『Bitter&Sweet  Kaidou side』



事の発端は、青春台のショッピングセンターを、菊丸と海堂の2人が一緒にうろついている時だった。
突然菊丸は海堂の制服の袖を、ぐいぐいと引っ張ってくる。
「あ〜!かいど〜!見て見て〜!」
「何ッスか?」
「あれ、すっげ〜カワイくない?」
「?」
菊丸が指差す方向を見てみれば、そこにはバレンタインの特設コーナーがあった。
「これこれ〜」
菊丸が海堂の腕を引っ張って、お目当ての商品の前に駆け寄る。
「かわい〜にゃ〜」
「へえ・・・なかなかいいッスね・・・」
「でしょ〜?」
それはカラフルな色にペイントされた、掌サイズの缶の入れ物。
中にはチョコボールがいくつか入っているらしい。
しかも缶のフタにはコミカルな動物が、ちょこんと乗っかっていて一層愛らしさを増していた。
「ね〜ね〜買おうよ〜」
いつもなら恥かしくて絶対に買わないが、こういうことには平然としている菊丸が一緒なのだからいいだろう。
「そうですね、何か入れるのに便利そうだし」
「オレ、アヒルにするにゃ!」
と、菊丸は黄色のアヒルが乗っかった、水色の缶を選んだ。
「じゃ、オレはこれにします」
「あ!オレもそれいいにゃ〜って思ってたんだ!」
海堂が選んだのはブチ猫が乗っかった、青の缶だった。
そして弟のためにとカエルが乗っかった、黄緑色の缶も手に取った。
会計を済ませ(もちろん自宅用なのでラッピングはなし)帰ろうとすると、
菊丸がまた海堂の制服の袖を引っ張ってきた。
「ね〜ね〜、かいど〜」
「はい?」
「ちょっと耳貸してよ」
「はあ・・・・・」
菊丸は海堂の耳に何かごにょごにょと囁く。
「・・・・・そうですね、バレンタインだし」
「でしょ!絶対にいいと思うんだにゃ!」
2人はまた同じ売り場に戻ると、菊丸は白いウサギが乗っかったピンクの缶を、
海堂は茶色の犬が乗っかった、黄色の缶をそれぞれ選んで、再度レジに持って行った。
もちろん今度はラッピングをしてもらう。
「楽しみですね、喜んでくれるといいんですけど・・・」
「だ〜いじょうぶ!喜んでくれるって!」
菊丸と海堂はほくほくしながら家路についた。
そんな2人をいくつかの怪しい影が見守っていて・・・・・

こうしてバレンタインデー当日を迎えた・・・・・

もちろん朝から生徒達は妙にハイテンションで、海堂にも下駄箱や机の中にいくつかのチョコレートが入っていた。
「名前もクラスも書いてないんじゃなあ・・・・・」
その3分の2が男からの贈り物だと、彼が知っているはずがなく。
放課後になると海堂は、あの包みを手に立ちあがって教室を出ていった。

「おーいv海堂ーv」
海堂が教室を出てすぐに声をかけてきたのは、やっぱり隣のクラスの桃城だった。
「なんだ・・・テメエか・・・」
「テメエってそんな・・・つれねえな、つれねえよ・・・」
ちょっとがっくりしている桃城の脇をすり抜けて、さっさと行こうとする海堂を桃城は慌てて引きとめる。
「何だよ・・・?」
「あ、あのよ・・・それ・・・何なんだ?」
と、桃城は海堂が手にしている小さな包みを指差してきた。
「何でもいいだろ、テメエには関係ねえモンだよ」
箸にも棒にも引っかからない言い方に、桃城は奈落の底へ突き落とされる。
「・・・・・・・・・オレにくれるんじゃねえの?」
「(キッパリ)当たり前だ」
桃城、撃沈。
突っ立ったまま固まっている桃城をそのままに、海堂は歩き去って行った。

