シュークリームを二つ


ベッドに腰を降ろして、疲れきった腕を揉み解す。
「リトル、ちょっと良いか?」
「どうぞ」
風呂上りの濡れた髪をタオルで拭きながら、アスリアはリトルの隣に腰掛ける。
「さっきは御免な。ガキからかうのって面白くてさ……俺も、ずっと男して生きてきたから今更女に戻れとか
 言われてもぴんとこなくて……リトルと俺は、同じだし。リトルさえ良ければ、俺は一緒に居たいと思う」
「……………………………」
「今すぐってわけでなくてもいいんだ。一緒にムーンブルクを復興してもらいたい。俺は……そう思ってる」
自分よりも、三つ上の青年は少し照れくさそうに笑った。
数々の呪文を駆使する大魔道師も、一日の終わりには一人の男に戻るのだ。
「あのね、アスリア……教えて欲しいんだ」
「何?」
「僕たち、一体何なんだろうね。男でも女でもない……」
すい、と手が伸びて頬に掛かる。
レイの無骨な手とは違う、細く白い指先。
右手の中指を彩る紅玉。その玉の中にはムーンブルクの紋章が浮かんでいた。
「俺は俺。リトルはリトルだ。それじゃ駄目か?」
ゆらゆらと揺れる気持ちと絡んだ不安の糸。
ぷつり。と断ち切ってアスリアは満開の笑顔を浮かべた。
「リトル」
そっと唇が額に触れて、離れる。
「ア、アスリアっ!?」
指先をリトルの唇に当てて、アスリアは小さく笑う。
「しっ。隣の部屋で筋肉馬鹿が寝てるからさ」
ちゅ…と鼻筋に、頬にゆっくりと唇が下がる。
そろそろと手が下げられて、細い背中を抱きしめるように唇が重なっていく。
初めは、触れるだけ。そのまま次第に深く。
「……ぅ……ふ……」
絡まってくる舌先と、抜けていく力。
手を回すことも出来ずに、甘く唇噛まれては何度も何度も繰り替えて重なる。
「……っは……」
ようやく唇が離れて、呼吸できることで開放されたことを身体が気付く。
「女も悪くない?」
「……そんなこと、ないよ。でも……」
ぐい、と唇を拭う指先。
「僕は男だと思いたい。自分を。アスリア、君も王女だよ」
「本来はな……そう、戻れたらどれだけ楽か。俺に術をかけた本人は死んじまったしな」
解術を出来るのは術者のみ。その術者であるムーンブルク王はこの世にはもう居ない。
「面倒なことばっかりだね。お互い」
「でもさ、真面目な話……お前に術かけたのもうちの親父だと思うんだけど。サマルトリアって元々女血統だろ?
 だから、ハーゴンに対抗するためにお前を女に変えたんだと思うんだ。でも、敢えて男して育てた。
 どっかのアホ親父のとこのに攫われないために」
くるくると指を回すと、その先に小さな光りが生まれる。
そのまま小さなハートを描いて、アスリアはその光りを花でも渡すかのようにリトルに。
「どう思う?」
「可愛い……綺麗だと思う」
「重症だ。男だったら普通は、凄いとかだろ?十七年も女やってんだ。そうそう戻れるとは思えねぇ」
そういわれて、リトルはキッとアスリアを睨んだ。
「僕は、サマルトリアの第一王子。そんなにうちと戦争したい?」
「私も、ムーンブルク公国第一皇女、アスリアーナ。一人の人間として、サマルトリア第一王子に婚姻を申し込もうと思います。
 どうか、我がムーンブルクを御救い下さいませ」
跪き、その小さな手に接吻する姿は王子そのもので。
紳士的に接せられれば、懐かしい王宮での生活を思い出してしまう。
「アスリア……」
指を組んで、そのまま少し力を込めてベッドへと押し倒す。
「こんな隙だらけの男もそうそう居ないぞ?」
「止めろっ!!」
「んじゃあ、男だって証明してみろよ。俺が触ってもどうにも成らなかったら認めてやるから」
ローブの上から、やんわりと胸を揉まれて顔を逸らす。
少し物足りない大きさかもしれないが、これからまだ成長すればいい逸材にはなるだろう。
王宮で育てられた花は、ただ綺麗なだけじゃない。
「男なら、耐えてみせろよ?王子様」
上着を剥ぎ取ると、外気に晒された肌が震える。
掌に収まってしまう乳房にちゅ…と唇を当てると、ぴくんと肩が揺れた。
「ん?これだけでも感じる?」
「……くすぐったい……っ…」
そんな言葉はお構い無しに舌先でちゅぷ、と舐めあげて軽く噛む。
唇で挟みながら、吸い上げて口中で嬲るようにそれを弄ぶ。
左右を交互に責め上げる唇と舌先。
(やだ……絶対に違う……っ……)
ぎゅっと唇を噛んで、湧き上がる感覚を押し殺す。
初めて他人から受ける愛撫に、体は素直に反応してしまう。
やんわりと揉み抱きながら、解き取りその先端をきゅん、と摘み上げる。
「……ぁ……ッ……」
ぎゅっとシーツを握る手。頭を振って、必死に振り切ろうとしても。
「!!」
舌先はぬる…と滑りながら、小さな窪みを舐めあげた。
するりと手が腰を撫で上げるだけで、肢体が震える。
ズボンを取り払って、下着越しに指をそっと這わせていく。
焦らすように、卑劣を上下に撫で上げて時折その上をくりゅ…と捏ねるように押し上げる。
「…ぁ……ァ!!…」
もどかしげに揺れる細腰。
わざとじらしながら、ぐ…と親指を布越しに内側に僅かばかり沈めて。
「んんっ!!」 びくん、と腰が跳ねる。押さえつけて、尚も執拗に指先は擦るように動く。
「……邪魔なもの、取っちゃおうか……」
布地を剥ぎ取ると、秘所と離れまいとしてぬるつく体液が糸を引いた。
目を細めて、膝を開かせる。
「まだ、我慢できる?リトル……」
ちゅく…と指先を少しだけ侵入させて、半透明のそれを絡める。
「あ!!やだっ!!」
きゅっと充血した突起を摘み上げると、白い喉元が仰け反って。
その反応を楽しむように、今度は舌先がそこを攻めあげていく。
内側に入り込むその熱さ。
この体が女のそれなのだと、強く認識させられる。
例え、どれだけ自分は男なのだと言い張っても。
構成する柔肉は女であると雄弁に語るのだ。
じゅる、ぢゅく……触れられる度にこぼれる体液。
「あッ!!あ、あ…ァ……っ…!!」
指と唇は、止まることなくまるで違う生き物のように動き回る。
「女の子ってのはさ……気持ち良いとこうなるんだ」
指先を開くと、つ…と糸が二本を繋いだ。
「そんな……こと……ッ……」
小さな頭を押さえつけて、かみ合うように唇を重ねて。
離れ際に伝った銀糸を、指で断ち切る。
「……続き、しよっか……」
足先に引っ掛かったままのブーツを脱がせて、アスリアは口だけで笑った。
「やだ……やだっ!」
腰を抱き寄せた時だった。
「リトルから離れろ!!このオカマがァァァァァ!!!」
勢い良く扉を蹴り上げ、レイはそのままアスリアにとび蹴りを仕掛ける。
ひらり、とかわしてアスリアは逆にレイを魔法で壁にたたきつけた。
「油断もすきもねぇ!!」
「この夜中に来るってのは……おんなじこと考えてだろ、こんのマセガキ童貞が」
「誰が童貞だ!!オカマ野郎!!!」
つかみ合いながらぎゃあぎゃあと喚く男二人。
「………どっちも、いい加減に……しろっ!!!!」
叫びと共にギラの閃光が室内で炸裂する。
「!!!!!!!!」
「どっちもどっちだ!!!馬鹿っ!!!」
襟首を掴んでばちん!と派手な音。
頬に紅葉の痕二つ。壮大な往復ビンタが事の終止符を打った。
「ハーゴン倒すまでは一緒に旅はする!!けど、終わったら僕は神官になる!!!」
二人を外にたたき出すと、それきり扉は開かなかった。


