作品名 作者名 カップリング
『教師達の黄昏』 ヤギヒロシ氏 小宮山×坪井×加藤


『教師達の黄昏』


 橙色の太陽が、既に半ばまで顔を隠した初夏の夕暮れ時。
 試験期間中で部活動も休止中であり、放課後の校舎に生徒達の声は無い。
 静まり返った廊下に響くのは、ただ一人の女性の足音だけであった。
 薄く汗ばんだその白く美しい横顔には、焦りと苛立ちが滲んでいる。
 長い髪を靡かせながら、職員室に向かう柔らかな影。

(あぁもう、まさか携帯を忘れるなんて!)

 長いコンパスを生かして階段をニ段抜かしで一気に上がると、更に廊下を小走りで駆け抜ける。
 本来は生徒達に廊下を走らないよう注意する立場であるが、人気の無い今ならば問題ないだろう。
 
(……でも、今日はバッグから出してなかったと思ったんだけど……)

 ふと、彼女は疑問を浮かべる。
 メールを見るぐらいなら昼休みに一回行ったが、着信が無いことを確認してそのままバッグに
戻したはずだ。いつもそのようにしているのだから、今日に限って職員室に置き忘れるというのも
おかしいと言えばおかしい。

「……ま、たまにはそういうこともあるかしら」

 一人ごち、化学実験室の前を通り過ぎた。
 職員室まで……あと十数メートル……あと、数メートル……あと、0メートル。
 彼女は戸に手を掛ける。



「あら、加藤先生。忘れ物?」
「え……あ、はい」

 職員室に足を踏み入れた途端、掛けられた声に反射的に返事をしながら、加藤は違和感を覚えた。
 声の主は、背中をこちらに向けながら顔だけで振り向く小宮山であった。その事に不思議は無い。
 だが、加藤が職員室を見渡してみると、ロッカーや備品と比べて妙に彼女の頭が高い位置にある。
 どうやら彼女は職員室に並んだ机の一つの上に腰を掛けているようだ。お世辞にも行儀が良いとは
言い難い。また、小宮山以外の教師は既に帰宅した模様で、誰も注意をしないのをいい事に小学生の
ような振る舞いをしているのだろう。
 そのうえ、よくよく見れば、彼女がいるのは他でもない自分の机の上ではないか?
 加藤は軽く嘆息し、彼女に歩み寄る。
「もう……小宮山先生、子供みたいなマネしないでください」
 二人の間を遮っていた、卓上に立てられた書類が視界の横に消えてゆくにつれ、小宮山の全身が
露わになっていく。
 整頓された机を回り込むようにして小宮山の正面に立ち、

「……え?」

 加藤は我が目を疑い、その一瞬の後に、自分の認識の方が誤っていたことを悟った。
 職員室にいたのは、小宮山一人だけではなかったのだ。
 そのもう一人は、小宮山の捲れ上がったタイトスカートの中に顔を埋めていた。
 後姿しか見えないが、その縦じまのYシャツと刈上げた後頭部には見覚えがある。
 
「ああ、加藤先生、どうも」



 振り向いた坪井は加藤の机の前で跪き、小宮山の太腿の下から手を伸ばし腰を抱え込んでいた。
 あっけらかんと加藤を見上げる坪井の口元から顎にかけては、てらてらとした液体に塗れており、
考えるまでも無く、加藤はそれが何を意味するのかを理解していた。
 視線を上に移動させると、小宮山は白衣の前を肌蹴るだけではなく、中のブラウスのボタンも臍上
まで開け放たれ、胸元を覆う黒い下着が加藤の目の前に惜しげもなく曝け出されており、更に視線を
移すと、上気した小宮山が誘うような微笑を加藤に投げかけていた。
 一体、どこをどう、どこまで突っ込めばいいのか判らなくなった加藤は、
「あ、あなた達! ひ、人の机で何やってるんですか!?」
 自分でも、ポイントがそこでいいのか良く分からないツッコミを口走っていた。
「まあ……何をしてると訊かれれば、ナニしてますとしか答えようが無いのですが」
 不気味なくらい冷静な坪井が、悪意の欠片も無い普段の口調のままベタな模範解答で応え、
「ついでに言えば、普段お世話になってる加藤先生が淋しくないように、せめて机だけでも仲間に
 入れてあげようと思ったわけよ……じゃ、坪井君、続けて」
 小宮山が坪井の頭を促すように撫でる。
 はい、と応えた坪井もまた当然のように、剥き出しの濡れた秘部に口付け、ピチャピチャという
粘り気のある水音を響かせ始めた。
 んふぅ、と満足げに息を吐き、小宮山がついと顔を上げる。
「ところで、子供みたいなマネって、何のことかしら?」
 一方、呆気に取られていた加藤も漸く我に帰ったものの、
(……ま、まさかこの二人がこういう関係だったなんて……)
 更なる思考の迷宮に陥りかけていた。
「……ああ、そう言えば、机の上にこんなのがあったんだけど」
 軽い眩暈に襲われた加藤に対し、小宮山が白衣のポケットからパールピンクの物体を取り出した。
 その細い指が引っかけているストラップは、子供が好きなアニメのキャラクターを模したものだ。
加藤の携帯電話に間違いない。
 


