『暑い』
「暑い」って言って、ギル君が抱きついてくる。暑い暑いっていいながら、口の端を上げて何だか艶かしい顔。そう見えてしまうのは、僕がいけないんだろうか。わからない

ギル君は本当に暑そうで、米神のあたりからすっと汗が流れ落ちていた。髪が湿って細い束になっている。かき上げて流れる汗ごと唇を寄せたいけれど、ギル君が思いのほか強く抱きついていてそれが出来そうもない

「暑いなら離れればいいじゃない」僕はなんだか居たたまれなくて、可愛くない事をいう。嬉しいんだよ、何であれギル君が頼ってくれるのは、とても嬉しいんだけども

変なの、ギル君はそれでもクツクツ笑うし、僕はバカ正直にお願いする。冬将軍、ギル君を冷やしてあげて、とてもとても冷たくして。流れる汗が凍るほど、ねえ、そしたら君はもっときつく抱きついてくれるかな

「寒い」今度は逆の事を言いながら、ギル君はそれでも笑っていた。ぎゅうと抱きついて、一瞬で引いた汗、さらさらになった額を僕の顎に擦り付け、寒い寒いって笑うんだ。なんてずるい子だろう

「僕がどうにかしないといけないの」今度こそぎゅっと抱きしめて、言った声は少し苛立ったそれかもしれない。ギル君はずるい、仕向けるだけ仕向けて自分は責任なんて放棄して、全部僕のせいにする。それでもいいと思ってしまう、そんなギル君はずるい人

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