BE THERE
「………で、さっきから何なのさ」
冷たい声。
投げかけられた当の本人は僅かに顔を上げたが、再び俯いてしまった。
「……鬱陶しいんだけど」
更に冷たく言うが、彼はルックから離れようとしない。
呆れて、一つ溜息をついた。
久しぶりに遠出する事もなく、朝から雨が降っているので図書館で本を借りて来て読んでいた。
途中で疲れたからと、ベットに座ったのが悪かったのかもしれない。
小一時間前に現れた彼は、壁に凭れながら座っていたルックと壁の間に割り込んで、
そのままルックを抱き締めたまま動かなくなってしまったのだ。
鬱陶しい事極まりない。
何度か声を掛けてみたものの、彼は僅かに顔を上げては再び自分の首筋に戻してしまう。
いい加減腹が立ってきた。
「邪魔なんだけど」
聞こえよがしに大きく溜息をついて。
それでも動かないから自分だけテレポートしようかと考えた時、ようやく口を開いた。
「……邪魔?」
「邪魔」
「俺さ、ちょっと落ち込んでんだよ」
「だから?」
「もうちょっとこうしてて」
「何でさ」
嫌そうに眉を顰めると、シーナは小さく笑った。
「……ルックさ、人に干渉されるの嫌いだから人にも根掘り葉掘り聞かないだろ?」
「で?」
「………落ち込んでる理由は言いたくないけど側にいて欲しいから」
ルックは読んでいる本をシーナに見える高さまで持ち上げた。
「……僕本読んでるから邪魔して欲しくないんだけど」
「すぐ終わるから……」
いつもからは想像できない弱々しい声。
能天気なシーナに何があったかは知らないが彼にとっては一大事なのだろう。
どの道何を言っても動かないに違いない。
ルックは諦めて再び溜息をつくと本を膝の上に載せ直し、振り向かないまま片手でシーナの頭をぽんぽんと優しく叩いてやった。
「ルック……」
シーナが驚いて頭を上げる。ルックはもう片方の手で次のページをめくった。
「………仕方ないからしばらくはここにいてあげるよ」
思わぬルックの優しい言葉に救われた気持ちになる。
「……さんきゅ」
降り続けていた雨は、やがて静かに上がっていった。