「あ、ありがとう、ございます……」
 こんな状況でも、律儀にお礼を言ってしまう自分の性格が恨めしい。
 携帯電話を受け取ろうと、加藤はやや視線を横に逸らしながら手を差し出す。
 だが、いつまで待っても、小宮山が携帯電話を加藤に手渡す気配は無かった。
「……あの……小宮山先生?」
 恐る恐る小宮山の顔を見ると、
 
 パシッ。

「えっ?」

 加藤の伸ばした手を、ニヤニヤした笑みを浮かべた小宮山が握り締めていた。
 その事に気づいた瞬間、一気に引き寄せられる。
 小宮山の腕が首に絡められる。
 小宮山の顔が近づく。
 小宮山の唇が迫る。
 小宮山の瞳が――
  
「〜〜!?」

 小宮山の眼鏡に、見開いた自分の瞳が映っていた。
 生温かく湿った感触。
 久しく忘れていた温もりを、同性の唇によってもたらされた状況に凍りついた。
 だが、次の瞬間、滑る柔肉の感触が自分の口腔内に入り込んできた事により、
加藤は更に動転する。

「んんぅ〜〜〜〜〜!!」



 無意識の内に、加藤は小宮山を突き飛ばしていた。
「あらぁんっ?」
 やや間抜けな悲鳴を余裕を持って口にする小宮山から、そのまま距離を取ろうとあとずさるものの、
ニ三歩のところで別の机が腰にぶつかってしまう。
 背後の机に身体を支えるように片手をつきながら、もう片方の手の甲で唇を拭い、
「な……なに……なにをするんですか!」
 気丈にも、非難の言葉を発す加藤。呼吸と共に胸の鼓動まで荒く響く。
 そんな気色ばんだ加藤に対し、小宮山は事も無げに応えた。
「言ったでしょ? 折角の機会だし加藤先生が淋しくないように仲間に入れてあげようと思ったのよ」
 小宮山が真っ赤な舌をぺろりと出し、自分の唇を舐めた。
 微かに顎を引き、纏わり付くような上目遣いの視線をよこしてくる。
 眼鏡のレンズの奥が、鈍い光を放ったように見えた。
(……!)
 言いようもない恐怖感に襲われた加藤は、振り向きざまに脱兎の如く駆け出した。
「……坪井君」

 ……何が起こったのか、分からなかった。
 静止した時間がゆっくりと動き始め、目の前には屈んだ坪井の背中があった。
 すくりと立ち上がり振り返った坪井の顔には眼鏡が無く、代わりに右手に小刀が握られている。
 ふぁさ。
 加藤の衣服が下着を残して弾け、床に落ち17枚の布切れと化す。
 悲鳴も出なかった。出せなかった。
 体を抱くようにして、その場にぺたりと座り込んでしまった加藤の背後で、小宮山の声が響く。

「――ようこそ、この素晴らしき官能空間へ」



「は……はぁぁ……ひぅ……んぅ……」

 職員室では、数分前と同じような淫猥な光景が繰り広げられていた。
 だが、そのまぐわう男女の数は2人から3人になり、新しく加わった一人を残りの二人が嬲るような
形になっている。
 小宮山は加藤を背後から抱くように両の乳房に手を伸ばし、ゆっくりと円を描くように撫で回した。
 時折、下から持ち上げるように揉みしだいたり、膨らみかけた乳輪の回りに指を埋めたりしながら、
耳の後ろをちろちろと舐め、耳朶を甘噛みし、温い息を吹きかける。
 小宮山が指に力を込める度、程よい弾力を返して加藤の胸が歪に形を変える。
「ひぃ……ゃぁ……だめっ……」
「あらぁ? そんな事いっていいの?」
 小宮山の指が薄い布の上から加藤の乳房の先を捉えた。
「ひゃはぁ!」
「ほら、もうブラの上から分かるくらい固くなってるじゃない。本当は止めないで欲しいんでしょ?」
 嗜虐の色を湛えた小宮山が耳元で囁いても、加藤は弱弱しく頭を振るだけだった。
「それに……こんな厭らしい下着つけて……欲求不満がたまってるんじゃない?」
「はっ……あっ……そんなこと……なぃ……ですぅ……」
 構わず、小宮山の指がブラの裾をそっとなぞり、豊かな胸元の深い谷間にするりと滑り込んでいく。
 加藤の身体は無数の薔薇の刺繍が施された鮮やかな紅色の下着に包まれており、透き通るように白い
肌と合わせて、普段の清楚な彼女から想像しがたい淫靡なコントラストを成していた。
 そんな加藤の身体を小宮山の指先が這い回り、女性同士だからこそ知る官能の壷を巧みに突いては、
素っ気無く解放して別の性感帯に向かいじりじりと昂ぶらせるのだ。また、股間に顔を埋める坪井は、
下着の上から荒々しく布ごと肉芽を咥えたかと思うと労るように優しく舌先を秘裂をなぞらせるなど
強弱を使い分け、加藤を心身ともに蕩けさせていく。


