
「なんやろコレ……。はじめは病気かとも思ったけど、もしかしたら呪いの類かもしれへん。でも俺、こういうのってよく分からんし……」
「いや、これはね……」
「悔しいけど、こんなことネギしか相談できるヤツいないんや……。千草の姉ちゃんがこの間の件の腹いせになんかやってきたんだとしたら、俺じゃなにもでけへんし……」
「あ、あのさぁ……」
「どうしよう……、これマズイ呪いじゃないよな? 俺、死んだりせぇへんよなぁッ?!」
「あー、もう、だからあぁッ!」
僕はブリーフをテーブルに叩きつけた。
ビクンと小太郎君は肩をすくめる。そして、その表情は本当に怯えていて……。
「あ……」
僕は言葉を失ってしまう。
なるほど。小太郎君は専門の陰陽師じゃない。正体は狼男の狗神使いだ。呪術の類はよく分からない領域なのだろう。
確かに、そういう搦め手の魔術は意外と怖い。なにしろ敵が目に見えないのだ。接近戦が専門の小太郎君では対策の取りようがない。
いや、それでもコレはそういったものではないし……。
「あのさ、小太郎君。こういうことって誰かに習わなかったの……?」
「こういうことって……」
「だから……、こういうことだよぉ……」
僕はブリーフを指さしてみる。
だが、小太郎君は、
「? ? ?」
要領を得ない。
「本当に、知らないんだ……」
僕は、なんだか少し放心してしまった。
「な、なんやねん……。なんでそんな顔で俺の顔みるねんッ!」
「いや、この手の知識は魔術の常識だと思っていたからさ……」
そう、性知識と魔術は切っても切り離せないくらい繋がっているものだ。例えば、有名な魔女がほうきで空を飛ぶという伝承は、自慰行為からきた魔法儀式が元ネタになっている。
精液や経血は重要な魔術触媒だし、サバトなどではセックスそのものが重要な悪魔召還のプロセスだ。交接の知識も無しに魔法を使うなんて考えられない。
でも、小太郎君はそんな知識をどうやら欠片も持ち合わせていなかったようだ。僕の言葉に目を白黒させながら、ポカンと口を開けている。
「……そ、そうなのか?」
「うん。東洋にだって確か房中術っていう技術体系があるはずだよ。……そこら辺、誰にも教わってない?」
「……わ、分からん」
そう言うと、彼は肩を落として、ガックリとうつむいてしまった。
「あのな、俺、そういうの誰かに習ったことないねん。狗神は代々継承してるもので、親が死んだから自分のもんになったってだけだしな……」
「……あ」
「呪術協会の方で忍術を教えてくれる人はいたけど、それもそれだけや。札を使うくらいなら出来るけど、自分で陰陽の術を扱うことなんかあらへんもん」
「そっか……」
小太郎君は、そうやって生きてきたんだ。
僕には姉さんがいる。父さんだって、たぶん生きてる。なにより、親切にしてくれたウェールズの人達や、麻帆呂学園のみんながいる。
でも、小太郎君には親代わりの人達がいない。こんな大切なことを教えてくれる人がいない。それは、とても悲しいことだ。
それなら、
「ねえ、小太郎君」
「ん?」
「僕が教えるよ。そういうこと。これでも一応先生だしね。とりあえず基本的なところから始めてみようか」
胸ポケットから一本のステッキを取り出した。
それが、どうしてこういうことになるんだろう。
仮眠用のベッドの上に、小太郎君は裸で腰掛けている。犬の格好になることも多いから、何も着なくても特に恥ずかしいということはないみたいだ。
そして、彼は自分で自分の屹立した陰茎を握り、上下にゆっくりとこすっている。
「はぁ……、はぁ……」
興奮してきているのか、鼻にかかるようなせわしない呼吸が続いている。頬は若干紅くなり、目は半閉じ。黒髪の中から先を出す犬耳が、ときどきピクピクと揺れている。
そして、僕はそんな他人の自慰行為を、目の前で正座しながら見ている。
「なぁ……、これでホンマにパンツについてたヤツが出てくるんか?」
