青い空が広がり、白い雲がゆっくりと流れていく。
そして、その流れに逆らうように、白い紙飛行機が飛んでいく。
元を辿れば、サックスブ ルーの髪の青年が片腕を上げたまま、
紙飛行機の軌跡を目で追っていた。
涼やかな目元に、通った鼻筋、薄く色づいた唇、
全てが小さな顔のうちに揃って いる。
少女ような愛らしさが抜けない顔立ちを見て、
すぐに性別を判断出来る者は少な いだろう。
華奢な体つきも判断を鈍らせるが、
一度この青年が口を聞けばわかるだろう。
口を開ける前の可憐さは何処へ行ったのか、
威嚇しながら突っ掛かってくる様子 に、夢見心地は音を立てて崩される。
「何やってんだ、姫は」
グランドの中央まで歩いていたミハエルは、呟く。
ふと空を見上げれば、白い紙飛行機が目に入った。
思いあたる節があり、校舎の 屋上を見れば、見知った姿を発見した。
先日のテストで、ミハエルは首位を相変わらず守り抜いた。
それも当たり前と言 えば、当たり前だった。
戦士の血の影響もあれば、学生の身分ながら、
民間の軍事組織に所属していたりする。
もっと言えば、訓練時間にだって差がある。
芸能科から転科して来た、早乙女ア ルトに自分が負ける要素はない。
それは、当初パイロット科にいた誰しもが考え ていたことだろうが、
その予想を見た目とともに裏切って、現在、彼は、ミハエ ルに継ぐ次点の位置にいる。
それを評価する者もいれば、妬む者もいる。
現状、科内では後者の方が多いだろ う。
しかし、学校全体で見れば、団蔵早乙女の世継ぎまたは、
アルトが演じた好評名 高い桜姫東文章の影響か、
楯突く相手は本人の性格に反してそれほど多くない。
アルトの、美目麗しい容姿と女形とあって、女子の関心と人気は高く、
おいそれ 敵対視して女子の反感を買うのを怖れているだけかもしれないが。
校門に向かいかけた足の先を、後ろへと向け、
ゆっくりと歩き出す。
溢れかえる 学生達ね間を縫って、校舎へ戻る。
屋上ではアルト一人が佇み、空を見上げていた。
何を思ってか、アルトはよく空を見上げている。
その姿を、芸能科にいる頃から 見かけていた。
だから、パイロットになりたいのだろうか、と内心微笑ましく思 った。
メルヘンちっくなお姫様は、EX-ギアという鋼の翼を手に入れたはずが、
まだ焦が れるというのだろうか。
天を恋しそうに見上げる様は、昔、古典文学で読んだヒロインそのものだ。
アルトの後ろに立ち、距離は10mほど。
そこで声をかけた。
「これをお探しですか?」
手に持った白い細長い布を差し出した。
薄手の布は、風に端を揺らしている。
「・・・お前」
アルトは、驚きながら振り返り、ミハエルを確認した。
視線は、差し出した布に も移ったが、わけがわからないといった顔をしている。
しかし、それもすぐに引 っ込め、無表情に近い顔をすると、
手すりから手を放し、ミハエルの横を通り抜 けようとする。
「・・・」
見事なまでの無視に、苦笑してしまう。
警戒、顕にされれば、余計ちょっかいをかけたくなるのが心情だ。
「言葉が通じないのですか?ならば、私の目を見て下さい」
「はぁっ?」
横を抜ける腕を掴みあげ、驚きに強張る体を一瞬して、胸に抱き込む。
耳元でそう囁いて、悪戯な視線を向ける。
「はなせっ・・・」
「なんだ、話せるじゃないか」
「当たり前に決まってるだろっ」
アルトは、腕をほどこうとするが、そうさせるつもりは毛頭ない。
気色悪いなど と、色男に向かって好き勝手暴言を吐くお姫様は、
どこを探したって、美星のア ルト姫くらいしかいないに違いない。
髪と同じ色の睫毛が怒りに震え、その下の瞳からは、
研ぎ清まされた意思を、ミ ハエルに向ける。
怒りさえ、美しさを飾る宝石のようだと頭の沸いた考えが浮かび、
自分を大声で笑いたくなる。
ヒロインを恋しく思うあまりに、拘束して天へ帰らせない嫉妬深い男を、
軟派な 自分が演じるつもりなのだろうか?
「おいっ、放せよっ」
胸を強く押され、不意をつかれたこともあって、アルトは逃げ出す。
手から、逃げ出される。
茜が混じり始めた空が、アルトの髪と表情に背景としてよく似合っていた。
コンクリートの校舎の一部を後ろに従えた自分。
作られたような微笑みを浮かべ て、不機嫌な視線を受ける。
一瞬、迫力負けしそうになり、気づけば、持っていた布をアルトに被せていた。
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