代償





 たい焼き屋のオヤジは、今日も金に困っていた。

 折の不況から、リストラの憂き目に会い、なけなしの退職金で始めた、たい焼き屋。開店当初は、確かに黒字だったはずなのだ。それがこの一月、たったひと月も経たないうちに、売り上げが開店以来最悪の様相を呈してきた。こつこつと貯めてきた貯金も、崩さなくてはならない状況だ。
 オヤジは思う。
 それもこれも、あのガキのせいだ、と。
 元よりたい焼き屋など、単価が安いので数を売ってなんぼの商売だ。一個一個の利益が小さいからこそ、わずかの無駄も許されない。それが最近、金を払わずにたい焼きを持ち逃げする子供がいた。
 これは、忌々しき事態であった。
 オヤジは、日夜対策に頭を悩ませているうちに、とうとうストレス性の脱毛症になってしまった。抜け落ちてゆく髪の毛を手に、オヤジは決心した。

(もう手段は選んでおれん)

 その双眸は、狂気に濡れ光っていた。





「おじさん、たい焼きいつつくださいっ」
「! ……あいよっ」

 次の日の、夕暮れ時。やってきた客を前に、オヤジは昏い笑みを向けた。
 憎悪、狂気、そして――歓喜。
 普通の人が見たら、思わず顔をそむけて立ち去るであろう表情に、幸か不幸か、その客は気づいていなかった。その視線は、丁度鉄板の上で焼きあがった、いくつかのたい焼きに注がれていたからだ。
 オヤジはその間に、辺りに視線を走らせ、人気が無いことを確認する。そこはいつもの商店街ではなく、屋台を出すには向かないほど人が少ない、噴水のある公園だった。

「はい、500円ね!」

 手際よく紙袋にたい焼きを詰め、客である少女に手渡す。それを受け取った少女は、いつものように財布を捜す振りをした。
 実際少女がそのつもりだったかは分からないが、オヤジは少女が金を払うということを、もう信じていなかった。
 案の定、なかなか財布を見つけられない少女。オヤジは気づかれないよう屋台を回りこんで、少女の背後に立った。そして、やさしく問い掛ける。

「財布は見つかったかい?」
「!?」

 少女は突然後ろからかけられた声に驚き振り向くと、気まずそうな表情をする。そして――。

「えっと……ごめ゛っ!」

 いつものように謝って逃げ出そうとした瞬間に、その口はオヤジの右手によって形を歪められていた。
 殴られた少女は、勢い余って雪の上に倒れこむ。さっき受け取ったたい焼きは、抱えるように持っていたため、自身と地面との挟み撃ちによって、袋の中で無残に崩れてしまった。

「う……あ、……え……?」

 少女は、突然起こったことに思考が追いつかなかった。走り出そうとしたときに、世界が揺れるような衝撃を受け、視界は今、汚れた雪が覆い尽くしている。殴られて地面にうずくまっていることに思い至ったのは、左頬にじんじんと走る痛みを覚えてからだった。

「え……なんで?」

 しかし、状況は理解できても、理由は理解できなかった。

「分からないのか?」

 少女の疑問に疑問で答えたのは、殴った張本人である、たい焼き屋のオヤジ。

「え? な……うぐぇっ!?」

 上を向いて、何か答えようとした少女の背中からお腹にかけて、貫くような衝撃が走った。

「人様の物を盗むふてぇ野郎は、殴られても文句言えねぇよなぁ!?」
「ボク、女の子゛ぉうっ!」
「うるせぇ! そんなこと知るか!」

 少女の余計な一言に、オヤジはますますいきり立ち、何度も何度も少女の背中を踏みつけた。

「うぐっ……や、やめて……」

 哀願するような少女の言葉に従ったとは思えないが、オヤジは少女への攻撃を止め、だが、より攻撃的な言葉を吐いた。

「おっと、そうだったな。男ならそのまま警察に突き出すとこだが、女だからなぁ。体で払ってもらえるなぁ?」
「ひっ……」

 その言葉と、覗き見てしまったオヤジの表情に、思わず息を呑む少女。

「た、たすけっ!」
「うるせぇ!」
「うぐぁっ」

 少女はなんとか声をあげようとしたが、それもまたオヤジの蹴りによって、成功しなかった。

「面倒だな。ほら、お前の好きなたい焼きでも食ってろっ」

 そういうとオヤジは、見るも無残につぶれた、たい焼きの残骸を拾い上げ、少女の口に押し込む。

「うぐぅっ」

 そのたい焼きは、既に冷えきっていたうえに、雪と、少女の涙や鼻水に塗れていた。その味に、さらに少女の涙があふれる。

「そら、こっちこいっ」

 そんな少女をオヤジは抱え上げ、人気の無い公園の、さらに人目につきにくい茂みの奥に足を踏み入れていった。





「先ずは脱がせねぇとな」

 オヤジはそういうと、少女のダッフルコートの止め具を外してゆく。少女は後ろ手に縛られていたため、抵抗できない。首を激しく横に振って、否定の意思を示そうとするが、オヤジは最初から少女の顔を見ていなかった。
 やがて少女はコートとキュロットパンツを脱がされ、純白の下着をオヤジの前に曝け出す。