「う、うん……」
僕はどうにも言葉につまってしまう。
とりあえず、僕は基本的な性知識の説明を、小太郎君にほどこした。
おしべとめしべから始まって、精子と卵子の役割、性行為の意味、そしてその方法やら何やらに至るまで。
小太郎君がパンツに出したのは精液で、睡眠時に射精してしまう現象を夢精ということまで教えてあげたのだ。
ところが小太郎君は、
「納得いかへん」
こう言うのである。
「だって、不自然やん。女の股間なんてじっくり見たことないけど、あんな中にチンポ入れるの?」
「入れるんだってばぁ……」
「で、それがすごく気持ち良くって、精液ってのを出しちゃう? ホンマぁ?」
「ホントだってばぁ……ッ!」
……自分で説明してて、自分で恥ずかしくなってしまう。……顔が熱い。
「だから、生き物ってのはこういう風に繁殖してるの……ッ! 植物の受粉や動物の交尾も同じッ!」
「はあぁ……」
こんだけ説明しても、小太郎君はまだ合点がいかないらしい。
「でも、この夢精ってやつはセックスってのとは違うよな。なんや、精液って勝手に漏れることもあるの?」
「うーん。あんまり勝手にはないと思うけどぉ……」
どうにも説明するのが難しい。
そもそも、僕だって実際の性体験は無い。というか、精通だってまだなのだ。知識の上では充分に分かっているつもりけど、実際に試したことはないし、試すこともできない。
それでもどうにか答えを返す。
「まあ……、精液を出すだけならセックスなんてしなくても、自慰行為で射精には至るはずだよ……。たぶん」
「へえぇ……」
小太郎君はアゴをこする。
「で、ネギはやったことあんの? それ」
「……えッ? な、ないけど」
だってまだ、精子が出ないんだってば。
「ふーん……。よしっ。じゃあ、いっちょやってみよか」
「な、なにを!?」
「だから、それだよ。確かオナニーとか言ってたっけ、それそれ。一回試してみれば、理解もしやすいだろうしな」
そう言うと、小太郎君はおもむろにズボンを下ろし始めたのだった。
そして、僕はいま、小太郎君の自慰をこうして見ているわけだが……。
(なんか、イヤらしい……)
思わず息を呑んでしまう。
相手は同性、しかも友達だ。それなのに、局部を自らの手でこすり上げながら、大きく喘いでいる小太郎君が、なんだかとても僕の心をざわつかせる。
先端まで皮をかぶったまだまだ幼い陰茎だが、精一杯その存在を主張するかのように勃起していて、血管の編み目を薄く浮かび上がらせている。
細い指で張りつめた肉筒を上下させれば、クニクニと包皮が波立ち、合わせてお尻の筋肉が痙攣する。
「うあぁ……、な、なんやこれぇ……。なんか、変な感じぃ……」
ベッドに置いた左手にも、自然と力が入っていく。指先が少しずつ食い込んで、シーツに放射線状のシワが形作られていく。
「く……、くうぅん……」
ギュッと目をつぶりながら、小太郎君は喉を鳴らす。まるでアゴ下をくすぐられた小犬のようだ。
まだ、ペニスに添えられた手の動きはちょっとぎこちない。少しの快感でおっかなびっくりストップし、手探りで法悦のツボを探していく。
唾液が上手く飲み込めないのか、口の端からはヨダレが一筋流れ始めている。額にはうっすらと汗が浮かび上がり、ホッペなんか真っ赤っかだ。
「小太郎君……、そんなに気持ちいいの?」
僕は好奇心が押さえきれず、つい尋ねてしまった。
「ふあ……。よ、よくわからんよぉ……」
小太郎君は切れ切れの声で応える。
「なんかな……、お尻から変なのがゾワゾワと上がってくる感じや……。体の中で気が波立って……、疼く……」
「はあぁ……」
僕は思わず身を乗り出して、小太郎君の股間を凝視してしまう。
握られた男性器の下、二個の柔球を含んだ袋がタプタプとその形を歪ませながらジャンプしている。
