『ドッグスタイル』

「いいことッ、あなたなんか奴隷なんだからッ!」
 その少女は、初対面の僕に向かってはっきり言い切った。
「ううん、そんなもんじゃないんだからッ! 犬よ、飼い犬……。あなたなんか私のペットなんだからあぁッ!」
 紹介された時の話では、彼女は僕の一つ上。つまりたかだか十歳ということになる。
 それでこの態度……。つまり、ココは『そういうところ』なんだと、僕はいきなり思い知らされてしまった。
「は……、はい」
 恍惚の表情で、僕は彼女を見つめる。
 射抜かれそうなほど力強い瞳に、引き締まった眉。豪奢なドレスに、とても華奢な肢体。そして、流れるような美しい黒髪。
 僕より身長は若干低いハズなのに、なぜか頭一個くらい大きく見える。
(これが、貴族の血か……)
 おおよそ現代の日本とは思えない言葉だが、それが僕の実感だった。
 こんな遺伝子の半分でも僕に入っているとは、とうてい信じられなかった。



 ――二年後。

「先日の結果、返ってきました」
 家庭教師が薄いプリントを机の上に置く。
「流石ですね、貴一クン。もう何も言うことありません……」
 それは業者の行った全国一斉テストの結果だった。上には確かに『ナツカワキイチ』と僕の名前が印刷されていた。
 科目ごとの結果を表す棒グラフは、全て限界まで伸びきっている。つまり、満点というコトだ。
 全国一位……。
「でも、僕以外にも3人満点がいるようですしね……。やっぱ怖いですよ」
「……貴一クンなら、大丈夫です」
 先生は少し困ったような顔で僕を励ます。それでも、僕の不安は解消されない。
 どんなに良い点数をとったって、どんなに他人に褒められたって、この家にいる限り、僕に心休まる日などないのだろう。
 この順位が10位以下にでもなったりしたら、おそらくこの家から叩き出されるのだろうから。
「貴一クン……」
 僕の心中を察したのか、先生は顔をのぞき込みながら、そっと耳元で囁く。
「いっそ……、自分から出てしまってもいいのではないですか? キミならどんな世界でも生きていけます。もっと自分を活かせる世界を探しても……」
「先生……」
 僕は先生の言葉を遮る。
「ここは日本経済の頂点、夏川財閥ですよ。その後継者候補の地位を捨てるなんて、出来るはずないじゃないですか。……それとも、誰かに頼まれました?」
「いや……」
 先生は僕から顔を離し、教壇の前に置いた自分の荷物をまとめる。
 丸まった背中が、少し悲しい。
(すいません、先生……)
 これでも、僕は幼い頃から人の顔色をうかがって生きてきた人間だ。この人が善意から僕に言葉をかけていることくらい分かっている。でも、だからこそこういう言い方をしなければいけない。
 どんな理由であれ、僕はこの家を離れるわけにはいかないのだから。
 学習室から見る中庭、そこは二年前までいた施設の敷地よりよっぽど広い。彫刻のように刈り込まれた植木の波に、静かな音を立てて流れる噴水……。使用人が二人ほど、箒で落ち葉を掃除している。
 もうすぐ日も落ちる。柑子色に染まった秋の空、遠くに鱗雲が見える。
「ふう……」
 僕も手持ちの荷物をまとめ、自室に戻る準備をする。今日はこれで習い事も終了だ。明日の予習もしなければならないだろう。
 ……その時、
 コン、コン、……コン。
 独特のリズムでドアがノックされる。
「失礼します」
「遥さま……ッ!?」
「……姉様」
 入ってきたのは一つ年上の姉、遥だった。
 ロングスカートに薄紅のカーディガン。手にはトートバッグが握られ、中からは冷ややかな金属音が小さく鳴っている。
「勉強は、もう終わっているのでしょう?」
 姉様の物腰は柔らかく、上品だ。身に付いた気品がオーラになって滲み出ている感じさえする。
 夏川家直系の登場に、先生はもの凄く緊張している。先程、不穏な発言をしたばかりだし、心臓は飛び出さんばかりだろう。
「は、はい……。それでは今日はここまでです。貴一クン、ではまた来週……」
 先生は閉じかけた扉に手を伸ばし、そそくさと退室してしまう。
「さようなら、先生」
 僕の挨拶は聞こえただろうか。……まったく、僕の心配をしてくれるくらいなら、これから起きることくらい想像して欲しい。
 僕は頭の中のスイッチを切り替える。
「ご主人様……。どうして、わざわざ西館まで……」
「あちらで、あなたのテストの結果を見ました」
 姉様の声から、体温が消えている。
「偉いわね。……本当に」
「あ、ありがとうございます……」
 ここで、間違っても謝ってはいけない。そんなことをしたら姉様は機嫌をますます損ねる。
「さあ……つけなさい」
 姉様はトートバッグから犬の首輪を取り出す。赤い皮でできたベルトに、伸びた鎖。金属のエンブレムには『KI-CHI』と僕の名前が刻印されている。
「はい」
 僕は首輪を確かに受け取り、金具を外す。慣れた手つきで首に回し、正面で留める。
 エンブレムが夕日を反射し、ホワイトボードに光を落とす。
「わん……」
 僕は一匹の犬になる。



