人よ

人よ
私は殺した
私の留守中に
部屋を荒す者を
獣の内臓をかきむしる者を
私の愛しの内臓のやわらかき
ぬくもりと思い出を壊す者を
私は殺しました
彼らの反省文を多く刷り
低い空からまきましょう
彼らの嘘の言葉は
内臓の匂いさえもしないのです
人生を棄てて殺したやつらは
剥製にしたくもないやつらです
スポンジのぬくもりは
焼却場からたち登り
工業地帯の海で溺れ
私にはなにも残りません
獣のしりをさわれません
獣の頭をさわれません
あのやわらかき静寂の
おとなしい毛皮は戻りません
ほどよい弾力と変温の皮膚は
私の指先にかすかに残り
殺人の記憶と共に
くすぐったいようなしびれと共に
胸までおりてせつなくさせます
獣は死に私は殺しました
私の部屋は血は流れなかった
血の流れない獣は殺され
私は血を流しました
眼を見開きなにも見ていない獣は
私の代わりに殺されました
私は何も見ないまま
すべてを知りすべてを実行しました
洗濯機が回る間
微動する床の上で
やつらを殺し酵素で溶かし
青く透き通ったプールに混ぜて
人の目をごまかしました
私は獣のために泣き
家を空けたことをくやみました
スポンジは散らばり
風に飛びます
彼らの反省文は悲鳴を上げて
風に溺れながらプールに沈みます
獣の優しいどんぐり眼は
毛皮になって初めて泣きました


   1994.10.15


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