 
「坪井君、そっちはどんな具合?」
 不意に手を止めた小宮山の問いに、
「もう、十分みたいですね……というか」
 ちらりと、うっすら涙に滲む視界の中で、坪井が顔を上げたのが見えた。
 舌による愛撫からは解放されたものの、坪井の指は下着の上から膣の入り口をいじり続けている。
「ずっと前からもう、こんな洪水みたいな状態でしたよ?」
「あら? そうだったの?」
 素っ頓狂な声を出す小宮山。
 乳首は固く勃起して胸元の赤い布を持ち上げ、甘い鈍痛を覚えるほどに自分の存在を誇示していた。
 肌も上気した艶かしい桃色に染まり、下着の中は解放し切れなかった体熱で汗ばむほどだ。
 腿の間では坪井の唾液以外の液体によって、下着が内側から濡らされて、秘部を中心に暗赤色に
変わっている。
 加藤は、自分の身体が繰り返し与えられる刺激によって、雌としてのスイッチが入れられている
ことをどこか冷静に認識していた。だが、根が真面目で貞操観念も強い彼女にしてみれば、そんな
自分の身体に対する戸惑いや驚き、そして何より強い羞恥心に苛まされる結果になるだけだった。
「小宮山先生が言ってたとおりかも知れません。加藤先生、実は結構ご無沙汰なんじゃないですか?」
 坪井の指使いによってクチャクチャと卑猥な水音を発する下着は既に濡れそぼり、吸いきれなかった
液体が加藤の内股を伝ってどくどくと溢れ、机の上に零れ出していた。
「いやぁ……坪井、せんせい……そんなこと、いわないでぇ……」
 涙声の加藤がいやいやするように、真っ赤に染まった顔を両手で隠そうとする。
 ごくり。坪井の喉が鳴る。
 一児の母とは思えない、乙女のような仕草が坪井の琴線に触れたようだ。
「……加藤先生……かわいいッス」
 すくっと立ち上がり、加藤の顔を覆っていた両手を掴み、そっと開かせた。
 うるうると潤んだ瞳で怯えたように見上げる加藤の、薄く開いた唇に向かって、坪井は、



「くぉら!」
「げぼぁ!」
 加藤の背後にいた小宮山に、人中(鼻と口の間。急所の一つ。すごく痛い)に拳骨を突っ込まれた。
 もんどりうってたまらず床の上でのた打ち回る坪井に向かって、
「あんたが加藤先生の唇を奪おうなんて10年早いのよ!」
 びしぃ! と人差し指を指す小宮山。
「いい!? 素人もののAVだって9割方はAV出演経験のある女優を使ってるのよ! ナンパモノ
 なんて始めからヤルこと決まってんの! その上であれは『えー、そんなのできなーい』とかいう
 糞みたいな三文芝居を愉しむためにあの手の作品はあるのよ! そこんとこ勘違いするな!」
「す、すいませんでした!」
「…………」
 何が何だか分からないが、土下座する坪井。
 何が何だか分からないが、鼻息荒い小宮山。
 何が何だか分からないが、何が何だか分からない状況が変わらない事だけ分かった加藤。
「……ま、そういうわけだから」
 こほん、と軽く咳払いをした小宮山が一息ついたのち、加藤の頤を掴んで後ろの方に顔を向けさせ、
 んちゅ。
 唇を重ねあった。
 ここまでくると、いかなる抵抗もなす気力を失ってしまった加藤は、小宮山の吸い付いてくるような
キスも甘んじて受けてしまい、歯茎をしゃぶられ、前歯から唇の裏まで嘗め回されても不快感を覚える
事はなくなっていた。それは単に、小宮山の巧みなテクニックによる物ではなかったのかもしれない。
 そして、当然のように口を開かされ、触手のように自在に動き回る舌が口内に侵入し、自分のそれが
絡み取られ蹂躙されても、先程のように突き放すような事はしなかった。いや、できなかった。
 だが、
「―――んゅ〜〜!?」