「あなた、そんなに夏川の家が欲しいの?」
 姉様が机に腰掛け、足を持ち上げる。そして組まれた右足の靴下に手を伸ばし、丸めるように脱いでいく。
 僕はその光景を、床に手をついて見上げている。窓からの光を背中に受ける姉様はとても神々しく、いつのまにか心を奪われている。
「妾腹が頑張っちゃって……、このまま父様の出す課題を全部こなすつもり?」
 もちろんそのつもりだ。僕はどんな条件を出されようと、それを全てクリアしていくだろう。
 しかし、そんな思いをここで伝えるわけにはいかない。
「……犬のくせに」
 姉様の右足が僕の目の前に降りてくる。細い指が波打つように上下し、手入れされた爪先が光る。
「舐めて……」
「……わん」
 僕は浅ましく舌を伸ばし、姉様の足の指を口に含む。
 クチュ……、チュッ……ピチャ……。
 淫靡な水音が狭い学習室のに響く。僕は四つん這いのまま、首を回して姉様の足をこぞり上げる。
 小さな小指を甘噛みし、そのまま舌を丸く回す。二本の指を口に含み、指の間を8の字に舐める。
「うん……ッ」
 姉様が小さく呻く。くすぐったそうに肩を窄め、自分の指を軽く噛む。
(感じてる……)
 足の指というのはとても敏感な性感帯らしい。僕はそれを知ってから、なおさら丁寧に姉様の足を舐めるようになった。
 中指を唇で挟み、ズズッと音を立てて吸い上げる。人差し指を洗うように舐め回し、爪の隙間まで舌を差し込む。
 濃厚な汗の味が唾液に溶け、口内に広がる。香り立つ足先に脳が揺れる。
(美味しい……)
 僕は親指を口に含み、そのまま頭を前後に動かす。舌を絡ませながらすすり上げ、丹念に足先への愛撫を繰り返す。
 ズボンの中はズキズキ痛む。僕のペニスは倒錯的な奉仕でいきり立ち、ビクビクと痙攣している。
「ふ……ふぶ……ッ、う、うぅ……」
 僕は思わず太ももをこすり合わせる。切ない疼きが下腹部から広がり、足先がソワソワと動く。手はフローリングの床を掻き、掌が汗ばむ。
 姉様の足をしゃぶり続けているだけで、僕はこんなに興奮している。呼吸が千々に乱れ、唾液も雫になってポタポタと垂れていく。
「貴一……」
 突然、姉様が器用に指を動かす。
「ふ……ッ?」
 ギリリ……ッ!
「ひ、ひぎッ!」
 姉様の細い指先は僕の舌を挟む。地獄の刑罰のように強く引っぱられ、僕は思わず悲鳴を上げる。
「貴一……、あなたなんで腰が揺れてるのよ」
「は……はが……」
 刺さるような舌への痛みに、僕は涙をにじませる。
 ……なんて間の抜けた格好、床を這いながら足で舌をつねられ、あげくにモゾモゾ腰を動かしているなんて。
「なによ……、あなた発情してるの?」
 姉様の鋭利な声が僕の胸に刺さる。
「犬が主人の足を舐めて、あげくにおちんちんを勃てるなんて……。あなた、ちょっとおかしいんじゃないの?」
「はぁ……、はぁ……」
 僕は舌を突き出しながら不規則に息を吐き出す。これじゃあ、本当に犬そのものだ。
「変態……ッ」
 姉様は左足を上げ、そのまま僕の頭を蹴る。
 ドンッ!
「ぎッ!!」
 僕は口を押さえて床に倒れ込む。勢いで頭を床に打ちつけ、鈍痛が走る。
 痛みに苦しむ僕を、姉様は机の上から罵倒する。
「変態ッ! 変態ッ! 変態ッ! あなた仮にも夏川の人間でしょう? それがこの浅ましさ……、信じられないッ!」
 それは憤怒と悦楽の入り交じった複雑な声色だった。歪んだ口元は笑っているのか怒っているのかさえよく分からない。
(姉様……)
 僕は姉の中に渦巻く暗い感情を確かに見る。
「いいわ。こんな駄犬は私がしっかりしつけてあげる」
 姉様は机を降り、転がる僕の足下に立つ。軽蔑の冷たい眼差しに僕は背をすくませる。
「足を広げなさい」
「う……うぅ……ッ」
 僕は姉様の方に足を向け、ゆっくりと股を開く。太ももが左右に広がるにつれ、股間の張りつめた中央部があらわになっていく。
「なによこれ……、恥ずかしい」
 姉様は足を上げ、ズボンにテントを張ったペニスへと寄せる。
 グッと踏まれると、痛みと快感が一緒に全身へと広がる。錯綜する奇妙な感覚に、僕は思わずうめき声を上げる。
「ふうッ……ッ」
 反射的に腿が内へと閉じる。しかし、
「足を広げなさいと、言いましたよ……」
 動きを制する姉様の凛とした声。僕はそれ以上動くことも出来ず、全身を硬直させる。
 そして、羞恥心と戦いながらゆっくりと足を開いていく。頭がのぼせ上がり、理性が霞に消えていく。
 恥ずかしい……。恥ずかしいのに、それが死ぬほど気持ちいいッ!
「あ……あぁ……」
 切なげな吐息が出てしまう。蜜がジワッと染み出るような悦楽。顔は紅潮し、息に合わせてお腹が上下する。
