アリスの娘たち〜 お留守番
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「いらっしゃい、お姉さま」
シルヴィは久しぶりに会うハルカを、満面の笑顔で迎えた。
「少しご無沙汰したわね。シルヴィ、元気だった?」
「ええ、お姉さま」
「はじめまして、レイカお姉さま、シルヴィお姉さま」
一緒に連れてこられたヒロミが、おずおずとハルカの後ろから挨拶をする。
ヒロミはハルカが不在の間、同じく不在となるレイカの部屋に預けられることになった。
まだ精神的に不安定な時期であるため、保護者が必要なのだ。そのため、レイカの
妹であるシルヴィに預けられることになった。性転換後、部屋を出るのも初めてだし、
ハルカ以外の人間と接することもほとんど無かった。男だった時には初対面の相手
でも緊張したことは無かったが、今は他人の視線にとても敏感だった。ヒロミは通路を
出てレイカたちの部屋へ行く途中も、ものめずらしそうな男たちの視線に怯えていた。
ハルカの手を両手でしっかりと握り締め、隠れるように歩くのが精一杯だった。
「ヒロミちゃん、はじめまして。私がレイカ、こっちがシルヴィよ」
「よ、よろしくお願いします」
ヒロミはぴょこんとお辞儀をした。
「緊張してるの?かわいいわね。シルヴィも最初はこんなだったね」
「ワタシはこんなに臆病では無かったですわ。レイカ姉さま」
シルヴィは蔑む様な目で、ヒロミを威嚇するように言う。せっかくのオフ日に面倒ごとを
押し付けられるなんて、シルヴィはまっぴらだった。
ついさっきまで、追い返してやる!とレイカに不満をぶつけていたのだ。
「おや、厳しいねぇ。いずれアンタの妹になるんだから、もう少しやさしくしてやったら
どうなのさ?」
「なにしろワタシはお姉さまの、妹ですから」
「あら、私はあなたに冷たくしたつもりは無かったのだけど、そんな風に思われていたな
んて残念だわ……」
ハルカが悲しそうに言う。
「いえ、ワタシが言ってるのはハルカお姉さまのことじゃなくて、レイカ姉さまのことです」
「シルヴィったらね、ヒロミちゃんにアンタを取られちゃったもんだから、ずうっとむくれ
てるのよ」
レイカはくすくす笑いをしながら、ハルカに言う。
「ワタシはむくれてなんかいません!」
「あの……やっぱりボク、帰った方が……」
「ほら、ヒロミちゃんが怖がってるじゃない。」
レイカがシルヴィの背中を突っつく。
ヒロミは今にも泣き出しそうな表情で、シルヴィを見ている。
「ワタシはっ!…いえ、えーとね。ヒロミ…ちゃん?大声出してごめんね。」
「それじゃあ、私のお願い聞いてくれるわね?ヒロミをよろしくね」
「も、もちろんですわ。ハルカお姉さま」
まんまと二人の姉に、丸め込まれてしまったような感じもしたが、そもそもヒロミと
同い年のシルヴィがハルカたちにかなうはずも無い。
「ヒロミ、泣いたりしてシルヴィを困らせたりしちゃダメよ。明日には迎えにくるから」
ヒロミは、下を向いてこくりと頷いた。どうしようもなく不安な気持ちがこみ上げてきたが、
今それを言ってしまったら、ハルカを困らせることになる。そう思うと、黙って頷くしか
なかった。
二人はそれぞれの姉を送り出して、部屋の戸を閉じた。
「ヒロミちゃん?」
「は、はい、シ、シルヴィ……お、お姉さま」
「そんなに怖がらないで。別にとって食ったりしないから」
シルヴィは、ほんの9ヶ月ほど前の自分を思い出しながら、苦笑する。
この時期はまだ、自分でも思い出すと恥ずかしくなるほど、幼い行動を繰り返したりする。
姉というよりも母とも言うべき存在がこの時期の"娘"にとっては必要なのだった。
「何か飲む?紅茶なんてどう?」
「紅茶?」
「飲んだことない?とてもいい香りがするの。気分を落ち着けるには一番よ」
「……いただきます」
シルヴィは棚からポットとカップを出し、テーブルを整えて小さなお茶会の準備
をした。優雅な手つきで紅茶をカップに注ぎ、ブランデーをやや大目(これはシ
ルヴィの好み)にたらして、ヒロミの前に置く。
「ほんとう、とてもいい香りですね。シルヴィ・・お姉さま」
「いちおう同い年なんだし、シルヴィでいいわ。ワタシもヒロミって呼ぶから。
第一まだ"お姉さま"なんて、なんだかくすぐったいしね」
「でも、……ハルカお姉さまが」
「ヒロミ。いずれ姉妹として一緒に暮らすんだし、堅苦しいのは無しで……」
言いかけて、シルヴィはヒロミの表情が急に曇ったのに気が付いた。
「さっき、レイカお姉さまも言ってた、いずれシルヴィ姉さまの妹になるって。
ボ……私、ハルカお姉さまとは別れなきゃいけないの?」
「あ、いや……、そのね。人はいつか別れるときがくるわ」
「別れって?」
シルヴィはまずいことを言ってしまったと思った。ヒロミには、まだハルカは必要
不可欠の存在なのだ。自分だって急にハルカと別れることになり、新しい姉と暮
らすことになった時、不安で淋しくて泣き叫んで、2人の姉を困らせていた。
そして、アリスの娘たちの寿命は短かった。そもそも普通の人たちだって長く生き
てもせいぜい40年前後しか生きられない。クローン培養で生まれた生命の寿命は
