意地っ張りの災難
「……った……」
早朝。
まだ誰もいないホールで小さな声が上がった。
彼はやや顔を顰めつつも痛みの元を確認して体勢を立て直すと定位置についた。
彼の居場所である。
こういう時に限って嫌な事はついて回るものらしい。
ちょろちょろして使い物にならない軍主を一日城から追い出す為軍師の提案で実戦経験を積みに行くのに狩り出される事になった。
「……嫌」
露骨に嫌そうな顔をしてみせる。
「だって…みんなもうレベル上がっちゃったし…後はルックくらいだよ?こないだも嫌だって言ったんだもん。今日は…」
軍主の少年がやや口をとがらせて言う。
「嫌だね」
「行こ?」
上目遣いにされて負けるような彼ではなく。
「じゃあね」
まだ何か言おうとするエンジュ達を転移魔法で飛ばした。
ところがそうもいかないらしく。
気付いたら自分までエンジュ達と一緒に飛んで来てしまっていた。
ふと視線を落とすとエンジュに酔って服の裾が握り締められていて。
大きく溜息をついた。
「……ついでだから行こうよ」
先程よりも機嫌が悪くなったルックを覗き込んで言うがルックは返事をしない。
先に歩き出したエンジュに自分も一応進もうとするが。
「……っつ…」
朝捻ってしまった右足がとてつもなく痛くて。
やはり帰ろうと考え直した時、エンジュ達と歩いていた筈のフリックが戻ってきた。
「どうした?ルック」
「……何でもないよ」
喋るだけで捻挫に響くような気がする。それくらい痛い。
「……足。どうしたんだ?」
突如として尋ねられた事がよくわからず聞き返してしまった。
「足だよ。捻ったのか?」
「……関係ないだろ」
ばれてしまうのが恥ずかしいから痛いのにもかかわらず医務室にも行かなかったというのに。
「俺は一応戦士なんだ。相手の弱点を探しながら戦ってるのにわからないわけないだろう?」
じっと見つめてくる、どこか見透かされてしまいそうな瞳。
思わず目を逸らした。
「……でも関係ないだろ」
「関係あるだろ。ルックの事だし」
微笑んでみせたが呆れた顔で見上げてきたルックに小さく咳払いをして表情を戻した。
「捻挫ってのは手当てしないと捻り癖つくんだぞ」
「……やだ」
「俺がやってやるから」
「……信用できない…」
「これでも生傷絶えなかったんだぜ?」
本格的に手当てするつもりらしい。
向けられた背中に小さくしがみつくと、一足先に城に戻った。
綺麗に巻かれた包帯。
手あてして貰うだけで痛みが引く筈はないが心なしか楽になった。
「最初からこればよかったのに」
「嫌」
即答。余りの事にショックを受けたが。
「……ありがとう…」
小さく呟かれた言葉にフリックは微笑んだ。
「……まあ大人しくしてろよ」
「……うん」
珍しく大人しくフリックの腕の中に収まる。
身体の痛みというのは心まで弱くさせてしまうようで。
「何なら泊まってくか?」
囁かれた言葉に顔を赤く染めた。
翌朝。石版の所にルックはいなかった。
聞いた所によると捻挫が悪化したらしいが……それはまた別の話。
○
あとがき
フリルクはもう書かないでおこう……今日の教訓。