「気付かれぬ思い」
夜、着替えているところに声をかけられた。
「シード」
「んー? どした、くーちゃ…ん…」
普通に返事してみせて、動きを止めた。
「…って、くーちゃん!?」
驚いて声のした方を振り返る。
「なんでココに!?」
よく考えなくても不思議な話だった。
今いる場所は、ルルノイエの私邸の寝室。
ルルノイエだぜ、ルルノイエ。
ハイランドの首都。
城じゃないとはいえ、いるはずのない人がいたのだから驚きもする。
ちなみに、城にいたならさらに驚きだが。
「え…。あ…迷惑、だった…?」
くーちゃんが、表情を曇らせる。
「いや、迷惑とかそういうのじゃなくて、驚いただけだよ」
曇った表情をなんとかしてあげたくて、優しく告げる。
「オレは、くーちゃんに会いたかったから、スゲー嬉しい」
笑って言い募る。
「…僕もね、会いたくなって…」
「マジ?」
嬉しい一言に、思わず聞き返してしまう。
そして、すぐに言葉を重ねる。
「くーちゃんも、そう思ってくれてたんなら、さらに嬉しいよ」
その表情は笑みのままに。
「良かった。あの…ね? お願いがあるんだけど…」
そっと切り出すくーちゃん。
「なんだ?」
視線を伏せて、言ってきた。
「少しの間でいいから、ぎゅって抱いて?」
伏せられていたため、表情は分からない。
微かにだけれど、声が震えていた。
どうして? なんて問いかけはしない。
きっと、くーちゃんを困らせるだけだろうから。
ただ、黙ってその身体を抱き締めた。
腕の中の身体は、縮こまっていたけれど、少しすると力を抜いてその身体を預けてきた。
タイミングを見計らって抱き上げる。
「…シード?」
当然、疑問に思ったくーちゃんが問い掛けてくる。
「んー、立ったままじゃ抱き締めにくいし。移動しようかと思って」
「どこに?」
「ココ」
辿り着いた先はベッドサイド。
くーちゃんを下ろすことなく、
まずは自分でベッドに腰掛けてベッドヘッドにもたれられるように体勢を整える。
そして、くーちゃんを横抱きにして僅かに力をこめて抱き締めた。
くーちゃんが安心するように、ぎゅっと抱き締める。
すぐに慣れたらしく、身体を凭れさせて擦り寄ってくる。
さらに、くーちゃんの手はオレの上着を握り締めていた。
子どもが親に甘えるような仕種。
何か、不安なのだろうか?
でも、何も聞くことは出来ない。
分かってはいるけれど、声にしてみた。
「何か、あった?」
そっと、聞いてみる。
「…分からない」
分からない? なんで?
「時々あることだから」
「そうなのか?」
「うん。一人でいると、たまに抱き締めて欲しくなるときがあるんだ」
「一人でいると、なのか?」
「そう。理由は分からないけど」
「くーちゃん」
名前を呼んで、頭上から髪に口付ける。
「なに? シード」
「いつでも、ココに来て良いから」
「…どうしたの?」
「迷惑なんかじゃないから。好きなときに来て良いから」
「…シード?」
ほんの少し、困惑気味に名前を呼ばれる。
「会いたくなったら、いつでもココにおいで」
そう言って、優しくキスした。
「愛してるよ、くーちゃん」
「…僕も、好きだよ。シード」
「なぁ、くーちゃん」
「なに? シード」
「もう、寝よっか。夜も遅い」
「あ…」
慌てて窓の外を見ている。
どうやら、時間にまでは頭が回っていなかったらしい。
「遅くまでごめん、シード。そろそろ帰るよ」
「今から? 泊まっていけばいいじゃないか」
「それは…シードに迷惑はかけられないよ」
「迷惑なんかじゃない。一緒に寝ようぜ?」
それ以上、くーちゃんの返事を待たずにシーツを被る。
腕の中にくーちゃんを抱えたまま。
「お休み、くーちゃん」
それだけ言って、抱き締めると目を閉じた。
「…お休み、シード」
あっという間に腕の中に収められたくーちゃんは、諦めたように眠りについた。
くーちゃん。
どうして抱いて欲しいのか分かってるかな?
きっと、分かってないんだろうな。
自分が、人恋しく思っている、なんて。
(了)
■後書き■
くーちゃんにお祝いですvv
サイト二周年、おめでとーございます。
結局、いつもと変わらずシード坊で…。
宜しければお受け取りください。
ちなみに。
返品・交換にも応じます。
めずらしくラブラブ路線?
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宥人しゃんに、うちの2周年記念に頂いてしまいましたvv
俺にも似たような発作(違)がありますが、なるほど、と納得したり(淋しがり屋)
シードさんが優しくてかっこいいのですvv
……うう、本来の感想は別のところにもあるのですが、
俺の表現力がないのでありきたりな事しか書けない…ごめんなさい(沈)
素敵なお話をどうもありがとうございましたvv
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