 さすがに小宮山が口移しに唾液を流し込んできた時には、反射的に身体を逸らそうとしてしまった。
 だが、蛇のように全身に絡みついてくる小宮山から、弛緩しきった加藤が逃れられるはずもなく、
延延と送り込まれる大量の液体を受け止めるしかなかった。更に口内をグチャグチャとかき回されると
羞恥に目元を真っ赤に染め、知らず知らずの内にはらはらと涙を零しながら、それを喉を鳴らして嚥下
してしまうのだ。
「んはぁ……はぁ……んぐぅ……はぁ……」
 飲み干しきれなかった唾液が唇の端から零れているのを拭いもせず、加藤が荒い息を吐いていると、
小宮山の手によって、後ろにゆっくりと倒された。
 丁度、真向かいにある加藤と小宮山の机に渡って背をつけて、天井を見上げる形になる。
 ややひやりとした感触にビクリと身体を竦ませると、その視界に、回り込むように覆い被さってきた
小宮山の淫蕩な笑みが浮かび上がった。
「……ふふ、素敵……素敵よ、加藤先生……」
 直に肌を触れられる感触を胸元に感じ、いつの間にかブラジャーを外されていた事に今更気づいた。
 小宮山の指がふくよかな曲線を描く乳房を舐めるようになぞる。その先にはぷっくりと浮びあがった
乳輪があった。
「あ、ああ……」
 そのつんと健気に突き出すやや大きめな尖りは、やや色づいてはいるもののベージュに近く、淫猥な
印象は与えない。まして、視界の下で揺れる両の乳房の先端と比べれば、その差は歴然としていた。
「ずるいわ……私より年上で、子供までいるのに……こんな綺麗な色しているなんて……」
 軽く上目遣いに睨みつけてきた小宮山が、加藤の胸を手にする。その親指と人差し指の間に乳首を
搾るように揉み出すと、軽く噛み付いた。
「はっああぁぁ!」
 ビクンと背筋を反らした加藤の身体を押さえ込むようにして、小宮山はもう片方の乳房も容赦なく
抓りあげる。激しい痛みと、それ以上に濃密な痺れが頭の先から全身を貫いていった。

「――ひゃあんぁああ!」



 激しく悶える加藤を小宮山は満足げな表情で見下ろしている。
「やっぱり感じやすくなっちゃったのね……うふ、たっぷり可愛がってあげるわ」
 一転して、小宮山の責めは甘く優しいものに変わった。
 ゆっくりとマッサージのように豊満な乳房全体を揉み解し、勃起した乳首は唇や舌先で突付いたり、
舌腹全体で乳輪から嘗め回したりする。更に唾液でたっぷりと濡らした後、口に含み舌を動かしながら
ちゅっちゅっと吸い上げた。
「あっ、あぁ、あんっ、ああっ」
 断続的に与えられる刺激に、加藤の喘ぎ声が抑え切れないほどに大きくなっていく。それが、自分の
職場であり、しかも自分が普段使う机の上で響いている事に、倒錯した現実感覚に陥ってしまう。
 やがて、執拗なペイッティングが続く乳房は淡く色づき、その全体がかつてないほど敏感な性感帯と
化していた。それでいて、胸が責められている間に、もじもじと擦り合わせる太腿の間からは粘度の
高い愛液が溢れているのだった。それゆえに、
「あ、やぁっ、む、胸ば、かぁりっ…いぃ!」
 と、口走ってしまったのは、致し方の無いことであろう。
 しかしながら、それは、小宮山の嗜虐心を擽る結果にしかならないのである。
 眼鏡のレンズがキラリと光った。
「あらぁ? それはごめんなさぁい。それじゃ、こっちも可愛がってあげようかしら♪」
 嬉々とした小宮山の指先が、加藤の腹をなぞり、臍を通り過ぎて、ショーツの縁に辿り着いた。
 腰骨の隙間からショーツの中に手を滑り込ませると、陰毛を掻き分け、一気に媚裂に到達する。
 そして、何の遠慮も無く人差し指と薬指で割れ目を開くと、そっと中指で濡れたクリトリスを捉えた。
「ひくぅ!」
 たまらず加藤は海老のような動きで弓形に身体をそらせる。
「やだ、触っただけなのにこんな素敵な反応……私が本気で弄ったらどうなるのかしら?」
 小宮山が、ペロッと舌で素早く唇を湿らせた。
 
 ぶちゅ!



「―――はああああああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 目を大きく見開き、突き上げたお腹に痙攣を繰り返しながら絶頂を迎えた加藤。
 長い黒髪を机全体に広げ、机がガタガタと音を立てるほどに激しく全身を震わせてのオルガスムスだ。

「あ……ああぁ……ぅぁ……」

 やがて、反らしていた背をゆっくりと机の上に落とし、全身の筋肉を弛緩させる。
 半開きの艶かしいピンクの唇からは熱い吐息と共に、絶頂の余韻にピクピク震える舌が覗いていた。
胸が大きく激しく上下し、その動きにあわせて乳房が揺れる。
「ちょっと……もうイっちゃったワケ? 私、指入れただけなのに……」
 珍しく戸惑い顔の小宮山がショーツから手を引き抜く。
 そこには、白濁した加藤の愛液がべったり付着していた。
「……少し媚薬を盛ったくらいで、普通こんなになるかしら?」
 濡れた指をぺろぺろ舐める小宮山。そんな小宮山の姿に気が狂いそうな恥辱を感じつつ、加藤は
「……び、びやく……って……いつのぁい……?」
「んー? ああ、さっきキスした時」
 上手く呂律が回らない加藤を横目で見ながら、あっけらかんと答える小宮山。
「それより前から加藤先生は愉しんでくれてたみたいだったけど、気分を盛り上げるために一応、ね」
 悪びれたところ無く頬を撫でてくる小宮山に唖然としながら、欠けた理性の一部が疑問を呈した。
「じゃぁ……こみあま……せんせい……ぉ……」
「うふふ……正解♪ 私も媚薬飲んでるわ」
 小宮山が加藤の顔を跨いで机の上に膝立ちになる。
 