「犬……ッ」
 姉様の足に力が入る。土踏まずでちょうど竿部を抑えつけられ、そのまま海綿体を潰される。
「ひッ……! ひいッ!」
 僕の断続的な鋭い悲鳴が部屋の壁にこだまする。姉様の柔らかい足が僕のペニスにジワジワと食い込んでくる。
 目を閉じれば涙が端で玉になり、ポロリと頬を滑る。
 ギッ……ギギッ!
 足にひねりを入れられる。ツイストする足首は勃起肉をねじ曲げ、そのまま切り取るかのような負荷を下腹部へ与える。
「ひッ、ひがぁッ! ご、ご主人さ……ま……ッ!」
「犬が喋るなッ!」
 ギュグウウウゥッ!
「ぎいぃッ!」
 更に足へと体重がのせられ、圧倒的な重量が僕のペニスただ一点にかかる。
(つ、潰れる……ッ! 潰されちゃうッ!)
 命の危機さえ感じ圧迫感。僕はシャツの襟元を両手で掴みながら、歯を食いしばる。走る激痛に顔が歪み、全身が固まる。
「……ふん」
 姉様はようやく拷問に飽きたのか、足から力を緩める。
 合わせて、下腹部にドクドクと血が巡っていく。広がっていく開放感に細胞が安堵し、甘い感覚が肉茎を伝う。
 しかし、そんな感悦も一瞬だった。
「貴一、そのまま両足を高く上げなさい」
 姉様が無慈悲な命令を僕に下す。最悪の重刑……。僕はこの宣告に恐怖し、背筋を震わす。
 だが、ここにいるのは一匹の犬だ。主人には絶対に逆らえない。
 僕はゆっくりと足を浮かす。バランスを崩しそうなほど上がったところで、姉様が足首を掴む。
 股間にのせた足を改めて動かし、狙いを定めるように会陰へと押し当てる。鼓動のリズムで揺れる僕のペニスに、新たな律動が重ねられる。
「あ……あう…………」
「何を期待してるの……? これは罰なのよ。あなたを徹底的に苦しめるための……」
 分かってる。これから始まる体罰は僕を徹底的に苦しめ、理性を粉々に砕くだろう。姉様の繊細な足先はまさに魔性の指だ。今日はどこまで狂わされるのか想像もつかない。
 ……それでも、僕は彼女を望む。
(姉様……、姉様……ッ!)
 僕は胸の前で腕を交差させ、シャツの肩を掴む。
「いいようね……。じゃあいくわよ」
 一瞬、姉様の足が軽くなる。そして……、
 ブブブブブブブブブブルウッ! ブルッ! ブルブルブルブルブルブルブルウウゥッ!
「ひぎいぃッ!」
 強烈な振動が股間を襲う。柔らかな足裏が波を打ちながら会陰を蹴り、止まることなくズボンの中の陰嚢を震わす。
 体の芯に伝わるバイブレーションは僕の頭まで揺らす勢いだ。僕は肩を握る手に力を込め、衝撃に耐える。
 食いしばっている歯が、いつのまにかカタカタ鳴りだしている。アゴに上手く力が入らない。呼吸が切れ切れになり、うなじに鳥肌が立つ。
「ひ……、ひッ…………」
 くすぐったいを一気に越えてしまった、理性を削るむず痒さ。下腹部を何かが這っているかのような不快感だ。そんな感覚が渦巻くように体内を巡り、僕の脳を責めさいなむ。
 体が勝手にねじれていく。背筋につりそうなくらい力が入り、頭がフローリングにこすれる。
 全身が跳ねるように暴れる。しかし、両足を掴まれた状態では、たやすく体勢を元に戻されてしまう。姉様の振動は延々と止まらない。
「ふふ……、いつも思うんだけど、そんなに苦しいの? バカみたいな顔しちゃってさぁ……」
 姉様は容赦なく足首を曲げ、かかる力を強めていく。さらに体重が増やされ、僕の腰もガクンと一段下がる。
「ひゃ……ああ……ッ! あああぁッ!」
 しっかりと結ばれていた口が、堪えきれない痛痒にだんだんと開いていく。
 ブルウウウッ! ブルッ! ブルッ! ブルブルブルブルブルウウゥッ!
 下半身の感覚が失われていく。あるのは鉛のように重い質量と、それが揺れているという事実。……そして、だんだんとこみ上げてくる何かだ。
 上半身が勝手にねじれる。苦痛への防御反応で、右へ左へと出鱈目に揺れる。僕は髪を振り乱しながら、顔を大きく歪める。
 涙の向こうに見える部屋は、夕日を光で真っ赤に染め上げられている。長く伸びた机の影、光の筋の中にチラチラと舞うホコリ。
 そして、姉様が圧倒的な高さから僕を見下ろしている。その顔はあまりに遠く、表情を伺うことも出来ないけれど……きっと笑っている。
(姉様が……僕を見て笑っている……ッ)
「や……いやぁ……ッ。や、やだあぁ……」
 ついに嗚咽が漏れだす。涙が堰を切り、頬にダラダラと流れ始める。頭を振れば雫が飛び散り、床に跳ねる。
「まったく……」
 姉様の溜め息……。
「……あなたは犬でしょッ! だったら犬らしく鳴いたらどうなのよッ!」
 ギギイイイィッ!!