「染みつけねぇと高く売れねぇからな」

 オヤジはそう呟くと、少女の白いセーターを下着ごとたくし上げ、あまり発達していない胸にむしゃぶりついた。

「――――!」

 少女は、吐き気をもよおすような気色悪い感触に、声にならない悲鳴をあげる。もちろんその悲鳴が、助けを呼ぶこともなかった。

「揉みごたえねぇなぁ」

 勝手な感想を述べながら、オヤジは少女の胸を責めつづける。両手で絞るように揉みあげて、口で吸い付きながら、刺激を与えられて勃起した先端を舌で弾いた。
 胸を交互にしばらく責めた後、オヤジは顔を離して、少女の股間を覗き込む。

「ちっ、あまり濡れてねぇか」
「…………」

 当たり前だ、と少女は思った。好きでもない人に、無理やり強引な愛撫をされて、快感を得られる訳が無い。

「面倒だ。直接いじるか」
「!」

 オヤジが呟きながら少女の股間に手を伸ばすのを見て、少女はすぐに言葉の意味を悟る。怒りにも似た感情が恐怖を上回り、少女は自由になる足を振り回して、暴れだした。
 しかしそれは、オヤジを逆上させることにしかならなかった。

「コラ暴れるな……いてっ、なにしやがる!」
「!!」

 少女の膝が、丁度オヤジのこめかみを打ち抜く。少女にまともにダメージを受けたオヤジは、二度と暴れさせないために非常な手段に出た。

「クソガキがっ、このっ」
「……! ……!」

 少女の顔体問わず、オヤジの拳が降り注ぐ。やがて少女は、痛みとそれによる恐怖から、抵抗する意思をすっかり無くしてしまった。ときどきしゃくりあげるように、泣きつづける。

「はじめから、そうやって、おとなしくしてりゃ、いいものを」

 興奮で荒い息をつきながら言い放つ。そして、いよいよとばかりに少女の足を掴んだ。
 一瞬少女は固く足を閉ざしていたが、オヤジに睨みつけられ拳を振り上げられると、観念したように力を抜いた。
 オヤジはそれを認めると、少女の両足を、少女の頭を挟むような形に持ち上げる。自然、股間が突き出された。そこにオヤジの指が伸びる。
 オヤジは、はじめは下着の上からさするように、少女の秘所に刺激を与えてゆく。やがて強めにワレメを擦った。

「…………!」

 すると、次第に少女の鼻息が荒くなっていき、下着にはうっすらと染みが浮かび上がってきた。
 少女が抵抗を諦めたことで、体のほうも刺激に素直な反応を返すようになったのだろうか。

「へへ、濡れてきたじゃねぇか」
「…………」

 そうすると。オヤジはますます大胆に少女の秘書を愛撫しはじめる。下着の上からワレメを舌でなぞり、上にある突起を舐る。

「これくらいでいいか」

 オヤジはそう言って、やおら自分のズボンをパンツと一緒に下げた。少女はそこから飛び出したグロテスクなモノに、思わず目がいってしまい、吐き気を催した。
 それからすぐに、これから起こることに想像がおよび、青ざめる。しかし少女には、現状を打開する術は既に残されていなかった。それこそ、奇跡でも起こらないかぎり。

「オレので汚れたら、売れねぇだろうしな……」

 オヤジはまた一人ごちると、ゴムをつけた。
 そして、自身を、下着をずらして顔を出した少女のワレメにあてがい、なぞるように動かしてから、分け入ろうとした。

「……っ!」

 自分の中に異物が入り込む感覚に、少女の身体が強張る。間をおかず、身体を真っ二つに裂くような、破瓜の痛みに、意識が飛びそうになった。

「うお、きつ……初物だったのか。こいつは売れるんだろうな?」

 また勝手なことを呟きながら、オヤジはいきなり腰を激しく動かす。射精するための動き。そこにはもう、少女を感じさせるような行動はまったくなかった。
 少女の中は、破瓜の血と愛液で濡れていたので、きついながらもオヤジの動きを妨げることにはならず、かえって強い快感を与えていた。

「はっ、はっ、」
「…………」

 オヤジは荒く息を吐きながら、自分のモノで少女の膣を、激しく擦る。
 少女は、すべてを諦めたように全身の力を抜き、ただ涙するだけとなっていた。
 人気の無い公園の中に、淫猥な水音と、パンパンと腰をぶつける乾いた音が響く。

「はあ、はあっ、……おお、いくっ、おおっ!」

 そして、終わりは唐突に現れた。
 オヤジは少女の膣奥に自身を叩きつけると、ありったけの精液を放出した。
 オヤジがゴムをつけていたのは、はたして少女の慰めになるだろうか。





「じゃあ、こいつはたい焼き代がわりに貰っていくぜ」

 後片付けを終えたオヤジは、少女のパンツを剥ぎ取って、大事そうにビニール袋に入れ、硬く封をすると、懐にしまいこんだ。
 少女には、その声は聞こえない。

 なぜなら、少女の意識は、目の前に落ちている、小さな人形に注がれていたから。
 天使の人形。
 それを見た少女は、すべてを思い出した。
 そして――。

「……ボクの、最後のお願いです……」

 少女の声もまた、オヤジには聞こえていなかった。





『今日未明、○○町の公園で、中年男性の惨殺死体が発見されました。被害者は、○○市に住む自営業の――』







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