「ほら……見て、加藤先生……私のあそこも……こんなに……」
 むっちりとした太腿に黒いレースのショーツが下ろされる。ぼんやりと霞みがかった加藤の目にも、
その中心と小宮山の性器との間にぬらついた糸が張っていたのが映った。その様は同性である加藤でも
卑猥に感じ、下腹部がまたキュっと締まる。
 するりと両足から下着を抜くと、思い出したかのように、
「そう言えば、加藤先生もまだ脱いでなかったわね」
 と言って振り向き、加藤のショーツに手をかける。
「……ぃぁ……ゃぁ……」
「何言ってるの。もうずぶ濡れで気持ち悪いでしょ? ほらほらっ」
 最後の砦を必死に守ろうとするのだが如何せん身体に力は入らず、既に下着の機能を失った一枚の
布は小宮山の手によってあっけなく剥ぎ取られてしまった。
 ニヤニヤ顔の小宮山が戦利品に顔を近づける。
「ああ、これが疼く身体を持て余した欲求不満状態の人妻の味……」
 においを嗅ぐどころか股間の辺りをちゅーちゅー吸い始めた小宮山から、加藤は必死に目を背けた。
 だがそれは、小宮山の羞恥プレイによるものだけではなく、ずばり図星を突かれたためでもあった。

 小宮山の言うとおり、子供が出来てからというもの、夫との夜の生活は格段に乏しくなっていた。
 その理由は分からないが、一児の母とはいえ、加藤はまだ29歳。老け込むには早すぎる。
 性欲だって減退しているわけではなく、寧ろ女の悦びを知ってしまった今は、思春期の頃以上に、
性に対する欲情は深く濃厚な物になってしまっていた。
 だが、夫に情けを求めるには、彼女は真面目で、貞淑すぎた。
 その抑圧された欲望は、当て所ない遣る瀬無さを彼女に強いるのである。熟れても瑞々しさを失わない
脂の乗った身体は夜な夜な疼き、時には家族が寝静まった後に自分で慰めてしまうことすらあるのである。



「加藤先生」
 不意に耳元で、小宮山が教え子に語りかけるような優しげな声音で囁く。
「こだわりも、はじらいも、全て捨てなさい。ここは、そういう場所なの」
 そんな職員室など世界中探しても、あるわけが無い。
 そう残りの理性が懸命に訴えるものの、小宮山の舌が耳の後ろからうなじを通り、首筋を下っていく
ぞくぞくするような感覚に、その弱弱しい声は掻き消されてしまう。
 小宮山の唇が加藤の首を回り、顎を越え、頬に触れる。
 ちゅ、ちゅ、と音を立てながら、繰り返し加藤の心を解きほぐすようなキスを浴びせかける小宮山。
 両手で加藤の顔をそっと挟み反対を向かせると、逆の耳元まで唇を這わせて行く。
 やがて、始まりとは逆の方の耳に辿り着いた小宮山は、その付け根辺りを丹念に舐めたのち、熱い
ぬめりつくような吐息とともに、再び囁いた。
「もっと、正直になって。求める事は決して恥ずかしい事じゃないわ」
「――!」
 はっ、とすると同時に、三度、唇を奪われた。
「んんんぅっ」
 だが過去の2回とは異なり、ゆっくりと唇の感触と温もりを確かめながら互いのそれを愛撫しあう、
そんな、まるで愛しむものに対して与えるような優しいキスだった。
 たっぷりと時間をかけて、まるで互いの唇肉が初めから一つであったかと思えるぐらいになるまで
続け、加藤の最後の自制心をも溶かしていく。
 不思議な安堵感に包まれ陶然としながら、知らず知らずのうちに、加藤の両腕は小宮山の首に絡まり、
自分の唇を押し付けるようにして小宮山を求め始めていた。
「んっ、んぅん、むぅん、んむっ、むーっ」
 二人の間の4つの乳房がその弾力をそれぞれに伝え合いながら、押しつぶされる。
 


 口を塞がれ抱きつかれながら、小宮山が軽く上半身を揺すると、丸みを帯びた肉の塊が更に大きく
揺らぎ、擦りつけ合わされる。
 その両の突起の感触が、乳房の周りだけでなく、直に性感帯を掠り、引っかかり、擦られる。
「んふぅ!」
 放射状に広がる痺れに、小宮山の首に回された両手にぎゅっと力が入る。
 だが、小宮山の動きは止まらない。
 前後に揺らす体重を片肘をついて支えながら、残された方の手が加藤の下腹部に伸ばされる。
 待ちわびた刺激が与えられる期待に、加藤の身体が緊張に強張り、その奥がジュンと切なく疼く。
 身体を重ねた二人の太腿の間を、細い指が分け入っていった。
 僅かに腰を上げ、小宮山の手が、加藤の最も火照って熱を帯びた部分に触れる。
「あ、あ、ああっ」
 たまらず離してしまった唇から吐息が漏れた。
 すかさず小宮山は加藤の首筋に唇をあて、軽く歯を立てて唾液を塗し吸い上げる。
「くぅあっ!」
 身を捩る加藤は、もはやあらゆる刺激が性感の高揚につながってしまう。
 そんな中で、もっとも過敏になった部分に、小宮山の中指が押し当てられた。
「うっ、ううぅ」
 加藤の両の腕に、より一層の力が込められた。
 その濡れた頬に、小宮山は優しくキスをし、
「……いくわよ」
 そして、
 
