1.
5.4.3.2.1...
カウントが始まる。
火花がはぜる音がして、僅かな歓声が聞こえる。
教室から外を眺めていた。
たまたま、窓枠の影がちょうど顔にあたり、
日差しの 強さに目を焼かれることはなかった。
二羽の大きな白い鳥が、グランドの上空を、円を描きながら飛んでいる。
二周三周するのを目で追いながら、思考にふける。
あの場所のことに意識が向かう。
何百何千という目に曝されて、自分の一挙一動を凝視されるあの場所。
長 唄の声に隠れるようにして、場に疎らに広がる僅かな嗚咽を耳で捉えた時、
幕が下りる際の煩いほどの大喝采を受けた時、
その度に誇らしく思っていた自分は、 ある日、何処かへ行ってしまった。
大人になることは、時を知ることは、早乙女アルトには不都合だったに違いない 。
類いまれなる美貌の容姿と、その人ありと言われる父を師に仰ぎ、
叩き込まれた 芸を持ち合わせている。
行く末を約束されたアルトを人は羨むかもしれない。
色が緻密に溢れかえるあの場所と、今のコンクリートの校舎とマットな空。
その均一さに、心落ち着かせるようになって久しい。
一歩踏み出せば、全く違う世界があるのに、
ガラス一枚越しで見つめるだけで終わる。
淵など歩かなければ良かった。そんな世界があるとは知らなければ良かった。
幾千の視線は、緊張を強いり恍惚を生み出すものではなく、
拘束のように感じ始めてしまったのだ。
父はそんな自分を見透かして、蔑んでいる。
しかし、自分も父が抱く己に対する 気持ちを知っているのだ。
子は、跡継ぎであり、自分の名声を飾り立てる駒の一つであり、
そして、替えの きくものに過ぎない。
もう少し、あの男が自分に今とは違う感情を向けていてくれたら、
箱庭に気づか なかったのに。
扇を上手く扱えることを嬉しく、楽しく思えていたのに。
針の穴に糸を通すような演技が出来た時の身が震えるほどの感動に酔いしれてい られたのに。
いつの間にか、楽しい演技が、義務という形となって、圧迫していた。
鐘のなる10分前は、教室の雰囲気が変わる。
球体の液体が、形を保てず震える様 に似ている。
鐘が鳴れば崩れる。
危うい雰囲気を敏感に感じ取り、暗い考えを止め、
視線を教室の中に戻し、時計を見る。
至る所で小さく音が鳴るのは、お経のように歴史話を垂れ流すだけの
授業に飽きたやつからだ。
とっくに集中が切れ、次の昼食のことに 関心が移っている。
それ以上興味が沸かず、また外を見れば、
既に飛行訓練の授業は、片付けに入っ てるのだろう。
空は、ガランとしていた。
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