Calling
「ユギ?」
「………え?」
振り返った君は三年前と変わらないまま。
僕の姿を認めて揺れた瞳ごと、僕は彼を抱きしめた。
「君はどこに行くの?」
皇帝を倒して逃げ出してきた彼は、
人ごみにまぎれて城門を出てしまって。
「……………うん?」
聞こえているのに聞こえていないふりをしかけたせいで返事が遅い。
「どこに行くのかって、聞いてるんだよ」
「……どこだろうね」
困ったように笑って。
君は何も言わずに出て行くつもり?
この僕にさえも?
「行き先くらいは決めてるんだろう?」
「………決めてない…よ」
「だったら……」
「・……………ここは、僕がいる場所じゃない、から」
別に君に無理にここに留まれとは言わないよ。
君が新しく国を作るまでは赤月帝国の最後の皇帝になってしまっている現状を差し引いてもね。
「………どうしてそう思うの?」
「………僕はこれ以上なくしたくないから……」
そうだね。
君の紋章は確かにここにいる君の仲間を狙うかもしれない。
じゃあ君の意思はどうなるの?
僕の君への気持ちは?
「…………じゃあ僕さえも置いて行くの?」
「……ルックだって、いつかはいるべきはずのところに帰っちゃうでしょ……そしたら僕は……」
一人ぼっちは嫌。
「…………だから、いなくなるの。置いていかれる前に」
傷つきたくないから。
「………ばいばい」
彼の姿は静かにかき消された。
確かに師匠の所には帰らなければならない。
それは君にもわかっていた事であり、側にいた僕が一番そのタイムリミットに焦っていたのに。
僕は君を期間限定ですきになったわけじゃない。
例え離れてても僕は君をすきでいつづける自信があるのに。
今思えば、
それでも君には耐えられなかったんだね。
失う恐怖と側に誰もいなくなってしまう空虚さに。
だから君は自分から現状を突き放す事で自分を守ったんだ。
それ以上傷つかずにすむように。
それがどれだけ僕に自分の無力さを感じさせたか君は知らないだろうね。
それがどれだけ僕に自分の未熟さを思い知らさせたのか君は知らないだろうね。
それでも僕は君がすきだった。
例え君の心の中から僕がかき消されていようともね。
「………怒ってる…?」
「どうして……?」
「………だって、僕は……」
「……………僕はどれだけ離れても君をすきでい続ける自信があったから。でもそれは言い訳で、僕は君の気持ちを理解できなかっただけ」
思ってるだけじゃ仕方ないよね。
僕は自分と同じ考えを君ももっててくれるんじゃないかって期待していたのだから。
でも絶望はしてないよ。
君の気持ちが痛いほどよくわかったから。
「………でも」
「僕はみんなみたいにいなくなったりしないよ。少なくとも君の目の前では」
約束は出来ないけれど。
だって僕だって不老であって不死でないのだから。
「…………一人にしないから」
だからもう帰っておいでよ。
僕のところに帰ってきてよ。
僕は君をすきでいつづける自信はあっても君にすきでありつづけてもらえる自信はないんだよ。
せっかくこうして会えたのに今度は君が僕を置いていったとしたら、
それこそ僕は………
「…………うん」
俯いた細い肩が震えて、綺麗な雫が零れ落ちた。
君が居場所がないと感じているのなら僕が作ってあげる。
だって僕の腕の中は君のためにしかあけていないのだから。
君が僕の側にいたいと願ってくれるなら、
君が僕を必要としてくれるなら、
僕は今度こそいつだって一緒にいるから、
だからもういなくなったりしないで―――
○あとがき
何なんだこれは……(汗)
しかしこの二人、きっとそういう理由で1と2の間は離れていたのでは?と思うのです。他のカップリングが絡んでこない限りはね。
本とはシードさんが……ごふっ(吐血)