膨れあがった季節

膨れあがった季節をどうにかしてくれ
膨れあがった季節は怠惰になりきれない
筋肉が溶けそうだ
立ったまま新聞をめくるこの体の脚が

この季節はいつなんだ
まろやかな顔をした図々しさ
筋肉弛緩剤のような風
南からざわざわと舐めるようだ

季節の羅針盤も狂ったのか
夏とはいわずにただ膨れあがっている
延命治療も必要としない
病んだような頑強さでなおも続く
「観測史上最高の」膨張

夜に虫が鳴く季節
縮みきらない空気の中で
夜露にならないふくらんだ季節
地磁気に狂った磁石盤のようだ
「観測史上最高の」夜
中空に立つ昼の空気
夜色の中のスタミナのない体
縮れたカレンダー

膨れたものだけがそこに溶け込み
活々としている晴天
「観測史上最高の」太陽
キャンセルができないリクエスト
身覚えがないまま時を送る
長く長く長く続く微熱
覚えてしまった薬品名

膨張
私がそう名づけた季節
二度と出会うことのない
「観測史上最高の」名もない通行人(エキストラ)


1994.8.30、9.9


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