Wandering heart
あなたの口から彼女の名前が出るたびに、
泣きたくなるほど切なくなる。
その理由はわかるような気はするけれど、
認めたくないと強く思ってる。
あなたにとって彼女は大事な人。
自分の命を投げ打ってでも守りたい存在。
私たちを追っている組織の影がちらつくたびに、
あなたはその頭脳をフル回転させてる。
どうしたら彼女に被害が及ばないか。
どうしたら彼女を守れるのか。
どうしたら組織に近づけるのか。
それはあなたにとって当たり前の行為で、
私もその気持ちは少なからずわかるつもり。
それでも今のあなたの状況を全くわかっていない彼女よりずっと近くにいる私の事も、
彼女と同じように見て欲しいと思う。
わがままだとわかっているけど、
彼女に正体を教えてはならない事もわかっているけど、
それでも、と思ってしまう。
でも。
「志保」
あなたは私に気付いて名前を呼んでくれるから。
全くあなたの世界にいないわけではないと浮上する自分がいて。
でもきっと元の姿に戻ったあなたは、
彼女の事しか見なくなってしまうのでしょう。
一緒に元の姿に戻った私の事を忘れて、
平凡な高校生の生活に戻ってしまうのでしょう。
あなたを元の姿に戻してあげたい。
私の事を少しでいいから気にかけていて欲しい。
矛盾する気持ちを抱えて、
今日も私はあなたのために試験管を覗き込むの。
「志保。コーヒーいるか?」
ひょいと覗き込んだその顔もいつまで見ていられるのかな。
「ええ」
「持っていこうか?」
「ううん、そっちに行くわ」
いつまであなたが私の名前を呼んでくれる声を聞いていられるのかと、
いつか聞かなくなる日がくる事を自覚しながら、
どこかわがままな独占欲を抱えたまま今日もあなたの隣にいる。
○あとがき
わけわかりませんね。またも志保嬢の独白トークになってしまいました。
藤妃しゃん、10000hit overおめでとうございます。