Is
this love
「あ、あのカミュー様!!どうかこれを受け取って頂けませんでしょうか!!」
その声に振り返ると、少女が真っ赤な顔で俯きながら綺麗にラッピングされた包みを差し出している。
「ありがとうございます」
美しいと称えられる微笑で応えられ、少女ははにかむように僅かに微笑むと一礼して駆けて行った。
カミューがこの城に来てから日常茶飯事ともなってる光景。
この今朝も繰り返された光景に溜息を付いている少年がいた。
「またかあ……」
ホールを見渡せる階段の手すりに凭れて小さくつぶやいたエンジュに振り返ったカミューが気付いたらしく、彼に優しく微笑み掛けた。
「どうなさいました、エンジュ様?」
甘いテノールの声で優しく尋ねられ、エンジュは何故か体温が上昇するのを感じて慌てた。
「い、いえ、何でもありません!じゃあ!!」
しまいには顔まで赤く染めて、エンジュは二階へ続く階段を駆け登った。
その小さな背中を見つめながらカミューは溜息を一つ付いた。
「……また…避けられてしまいましたね……」
初めて会ったのはミューズで開かれた丘上会議の時。
ゴルドーに押されて転んでしまったナナミにすぐに手を差し伸べて気遣ったのがカミューだった。
隣で一人浮かれているナナミの話を聞きながら、その通り、かっこいいと思った。
次に会ったのはロックアックス城。ゴルドーにあしらわれた自分を気遣ってくれた。
ゴルドー側の人間であるカミューに気遣われるとは正直思っていなかった。
「君主にお仕えするのが騎士の務めです」
と聞いていたから、知らない間にゴルドーと同じ考えなのだろうと言う偏見のようなものを持っていた自分に気が付いて恥ずかしかった。
彼は静かな人だった。
でも、心根は実に熱い人だというのをそれからの行動などでわかって尊敬していたから、仲間になってもらえた時は本当に嬉しかった。
甘いマスクと思いやりに満ちた彼は、本拠地に来てすぐに女性陣にもてるようになった。
ナナミも勿論例外ではなく何度かお菓子作りに駆り出されたが、どんなに見た目が凄くても笑顔で受け取ってくれる。
困った事があれば助けてくれる。
エンジュもよく戦闘中やシュウから課せられた一抱えもある書類によく泣かされるが、その度にカミューはさりげなく助けてくれる。
いつだって彼は自分の事を気にしてくれている…君主として。
それなのに自分はカミューが他の女性達といる時にはもやもやしたものを感じるし、
そんな時にカミューに自分を見られると決まって顔が真っ赤になってどことなく居心地が悪くなってしまう。
それが一体どうしてなのかはわからない。
―――最近避けられている。
自分に何か足りないのならば是非言って欲しい。
自分が忠誠を誓った君主だから?
―――否…何度も自問自答を繰り返して出てきた答え。
君主として必要としているのは当然だ。
エンジュが欠けてしまえばこの戦いは負けてしまうだろう。
だが、彼は一人の少年である。
軍師や自分よりもうんと年上の仲間の前で優秀なリーダーをしていても。
姉の自慢の弟をやっていても。
皆は恐らく知らない。
彼がいつも仲間の前では笑顔だけを見せられるように一人で泣いている事を。
紋章を使えばどうなるかわかっているのに仲間のために力を使ってよく蹲っている事も。
何とかしてやりたい、少しでもいいから力になりたい、今にも崩れてしまいそうなその身体を支えてやりたい。
そう考えた時自分のエンジュに対する気持ちに気付いた。
有るまじき行為だとしても気持ちを伝えたい。
が、このごろ彼は明らかに自分を避けている………一体何故?
今日はトラン共和国に交易をしに行くらしい。
あいにく皆シュウの依頼で出払ってしまっているため、カミューと二人で行く事になった。
ビッキーに頼んでバナーの村までテレポートで飛ばしてもらって。
上手い事着いたのだが、今日に限ってやたらとモンスターが出現したために野宿になってしまった。
「エンジュ様……そのような格好で寒くありませんか?」
「え…あ、大丈夫…です」
久々にカミューと顔を合わせた気がする。
自分が避けているようなもんだから仕方ないのだが。
「……エンジュ様…一つお聞きしてもよろしいですか?」
カミューが真剣な表情で尋ねてくる。
エンジュが小さく頷くと、カミューはしばし躊躇ったが口を開いた。
「……私に、何か至らない所がありましたら何なりとおっしゃって下さい……」
「え!?そんな所あるわけないじゃないですか!!どうしたんですか、急に?」
「……では何故最近私を避けられるのですか?」
カミューの質問に、エンジュはどうしていいのかわからず俯いてしまう。
「……申し訳ありません…失礼な事をお聞きしまして…薪を集めて参りますのでここでお待ち下さい……」
淋しそうなカミューの声。
そのまま行ってしまいそうなカミューの服の裾をエンジュは小さく引っ張った。
「……僕…最近おかしいんです…何か…カミューさんが女の人と喋ってたりとかすると……何かちょっといらいらするんです……
あ、カミューさんが嫌いなわけじゃないんです……なのに僕、そんな自分が嫌で……」
今にも泣き出してしまいそうなエンジュの目の高さに合わせる。
「……それで、避けていらっしゃったのですか」
「はい……ごめんなさい……」
そのまま泣き出してしまったエンジュをカミューは優しく抱き締めた。
「……カミューさん?」
「……嬉しいような淋しいような複雑な心境です……」
「複雑?」
不思議そうに見上げてきたエンジュに優しく微笑んだ。
「……私が、エンジュ様がすきだからです」
耳元で囁くとエンジュが顔を真っ赤にして小さく俯いた。
「……僕は…えっと、自分…の気持ち…カミューさんすきだけど…そういう風にすきなのか…あんまりよくわかんない…です……でも、多分僕は…」
一生懸命答えようとするエンジュの唇に優しく人差し指を当てた。
「……エンジュ様にちゃんと私の事をすきになって頂けるまで、その先はお聞きしません。今お聞きしても嬉しいですけどね」
頑張ります、と再びカミューは微笑んだ。
―――頑張ったカミューがエンジュの口から「すき」と聞けるのは、もう少し先の話である。
○ あとがき
かなり初期に書いた話。古い……繋がってるようでばらばらしてるのまるわかり……