さあ、そんなヒロイズムは捨ててしまってよ。
僕の為に。
……君の為に。
刃を捨てて『僕の所為じゃない』って叫べばいいんだ。
簡単だろう?
……そんな風に、隠れて泣くよりもさ。
早くしないと、あんたはもう帰って来れなくなるよ。
彼は大きく息をついて首を振った。
違う。
そんな事、微塵も想ってなんか、ない。
……白い肌を彩る栗色の髪が揺れた。
ルックは目を開けた。
一瞬、目が眩んだ。
白く、締め付ける様に視界に光が押し寄せて来る。
掌に冷たい石畳の感覚がある。
知らぬ内に眠っていた様だった。
『ヒロイズム』。
そんなもの、自分だって求めちゃいないくせに。
ただの業の昇華だって、誰より判っているくせに。
何故彼が笑うのか?
無意識に、彼は今見た夢の続きを追った。
他人に煩わされるのは嫌いだ。
干渉して欲しいとも思わない。
……けれど幾度となく、無意識の内に、積もり重なっていくこの疑問符は一体何事なのだろう?
答えを出しかけて、彼はまた首を振った。
気付きたくない。
しかし、遣り場無く伏せられたその目の先にも、
風をはらんで翻る彼の深緑のバンダナが灼き付いている。
『別に正当化されなくたっていいんだ』と、彼は笑った?
……泣いた?
もう今は白く滲んで、思い出せない。
……ああ、もう僕はあんたに飲み込まれてしまった。
彼は少し、微笑んで立ち上がった。
ゆっくりと、歩き出した。
冷たい石室で、肩を一人震わせる……彼に、会う為に。