どうしようもないくらい晴れた朝。
顔を腫らした男二人と、不機嫌極まりないといった表情の女一人。
この奇妙なパーティはムーンペタを出発することになる。
黒髪短髪の少年。長く伸びた髪を一つに結わえた青年。
笑えば可憐であろう少女。
名乗らなければこの三人があのロトの子孫だとは誰も思わないだろう。
「俺は別に三人でもかまわねぇけど、童貞君にゃきついだろうし」
「お前、脳みそまでピンク色かよ」
「ガキ。邪魔しやがって」
言い合う二人を槍の柄でがつん、と叩く。
「二人とも、目、瞑って」
「?」
「いいから、瞑って」
気迫に言われるままに、目を閉じる。
「!!」
口に詰め込まれたのは、シュークリーム。
「馬鹿なことで争ったって、何も生まれないよ。口喧嘩でこれ作れる?」
外壁の焼き具合と、中に入れるクリームの量。
シュークリームは見た目以上に難しい菓子の一つだ。
「まだ、契約できてないんだけど……唱えるだけで魂を消し去る呪文があるんだ」
伝説の高魔法の一つ「ザラキ」は一瞬で相手の生命の日を消し去る力を持つ。
それを習得できるのは、リトル一人だけ。
「今度なんかやったら二人まとめて始末するから」


困り者の子孫が三人。
遥か天空の古の勇者も苦笑するような者ばかり。
旅はまだ始まったばかりなのだから。




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