 ……ぶちゅっ!
「はあぁうぅぅっ!」



「―――えっ?」

 喘ぎは、加藤のものではなかった。
 肩透かしを食らった加藤が呆気に取られていると、

「はっ、こ、こらっ、つぼっ、いくんっ」

 眉根を寄せて喘ぐ小宮山の肩越しに、坪井が小宮山の臀部を両手でがっしり掴んでいるのが見えた。
 しかも、二人の腰は密着し、坪井は明らかにピストン運動を行っている。
 加藤の上でだ。

「ば、かっ! これっ、からって、ときにっ!」
「す、すいませんっ、でっもっ、このっ、状況でっ、我慢できるっ、男なんてっ、いません!」

 一言一言の間にも、坪井はペニスを小宮山の膣に突き立てている。
 気持ちの準備ができていなかったのか、小宮山は堪らず、下にいる加藤の上に崩れ落ちてしまう。
 体重を浴びせられた加藤であったが、耳元に掛かる小宮山の掠れた吐息に更なる興奮を覚えていた。
 パンパンという音を立てて、獣のように腰をぶつける坪井。
「はっ、はあっ、うっ、うぁあ、はっ」
「んあっ、ああっ、あっ、あ、んぁ、はっ、あ、ああん!」
 普段の(ボケつつも)落ち着き払ったクールな姿と違い、頬を朱に染めながら快感に悶える小宮山。
「あ……」
 と、一瞬、目が合った。
 何か、小宮山の発する意思を感じた。

 ……むにゅ。



 加藤の手が、坪井の動きにあわせて揺れる小宮山の右の胸を掴んだ。
 なお続く振動の中、首を捻じ曲げて、その先に据えられた突起を軽く口に含み、舌で転がしてみる。
「ああんっ、いいっ、いいわよ、加藤先生!」
 小宮山が四つん這いの上体を移動させ、加藤が愛撫しやすいようにその正面に胸を置く。
 すると加藤は、当然のように小宮山の左の胸にも手を伸ばし、その谷間に舌を突き出した。
 上気し汗ばんだ小宮山の肌は熱く、やや塩辛く、そんな舌への刺激も心地良い。
 そこからたっぷり唾液を乗せて、小宮山の乳房に舌を這わせる。
「ふぅっ、ふぁぁ、はぁっ、はっ、あんぁっ!」
「んっ、んふぅ……」
 擽るようにチロチロ舌先を動かしつつ、両手に掴んだ胸を掌で揉み、親指と人差し指でグミのような
固さになった乳首を強めに抓ってみる。
「ああぁ! そこぉ! そぅいいぃ!」
 加藤の顔に雫が落ちる。
 それが、小宮山の汗か涎か涙なのかは分からなかったが、それももうどうでも良かった。
 加藤が再び胸の尖りを唇で捉え、舌で舐め回し、唾液を塗していく。
 十分に濡れてから、乳輪を巻き込んで吸い込むと、小宮山の喘ぎ声はさらに艶を増していった。
「加藤っ先生! す、すごいぃ! いいわぁ!」
 加藤はレズ行為は初めてだったが、戸惑いも嫌悪感も無かった。
 まるで、昂ぶる小宮山に誘われるように加藤もまた高揚し、奇妙な一体感の下、相手が何を求めて
自分がどう応えればいいのか、本能のレベルで理解していた。
「……んぅ……」
 乳房を揉みしだいていた加藤の右手が、小宮山の腋を通り下半身に伸びていく。
 下腹部に触れ少し押し込んでみると、一定のリズムで固いしこりのようなものが生じるのを感じた。
(……こんな所まで届いてるの?)
 目には見えないものの、坪井のペニスは随分と小宮山の奥深くを突き刺しているらしい。



 更に恐る恐る下の方へと下腹をなぞっていくと、ぱしぱしと指の背に何かがぶつかってきた。
(……これって……坪井君のアレ、かしら……? じゃあ、この辺り……)
 加藤の指が、夥しい量の愛蜜を垂れ流しながら、坪井の肉棒を咥え込む小宮山の秘裂に到達した。
 固い陰毛に覆われた柔らかな恥丘が、加藤の腹に飛び散るほどの愛液を潤滑油にしながらも、ペニスの
太さに引き摺られグチュグチュと音を立てながら、その動きに合わせて陥没と褶曲を繰り返している。
 膣口の開き具合からしても、坪井の逸物は相当の体積を誇るようだ。
 加藤が、その押し広げられた裂け目の端を探っていくと、なだらかな曲線を描く秘肉にポツリと
存在を主張する濡れた蕾を見つけた。
 先程のお返しとばかりに、きゅ、と指に挟んでやる。

