Who…
「葛葉?」
「え?」
「ぼーっとしてどうしたのさ?」
「………ううん、何でもないよ?」
そう答えていても君の瞳は僕には向けられていないね。
確かにこの腕の中に閉じ込めているのにここにはいないね。
もう既にあの頃から何年も経っていて。
実際に張り合う相手はもうこの世にはいなくなってしまって。
………………君を引きとめたのは間違いだった?
「シード!」
崩れ始める城で響いた懐かしい声。
逃げ出していた足を止めてそう離れてはいない声の方を見れば、
解放戦争後からずっとずっと探していた彼の姿。
僕は逃げ出す事も忘れて彼を見ていた。
「………くーちゃん……ごめんな…?」
先程僕らが倒したハイランドの猛将にすがり付いて。
いやいやを言うように彼は首を振った。
「…………ごめんな、くーちゃん。でも、俺が選んだ事だから、許してくれよな…?」
その大きな瞳から涙が零れ落ちて。
「…………側にいるって約束したのに…ごめん……」
しがみついている彼を腕の中にきつく抱きこんだ。
「………くーちゃん……」
「………うん」
きっと彼はそのままでいたかったんだろうに。
「……………ルックとか言ったか?……葛葉を連れてってくれよ」
「シード…?」
気づかれているとは思わなかったから驚いた。
正直迷った。
二人からは僕の姿は見えていないのだから無視する事も出来る。
このままいないふりをすれば彼は猛将と一緒にいられるだろうから。
でも。
「………いいの?連れて行っても…?」
「・……ルック…?」
「…………ああ……」
シードの腕が僅かに緩んで。
酷く泣き出した葛葉の瞳をしっかり見つめた。
「………行ってくれよ、くーちゃん………愛してる」
「………やだ……シードと一緒じゃないと、いやだよ……」
優しく涙を拭ってもう一度折れそうなその身体を抱きしめて。
「………くーちゃん。俺のわがまま、聞いてくれよ。俺の最期の、『一生のお願い』だから……くーちゃんの事愛してるから、くーちゃんはここにいちゃいけないんだよ」
何も言わずに待っているルックを見上げて、
視線だけで葛葉を頼むと訴えた。
「葛葉、行こう?」
細い肩が震えていて。
返事がなくたって彼がどうしたいのかわかったけど。
それでも転移魔法を唱えた。
「………葛葉、愛してる」
それが最期の言葉、だった。
「葛葉」
君は優しいから、
僕が無理に君をあいつから引き離しても何も言わなかったね。
ただ泣くばかりで、
僕には恨み言の一つも言わなかった。
それが君の悲しみをどれだけ表現しているかわからないわけじゃない。
君がどれだけあいつをすきだったかわからないほど馬鹿じゃない。
君からあいつを取り上げたのは僕。
いくらあいつに頼まれようとその事実は変わらない。
……………………あの時に置いて行っていたとしたら君は幸せだったのかな。
真実は闇の中。
君の瞳の先は閉ざされた扉の向こう。
零れ落ちる言葉はあいつのためのもの。
僕は君の側で君への罪を償いながら罰を受けつづける。
君の側にいることが君への罪の償いなら、僕の罰は………
「すきだよ、葛葉」
「………うん……『だいすきだよ』……」
○あとがき
何が書きたかったのかなあ(汗)使いたいネタがあるのに出し渋るとこんな話に(汗)
葛葉ちゃんはルックさんの事は恨んではいないのです。シードさんが望んだ事だから。
ルックさんの言葉にルックさんへの言葉として答える時はくるのでしょうかね……