『共犯者だな』
柔らかくなめした皮のソファに深く座りながら、それでもギルベルトの手からサーベルは離れなかった。緩く目を瞑り、腿の上にサーベルを置き、時折その表面をさわりと撫でる。そんな些細な動きですら、ランプの作り出す影がゆるゆると揺れる。イヴァンはそれを、ただ見ていた

(深い影に縁取られたギル君は怖い、境界の曖昧なその姿がくっきりと浮かび上がって、まるで影絵みたいだ。何枚も重ねられた影絵が、ぱらぱらと物語を作っていく。それにしてもああ、なんて綺麗なんだろう。綺麗なギル君、くっきり見えすぎて怖いくらいだ)

堪えられずイヴァンは彼を呼んだ、公国君。途端、すぅと持ち上がった瞼が、隠しきれない苛立ちをその睫に纏わせイヴァンを突く。サーベルなどいらない、思う程、ギルベルトの視線は強い。ああごめん、王国君。わざとではないんだ、怒らないで(ああ怖い、楽しい)

ギルベルトのつま先がこつりと音を立てる。イヴァンのブーツに当る。サーベルが鞘ごとゆっくりと絨毯に立てられ、それを支える右手がふわふわと円を描いた。帝国殿。もうだめだ、ギルベルトの声は震えている。笑いをかみ殺し損ねて、ふるふると。つま先がぶつかる距離で嗤っている

悪い事をしないか。俺達にとって有益な、悪い事。ギルベルトはひどく機嫌が良い。伏せた顔、いまだふわふわと円を描く右手とサーベル。僕を誘うの、言ったイヴァンに顔は上がらなかった、けれど前髪が少しだけ揺れて、また影が揺れた。ああ、今だけは、共犯者だな。なんてご機嫌な声!

ギルベルトは左肘を腿に置き、親指と人差し指を擦り合わせている。手にサーベルを、無防備につむじを見せる彼の行動はちぐはぐだ。イヴァン、イヴァン、良いと言え。もう公式ではなくなった密談はこうして終る。声を上げて笑ったイヴァンによって。君は僕を知りすぎていて狡猾だ、言った声は少し揺れた

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