「ひっ……はああっ、あああああ!!」

 小宮山が、机の上についた両腕をガクガク痙攣させながら、大きく仰け反る。

「くぅっ! し、締まる!」

 坪井もまた、快感か苦悶かに耐え切れず声をあげていた。
 二人の喘ぎを耳にしながら、加藤の指使いは更に熱を帯びた。
 仰け反った小宮山の乳房に唇を寄せ、ぬめる秘芯を捕らえた指は逃げられないようにしっかと全体を
摘みながらこねる。
「ひゃっ、はぁっ、かぅ、とぉ、せっんぁあっあああ!!」
「うぉお、す、すごいっ、きついっ!」
 自分の手で、二人が高みに昇り詰めて行くのに充実感を覚えながらも、同時に加藤は、自分の身体に
胸焼けしそうな程の切なさがその奥底から湧き上がっている事に気がついた。



 急に、小宮山が背後の坪井に向けて片手を広げた。
「ちょ、つ、坪井く、ん、ちょっと、ストップ! こらっ、とまりなさい!」
 いい調子で恍惚の表情を浮かべていた坪井は、一転冷や水を浴びせられたように不満げな顔を作る。
「……どうかしたんですか?」
 その平坦な口調からも、興を削がれた事が窺えた。
 そんな坪井に対し、小宮山は加藤の顔を横目で一瞥し、ニヤリと唇を歪める。
「加藤先生が、何かご要望があるみたいよ?」
「えっ!?」
 思わず両手で口元を塞いでしまう加藤。無論、加藤の口から直接それを求めたわけではない。だが、
加藤が先程小宮山の意図を理解したのと同様、小宮山も加藤の表情や指使いから彼女の求めるものを
察したのだ。
「なるほどっ」
 ぽん、と掌の上に拳を落とした坪井。
 拗ねた表情がまたもや一転、この世の春を迎えたかのような悦びに染まる。
「それでは早速」
 坪井はペニスを小宮山から引き抜くと腰を落とし、加藤のひくついている花弁にモノをあてがった。
「ひっ!」
 息を飲み、緊張に身を固くする加藤。
 構わず坪井は、モノの先で入り口をかき回しながら角度を微調整し、スタンバイを終えた。
 そして、

「……坪井、いきます!」
 


「このバカチンが!」
「ほぅあぁ!?」
 股間から伸ばした小宮山の手が、坪井の逸物を睾丸ごと根っこからぎゅっと握り締めた。
 逃げようにも、急所を握られているため坪井はそのままの姿勢で痛みが過ぎ去るのを待つしかない。
 涙を滲ませる坪井。だが、股間越しに小宮山の説教は続く。
「加藤先生はまだ何も言ってないわ。だから、あんたが考えていることが正しい保証なんて無いのよ。
 先走って、もし、勘違いだったらどうするつもり? 先走るのはチンコだけにしなさい!」
『…………』
「……あ、この場合はチンコか」
 ま、とにかく――、と坪井の逸物から手を離した小宮山は、加藤の顔を覗き込み頬を撫でた。
「――加藤先生の口から直接、具体的に言ってもらわないと……ねぇ?」
 唇に、指先がちょんと触れた。それが顎、首、鎖骨、胸、腹、臍……へと伝っていく。
「あぁあ……」
「さぁ、言って御覧なさい……何を、どうして欲しいのか……」
 そこに至って初めて、加藤は小宮山の本当の意図を知ることとなった。
 眼鏡を外し、それを坪井に手渡すと、小宮山が横たわる加藤の体に重なりそっと抱く。
 長い髪に顔を埋め、その香りを胸いっぱいに吸い込み、代わりに熱の篭った吐息を漏らした。
「上手におねだりできたら……ご褒美をあげるから――」
 小宮山の視線が、肢体が、言葉が、剥き出しになった加藤に絡みついてくる。
 既に自分を守る術を全て奪われている加藤にとって、拒絶の選択肢は無かった。
 白い靄のようなものに覆われた頭の中で、最後の葛藤は比較的あっけなく終り、わななく唇からは
それまでの人生で初めて口にする言葉を紡いでいた。

「わたし……わたしも……もっときもちよく、なりたいです……」



「……オッケー♪」
 一瞬、間を開けて小宮山がキスで応える。
 左足で加藤の膝を割って、加藤の右の腿の下に膝を入れる。右の足は、加藤の左腿の上を通して机の
上につく。更に腰を支えながら自分のそれを、不安そうな表情の加藤に密着させた。
「加藤先生……もうちょっとお尻上げて……そう、そんなかんじ」
 すると、二人の秘裂が重なり合う形になる。
「んぅっ!」
 一瞬、勃起したクリトリスが擦れあい、それだけでも加藤の背が跳ねる。
「あら、加藤先生。気持ちいいのはこれからよ? ……坪井君」
 二人の様子を(怖かったので)黙って見ていた坪井が、小宮山の言葉にその意図を理解した。
「では……失礼します」
 坪井は二人の絡み合う両足と机の隙間に膝を割り込ませ、ペニスを一つの線となった二つの性器の
中心にあてがい、ぐっと押し込んだ。
 差し込まれた二人は同時に眉根をよせた。

