2.
昼休み。
足は飛行訓練場に繋がる屋上に向かっていた。
井戸の中の蛙は空に憧れる・・・ そう自嘲しながら、
溢れかえる人波を分けて階段を登る。
扉を開ければ、風がすり抜けてゆく。
眩しさもあって、たじろぐ体に、人の声が かかる。
「君、演劇科の早乙女アルト君?」
「・・・そう、だけど。なんで知ってるんだ?」
目の前にパワードスーツを着けたままの男が立っている。
航宙科の生徒だろう。
同じ科ならともかく広い学園で自分を知っていることに驚 き、警戒する。
年は自分より年上に見えるが、パイロットスーツのせいで正確な学年はわからない。
明るい金髪の一部は、癖なのか螺旋を描き、
その隙間からゼ ントラーディ特有の尖った耳が見える。
シルバーのアンダーリムの奥には知性的な深緑。
目鼻共に整っており、女受けは 良さそうな顔立ちをしている。
「君、有名だよ?芸能と演劇科はただでさえ注目浴びるからね。
で、悪いけど、 まだ片付けし終えてなくて危ないから、
屋上で昼食は諦めてくれないかな」
男の言葉に不機嫌になりながら、年上かもしれない気負いが口を黙らせる。
チラ リとパワードスーツの背中を窺えば、翼が見える。
その奥では、片付け最中の生 徒が疎らにおり、何人かはコチラを向いている。
見られることに慣れてはいるものの、舞台以外で注目されるのは不快だ。
しかし 、片付け最中に低空飛行している生徒を見つけ、男の横に立ち目で追う。
男はアルトが目を細める様子に気付いたのだろう、
体を動かしてスーツを見せる 。
「興味あるの?」
「べつに・・・」
素っ気なく答えたつもりだが、態度で丸わかりだったのだろう。
男が笑う気配がした。
「中等部はまだ飛行訓練は出来ないんだけどさ、こういう合間に
ちょっとだけ触 らせて貰えるんだ」
年上かと思った男は、同い年かそこらのようだ。
驚きを隠しつつ、適当に相づちをうつ。
では、授業中に見たのは高等部の生徒だろう。
危険が伴うために慎重なのだろう 。
よく人を観察すれば、パワードスーツを着用した生徒の回りに、
高等部の生徒が 必ず立っている。
監督下なら、使用できるのかもしれない。
「へぇ・・・」
思わず声を洩らす。
あのスーツがあれば空を飛べると思うと胸が小さく鳴った。
「来年になったら、俺が遊覧飛行にご招待してあげようか?」
「えっ・・・?」
背は男の方が高い。
見上げる形になって不愉快だったが、男の言葉が気になり問いただす。
「本当か?」
空を飛べるかもしれない、その期待が膨れあがる。
男に顔を突き出せば、微笑まれる。
「空まで姫のお供をいたしましょう。大事に抱えてね」
男は手を横に軽く振り、ウインクを投げてくる。
からかわれた。
男の胡散臭い笑みに、怒りが沸き、感情のままに、睨み付ける。
「お断りだっ!!」
殴りつけたかったが、パワードスーツ相手には無謀過ぎる。
精一杯睨みつけ、踵 を返す。
男は呆気にとられたような顔をして、アルトを見た。
そして、笑い声を後ろから響かせる。
「いつか見てろよっ」
苦し紛れに吐き捨て、屋上を後にする。
乱暴に扉を閉めれば、大きな音がアルトの気を少しだけ晴らしてくれる。
航宙科に入れば、来年、自由に空を飛べるのかと思えば、
胸が期待でいっぱいに なる。
そして、アルトにある決意をさせてくる。
アイツより上手く飛んで鼻っぱしらを叩きのめしてやる。
思い返すは、さきほどのいけすかない男だ。
ギリギリと拳を握りしめた。
来年、と小さく呟いた。
「ミシェル先輩、さっき、話てたのって早乙女先輩ですよね??
知り合いだった んですか?ずるいですよー」
ミシェルと呼ばれた男は、パワードスーツを外しながら、声をかけてきた後輩を見た。
ミシェルを覗き込む少年のオレンジがかったピンクの巻き髪がふわりと揺れる。
「いや。ちょっとからかってやっただけ」
昼休みの時間を利用しての航宙科の暗黙のルールを知らなかったのか 、
生徒が立っていた。
サックスブルーの長い髪が風に揺れる様が綺麗だったから 、
女かと思い近寄れば、男子生徒の制服に気付き内心残念がる。
青い髪と美少女顔の男で、噂の人だと気付き、声をかけた。
女子生徒が、騒いでいるのを思い出して、内心おもしろくなかったので気にはな っていたのだ。
「何やってるんですか。早乙女先輩って、人気あるんですよ」
「知ってるさ。噂のお姫様がどんな感じか気になっただけだよ」
「そんなこと言って、美人だから声かけたんでしょ」
確かに美人だった。
気が強そうな目をしたかと思えば、焦がれるように目を細め 、弱々しく揺らす。
仕草や背丈、華奢な体躯もあって、何度なく錯覚を起こして、
隣に立つアルトの肩を抱き寄せそうになったことか。
「勿体無いよなぁ。実は女の子で、訳ありのため男装してるっていう展開は望め そうにないな」
「あぁ…そんな噂もありましたけど、ばっちし堂々と着替えしてたって聞きまし たよ」
自分の後輩にあたるルカが言うのを聞きながら溜め息を吐く。
からかってみたはいいが、予想に反してアルトが傷付いたように見えて、罰が悪 い。
「ちょっと悪いことしたな」
今更ながらに後悔する。
男相手に反省するなど珍しいと自分で思いながら、倉庫 の鍵を閉める。
ルカは後ろから回りをキョロキョロと見渡し、片付け漏れはない か確認している。
だが、聞き止めたのかルカは、大きな瞳をきょとんとさせ、うろんげに見てくる。
「早乙女先輩に手出したら怒りますよ?僕、ファンなんですから」
「安心していいよ、早乙女アルトが男である限り」
ビッ、とチェック表が挟まったボードを突きつけてくる。
自分にどんな偏見を持っているのか聞きたくなったが、振り返って視界に広がる フロンティアの空がアルトを思わせる。
確かに、あれが空を飛ぶ様は綺麗かもしれない。
「なに、笑ってるんですか?」
ルカが見咎める。
扉の取ってを引きながら、アルトが怒りに任せて背をむけた様を思い出して、
笑 い直す。
「なんでもないよ」
fin.
----------------------------------------------------------
美星学園の特色がよくわからなくて、
オリジナル設定というか捏造ばかりです。
中等部は飛行訓練できないとか。だって、中学生。
危ないじゃないですか!と、言い訳してみる。
みんな中等部の頃。
.