概して短い。まして性転換という、過酷なストレスを受けた身体はさらに短くなる。
2人の大切な姉たちに残された時間も、また……。
「ワタシたちはまだ若いから、年上のお姉さまが必要なのよ。本当は年の近い娘
同士がパートナーになるのよ。でも、私たちの場合それはまだ先のことよ」
「ホント?」
「ホントよ。でも、ヒロミはワタシのこと嫌い?私と姉妹になるのはイヤ?」
シルヴィはわざと意地悪な質問をした。どうあれ、明日まで2人で過ごさなくては
ならないのだ。それならば、少しでも自分になついてもらわなくては困る。
「ううん、嫌いだなんて。そんなこと」
「良かった。じゃ、こっちおいで。髪を梳(と)かしてあげる」
「は、はい……」
ヒロミは紅茶の残りを、ごくんと飲み干して、シルヴィの隣にちょこんと座った。
シルヴィは鏡台からブラシを取り出してきて、ヒロミの髪を梳かしはじめた。
「真っ黒で細くてきれいな髪ね。毎日ブラシングしてるの?」
「はい、ハルカお姉さまに。……でも、シルヴィ姉さまの、髪も銀色でとてもキレイ
です……。手も……真っ白だし。真っ赤な……目も、とってもキレイ〜!」
そういうと、振り向いてシルヴィに抱きついてきた。
「ちょ、ちょっと、ヒロミ! 髪が梳かせないじゃないの」
「ふにゅ〜ん!」
シルヴィは、ヒロミに押し倒される格好で、じゅうたんに仰向けに倒された。
「ヒロミ、ふざけるのはやめ……」
みるとヒロミは頬を高潮させて、目もとろんとしている。
(さっきまで、ワタシを怖がっていたのに何で急に? 何か悪いものでも食べて
……まさか、紅茶飲んだからとか?)
船の住人の中には時々、嗜好品などの食べ物中に含まれる物質に、過剰反応
する場合がある。人によってその原因物質も症状も様々だったが。
シルヴィの場合は、幸いにそうした"危険な食物"はなかったが、姉のレイカは、
ホットミルクにリキュールを加えると、強烈な催淫効果があった。
ヒロミは、シルヴィの手をとって、まだほとんど膨らんでいない自分の胸に押し
付ける。とろんとした目が、"シテホシイ"、そうシルヴィに訴えていた。
「ヒロミ!あのね、しっかりして!今、水飲ませてあげるから……」
シルヴィはヒロミを振り払おうとするが、しっかりとしがみついて離れようとしない。
その時、部屋のヴィジホンのコールが鳴り響いた。
「こんな時に誰よ!取り込み中よっ!!!」
出たくても、ヒロミと格闘中では出ようにも出られない。
何度かコールがなった後、自動的に留守応答モードに切り替わる。
「シルヴィ?ヒロミ?? いないの〜?」
声の主はハルカだった。映像が出ないところを見ると、おそらく診察室か手術室
にいるのだろう。
「……シルヴィ。言うの忘れてたけど、ヒロミにアルカロイド系の化合物が含まれた、
食べ物とか飲み物とかあげちゃだめよ。あなた紅茶が好きだけど、ヒロミには飲ま
せないでね。もちろんアルコールもね。微量でもヒロミにとっては強い媚薬みたいな
効果があるから。じゃあね!」
「お姉さまぁ! それは先に言っておいてくださいっ〜!」
(アルカロイド系……紅茶?。カフェインか!お菓子のチョコレートにも……。
それに香りつけのブランデー。トホホ〜)
自分よりも小さい体の、どこにそんな力があるのかというほど、強い力で抱きしめ
られながら、シルヴィは遅すぎる注意事項を肝に銘じた。
「はぁ、はぁ……。きゅふぅ〜ん!」
切なげなヒロミの嬌声が部屋に響く。
(やれやれ、いきなり手間かけさせてくれるわねぇ……)
シルヴィは、シュミーズ1枚のヒロミを後ろから抱きかかえ、未発達の乳房の
頂点をなぞっていた。一度高められた性欲は、中々自分でも押さえがきかない。
ましてそれが、媚薬成分を含むものを口にしたとあっては。シルヴィはそのこと
を姉のレイカに、いやというほど味あわされたことがある。いや口にしただけなら
まだ、すぐに水なり冷たいものなり飲ませて、誤魔化せられたかもしれない。
しかし…ヒロミはハルカによってある程度「開発」されていた。髪を梳く行為が、
ヒロミを急速に高めたに違いない。
「はぁ〜ん、おねぇさまぁ。もっとぉ〜」
シルヴィはヒロミの首筋にキスをしながら、秘裂の頂点をつまみ上げる。
ヒロミの幼い花園はとっくに蜜であふれて、シルヴィの指をぬるぬるにしていた
ので、ぬるんっと若芽が逃げる。
「きゅっん!!」
ヒロミはビクンと体をのけぞらせたかと思うと、すぐに体重をシルヴィに預けてきた。
「イっちゃったの?ヒロミ。気持ちよかった??」
「はぁ、はぁ、おねぇ、さま、気持ちいぃ……」
(これで、収まってくれるかなぁ……。でもこのコ、かわいい顔してイクのねぇ。
なんとなく、ハルカお姉さまや、レイカお姉さまの気持ちがわかったかも?)
これまで、シルビィは「快感を与えられる側」だった。「伽を勤めるときに困るわよ」
と2人の姉に良いように弄ばれ、イかされるばかりだったから、こうして妹に
「快感を与える」のははじめてだった。一方的に与えられる、未知の快感に震える
自分が恥ずかしくて、うれしそうに責め続ける姉を意地悪だと思ったこともあったが。
(確かに、これは別種の快感かも。もっといじめて……いえ、イかせてあげたくなるわね)