‐‐‐1
天使を見たことがあるか、と問われたら
僕は少しとまどってから、
「Yes.」
と答えるだろう。
僕が見たのは天使ではなかったかもしれない
いやきっと、天使ではないだろう
彼女はお世辞にも、優しく微笑みかけてはくれなかったし、
背中に、翼も、生えてはいなかった。
―でも、彼女は、静かに其処に、立っていた
しんしんと降り続く雪の中、
いつも、其処にたって、
待っていた――
‐‐‐春待草
「君も、座ったら?」
僕の問いに、彼女は、ゆっくりと首を横に振った。
「どうして?疲れないの。」
「私は、待っているの。」
彼女は俺の問いには答えずに、遠い空を見つめてそういった。
俺の問いに対する答えは、さっきからそればかりだった。
「・・・何を?」
彼女は空を見上げたまま何も答えなかった。俺は一つ息をつくと、
「そう。」
といって、いすに座り、彼女と同じように空を見上げた。
女である彼女が座っていないのに、男の自分が座るのはどうか、と思ったが疲れているので仕方がない。
現に、足はなれないランニングのおかげで相当ガクついている。いやまぁ、それはただ単に寒いだけかもしれないが。
俺は、少し自分の膝のあたりを見た。
相変わらず、小刻みに震えている。
俺は自分の手に、ハァー、吐息を吐きかけ、両手をすりあわせた。
・・・彼女はと言うと、白い半袖の、薄手のワンピースだというのに、少しも震えていない。
ワンピースの裾から覗く足は、雪のように白く、今すぐ透けて、空気と同化してしまっても、おかしくはないと思った。
彼女は、まだ空を見続けている。俺の視線にも気づいていないようだ。
恵子なんか、見てたらすぐに気づくのに。
俺は、彼女のしているように空を見上げた。
少し暗い色の空には、雲一つなく、向こうの赤い屋根の家の上あたりで、鳥が飛んでいる。
そういえば、こんな風に空を見上げるのは久しぶりだ。
あたりに沈黙が広がる。
でも、不思議と気まずくはなかった。
心が、安らいだ。
何も聞かず、何も言わない彼女は、俺が何かを言い出すのを待っているのではなく、只、そこに存在していた。
それが、心地よかった。
静かな刻が流れた。
沈黙が、優しく俺たちを包み込んだ。
こんなに静かな時間を過ごしたのは、久しぶり・・・かもしれない。
「雪が、降るわ。」
ふいに、空を見上げていた彼女が、つぶやいた。
「エッ?」
俺は、驚いて聞き返した。
確かに、少し空は暗かったけれど、雲はどこにも見あたらない。
それに、彼女の方から話しかけてくるなんて・・・
「もうすぐ、降り出すけれど・・・帰らなくて良いの?」
彼女は、初めて俺の顔をまともに見た。
・・・その目は、薄い黒で、どこまでも透き通って、終わりなど見えない。
俺は、少し考えるとうなずいた。
彼女の言っていることは、正しいのだろうと・・・不思議と、確信が持てた。
「じゃあ、俺はそろそろ帰るよ。・・・君は?」
「私は―待っている。」
彼女は、もう俺の目を見ずそういうと、また、空を見上げた。
「そう。・・・風邪、ひかないようにね。」
俺はそういいながら、腰を上げると、ゴミを、手で、パッパッと払った。
俺は、公園を出るともと来た道を、走り出した。
足の疲労は、すっかり、とれていた。
少し、沈んでいた気分も、今は清々しかった。
‐‐‐To be continued.
久しぶりの小説で、少し感覚が麻痺しています。
これは、今日OCBの授業中にいきなり光臨したネタです。
びっくりしました。
いきなり、文法やってるときに光臨しました。
授業無視して急いで、書きました。
続き物と言うことで、ある程度進んだところで表の表と別個にするつもりです。
アレ見にくいし。(汗
良ければ、感想なんぞ書き込んでくれればありがたいです。
では。読んで下さって有り難うございました。
2003.02.17 静海 零