くるう、くるう、くるう────・・・・


欠けた月が、薄桃の花をつけた樹木を照らす。

くるう、くるう、くるう────・・・・

小さな花弁が雨のように降り注ぐ。
時には、優しい撫でるような風に攫われて
少しだけ空を舞う。

庭から離れていく様に、胸がしめつけられる。

この庭に留まらせて置きたかった。
小さな花弁も、胸の中で思い続けるあの子も。

一人しかいない庵は、思ったよりも冷たく
花は咲き綻び始めるのに、いまだに
あの氷で閉ざされた世界が残っている。

心の中は────・・・・

どうしたって、春を受け入れない。
新しい命を受け入れない。
新しい喜びも、幸せも、誰かの想いも受け入れない。

寄るのは、孔明も哀れむ小さな花弁。
青白く発光し、廊下に剥き出しの足で立つその下へと
ひらひらと降る。


「陸遜・・・・」


この名が、愛おしくて口にするたびに
じわりと広がるのは、愛しさだけではない。

苦しいのだ。

元の漆黒の髪が、罪の証のようにわずらわしく感じるほどに。
玉璽に魅入られし時、契約のように髪の色素が抜けた。
あの時は、自分の兄と変わってしまった容姿に決別する踏ん切りがついたと
無理やりに思い、戒めのようにしていた白銀の髪。
今では、さらさらと風に撫でられるたびに、視界に入る黒髪を
喜ぶことは出来ない。戒めも、何の憂いもなくなったはずなのに。

それでも────・・・・

「私は、お前の好いてくれたあのままで良かった・・・」

白銀の髪を、きらきらした大切なものを見つめるように
梳いてくれる時間は巻戻らないと知っても。


出会ったのは、数年前にしかならない。
自分が赤い星と世界の運命を知って、旅をして、そして選んだ悲運の子供。
希望と絶望を表裏合わせて抱え込ませた、玉璽に選ばれた者。
そして、自分を救った者。

自分の宿命だと言い聞かせ、黒く汚す手を、無垢な魂が手に取り
褒めてくれる度に心が痛んだ。
お前は知らなくていい。
かすかにあった嘲笑いも、いつの間にか溶け消え、
代わりに、これを穢すくらいならと、
汚すことを厭わなくなった。
黒と白。
対比させるように、黒く。
自分を割るようにして、心を保って、表だけで微笑み続けた。


「何もかも背負わせてしまった」


心の内を知られたくなくて、隠し続けた。
それは最後まで、知られずにあの子を傷つけることになったけれども、
もし、知られていたならば、今、あの子が消えるようなことはなかっただろう。
自分のひた隠していた気持ちに気づかなかったと、嘆いて罪に思い、
泣いてくれた子を、失うことはなかっただろう。
ただ、今、苦しい思いをするのは自分だけだ。

対比するには、一つでは適わなく。
対比させることは、自分と陸遜の関係を示す唯一の意地に近かった。

この世界は、白に包まれ、ただ一点、自分が黒く残っている。
生かされている。
今、この時にだってそう感じる。

でなければ、人々の笑顔が戻りつつある今、この時を笑えない自分が
この世界に在り続けていられるわけがない。

この元に戻った容姿が、罪がなくなったことを示すわけではないのに。

「陸遜・・・・」


力なく呟いた頃には、心を巣食う虚しさが体中を這いずり
全身を食い破っていく。
磨かれた廊下に、膝までが崩れ落ちた。
あの笑顔を見てから、段々と塞がることなく広がっていった
この空虚を、埋める術さえ探さずに好きにさせていた。

何故だか、自傷したい気持ちも、この空虚さも、あの子が
自分に残したもののように思える。
今では、残るものが、あの子から得るものがそれくらいしか残っていない。

出来ることなら、あの陽だまりのように柔らかい笑みに笑み返し、
ふわふわと揺れる髪を撫で、優しい音色に名を呼ばれたい。
この庭よりも、小さな、身動きできないほどの
とても狭い腕の中へと閉じ込めてあの生命を感じたい。
あの子が、自分の近くにいることを、どうしても感じたい。


「離れていても、心は離れはしないなどと・・・・気休めにも
 なりはしない。遠い所に行ったお前のことを、近くに感じられない」

呉と蜀の距離は良いのだろうか。数十、数百キロと離れていようが、
失う前は、離れていることに苦はなかった。
あの頃は、これからたくさん傷つけることを苦に思っていた。

裾から出た細い腕の上を、するりと花が伝う。
手の甲に落ちるのを、つと目で負えば、青白さでは負けないその手が目に入る。

「これが罰だと言うならば、受け入れるしかないのでしょう。陸遜・・・
 お前の帰る場所は、この世界に残しておかなければならない」

消えるのは自分の方だ。

どれほどの知を備えようと、人である限り、強くはなれない。
玉璽の力を借りて、人を捨て、ようやく手に入れた残忍さと強さ。

今はない。
あの子が、必要ないと言って一緒に持っていってしまった。


強く・・・・なれるのだろうか?


くるう、くるう、くるう────・・・・

螺旋を描いて降る花弁が可憐に庭を舞う。

くるう、くるう、くるう────・・・・

静かに、花が降る空間が別世界へ誘うように。


手を伸ばせば、廊下と庭などという区切りはなく、
本当に────・・・・

手が触れそうだった。

「陸遜、いるのですか・・・?」


葉の付かぬ桜の木に、花以外は集うわけもなく、
花の落ちる音は、あまりに小さく聞き取れない。

それでも、何かを期待して口を噤んで待ち続ける。

「────・・・・・」


「・・・・・・・」


「・・・・・・」


「・・・・・」

沈黙は孔明に何も返さない。

「・・・・」

諦めを滲ませた目で庭から、月を映せば、
狂うのを待っている光に照らされる。


「・・・・・」

とんっ────

と手を引かれるような感覚が孔明の意識を呼び覚ます。

降る花が、寄り添うように孔明の下に集まってくる。
可愛らしい花が、自分の横に落ちるたびに笑みを取り戻して、
胸の中がじんと熱くなる。
花が近づく気配が、とても似ている。
優しく柔らかで、軽やかな気配。

そうだった・・・・。

あの子は、いつも自分の下に嬉しそうに駆け寄ってくる。

家族も人生も幸せも愛も奪ってしまったのに、笑う陸遜が
いつの間にか人への希望を抱かせた。
駒の様に、陸遜を盤上に進めていたはずが、
その駒を守りたく思ってしまったこと。

思い出せば切りがない。

自分があの子にもらったもの。

幾年経とうが、この数年間で得られたものは
色褪せることなく自分の中で生き続けるだろう。


「共に・・・・・」





fin

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陸遜カムバーーーック!!!

当サイトで、ようやく・・・ようやく!!!
ED後の孔明様のお出ましです。
半年経過に近いんですけどーー!!

でも、ダメだった。
思い出して、泣いて、ちっとも進まなかった。
りぐぞーーんっっ!!
ごーべぇーーーっっ!!

どんだけだよ。
すんげぇ、泣きまくってた。
陸遜大好きみたいです。
ほんとに。

で、BGMにサントラ流したんですけど
なんか合わなくて、刃●散らすのサントラ
流してたんですけど、泣くにはコッチが
ピッタシだった。
いとう●なこ嬢の「蛍火」やべぇって!
何度、題名を蛍火にしようかと
悩んだくらいか。

この話は微妙に狂想〜とリンク
してあります。といっても、うちの文は
狂想〜とリンクしてるんですが。
自分の中の鋼鉄って感じにまとめてるので^^


ここまでありがとうございました!






























































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