SURREAL

 

 

 

 

「おや?」

ドアを開けて覗いた会議室。

もう軍議の時間だというのにリーダーである葛葉がいない。

「葛葉様はどこに居られる?」

いつも始まる三十分前には会議室にいて、誰より早く書類を読んでいるのに。

珍しく、冷静な軍師が慌て、みんなに心当たりを聞き出した。

「ルック、葛葉様は?」

「知らないよ……探しに行けば早いんじゃないの?」

「だから闇雲に探しても……」

「………行ってくるよ。それでいいだろ?」

 

 

面倒くさい。

本とはあんな軍師の話なんか聞きたくもないけど彼の事だからね……

 

 

 

どこにいるんだろう?

 

広すぎて一人ではいたがらない彼の部屋。

今はもう還らない彼の付き人の部屋。

読書家の彼がすきな本を大量に置いた図書室。

ほっといたら大雨の中でも座っている屋上。

 

みんな見て回ったのにどこにもいなくて。

 

いい加減疲れてきた頃、向こうの方でぼんやりと窓辺に座ってる彼を見つけた。

 

「葛葉」

こんな日当たりの悪いところで。

こんな目立たないところで。

一体どうしたの?

 

「葛葉?」

近寄って覗き込んだら、ようやく僕の事に気がついたようで。

「え……ルック?」

「探したよ。もう軍議だって、軍師が慌ててたよ」

「……もうそんな時間かあ…ごめんね探してくれて……」

 

小さく微笑んだ彼の顔色は酷く悪い。

 

「葛葉。顔色悪いよ?何か……」

「?なあに?早く行かなきゃマッシュさんに怒られちゃうね。いこ?」

追求しようとした僕を振り切るかのようにひょいと窓辺から降りて歩き出して。

「葛葉……」

僕はそれ以上何も言えずに、その後を追いかけた。

 

 

 

「遅くなっちゃってごめんなさい。じゃあ始めます」

葛葉の可愛らしい声が部屋に響くけど、僕はそれを聞いていられない。

葛葉の方に視線が行って……

 

「だから、5つにわけて包囲するって言う感じで……」

「人数は足りますか?」

「……はい、足りると思います。魔法担当の皆さんは、僕たちの後衛から遠距離攻撃をしてもらえますか?」

 

一瞬ルックに視線が向いて。

 

「しかし、相手方の人数は……」

「それに関しては心配は要らないです……」

 

………もしかして危ないのかな。

 

言葉が途切れる。

「葛葉様?」

「……相手の今までの出方、とか、カゲさんにも、調べて……っ」

 

………息が出来ないよ?

 

がたん、という音がして葛葉がその場に崩れ落ちる。

 

「葛葉!」

「葛葉様!?」

 

いち早く駆けつけた僕は葛葉を抱き起こしたけれど。

 

「葛葉、息を吸うんだよ。葛葉!ねえ!」

 

 

 

あいにく軍医は近くの村の子供のために診察に出かけてしまっていて。

心配か何か知らないけど山のように人が詰め掛けてきて。

唯一医学の知識のある僕はそいつらを彼の部屋からたたき出すと診察した。

 

「ルック、葛葉は?」

「……過労だね」

「過労?」

「あの子、自分の仕事をした後見回りにも行くし、偵察にも自分で行くし、何だってやってるからだろ」

 

 

そう。

彼は自分の仕事を人に押し付けたりなんかしない。

ましてや、それを回りの人間に感づかせる事さえも。

 

 

「………とにかく今は寝てるから。静かにしてやってよ」

「ルックくん……あとは私がついてるから……」

 

彼の最後の家族。

でも。

 

「いや……いいよ。今回は……きっと逆効果になる……」

 

優しい彼はつきそいの姿を見てすぐに起き上がるだろう。

すぐに今まで以上に仕事をこなすだろう。

みんなに心配かけないように。

 

「………わかったよ……でも、目を覚まされたら、すぐに教えてもらえる…?」

「……わかったよ」

 

 

 

ぞろぞろと帰って行く音。

その最後の気配が消えた時、彼は溜息をついた。

 

「………これが本当だとしたら……残酷だね、葛葉……」

 

 

 

案の定彼はそれから2日後には仕事に戻った。

周りのみんながどれだけ止めても、

「心配しないで?もう大丈夫だから」の一点張りで。

彼が何も言わないから僕も気づいてないフリを続けて。

 

その微笑の裏に隠された事実は僕と葛葉しか知らないままで。

 

その間にその事実は大きな闇に姿を変えていって。

 

 

 

「これで、終わりだね……」

皇帝を倒してどうにか崩れていく城から脱出して。

真っ赤に燃え盛るそれを見ていた彼がその言葉とともに崩れ落ちた。

 

「葛葉!」

「………ごめんね、もう大丈夫じゃないみたい……」

 

小さく咳き込んだ彼の手は真っ赤で。

 

「………どうしてもっと早く言わなかったのさ。あの時に……」

 

あの時には既に彼の身体は不治の病の一つとして有名なものに冒されていて。

もう紋章や薬では引き返せないところまで進行していて。

 

「………だって、言ったら心配するでしょ?」

 

こんな時まで僕を安心させるために笑わないでよ。

僕は君に何も出来なかったんだよ。

僕に力がないから。

僕は君が望むように隠し続けている事しか、出来なかったのに。

 

「………どうもありがとう」

 

とっくに知ってるって事、僕は知ってたよ。

それでもルックは黙っててくれたから、

それで十分だよ。

だって僕は知ってたんだよ。

僕の病気は絶対に治らないんだって。

 

「…………ルック……」

 

そのまま眠るように彼は逝ってしまって。

抱きかかえてる身体は温かいのに。

 

「葛葉……」

 

止められなかった涙が、零れ落ちた。

 

 

 

君は辛くても微笑むから。

泣きたくても平気な顔をして、たった一人で抱え込んで。

それは決して君の意識の中では自己犠牲なんかじゃなくて。

だったら何だったかといえば、

 

ただ君は、自分の存在価値を認めてはいなかったんだね。

 

―――君が望んだ世界は君がいてこそ輝くものなのに。

 

 

 

永遠に生きるとされる彼は『行方不明』の英雄として崇められ、城には銅像まで立てられている。

 

その陰に隠された事実は誰も知らないまま、

 

彼の眠る地の在り処を誰も知らないまま。

 

「おやすみ、葛葉……」

 

 

 

○あとがき

りんちゃんPCサイト開設おめでとうございます!! 

うーん…歌に合ってるようで見事にあってない……その上一歩間違えば間違いなく墓地行き(苦笑)

いつでも返品可なので「いらないんじゃこのお!」という勢いで突き返して下さって構いませんです、はい。 

 

 

 

 

  

  

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