Forever Memories

 

 

 

 

 

 

 

「……セブルス…」

 

酷く疲れたかのように悲しみに顔を歪めた同窓生が、ある日訪ねて来た。

 

「何だ」

「………ジェームズが」

「知っている」

 

突っぱねるように言葉を遮った。

 

「死んだそうだな…」

 

淡々と言葉を紡ぐ彼は、いつもと何ら変わりない彼だったけれど。

廊下へと姿を消した彼の背中は、そのまま消え入りそうに小さかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇夜に映える、激しく燃え上がる家。

その中に、二つの影が見えた。

闇色のローブに身を包んだ男と、見知った顔の青年。

 

「ここは、絶対に通す訳にはいかないんだ」

 

眼鏡の奥で光る強い意志を宿した瞳が、相手の前に立ちはだかった。

だがそれを跳ね除ける圧倒的なプレッシャーが、彼の額に汗の玉を作る。

 

「思うのは勝手だが、それを実行できるだけの力は――お前には、ない」

「やってみなくちゃわからない」

 

右手に携えた杖を、相手に突き出す。

目前に立つ男は、口元を笑いの形に歪めた。

 

「持ち得た資質も、その頭の悪さではどうしようもあるまい」

 

そう言い放つと、間を置かずに韻律を唱え始めた。

彼も既に呪文の詠唱に入っている。

闇の魔術の威力は必殺。

対抗するには、同じ闇の魔術を使う他無い。

詠唱の速さはほぼ互角。

だが、僅かに彼の呪文が先に完成した。

彼の腕が動いて―――

瞬間、目が眩む程の光が辺りを包み込んだ。

そして。

 

光が消え去ると同時に首から上を綺麗に切り落とされた彼の体が、床に転げ落ちていた。

噴き出した血が、壁を鮮やかな紅で染め上げる。

その傍らに彼の頭があった。

あの澄んだ瞳は閉じられていて、もう何も映さない。

もう、何も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――!!」

 

声にならない悲鳴をあげて、目を覚ました。

まるで今し方全力疾走して来たかのように、心臓は速く脈打つ。

汗で体はびっしょり濡れていた。

静かな夜の空間に、乱れた呼吸音だけが染み渡る。

鮮明に蘇る、悪夢。

鼻孔に残る、血の香り。

目にこびりついて離れない、彼の死の瞬間。

あれは夢なのだと頭では理解できていても、恐怖と混乱に支配される。

けれども彼が死んだという事実だけは夢ではなく、正真正銘の現実で。

いっそ、全てが夢であってくれたなら。

そうすれば、彼は怖い夢を見て錯乱した自分を抱きしめて、

優しく慰めてくれるはずだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………泣かないで、セブルス」

 

俯いた顔を上げると、目の前にいたのは。

 

「僕は、君の綺麗な微笑みが好きなんだ」

 

何時まで経っても直らない、くしゃくしゃの髪。

眼鏡に覆われた瞳は、どこまでも真っ直ぐに見つめてくる。

いつも安心させてくれるあの優しい笑顔を浮かべて。

 

彼が、ここにいる。

夢ではなく、本当に―――

 

セブルスは震えながら、彼に手を伸ばした。

 

「セブルス……」

 

彼もまた、セブルスを抱きとめようとした。

けれどセブルスが触れた瞬間、儚くも彼は消え去ってしまった。

セブルスの手が、空を切る。

腕の中に残ったのは、僅かな彼の温もり。

床に落ちたいくつもの雫が、じわりと染み込む。

出たのは、掠れた声。

 

「ジェームズ………ッ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

身を裂く程の狂おしい、思慕。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何よりも誰よりも大切だった。

自分の命と引き換えにしても構わない程、愛していた。

守りたかったかけがえのない存在。

色褪せる事のない思い出だけが、永遠に生き続ける………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだね、セブルス」

 

部屋全体が全て白で統一された、清潔な部屋。

その中央にあるベッドの上で彼は横たわっていた。

 

「君が眠り続けてから、もう随分経ってしまったよ…」

 

ベッドの横にある椅子に座って、彼の顔を覗き込んだ。

原因不明の昏睡状態。

あの日の夜から、彼は目を覚まさない。

そして、更に不可解な事は彼があれから、全く年老いていないのだという事。

 

「ジェームズ…君は、時間を止める魔法でもかけたのかい」

 

ジェームズが死んだその日から、永遠は訪れた。

彼が永久に自身の時間を止めてしまったように、セブルスもまた。

シーツに散らばった長さも艶も変わらない彼の髪に、軽く触れた。

 

「君のそんな幸せそうな顔は…初めて見たよ」

 

学生時代、いつも彼は顰め面ばかりしていた。

卒業しても、それが変わる事はなかった。

しかし今、眼前で眠っている彼は、普段からは想像も出来ない程穏やかな表情で。

これ以上ない程に幸せに満ち溢れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の望む全てが、そこにある。

彼の望みは、たった一つだけ。

だからそれが叶わない現実に帰って来る事は、決してありえない。

 

 

 

 

 

 

幸せな思い出に生き続けていられるなら、そこが私の居場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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