おまけ
「なぁ、キモ試しやらへんか?」
旅行二日目の夜、食事も終りゆっくりしている時に和久が言い出した一言。
「で、準備して出てきたんだけども・・・」
目の前に墓場が暗く広がっていた。結構大きい霊園のようだ。
「よくこんな場所知ってたな」
「こんな事もあろうと昼間見つけておいたんや」
和久が得意そうに胸を反らす。いつのまに・・・
「いいじゃない。夏の風物詩よ」
桜子も妙に嬉しそうだ。何考えてるかはだいたいわかるけど。ノリは・・・
なんだ?キョロキョロと変な動きしてる。
「おいノリ?」
「うわっ!?な、なんだ辰実か」
一人挙動不審のノリに声を掛けると大げさに飛びあがられてしまった。こい
つまさか・・・。
「ノリ・・・お化け苦手とか言うなよ?」
「そ、そそそそんな事はないぞ」
説得力ないなぁ。
しかし生暖かい風が吹いてたり丸い月が微妙に雲に隠れてたりと雰囲気出てる
な。風に撫でられた身体がぶるっと震える。スカートなんてはいてくるんじゃな
かったな。足が心許ない。
「ルールは簡単や。俺が昼間墓場の一番奥に100円玉を2枚置いてきた。それ
を二人一組で取って帰ってくるだけや」
和久が霊園の奥を指差す。月明かりが雲で遮られて先まで見ることはできない。
「組みはこれで決めるわよ」
そう言って桜子が割り箸を3本差し出してきた。先の部分を手で握り締めて見
えないようにしている。
「さ、辰実ちゃん引いて引いて。赤が出たら私と一緒よ♪」
・・・・・・う〜ん。
「とうっ」
「きゃー赤。やったぁ」
「ていっ!」
残りの2本も奪い取る。
「・・・・・・全部赤じゃん」
「バレたか」
桜子がチェッと舌打ちする。バレバレだっつーの。
「桜子、ズルはあかんなぁ」
和久がテッシュで作ったクジを出してくる。こいつも桜子のやる事がわかって
たみたいだな。さすが和久。
「もう、なんで和久となのよ」
「まぁまぁ。エエやないか」
結局、俺とノリ、和久と桜子のチームに決まった。
「ノリ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫」
顔色真っ青だぞ。ノリ。
「それじゃ辰実とノリが先行や。きーつけて行って来るんやでー」
「ふーんだ」
「これは恐いな」
霊園の中を進む。夜遅く、国道から遠いためかすかな虫の声しか聞こえない。
ときおり響いて来る風に揺られる葉の音が何とも言えない。
「ところでノリ、お前本当に大丈夫?」
ノリと言えばスタートからずっと人の腕にしがみ付いている。
「ゆ、幽霊なんて信じてない。信じてないんだがいざ出てきたらどうすれば良い
のかわからないから嫌なんだよ」
そう言いながら周囲を睨み付けている。こりゃ相当重傷だな。
しかし幽霊か・・・。俺の場合左手首に本物(?)がいたから今更幽霊って言わ
れてもなぁ。
「うひっ」
「っ!!」
ノリの悲鳴に心臓が跳ねる。
「なんだ、猫か」
三毛猫がこちらを見ている。頼む、何だかんだで恐いんだから脅かさないでくれ。
「び、ビビった」
「さっさと終らせよう。雰囲気出過ぎだ。ここ」
ノリを引きずるように歩みを速める。邪魔臭いやっちゃ。
「お、おい辰実って・・・」
「ん?どうしたノリ」
ノリが何か言いかけたが不自然な場所で止まってしまった。ノリの方を見ると
ある一点を凝視している。
「どうした・・・・・・・・・げっ」
草の影。白い物が風に吹かれてゆらゆらと揺れている。・・・・・・ま、マジかよ。
「う・・・・・・うわああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「わっ!バカノリ!うきゃぁ!」
驚いたノリが飛び付いてくる。そのままバランスを崩して倒れてしまった。な
んか俺、押し倒されてばっかり。
「いてて」
背中を打ってしまった。ホント最近ついてないなぁ。
「な、何だコンビニの袋か・・・」
ノリがほっと息を吐く。
「とりあえずどけ。重い」
「ああ、すま・・・ん」
どきかけたノリの動きが止まる。
「おい、どした?」
ノリの目線を追う。倒れたはずみでスカートが捲り上がってショーツが丸見え
になってる。
「うわわっ。くそ、やっぱりスカートなんてはいてくるんじゃなかった」
スカートを直そうとするがノリの足がじゃまで思うようにいかない。
「ノリ、どけって。さすがに恥ずかしい・・・おいノリ?」
ノリの目がマジだ。
「おいノ・・・うひゃぁ!?」
「辰実ぃぃぃ!」
カバっとノリが抱き付いてくる。
「うわっちょ・・・バカ何考えてんだ!」
「辰実ーーー!もう辛抱たまらーーーーん!!」
「うわー!バカ!こんな所で欲情するなーーー!!」
「俺初めてだけどよろくしくーーー!」
ふざけんな。なんでノリの筆降ろしを俺がせにゃならんのだ。
「おーかーさーれーるーーー!!」
「辰実ちゃーーーーん!!」
ノリの肩ごしに桜子が走ってくるのが見えた。もの凄い形相だ。恐い。
「の、ノリ!早くどけ!桜子に殺されるぞ!!」
ダメだ。目が血走ってる。
「ノリ!あんた何やってんのーーー!!」
「ぐはぁっ!」
バキッと音がするほどの足刀がノリの側頭部にめり込む。うわぁ、ま近で見
ちゃった。
「い、いってーーーーー!!」
ノリが頭を抱えて転げ回る。そりゃ痛いって。
「はぁはぁ・・・辰実ちゃん大丈夫!?」
こくこくと首を振る。すっげー恐い。
「お〜い。何があったんや〜?」
遅れて和久が現れる。
「ほ、ホンマに何があったんや?」
ショーツ丸出しで倒れてる俺。頭を抱えてもがいてるノリ。ものすごい形相の
桜子。確かにこの状況はちょっとあれだな。
「ノリ!あんた私の辰実ちゃんに手出そうとは良い度胸ね」
毎回思うがいつお前の物になったんだ。
「あだだだだ・・・う、桜子・・・」
痛みが引いてノリがやっと状況が飲み込めたようだ。
「さ、桜子。これはその・・・」
「覚悟はできてんでしょうね」
バキボキと拳を鳴らす桜子。鬼だ。鬼が居る。
「桜子落ち付け?何もなかったんだし・・・」
「辰実ちゃんは黙ってて。これはお仕置よ」
うふふふっ、と笑って聞く耳もたない桜子。死んだな。ノリ
「こ、こうなったら・・・」
意を決したようにノリがダッシュで向ってくる。何する気?
「ちょ・・・きゃっ!」
ノリが俺をダッシュの勢いのまま俗に言う『お姫様抱っこ』する。思わず悲鳴
を上げてしまった。
「あ、こら!」
「何なんやー!?」
唖然とする桜子と和久を無視して俺を抱かかえたままその場から走る去るノリ。
「お、おいこら。お前どこ行くんだ!?」
「このままだと桜子に殺される!こうなったら愛の逃避行と書いて駆け落ちだー!!
「お前はアホかーーーーー!!」
ガサガサと霊園の脇の林の奥に進んで行くノリ。・・・もう好きにしてくれ。
まあ、この後当然桜子に捕まったノリは霊園の木に縛りつけられたのだが。
一晩中霊園に一人置き去りか・・・・・・迷わず成仏してくれ。
―END―