 片足に姉様の全体重がかけられ、タバコを揉み消すように強くひねられる。全身を激痛が貫く。
「ぎ……、ぎいぃッ! ひぎいいぃッ!」
「何をしてるのよッ! ほら、鳴きなさいッ! 鳴きなさいよッ!」
 ヒステリックなわめき声が耳をつんざく。その言葉は強制的な命令コードだ。僕は条件反射的に指示を受け入れる。
「……わ、わんッ! わんッ!」
 僕は声を震わせて啼く。
「わんッ……、わんッわんッわんッ! わ、わん……ッ! わんッ!」
「ははッ……、はははッ! あははははははッ!」
 僕の鳴き声に心が弾むのか、振動の周波数が上がっていく。呼吸さえ止めかねない股間の痛みに、僕は全身を震わせながら絶叫する。
「わんッ! わんッ! わん……ッ! わ、うわあぁッ! あッ! ああああぁッ!」
「あはははははッ! はッ! ……ははははははッ!」
 僕たちは狂っている。
 プライドどころか人としての尊厳さえ失われた僕の叫び声。こんなところを誰かに見られたら、僕は破滅するだろう。この館の全室が防音だからといって、少しでもモノを考えられる人間がすることじゃない。
 それは姉様だって同じだ。夏川家ただ一人の直系の血筋、日本最高のハイソサエティーが、弟を足蹴にしながら高笑いを上げている。
 とても許される行為じゃない。……それでも、
「わうぅ……ッ! うッ! わうううぅぅッ!」
 僕は本能的に足を払いのけようと動く手を、必死に理性で制する。皮膚ごと破れんばかりに肩に爪を立て、ギリギリと首をよじる。
「あはは、犬らしくなってきたじゃない……ッ! ほら、もっとよッ! もっとッ! もっとッ!」
「はひッ……! わ、わ、わうぅ……ッ! わ、わんッ! ……あ、……あぐううぅッ!」
 もうダメだ。犬の鳴き真似さえまともにできない。喉が灼けたように引きつり、呼吸がままならない
 バチバチと頭の中がスパークする。脳内の血管が切れるような錯覚……。
 壊れる……。僕、壊れる!
「あははははッ! 限界なんだッ! もう……もうイっちゃうんだッ!」
「わ……わあぁッ! わうぅッ! わうぅッ!」
 僕は必死になって首を縦に振る。僕は姉様に最後の一撃を渇望する。
「ダメよ、まだお預け……。私がいいというまで、イっちゃダメッ」
 ドッ! ドガアアァッ! ガガガガガガガガガガガガガガッ!
「あぐううううぅッ!」
 キック、キック、キック! 姉様のカカトが僕の股間を容赦なく蹴る。
 一つ一つが前立腺を穿つ痛撃だ。体の芯が燃えるように熱くなり、全身にいやな汗が浮き出てくる。体中の毛が逆立ってしまいそうな悪寒。脊髄の震えが止まらない。
「ふ……ッ! ふ……ッ! ふぐうぅ……ッ!」
 体の奥から熱いとろみが登ってくる。煮溶けた雫がペニスの先から噴き出し、ブリーフに染みを作るのを感じる。
 もう、いくら頑張ったって無駄だ。……止められない。……耐えられないッ!
 苦痛の先にある法悦の光を、僕はもう遮れないッ!
「ひッ! ひうぅッ! ううううぅッ!」
「ダメよ……、まだ……、まだ……」
「うぐううッ! ぎう……ッ! ひいぃッ!」
 僕は頭でブリッジするように全身を反らす。もう、なにも考えられない。分からない。
 出したいッ! 出したいッ! 出したいッ!
「いいわ、じゃあ……」
 そして姉様は足を大きく上に持ち上げ、
 ドゴオオォッ!
 僕にトドメの楔を打ち込む。
「ひぃッ! ひッ、……ひああああぁッ!!」
 ドビュルウウウウゥッ! ビュルウウゥッ! ビュルッ! ビュルウウゥッ! ドビュッ! ビュッ! ビュルルウゥッ!
 僕は達した。最後に発したのは、まさに獣のような咆吼だった。
 まるでダムの決壊のような射精……。大量の白濁液がズボンにぶちまけられ、ブリーフの中が一気に滑りを帯びる。
 そのまま射精は止まらない。ズボンから溢れた精液はシャツの裾さえ濡らし始める。
 熱い……。もう下半身にあるのは痺れのみで、そこに物質があるようにさえ感じられない。だが、ただひたすらに熱い。
「あ……あう…………、あう…………」
 僕は打ち上げられた魚のように口をパクパクと開閉させ、絶頂の余韻に震える。
 手も足も感覚がない。ただ、全身がビクビク痺れ、気持ちいい……。
(ひ……、イくの止まらない……。死ぬ……、死んじゃうぅ……)
 魂が溶ける。僕はこのまま消えて無くなってしまう。
「はは……、ははは……、あはははははは……ッ」
 遠くに響く、姉様の声……。
(姉様……、ねえさまぁ……)
 このまま僕が死んでしまっても、姉様はそれを笑うのだろうか。……薄れていく意識の中で、そんなことを考えてしまった。