さらにその奥、肉の谷間には小さな窄まりが息づいている。荒れる呼吸に合わせて収縮し、まるで今の切ない感覚を訴えかけているかのようだ。
「なに、そんな見てんねん……。は、恥ずかしいやん……」
「ご、ごめんなさいッ!」
僕はパッと身を引いて、正座の姿勢を正してしまう。
「うーッ……」
小太郎君は少し涙目になって僕を睨み、小さく唸る。
「……いや、小太郎君、恥ずかしかったんだ」
「あー……、なんかな。裸になること自体はそれほどでもないんやけど、なんか、今はいけないことをやってる感じや……」
確かに、いけないことをしているんだろう。普通は人に見せるようなことじゃない。そんな背徳感を、小太郎君は本能で感じ取ったようだった。
そして、そんな小太郎君を見ている僕も、なんだかとても恥ずかしくなってきてしまった。
「う、うぅ……」
心臓がドンドンと僕の体を内側から叩く。首筋は汗が滲み始め、顔が火照っている。それでも、目は小太郎君から外すことができず、吐息が熱をはらんでいく。
(僕たち、なにしてるんだろう……)
友達が、目の前でオナニーしている。
僕は、その様子を正座しながら眺めていて。
二人で、何がなんだかわからなくなるくらい興奮して……。
「ん……、んんッ!」
いよいよ快感に耐えきれなくなったのか、小太郎君が体をひねりながら呻きを上げる。
無意識にしてることなのか、足の先がピンと伸び、指がせわしなく床を掻き始めている。尻尾もパタパタと動きだし、きたる絶頂の予感を僕に教える。
「あ……ッ! やぁ……ッ! な、なにこれ……ッ!」
背筋が逆海老に反り返っていく。首まで上を向き、小太郎君は虚空を見上げる。
焦点の合わない視線には、はたして何が映っているのか。涙はついに端からこぼれ、一筋の跡を頬に残していく。
突き出された舌が、溢れる唾液で濡れている。酸素の供給が追いつかないのか、ハァハァと激しい息がその速度を上げていく。
「ふ……、ふぐぅ……ッ!」
グッとペニスが握られる。力の入りすぎで窪みの出来たお尻が、さらに締まる。
「うううぅッ!」
肩がすぼまり、眉間にシワがよる。
牙が剥かれ、歯ぎしりがなる。
「こ、小太郎君……ッ!」
僕はもう釘付けだ。
手はズボンの端を千切ってしまいそうなくらいに握りしめている。背筋がブルブルと震え、目はこれから起こることをちょっとでも見逃すまいとしっかり見開かれている。
(小太郎君がイく……ッ! 射精するッ!)
固唾を飲む。喉が隆起する。同時に汗が首筋を垂れる。
小太郎君の手がいよいよその速度を上げる。
「あッ! あッ! ああッ!」
歌うような悲鳴がロッジに響く。ここは小さな瓶の中だが、外に漏れ出しかねない甲高い嬌声だ。
ブルッと、大きく小太郎君が震える。全身が総毛立ち、足の爪先がギュッと丸まる。
そして、ついに……ッ!
「あ……ッ! あふ……ッ!」
ついにッ!
「あ、あう……ッ! う……、うぅ……」
って、あれ?
「……う、うーん。……うぅ」
「ど、どうしたの?」
そのまましばらく小太郎君はおちんちんをこすり続けていたが、やがて手がだるくなってきたのか、その動きを止めてしまった。
「あ、ありゃぁ……、変やなぁ……」
「って、どうしたの小太郎君? なんで止めちゃうの?」
小太郎君も、どうにも得心のいかない顔をしながら天井を見上げている。
「……なんか、出てこない」
「え?」
「いや、気持ちいいのはよく分かったんだけど、なーんか最後までイかれへんねん……。変やなぁ……」
………………。
「えーッ?!」
小太郎君はまだ勃起したままのペニスをツンツンといじっている。一方、僕も腕組みをしながら考え込んでしまっている。
僕たちは、どうにも納得いっていない。
あれからしばらく小太郎君はオナニーは続けてみた。その様子から見て、あきらかに性的な快感は受けているようだった。
だが、どうしても射精まで至らない。何が原因なのか、小太郎君は最後の最後で快感曲線にブレーキがかかってしまっているかのようだった。
