Stay Together

 

 

 

 

 

 

「………っ!」
それは唐突にやってくる。
酷く、嫌な夢。
起き上がった身体が小刻みに震えている。
瞳からは大粒の涙が溢れていて、慌ててタオルに手を伸ばして拭いた。
動機が激しい。
息が上手く吸えなくなってしまいそうなほど。


―――君が逃れられると思う?右手を見てごらんよ。


日増しに酷くなっていく悪夢。
それは最愛の彼に再会してからで。

深呼吸を繰り返して、ベットから立ち上がる。
静かにドアを閉めて、彼の部屋へ向かった。

誰もいない廊下。
素足に伝わる冷たさが、先程見た夢への不安を煽り立てる。
目当ての部屋の前に立って、小さくノックをする。
こんな時間には彼も寝ているのだから、返事を期待するのは無駄。
「……入るね……」
小声で断って、音を立てないように中に入る。
気配を消して近づくと、彼は眠っていて。
指を伸ばして頚動脈に触れると、ちゃんと暖かいし、脈だってあって。
それでも安心できないから、顔の上に手を翳して。
規則正しく繰り返される呼吸に、ようやく安心する。
本当は揺り起こして、抱きしめて欲しいけれど。
小さく溜息をついて、自分用に貸して貰っている部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再会したユギは自分を見て酷く驚いて。
三年前と変わらない自分の気持ちを伝えたら、昔と変わらない綺麗な笑顔で応えてくれた。


抱きしめれば折れてしまいそうに細い身体も。
見る者を捕らえて離さない意思の強い瞳も。
何一つ変わっていないように思ったのに。


しかしユギは、自分と一緒にいたがるのに、一緒に眠ろうとはしない。
拒絶されているのかと思えばそうではなくて。
抱いた後に目を覚ますと、夜中にも関わらずユギは自分の部屋に帰る。
理由を聞くと、いつだってユギは困ったように笑って、答える。
「だって……」

 

 

 

 

 

 

 

こんな事を繰り返している自分は、もう発狂寸前かもしれない。
側にいて欲しいけど、一緒に寝るのは嫌。


―――そりゃあそうだよね。大事な人の魂だもんね?


隣で寝ている間に、いなくなっちゃう気がして。
だから絶対にフリックの部屋には泊まらないし、フリックが僕の部屋に来た時は屋上に行く。
不安でたまらないから。
それがフリックに不安を感じさせてしまっているとしても。
フリックは翌朝にいつも尋ねてくる。
「昨夜帰っただろ?どうした?」

僕は決まってこう返事をする。
「だって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユギがここの所毎晩来ているのは知っていた。
でも、何も言えない。
最初は起き上がろうかとも思ったけれど。
酷く泣き出しそうな瞳で俺を見るから。
だから理由を聞こうと思っても何も言えない。
更に傷つけてしまう気がして。


ユギが毎晩くるのは何故?
一緒にいたがらないのに?
それはどうして?


気になって仕方ないから。
傷つけるとわかっていて、俺はビクトールの酒場への誘いを断って、ユギが泊まっている部屋に足を向けた。
知らなくてはいけないだろう事だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

いつものようにフリックが部屋を訪ねてきて。
いつになく神妙な雰囲気を纏わせているのに切り出せないのが読み取れたけど。
聞きたくなくて、僕は腕を伸ばした。


―――抱かれる事で現実逃避するの?

―――君の背後には俺がいつだっているのに?
―――二者択一。さあ、どうする?


隣でフリックが寝ているのを確かめて。
音を立てないように起き上がって服に手を伸ばした時、不意に後ろから抱きしめられた。

どうして?


 

 

 

 

 

聞くつもりで部屋に行ったのに、どうしても切り出せなくて。
どこか焦っているのか何も言えないままユギを抱いて。
しばらくして、ユギが起き上がったのがわかった。
僅かに俺の方を振り返って、服に手を伸ばしたユギを、腕の中に閉じ込めた。
華奢な身体が、驚きですくんでいて。

「………ユギは…さ、嫌なのか?」
「……何に対して?」
「俺がこうやってユギに触ったり、一緒にいたりする事が、だよ」
「どうしてそう思うの?」
「昼間は一緒にいるけど、こうやって夜会うと、いなくなるだろ?だから俺は、ユギは一緒にいたくないんじゃないかと思って」
「そんな事ないよ。理由はいつも言ってるよね?」

「理由ってあれ?」



『だって、緊張しちゃうんだもん』



「………嘘じゃない、よ?」
「じゃあどうして……いつも泣きそうな顔で俺のところにくるんだ?言ってくれないと、俺にはわからない」


言える訳がない。

フリックとソウルイーターが気になって緊張してしまうから、なんて。
言って、不安が軽減されるのなら。
言ったら、いつか実現されてしまうかもしれないあの夢が、夢だけで終わる?



―――そんなわけないじゃん。君はあいつがすきなんだろ?
―――さぞかし美味いんだろうな。「フリック」とやらの魂は。



何も言えない。
圧迫されるような不安ばかりが押し寄せてきて。
僕は首を振る事しか出来なかった。

 

 

 

苦しい。
一緒にいたい。
気持ちをわかろうとしてくれる彼に何も言えない。
辛そうな顔させて。
でも僕は何も言えなくて。


―――あいつにはわかんねんだよ。それでも一緒にいたいのか?傷つけるだけだし傷つくだけだぜ?

―――俺がいつかあいつの魂を喰べるという不安のおまけまでついてくるのに?


離れた方がいい。
わかっていたけど、踏み切れなかっただけ。
そもそも浅ましかったんだ。
一度「殺した」彼と一緒にいたいと願うのは。

だから離れる。
そうしたらもう、喰われる事はなくなるから。

「……ごめんね」
今度こそ、僕を抱きしめて眠ってしまったフリックの腕からそっと抜け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝起きたらユギはいなくて。
城中探しても、自宅に行ってもいなくて。
誰も行方を知らなくて。
もう一度ユギの部屋に行った時、背後から冷たい声がした。

「………もう会う事はないだろうね」
驚いて振り返った。
「理解出来なかったあんたが悪いわけでも、伝えられなかったユギが悪いわけでもない」
「じゃあどうして……」
「……優し過ぎるんだよ」
……二人ともね。

 


これがユギの俺に対する償いなら、俺は守れない約束をした事への罰?

 


彼女を失った時以来初めて、涙が流れた。
どれだけ声を嗄らして叫んでも、もう届かない。

 

 

 

 

      あとがき

何と言うかソウルイーターの喋り方がわかんない……勝手に設定。いいのか。いいよ。

 

 

 

 

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