 姉様が僕の首輪を外す。
 僕が犬の間はいくらでも理不尽な命令をする彼女も、この行為だけは自分で行う。まるで、それが主人の勤めだというように。
「……痕には、なってないわね」
「はい……」
 僕は力無く答える。
「まだ、立てないの……?」
「すい……ません」
 今、僕は体がまったく動かせない。手や足は筋か切れたかのように力が入らず、腰には一切の感覚がない。全身がフワフワと宙に浮いてる心地だ。
 姉様は壁にもたれる僕のとなりに座る。柔らかい髪が頬をかすめ、リンスの香りが鼻まで届く。
 すでに日は彼方へと傾いている。黒と橙が掻き回されたような空の色、すぐに夜の帳も降りてくるだろう。
「夕御飯までには回復しなさい。そうしないと、お互いやばいんだから……」
 とても無茶な命令……。でも、僕は素直に従うしかない。
「はい。分かりました……」
 僕はカクンと頭を下げる。しかし、そこで気は遠くなり、動きが止まる。僕は頭を上げることが出来ない。
「ちょ、ちょっと……ッ」
 姉様は慌てて僕の顔をのぞき込む。光のない瞳を確認すると、僕の頬を持ち、自分の方へ引き寄せる。
「しっかりしてよッ! あなた、夏川を継ぐ人間なんでしょ……ッ! なんで、このくらいでッ!」
 どうやらこの人には、自分のしている行為がどのくらい男子にダメージを与えるか、理解が及んでいないようだ。まあ、想像なんてつかないと思うけど……。
 それでも、僕は至近距離に姉様の顔があることが嬉しい。
 姉様は、なにやらとても困った顔をしている。眉間にシワがより、顔色も少し青ざめているようだ。
 珍しいな……、姉様が人にこんな表情を見せるなんて。
「姉様……、すいません。もう、大丈夫ですから……。だから、そんな顔……しないで……」
「……ふん」
 姉様が僕から目を反らす。そして、そっと僕の頭を肩にのせる。
 たった二人の学習室、僕はだらしなく姉様によりかかり、姉様がそんな僕の背中を撫でている。
「あのさ……、あなたは何がしたいの?」
「え……?」
「あなたはなんでこの家にいるのかってコトよ。だって、辛いでしょ。毎日、勉強を強制されて、友達にも会えなくて、……私に、こんな虐められて」
「姉様……」
「なんでよ……。あなたは、何がしたいのよッ」
 その言葉が命令なら、僕は答えるしかないだろう。僕は脱力する腕を強引に動かし、姉様の腰に回す。
「……ちょ? ちょっと」
「姉様……ッ」
 僕は声を絞り出す。
「僕は、姉様の犬です……」
「貴一……」
「だから……あなたをずっと守りたい……ッ!」
 僕は姉様のカーディガンの裾を強く掴む。そのまま額をすり寄せ、歯を食いしばる。