「いや、ホンマにチンコいじったら気持ちいいってのは理解できたんやで。このまま続けたらさっき言ってたみたいなことも多分出来る。……でも、どうしても最後の一線が越えられへんねん」
「僕の前だから我慢してるとかじゃなくって?」
「そんな遠慮はしてなかったと思うけどな……」
ついには小太郎君も腕を組んで考え始める。
「うーん……、なんか拳銃の引き金に指はかかってるけど、どうにもそれが重くて動かせない感じっていうかな……。とにかくモヤモヤすんねん」
「あ、モヤモヤはするんだ」
「ああ、なんかホンマ嫌な感じや。もっと気持ち良くなる予感はあるんやけどな。うー、イライラするーッ!」
バリバリと髪の毛を掻く小太郎君。
そして、僕もなけなしの知識を総動員して原因を考える。でも、いくら頭をひねったところで特に名案が思いつくはずもない。
(そもそも、僕だってやったことがあるわけじゃないしなぁ……)
経験があればそれをもとに教えてあげることもできるんだろうけど、精通さえしてない僕にはどうしようもないことだ。
それでも、せめてウェールズで先輩とかに聞いたことを思い出してみる。
「あのさ、夢精したときどんな夢みてたかとかは覚えてる?」
「ん? んーっ。……どんなだったっけ」
小太郎君は小首をかしげて考える。……だが、
「あーっ、分からん。……夢の内容なんて起きたら忘れてまうわ」
「そりゃそっか……」
残念。それが分かれば夢に出てきた人を思い出しながらオナニーして貰えたのに。そうすれば、さっきよりはずっと快感が得やすくなるはずだ。
僕はてっきり小太郎君の夢に出てきたのは那波さんかと思っていたのだが……。まあ、思い出せないなら仕方ない。
んー、じゃあこういうのはどうだろう。
「小太郎君、……ちょっと手をだしてもらえないかな」
「手? 手って、こういうことか?」
小太郎君は両の手をヒョイと僕の前にさしだした。少し尖った爪が指先からはみ出している。
僕はその手の平を指で軽く撫で、口内で呪文を紡いだ。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル、護りの風、気圧に震えよ……」
呪文によって魔力が魔法に変換され、僕の指から蛍火のような光が瞬く。そして、それは小太郎君の手にゆっくりと吸い込まれていく。
「よしと。……たぶん成功」
「ネギ、今のは?」
「うん。すぐに効いてくると思うよ。ちょっと手に力を入れてみて」
「ちから?」
小太郎君は、僕に言われた通り手を僅かに力ませた。腕に筋肉が浮かび上がり、軽く拳が握られる。
そして次の瞬間、
ブブブブブブブブブブブブ……ッ!
「うわッ! なんやこれ?」
筋繊維を走る異質な感覚に、小太郎君は思わずおののいて、ベッドの上をあとざすった。
「教えて貰った魔法をかけたんだ。セックスする時にこういう風にすると気持ちいいんだって。たぶん、オナニーでも同じだよ」
「なんか、勝手に震えたでッ!?」
「いや、勝手じゃないよ。筋肉の弛緩によって振動の強弱がつくんだ。気の流れに若干のブレを生じさせる魔法らしいけど……」
そう、これはウェールズでおませなアーニャに教えて貰った魔法だ。彼女も誰か先輩に教わったらしい。いつかこういうのも使う日が来るだろうって。
性感帯を愛撫する時、若干のバイブレーションが加わっていた方がより強く刺激を感じられるという。これはその為の補助魔法だ。
「それでおちんちん弄れば、さっきより気持ちよくなれると思うんだ。そうすれば射精もできると思う……」
「……ほ、ホンマぁ?」
小太郎君は半信半疑の表情を浮かべながらも、ゆっくりと震える指を自らのペニスに近づけた。そして、丁寧に指の一本一本を勃起した陰茎に絡めていく。
そして、手に力をかける……ッ!
ブルッ! ブブブブブブブブブブブブウウウゥ……ッ!!
