Star Festival

 

 

 

 

 

今日は七夕。

短冊に願い事を書いて笹に吊るす、という有名なイベントの日。

統一戦争が終わってからも何度か遊びに来る、

今や大統領の椅子に座らさせられている小猿は、

今日は七夕だからと若草色のローブを着た彼と共に大きな笹を持ってきた。

嬉しそうに笑う小猿と対照的な表情をした、

運悪く元軍師の依頼であの城にいたその魔法使いは、

小猿のせいで使いたくもない体力を使わさせられたと不機嫌さを隠そうともしない。

それでも帰らないのは彼好みの紅茶を出したからか別の理由か。

 

 

 

 

 

 

応接間にその竹をどうにか立てて、

勧められるままに小猿から短冊を貰ったものの、

どんな願い事を書けばいいのか見当もつかなくて。

嬉しそうに先程から書き続けている小猿を横目で見て、聞こえないように溜息をついた。

 

 

「葛葉さん、書けました?」

「え?」

 

その声に顔を上げると、

エンジュは何時の間にか書き終わって紙縒りを縒っていて。

その彼の前には10枚近くの短冊が置かれていた。

「まだ…だけど……それで、全部?」

「はい。本とはまだあるんですよ。でも、全部は書ききれないから」

そう答えて彼は微笑んで。

「葛葉さんの分も紙縒り作りますからね」

「え?あ、ありがとう……」

 

 

そう言われても書く内容が思いつかない。

書けないなら書けないで、

特に願い事はないと言ってしまえばそれでいいのかもしれないけれど、

それではせっかく笹を持ってきてくれた彼に対して悪い気がして。

 

どうしたものかとふと横を見たら、

退屈しのぎに読んでいた本を読み終わったらしく魔法使いの彼は窓の外を見ていて。

気分転換ついでに、と立ち上がって、

彼が読んでいた本の続きの巻を取りに部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

願い事なんて本当は数え上げればきりがない。

 

 

尊敬していた父親を、

唯一無二の親友を、

尊敬していた女性を、

片時も離れなかった従者を、

博識だった軍師を還して欲しい。

解放戦争なんてなかった事にして欲しい。

 

あの戦争がなければ今の状況はないのだけれど、

あの戦争がなければ傷つかずに済んだ人間がどれだけいるかわからない。

そんな綺麗事を言っても、

それを行ってきたのは紛れもない自分だったわけで。

傷ついて遺された人間が幸せであるように願ったって、

傷つけた本人がそんな事を言っても聞き届けられるかわからないし願う資格もないから。

 

 

気分が更に沈みかけて、

慌てて本棚に目をやる事で意識をそらそうと、したら。

 

 

「………悪かったね」

 

 

背後からいきなり声が聞こえてきて慌てて振り返った。

「ルック?」

「小猿なら迎えが来て帰ったよ」

ルックは本棚の前で座り込んでいる彼の隣に腰を下ろした。

「だから止めたんだけどね」

「え?」

「君の願い事はわかってるつもりだから」

 

 

彼の願い事は、

書きたくても書けない願い事ばかり。

それは図々しいからではなくて、

その願い事がとても重くて大事なものだから。

 

 

「うん……でも、何か書かなきゃ、だよね」

「別に無理して書く事もないと思うけど」

彼が気遣ってくれるのがわかる。

でもやっぱりあの好意を無駄にするわけにも行かなくて。

 

 

 

 

 

 

「はい」

「うん、ありがとう」

 

応接間に戻ると彼は短冊に向かい始めて。

何を書いているのか、

見えないように手で隠しながら書いている辺りが可愛いといえばそうなのだけれど、

いつもならティーカップを差し出すとわざわざ手を伸ばして受け取る彼が今はそうしないから、

余計にその内容が気になってしょうがない。

そんな自分に気がついて、

お茶を飲んで気を紛らわせようとするけれどなかなかそうも行かなくて。

ようやく彼が顔を上げた時には溜息さえついていた。

 

「書けたわけ?」

「うん」

小猿が作っていった紙縒りを通して。

「ルックは、書かないの?」

「神頼みしてもね……」

そういえば彼が無神論者だというのはわかってるけど。

「でも、せっかく、だから……」

そう言うと彼は僅かに苦笑して。

あまっていた短冊に何か書き込むと紙縒りに手を伸ばして、

さらさらと何かを書き込むと隠してしまった。

 

「何書いたの?」

「さあね」

「教えて?」

「葛葉が先に見せてくれるならね」

 

むう、と彼は少し拗ねたような顔をしたけれど、

それでも短冊をルックの方へ向けて。

 

「刹那的だから?」

「それも、あるよ?」

ルックの冷たい反応に彼は少し淋しそうな顔をして。

「そういうのは本人に願うものだよ」

「人の気持ちは神様でも動かせないから?」

「まあね。それに」

「うん?」

「そんなのに祈られちゃたまらないね。叶わなくなるから」

僅かに微笑んだルックに彼は顔を赤く染めた。

 

 

 

 

 

願う事はたくさんある。

でも過去の事だけはどうしても消せないのはわかってる。

だから。

今の自分がある現状が続く事を祈ろう。

大事な君が側にいてくれる事を願おう。

それだけは過去の事になってしまわないように。

 

 

 

 

 

 

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