 彼女の心は弱い。
 初対面で僕を犬と呼んだ姉様、それは自分の居場所を守るための防御本能だったのだろう。
 高すぎるプライドと、不安定な立場。僕が現れたことで、彼女は夏川家での存在理由を失った。
 僕は施設にいた頃からずっと人の顔色ばかりうかがってきた。だから、彼女の心は透けてみる。
 揺すれば泣き出しそうなくらい、小さなハート……。
 そして、それは僕も……。

「バカ……」
 姉様が耳元でつぶやく。
 吐息が耳を撫で、産毛を揺らす。背中を撫でる手がとても温かい。
 でも……、
 トンッ!
「あッ?」
 姉様は僕の胸を突き飛ばして立ち上がる。僕は体勢を崩し、フローリングにへたりこむ。
「ね、姉様……」
「バカッ。なにが私を守るよ。この程度のことでへたってるヤツに、私が守れるワケないじゃない……ッ」
 そして、姉様は学習室の出口に向かう。僕はそれを慌てて追いかける。
 しかし僕は腰が抜けて立ち上がれない。無様な四つん這いでヨロヨロと後を追う。
 その姿は、本当に犬みたいで、
「ふふ……」
 姉様が振り向いて笑う。
「は、はは」
 僕も無性におかしくなって笑ってしまう。
「まったく、……ほら」
 姉様の手が僕に向けられる。差し伸べられた手を掴み、僕はどうにか立ち上がる。
 改めて触れて分かる、この人の小さい掌……。
(そうさ。この手を、僕が守るんだ……)
 姉様の微笑みを見ながら、僕は改めて忠誠を誓う。

 この巨大な犬小屋で、僕たちは肩を寄せながら身を守る。

(了)

[投下 : 2chエロパロ板『ショタが電気あんまされて悶絶して射精しちゃうっ!』 2004年07月02日(631〜646)]

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