「……ッ?!」
突然沸き起こった快感のパルスに、小太郎君の体は大きく震えた。
「あ、ああッ! なにこれ……ッ! さっきのと、全然違う……ッ! や、やあッ! あああぁッ!」
小太郎君は、ベッドの上で全身を縮ませながら、肩を小刻みに震わせている。強すぎる快感に大きく戸惑いながらも、自慰行為の味を知ってしまった男性器から手を離せない。
落ち着いてきていた呼吸が、再び大きく乱れていく。体が熱くなってきているのか、体はうっすらと汗ばみ始め、肌が桜色に染まっていく。
「ふ……ッ! く……うぅああああぁぁッ!」
驚きに見開かれていた瞳は、快感の潮が体に満ちてくるにつれウットリと閉じられていく。目尻から涙が玉になって溢れ、シーツに落下する。
まるで電気が流れているかのように腰が痙攣している。握られてペニスからは先走りがオシッコでも漏れているかのようにピュッピュと吹き出す。
「やああぁッ……、これ凄いぃ……ッ! ひッ! き、気持ちええッ! 気持ちええよおぉッ!」
ギュンッと、小太郎君の背中が発作的に反り返る。
「あ……、や……ッ! やあぁッ!」
そのまま、小太郎君は身をよじりながらベッドに倒れ込む。
存分に勃起した陰茎を強く強く握りしめながら、クッションの上で悶え狂う人狼の少年だ。内股をこすり合わせ、足の爪でシーツを掻き、額を枕に押しつけて、髪を振り乱す。
「……す、すごい」
僕は固唾を呑んで、この光景を見守る。
先程までの自慰行為とはまた違う、痴態と言ってもいいほどの小太郎君の乱れようだった。
僕の息も自然と熱くなっていく。あまりに激しい快感の波動が伝達し、ズボンの中の陰茎までもが少しずつ硬度を増していく。
ズキズキとパンツの中でおちんちんが脈打つ。しかし、僕にはそれを押さえる手段がない。
小太郎君はついに片手では足りなくなったのか、二本の手で自分の股間をまさぐり始めている。倍に増えた振動量はさらに強烈な快感を引き起こし、小太郎君の脳を揺さぶる。
「ひゃああッ! うあッ! はッ! はあああああぁッ!」
背筋が強く反り上がり、小太郎君はまるでブリッジでもしているかのように腰を浮かせていく。
天井に陰茎の先端を向け、必死になって両手でこすり上げれば、振動は全身に伝わり、小太郎君は危険な熱病にでも冒されたかのように体をわななかせる。
引き締まった筋肉に、浮かんだ汗が流れ始める。
その様はさながら、圧倒的な快感の質量に押しつぶされるのを必死に耐えているかのだ。いったい、小太郎君はどのくらい感じてしまっているのだろう。
「ふわああぁ……、きもちええ……、きもちええのおおぉッ! も、もうダメッ! いやッ! やッ! やああああああぁッ!」
小太郎君は僕が目の前にいることも忘れているかのように声を張り上げて喘いでいる。あまりに艶っぽい叫びが、ロッジの壁さえ揺らすかのようだ。
僕もたまらずに股間を両手で押さえつける。悦楽の細波が、果汁があふれ出すように下腹部からこみ上げてくる。
(ああぁ……、僕も、なんかすごいことになっちゃってる……ッ!)
小太郎君の手も、まるでラストスパートをかけるように速くなっている。右手は陰茎を徹底的にこすり、そして左手はさらにその先に伸びている。
陰嚢の下、会陰部の僅かなふくらみに小太郎君の左手が触れる。
力を込めると、裏筋に強烈なバイブレーションが発声する。
「ひぎいいいいいぃぃッ!」
そこを、撫でる。そして、押す。小太郎君は動物的な本能からか、自分の性感帯を自分の手で探し当てている。
もうここには、快楽の海に溺れた一匹の獣がいるだけだ。
「あああああッ! あッ! 来るッ! 来てまうッ! ……す、すごいの……来るううぅぅッ!」
少年のアーチは、今にも崩れてしまいそうにガクガクと揺れている。
いよいよ限界だ。一際強い痙攣のの直後、小太郎君は天を刺すように腰を大きく突き上げる。
お尻の急激に内に締まり、足が伸びきる。そして、最後の咆吼が……、
「ひやああああああああああぁぁッッ!!」
ビュルウウウウウゥゥゥッ! ドビュルウウウゥゥッ! ビュルウウゥッ! ビュルッ! ビュウウゥッ! ビュッ!
魂を掴まれたかのような叫びと共に、小太郎君は達した。
栓が外れたかのように、乳白色の粘液が真上に噴き上がった。
まるで噴水……。あまりにも大量の一撃、そしてさらに高さを増した二撃が小太郎君のペニスから穿たれる。
バシャバシャと落下する白濁は小太郎君のお腹を、そしてベッドを汚していく。
雫が跳ね上がり、一部は僕の顔にまでピシャリとかかる。
(あ、熱い……)
それは、肌が爛れてしまいそうなとんでもない熱量だった。僕は身を震わせて、沸き上がってくる性衝動に心が浮かされた。
「あ……あぁ……、ひやああぁ……」
精通管を流れる精液の感覚に酔いながら、小太郎君が脱力した。腰がベッドに落ち、ようやく精子の噴出が止む。
それでも快感の波が引かないのか、小太郎君は放心しながら焦点の合わない視線を天井に向けている。
今だ魔法の解けない指は、低い振動を続けている……。
(後編に続きます)
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