おれだけのことで、漠然とした焦燥と渇望の表われなのか。テレビコマーシャルでオルテガの姿を目にして「こいつが頭突きさえしなければアルゼンチンは優勝していたかもしれないのに...」と思ったからなのか...
くそー、どういうことなんだ。ジャガー! 教えてホ・シ・イ・ゼ!
「......」
やっぱり、ぬいぐるみに聞いてもだめだ、こりゃ。
小さな手漕ぎボートの前を帆船がのろのろと進む。石灰が溶けているかのように濁った海は曇り空と一つになっている。船腹が露になっているのは海の水が少ないからだ。その後をオールで掻きながらついていくボートに私は乗っていた。人数は数人だった。それだけいれば手のひらでぴちゃぴちゃ水をいじくるだけで、大きく遅れを取ることはなかっただろう。それほど前方の帆船はのろかった。
目を見張り、いぶかしく思ったことがある。帆船は船尾の後方にオールのような細長い棒を二本平行にして置いていくのだ。私が乗っているボートに進行方向を示していたのか、それとも座礁を避けるために気休め程度でも装備品を捨てていたのか。
アルゼンチンだと思わせる景色を目にしたわけではなかったが、なんとなくそんな気がした。陸に上がった後、入国手続きが行われたのだろうか。よくわからないが私の傍らには希望に胸躍らせるといってもいささかも誇張ではない、劇画的な少年たちがセピア色の記念写真の一葉としてたたずみ、おれはどこどこのチームに行く、おまえは?などと闊達に息弾ませていたのである。
私はそんなふうな明るい未来を純粋に信じて目を輝かせている少年たちの側になぜいるのかわからず焦った。どこで一行に加わったか知れぬが、なにか軽率かつ軽薄な同調をもってして年甲斐もなく心ときめかせて乗り込んでしまったように思えてきた。
私はサッカーに未来を託してアルゼンチンくんだりまでやってくる有望な若者などではなく、日本の没落を日々実感しながら、いざとなったらパン券があるなどと心を落ち着かせている悩み多きふにゃふにゃ人間なのだ。どうしよう、なんにもやることないよ、こんなとこきちゃった。あうー(笑)
この夢から醒めたとき、急激な虚脱を感じたことはなかっただろう。ミルクティーの、誰かや何かに甘えたくなる、まどろみを誘うあの色にすべてが包まれていたから。(1998.8.27)
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