BE WITH YOU

 

「くーちゃん!」

「……シード?お帰り」

ばたばたと慌てて帰ってきたこの家の主。手には何やら大きな箱を持っていて。

「ただいま」

箱の事なんてお構いなしに玄関まで迎えに出た葛葉を抱きしめたので、持っている本人よりも腕の中の葛葉が慌てた。

「シード、大事なもの入ってたら壊れちゃうよ?」

「ん?あ、いけね……これさ、くーちゃんに」

「僕に?」

「そ。おいで」 

そっと身体を離して先を歩くシードについて行くとソファーに座るように勧められて。

何事かと思いつつ従うと、彼は目の前のテーブルに箱を置いた。

「くーちゃん、開けてごらん」

「いいの?」

「ああ」

上に綺麗に飾られているリボンを解いて箱の蓋を慎重に開ける。

「………これ…」

中には、「HAPPY BIRTHDAY」と書かれたデコレーションケーキ。

「くーちゃん今日誕生日だろ?だから」

自分でさえ覚えてなかったのに。

「……ありがとう」

微笑むと、シードは電気を消して蝋燭を17本ケーキの上に立てた。

「さて。17年前の今日、くーちゃんは生まれました。はい、1歳の時は何があった?」

1本目の蝋燭に火を点す。

「え?」

「いいから、聞かせてくれよ」

「1歳?……うーん…グレミオがうちに来たかな」

「……そっか。じゃあ2歳」

「2歳の時は…すごく大人しい子だって言われてたみたい」

「俺とは正反対だな。俺はやたら五月蝿かったらしいぜ。じゃあ……」

1本ずつ蝋燭に火をつけながらその年にあった事を話して。

 

「……はい、15歳」

「……父様と…グレミオとテッドが…死んじゃった…年…かな」

途端に、答えた葛葉よりもシードの方が辛そうな顔になった。

「………ごめん」

「……ううん、あ。次16歳?」

「おう。この年は俺とくーちゃんが会ったんだよな」

 

16本に灯が点って。最後の1本に火をつけた。

「……これで最後か。くーちゃん、今年は?」

「今年は……シードがお祝いしてくれたから、嬉しいよ。どうもありがとう」

可愛らしい満面の笑顔で。

不意に腕の中に抱き込んだ。

「シード?」

「……ごめん…さっき、言いたくない事言わせちまって」

「ううん、大丈夫だよ?でも、ハイランドではこういうお祝いの仕方するの?」

「いや……あのな、蝋燭って言うのは、ゆらゆらしてるだろ?ゆらゆらしてて、吹き消すと、煙が出てちょっとずつ周りに溶けてくよな?」

「……うん」

「……だから、何つーか…その年に痛い事とか、辛い事とかもあるわけだよな」

「うん」

「それを、ちょっとでもそうやって薄めようっていう、おまじない。考案者は俺」

「そうなの?」

シードは腕の中の葛葉を覗き込んで見つめた。

「こんなんで、くーちゃんが辛いと思ってるのが軽くなる、なんて俺の思い込み。けどさ、くーちゃんが淋しいと、俺だって淋しいからさ」

「………うん」

「けど、これから毎年ずうっと一緒にやるから。くーちゃんが痛くなくなるまで、いっしょにやるから」

「……うん」

瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

 

消せない過去の傷。

一生背負っていかなきゃいけない、罪。

一緒に背負ってやる、なんて綺麗事は言えないけど。

せめて少しでも軽くなるように、隣で支えてあげるから。

 

「くーちゃん、願い事をしながら蝋燭消して?」

「うん」

 

願い事はただ1つ。

こんなに自分のことを大事にしてくれるシードと、出来るだけ長く一緒にいられる事。

 

揺らめいていた炎は、小さな空気の音とともに、静かに消えた。

 

 

      あとがき

いやあああ!こんなんにしかならんかった…()というか蝋燭の話でとある話を思い出した方、俺は織田裕二がすきです()

宥人しゃん、ごめんなさい…いつでも返品可なので……「こんなもんいるかよ!」という勢いで突き返して頂いて構いませんです(滝汗)          

 

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