「ルックって名前で呼ばないよね」

「は?」

交易のためにいろいろな街を引きずり回されている時ふとエンジュが言った。

「どうして?」

「……別に僕の中では認識されてるんだからいいんじゃないの?」

「でも沢山の人と喋ってたらわからないじゃない」

 

それを聞いてパーティーメンバーに目をやる。

エンジュとフリックとマイクロトフとカミュー。

 

「……子猿と青いのと熱血漢とフェミニスト」

つぶやかれた冷たい言葉に凍り付く。

「僕子猿?」

「また青いの呼ばわりかよ……」

「熱血漢………」

三人共相当ショックだったらしい。

表情を崩さなかったのは一人だけ。

「あんたは?」

「いえ、認識されていた事に驚きを感じてますから」

「……嫌味……」

そのまま先に歩き出したルックをエンジュが走って追いかけた。

「ねえユギさんの事は?」

「別に。『君』だけど」

 

別に呼び分けはしてない。

ましてや嫌味なあだ名なんて。

 

「いいなあユギさんは……」

それきりその話はしなくなった。

 

 

 

 

 

 

「そうなんだ」

ルックの話を聞いて笑ったユギは、ふと表情を元に戻した。

「ルックは名前で呼ぶの嫌い?」

「……面倒臭いし…別にいちいち呼ぶ必要ないしね……」

「ふうん……」

ユギはしばらく考えていたがやがて悪戯っぽい顔になって。

「じゃあ……僕、ルックが名前で呼ばないなら返事しない事にしようかな」

「え?」

「今からだからね」

「どうしても?」

「うん」

頑として譲らないユギに小さく溜息をつく。

一度言い出したら聞かないのはよくわかっているけれど、

今更呼ぶのは気が引けて。

解放戦争の頃から『君』だったのだから。

 

 

「……あのさ」

「呼ぶの誤魔化しちゃ駄目だよ」

最後の手段まで取り上げられて困ったような顔になるルックに小さく笑う。

やや憮然としながらもカーペットの上に座っている彼を腕の中に閉じ込めた。

溜息をもう一つ。

「ユギ」

「なあに?」

小さく囁かれた声に幸せそうに微笑む。

「……そんなに名前で呼ばれたいの?」

「……だって…『君』っていうのはみんなの事指すわけだから……僕はルックにとってみんなと変わらないのかなあって……」

そんなの淋しいじゃない?なんて見上げてきて。

その顎を掬い取ってキスをした。

「……馬鹿だね…ユギの事しか見てないのに」

「本とに?」

「……どうだかね」

じっと見つめてくる彼から僅かに目を逸らして答えたが、

彼は満足したような顔になった。

「……うん……」

「で……たまにじゃ駄目…?」

呼びなれないのか、はたまた照れているのか。

「僕といる時は絶対にして?」

しがみついておねだりなんてされたら断れるほど冷血漢なわけではなく。

やや流された形に、小さく溜息をついた。

 

 

 

――それ以後名前で呼ぶようになったものの、間違って『君』なんて呼ぼうものなら3日は口をきいてもらえなくなったらしい。

 

 

 

 

 

 

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