Lies and Truth




「おいで」 雨の降りしきる屋外。 傘もさしていない少年は、 ずぶぬれになりながらもそこにいる小さな猫に優しく手を差し伸べた。 「……おいで。風邪、引いちゃうよ?」 子猫はまるで値踏みするかのように少年の瞳を見つめていたが、やがて手の中に入って来た。 「行こうか」 少年は立ち上がる。 ふと、戻ろうとした建物の入り口に目をやると何処か呆れたような顔をした人物が立っていた。 「……おいでよ」 奇しくも、自分が猫に掛けた言葉と同じ物を掛けられ、少年は僅かに微笑んだ。 「……何やってたのさ」 ユギの部屋に戻るなり、呆れた顔のルックは尋ねた。 「何って……この子が外にいたし、雨降って風邪引いちゃうかな、って」 相変わらず自分の身体ではなく子猫の身体を拭き続ける彼に呆れて、 ルックはバンダナを外して髪の毛を拭いてやった。 「………珍しいね」 「……そんな事で風邪引かれちゃ堪らないからね」 面白くない、といった顔。 ユギは小さく笑った。 「何かね……この子、ちょっと似てるんだ」 「………似てるって、誰に?」 不機嫌そうに髪の毛を拭き続けるルックをユギはいたずらっ子のような瞳で見つめた。 「……さあ、誰だろう?」 近づくと、爪を立てて威嚇する。 側にいると思うと、いつの間にかいなくなってしまう。 そんな子猫は、自分のすきな誰かさんによく似ていて。 そのくせ、淋しいと感じると膝の上にいてくれたりする。 「本とによく似てるよね」 「……ごめん、ちょっとの間預かっててくれる?」 それから2日後。 自分からはこの城に近づいた事がなかった彼は、 同盟軍の本拠地にぼんやり立っていたルックに子猫を差し出した。 「……何で?」 別に嫌ではないのだけれど。 「ちょっと……行かなきゃいけない所があって。ね?」 何処か物悲しそうな彼の瞳に理由をきちんと聞けないまま、子猫はルックの部屋に来る事になった。 見上げた空は気が滅入りそうなくらいに重いものだった。 「……ほら、そんなとこで爪とぎしないでよ」 本棚の端で爪を研いでいる子猫に声を掛ける。 驚いたのか、子猫は何処かに行ってしまった。 「……別にとって食うわけじゃないんだから……」 ユギがいなくなって1週間。 その間ずっと降り続ける雨に対する不機嫌さが、 知らない間に言葉に出ていたらしい。 悪い事をしたと思いつつも、そのうち帰ってくるだろうと思い直してルックは本を読み続けた。 ところが、2日経っても猫は帰ってこない。 ユギから預かっているのだから責任を感じ、ルックは子猫探しを始めた。 誰に聞いても首を振られるばかりで。 呼べばいいのに。 ふとそう思って、名前を呼ぼうとした。 でも…… 「……名前…ないじゃないか……」 呼ぶべき名前がついていない。 ユギも、拾ってそう経たないうちに自分に預けていったので子猫を名前で呼んでいた覚えがない。 「どうすればいいのさ……」 呼びたくても名前がない。 呼ぶ術がない。 探せない。 まるで、誰かさんのよう。 尤も、彼には呼ぶべき名前があるけれど。 「………似てるって……君にじゃないか……」 気まぐれで、 我が侭で捕まえておかないとすぐ何処かに行ってしまう、 傷つきやすい、 でも誰よりも大切な。 「……帰っておいでよ…ユギ……」 小さく、子猫の鳴き声が、聞こえた。 「ただいま。どうもありがとう」 次の日、昨日までの雨が嘘のようにぴたりと止んで、 何事もなかったかのようにユギが戻って来た。 彼はしゃがみ込むと優しく子猫を抱き上げた。 「……ルック?」 視線を感じて、ルックの方に振り返る。 不意に、強い力で抱き込まれた。 「……どうしたの?」 「………君ってさ、猫みたいだよね」 「え?」 唐突な言葉に驚きを隠せない。 「もう…いなくならないでよ…ユギ………」 耳元で小さく囁かれた声に、 一緒に抱き込まれた子猫が小さく鳴いた。

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル