■ その2
 入学式を翌日に控えたその日。
 これからの準備のため、幾つか用事を済ませた翠が家にやっとたどり着いたのは、昼もとうに過ぎた頃。
「ふぅ・・・。」
 小さくついたはずのため息が耳障りなほど、家の中は静まり返っていた。
(ママは確か、お仕事の打ち合わせで出かけてるんだっけ。)
 そんなことを考えながら、自室へと向かう。
(新しい学校か・・・。)
 晴れの舞台を目前にして翠の表情は暗い。
 部屋に入ると、荷物を机の上に投げ出し、椅子へ身体をほうるように腰掛けた。
 横目で壁にかかる薄いピンクのセーラー服をにらむ。
 明日からはそれを身につけ、新たな輪の中へと踏み出さなければならない。
(私、大丈夫かな・・・?)
 時を追うごとに膨らむ不安感が彼女の心を圧迫していた。
「ふぅ・・。」
 また、ため息をつく。
 そうしたところでどうにもならないのは解っているが、不安をそうして吐き出さずにはいられない。
「んっ!」
 気分を切り替えようと頭を一つ振りかぶって、立ち上がった。
「とりあえず着替えよっ。」
 と呟くと、部屋着を収納から取り出した。
 スカートを脱ぎ、ブラウスのボタンに手かける
 と、ふと棚に置かれた写真立てが目に留まった。
(茜ちゃん・・・、元気かな?)
 今まで着ていたブラウスやスカートを畳みながら、写真に並んで写る親友を想うかべる。
 茜とはもう4〜5日会っていない。
 彼女も新しい学校への準備に忙しいらしくすれ違いの日々が続き、電話で声を聴くことしかできない。
(茜ちゃんに会いたいな・・・。)
 二人で過ごしたこの春休みの数日を振り返る。
(会って・・・。)
 ドクンッと心臓が高鳴るのが聞こる。
 翠は思い浮かべる茜の姿は、妖艶なものへと移り変わっていった。
(それで、茜ちゃんに・・・。)
 久々に甦る艶やかな興奮が彼女の身体をジワジワと焦していく。
 その熱に促されるように、翠は下着を脱ぎ捨てた。

 自分を慰めるのは、まだこれで2度目。
 最初のときは、恋人の手に支えられながらだったから、本当の初めては今。
 目を閉じ、あのときを思い出す。
『いきなり下のほうを触っちゃダメ。まずはオッパイで愉しむの。』
 ・・・茜の声が聞こえる。
 その声に導かれ、翠は立ったまま恐る恐る片手を胸にあてた。
 そっとを乳房を揉み始める。
「あん・・・。」
 自分の手の動きで呼び覚まされる快感にうっとりとした表情を浮かべる翠。
(私のオッパイってこんなに柔らかかったのかなぁ・・・?)
 普段は意識したことのないその感触に興奮は一層高まる。
『ほら、乳首が立ってきた・・・。ここも可愛がって。』
 恋人の声に導かれるまま、つんと立ち上がった乳首を摘むように指先で転がす。
「ひゃ!」
 甘く、そして強烈な刺激に思わず叫んでしまう。
 だからといって、翠は指の動きを止めようとはしなかった。それどころか指の動きは激しさを増す。
「ああぁ・・・。」
 いつのまにか両手が自分の胸を弄んでいる。
 その彼女の手の動きによって生み出される熱は胸からお腹へと集まっていく。
『だいぶ濡れてきたわね。』
 茜の声に翠は自分の下半身を見下ろす。
 股間から透明な液体が一筋、太ももを伝って流れ下るのが見えた。
 真下の床は、ラビアからポタポタと雨垂れのようにこぼれる愛蜜によって、シミが広がってゆく。
『さっ、お楽しみの時間よ。』
 茜の声に誘われて、翠はベッドの上に座ると足をMの字に曲げ股を大きく開いた。
 緩く開いたラビアから流れる淫蜜を指で掬い、後ろの窄みへと擦り付ける。
「んぁ・・・。」
 たったそれだけの行為で身体が敏感に反応してしまう。
(もう十分みたい・・・。)
 腸内にまで流れ込むほどに蜜が塗りつけられたアヌス。
 間もなく与えられるであろう快感へ期待でヒクついてのが分かる。
 それを感じながら、翠はふと初めてオナニーをしたときのことを思い出していた。

 そのときもアヌスをあたたかな蜜でほぐすように濡らした後だった。
「どうして、アソコの中は触っちゃダメなの・・・?」
 茜に手を添えられつつも、初めて翠の肛門が自らの指を受け入れようとしたときのこと。
「え・・・?」
 恋人からの突然の問いかけに、茜の動きが止まる。
 密着していた茜の身体が、まるで石のように固まるの翠は感じた。
「茜ちゃん?」
 不安そうに翠は言う。
 彼女は、相手がこれほど動揺するようなことだと思っていなかった。
 このまま茜は私から離れてしまうかもしれないという恐ろしさが、翠の心に過ぎる。
 でも、今は、あの『約束』の真意を確かめたい。
 そう、翠がこのオナニーの手ほどきを受ける前、二人はある『約束』をした。
 それは、
  触って良いのはラビアとクリトリスのみで、決して『膣』には触れてはいけない
  そして、挿入される悦びを味わうのはアヌスだけ
 というものだった。
 これまで、茜は恋人のヴァギナには何も与えたことはなかった。
 そう言った意味では翠は『処女』であった。
 一方で、彼女がアクメを迎えるときは、アナルの快楽に包まれていることがほとんど。
 性の知識が乏しい翠にも、これがノーマルでないことは分かっていた。
 でも、愛しい人が与えてくれるものを拒むことが出来ない。
 疑問を秘めつつも、翠は茜の行為を全て受け入れてきた。
 しかし、自らのお尻を弄ることを求めれらた今、彼女の「常識」が抵抗した。
 すでにその「常識」では、満足出来なくなりつつあることに自覚のないまま。

 二人の身体から互いの温もりが消え、その間には沈黙が横たわった。
「やっぱり・・・、おかしいよね。」
 しばらくして、茜は顔を背けてポツリと呟いた。
「あたしね・・・、大事な翠の大事な部分はいつまでも綺麗でいてほしかったの・・・。」
「茜ちゃん・・・。」
「それに・・・、特別な人だから特別な愛し方をしたいと思ってた。」
 再びこちらを向いた茜は、微笑みを浮かべていたがその瞳には涙で光っていた。
「ごめんね・・・、変なことだって分かってる。けど・・・。」
 恋人のしぐさに翠の心は締め付けられるような苦しさを覚えた。
(大事な翠・・・、特別な人・・・。)
 胸の内で反芻される茜の言葉に翠のアヌスがピクリと反応する。
「茜ちゃん。」
 翠は恋人の前で足を大きく広げた。
 そして、全てが露わになった股間の一箇所に指をあてると・・・。

「あぁ・・・。」
 肛門を押し広げ中へ進む人差し指にぬるりとした感触を覚える翠。
 初めてのアナルオナニーより指が楽に入っていくような気がするが、まだすんなりとは受け入れてくれない。
 茜の手により開発されているとはいえ、それほど回数をこなしていないせいもあるのだろうか。
 それでも、門肉が擦れるときの快感は以前より増している。
 あの時以来、翠は性に関する「常識」を捨てた。
 変態的な性戯にのめりこむ自分に恐れを感じることもある。
 (でも、茜ちゃんがいれば平気。)
 目を閉じ、ここにいない恋人の柔らかな肌や微かな息遣いを心に感じる。
 今、翠のアヌスに差し込まれているのは愛しい人の指。
「んぁ・・・。」
 空いていた片方の手がラビアを触れる。
 翠が触れているのは茜のもの。そして、翠のそれは茜の指が愛撫している。
「いい・・・。」
 『ほんとう』の性器への刺激も心地よい。でも・・・。
「あ、あぁ・・・。」
 蠢く指を腸内で感じ淫声をあげる彼女。
 二つの穴が生み出す興奮の熱い塊が、やがて身体のなかで膨張していく。
「茜ちゃん・・・、いっちゃう・・・!」
 愛する少女の名を呼びながら、翠の身体が弾け意識は光に包まれた。

・・・・・・・・・・。

 水晶玉に映るのは、妖悦に果てた翠の姿。
 アヌスが己の指を咥えたまま、ぐったりと身体を横たえている。
「ふふっ・・・。」
 含み笑いを漏らす緋。
「子宮の穢れを知らず性戯に興じる様は、さしずめ《淫処女》と言ったところかしら?」
 そう言って微笑む主の傍で茜は顔を背けた。
「どうしました、茜?翠の身体が欲しくなりましたか?」
「いえ・・・。」
 その問い掛けに彼女は端的に答えるだけ。
 変貌しつつある恋人の姿。
 茜の自らの手によって施された行為の結果。
 それが誰かの意思であっても。
 しかし。
 これが、本当に自分の求めていたものなのだろうか。
 そう思っていても翠の調教を止めることが出来ない茜がいる。
「仕方がないですね。わたしが翠の代わりを務めてあげましょう。」
 緋は茜の苦悩すさまなど気にもせず、その身体を包み込んだ。
「あっ・・・。」
 茜はされるがまま、緋の施しを受ける。
「そう・・・、受け入れなさい、茜。」
 腕のなかで快感に身体を震わす少女に、緋は小さく言う。
「翠は、いずれあなたの・・・。」
 その言葉は、茜の嬌声にかき消された。


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