「「海堂」」
きれいにハモった声に振り向いて見れば、そこには手塚と乾が立っていた。
「はい?」
「すまないな・・・海堂・・・」と、手塚。
「オレのために・・・嬉しいよ海堂・・・」と、乾。
「「むっ!!!!!」」
そしてお互い額をつき合わせて睨み合う。
「黙れ・・・乾・・・」
「手塚こそ邪魔しないでくれよ・・・」
「海堂のチョコはオレのものだ・・・」
「何言ってんだ、データーによると99%の確率でオレだ」
「ふん、貴様のデーターなんぞアテになるか」
「何だと!」
「あ・・・あのう・・・(この人達は一体何やってんだ・・・コントか?)」
おずおずと海堂が声をかけると、手塚と乾はハッと我に返った。
「すまない海堂・・・さ、照れなくてもいいんだぞv・・・」
「お前からもらえるんなら、どんなものだってオレは受け取るぞv」
「「さあvvv」」
海堂は手の中の包みを見つめて、手塚と乾に視線を上げる。
「あ、これ先輩達のじゃないですから」
「「え!!!!!」」
「違う人にあげるものなんで・・・じゃ失礼します」
そう言うと海堂は背を向けて歩き去って行く。
その後には呆然と立ち尽くす、手塚と乾が残された・・・・・

「ふっふっふっ・・・・・やっと真打ちが登場ですね、海堂先輩」
海堂の前に姿を現したのは、生意気ルーキー越前。
「今度はテメエか・・・・・」
桃城といい、部長といい、乾先輩といい、さっきから何なんだよ・・・
海堂は深いため息をついた。
「先輩達もまだまだだね・・・最初からオレに決まってるのにさ」
「何がだよ?」
「その手に持ってるチョコっすよv遠慮しなくていいんすよ、さあv」
手を出してきた越前に、海堂は思わず吹き出した。
「え?」
「全く・・・お前といい、皆まだまだガキなんだなあ・・・そんなにチョコが欲しいのかよ」
「はあ・・・(正確には海堂先輩からのチョコなんだけど・・・)」
「わりいな、これは他の人にあげるんだよ・・・後で無記名のヤツやるから、じゃあな」
だからそうじゃないんだって・・・・・
その場に固まってしまったのは、越前も例外ではなかった・・・・・

海堂が職員室に入るため扉に手をかけると、向こうから菊丸が走ってくるのが見えた。
「あ!かいど〜!」
「菊丸先輩!丁度良かった!」
「も〜、参ったにゃ。山吹中の千石と氷帝の忍足が突然来ちゃってさ〜、不二と睨み合ってんだよ〜。もうワケわかんにゃい・・・」
「あ〜、オレもここに来るまで桃とか部長とか乾先輩とか越前とか出てきましたねえ・・・」
「にゃんだろ〜ね?」
「・・・・・チョコが欲しかったんじゃないんですか?」
「でもオレ達からもらっても、しょうがないにゃ?」
「そう言われればそうですねえ・・・・・」
「何2人してぼーっと突っ立ってんだい?アタシが入れないだろ?」
2人が首を傾げていると、聞き覚えのある声が後ろから投げかけられた。
「あ、竜崎先生!」
「せんせ〜、グッドタイミングだにゃ!」
「ん?何だい?」
「これ、オレ達からです。いつもお世話になってますから・・・」
「バレンタインだし〜」
スミレの手に2つの包みが押しつけられる。
「おやおや・・・まさかアタシがチョコもらえるとは思わなかったねえ・・・」
そんなことを言いながらも、スミレは嬉しそうだ。
「かわいい入れ物だね〜・・・ウサギの方は桜乃ちゃんにあげてもいいかい?」
「もちろんいいよ〜ん」
「菊丸、海堂、ありがとう。結構嬉しいもんだね」
ニコニコ笑いながら礼を言うスミレに、菊丸と海堂も嬉しそうにうなずいた。

その向こうには真相を知って、またもや固まってしまった4人と、呆然自失の不二と千石と忍足が。
そして7人に哀れむような視線を向けている、大石と河村の姿があった・・・・・

騒ぎの発端となった人騒がせな2人はその後、
スミレの家に遊びに行き、夕食をご馳走になって帰って来たという・・・・・


<完>



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