『どうしようもなく好きなんだ』
君は本当に綺麗だね――それがイヴァンの口癖で、顔を合わせると必ず言われる。そして確かめるみたいに、パーツひとつひとつに触れていくんだ。顔をよせて、ぱちりとも瞬かない俺の目を凝視して、薄らと笑みを浮かべながら。その顔はいつも、今にも泣き出しそうな笑顔なんだ

君の髪はまるで蜘蛛の糸。霧雨の朝鈴生りの水滴をつけて、鈍色に光る蜘蛛の糸。なんて綺麗な静寂。君の頬は透明な空の色。青なんてない、乱反射を起さないまっさらな色。時たま夕日がさして仄かに色付く何にも変え難い頬

君の鼻はとても思わせぶりだね。つんとして、すっと通って、何時もおすまししてる。君の耳たぶは柔らかくて冷たくて、それでもふっくらしていて幸せそうだ。君の薄い唇は、ニヒルでどこかコケティッシュ。君の一番女性的といえる場所。変だね、ギル君は男の子なのにね

顔だけでこんなに、ギル君はあらゆる物に彩られていて、飾られていて、なんて綺麗。僕はそのひとつひとつをあげられる。どんな言葉にだって置き返れるんだ。でも君を作る100の言葉はどれも一致しないよね。何者にもなるギル君、僕は綺麗な君を妬ましいと思う、君は自由だ

「ああいやだ、綺麗な君が嫌いだよ。僕だけじゃないもの、君は何処にでもいける、誰にでもなれる。僕じゃなくてもいい君が嫌いだよ」だけどね、それと同時にどうしても、どうしようもなく好きなんだ・・・言ってイヴァンはキスをする。まるで気持ちの篭らないキス。だから俺も言ってやらない

――イヴァン、俺はな。お前に好きと言われるなら、お前の望む何者になったっていいんだ。今俺の目は、何色に見えるんだ?

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