「……ひゃああああっ!」
「くうぅっ」
 
 既に互いの愛液でぬらついていたそこは、苦も無くその剛直を咥え込んだ。
 くっ付き合っていた二人のクリトリスが、坪井の凶暴な熱を発するペニスに引き裂かれた。
 しとどに濡れた陰唇に、血管の浮き出た粘膜が擦りつけられる。
 久しぶりの刺激に過敏に反応した加藤が、その両手を顔の横で震わせる。
 汗の粒が、艶かしい色に染まった肌に浮んだ。
 挟まったペニスが引きずり出されると、裏筋のくびれた部分が肉芯に引っかかる強烈な痺れが生じ、
加藤は身を捩ってそれを逃がそうとした。



「だっめよ、加藤先生♪ お楽しみはまだまだなんだから」
 が、小宮山が絡めた足と手を巧みに操り、腰を引き寄せられてしまう。
 余裕のある口調であるものの、彼女の顔も、職員室の照明にきらきらと汗の玉を煌かせていた。
「続けて、坪井君」
 はい、と短く答え、坪井もまた小宮山と一緒になって加藤の腰を支え、再度ペニスを挿入する。
「くはあぁあああっ!」
 二人がかりで身体を拘束され、熱い肉の感触が加藤の性感帯を直撃する。
 そのままピストン運動が始まると、涎を垂らしながら悲鳴に近い甲高い鳴き声をあげてしまう。
 ぶちゅ! ぐちゅ! ぶちゅ! ぐちゅ! ぶちゅ!
「ひぃっ! はひゃぁ! ひゃん! はひゃ! あやっ! きゃひぃ!」
 狂ったように頭を振る加藤。
 黒曜石のような光沢を帯びた美しい髪が、机の上に振り乱される。
 そんな彼女を更に追い詰めるように、小宮山が加藤の胸に顔を寄せた。
 ちろちろと出される舌先に大きく揺れる乳房の先が触れ合うと、放射状に全身に痺れが走る。
 それに伴って、今責められているクリトリスまで敏感になってしまうようだ。
 体中が火照る。 
 体中が感じる。
 頭の中まで焼け爛れそうなほどに、ジンジン痺れる。

「はぁっ、はぁっ、んぅっ、はっ、あっ、ぁあっ」
「くぅっ、はああっ、あっ、そこぉ、あうああっ、いいっ」
「はあああっ! やああっ! ひいぃん! きゃあぁ!」

 三人の声が入り混じり、密着した性器からぬらつく粘液が飛び散る水音、そして力強く肉のぶつかる
音とが、放課後の職員室に響きあう。



「だ、だめぇ! お、おかしくぅ、なるぅ!!」
 自分が壊れてしまいそうな不安感に駆られ、加藤は小宮山に縋りつくように抱きついていた。
 豊満な乳房が潰れてしまうくらいに強く抱きしめ、小宮山の身体を頼りにする。
 小宮山の身体は汗と唾液でびっしょりと濡れて、触れた瞬間はひんやりとした冷たさを感じたが、
密着してみると早鐘のように打つ鼓動と共に、高く心地良い体温が伝わってきた。
 加藤の両腕に引き攣るような力が加わる。
「加藤っ、先生……、イきそうっ? イきそうなのね?」
 小宮山の問いかけに、無心でコクコクと頷き、
「はっいっ、ィイき…そう! イ……クぅ!」
 加藤の叫びに、小宮山が熱い抱擁を返し、坪井は限界ぎりぎりの律動で応える。

 ぶちゅ! ぐちゅ! ぶちゅ! ぐちゅ! ぶちゅ!
 
 重ね合わせた肌が、吹き出る汗を潤滑油にして擦りあわされる。
「ぼ、僕も、もう、イきそう……ですっ!」
 坪井の剛直が、加藤と小宮山の下腹でビクビクンと震え、臨界点を告げる。
「いぃわ、私もっ、一緒に……んんぅ!」
 小宮山の肩が強張り、加藤を抱く手の指先が背中に食い込んだ。

「イッ…!! …………あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 体中の神経が破裂したかのような、強烈なオルガスムスに一際大きな愉悦の叫び声をあげた瞬間、
加藤の背筋が仰け反るほどに伸びて、全身がビクンビクンと激しく痙攣した。
 暫し、酸素を求めるように口をパクパクとしていた加藤だが、やがてぷちんという何かが切れた音を
耳にしたことを境にして、完全に意識を飛ばしてしまう。
 胸の下にまで、坪井の焼け付くような熱い精液がぶちまけられていたことに加藤が気がつくには、
もう30分ほどの時間が必要だった。



――控えめなスタンドライトの仄かな灯りに照らされた部屋。

 一つだけ備え付けられたベッドの上に寝そべりながら、男は一人読書に耽っていた。
 ぺらりとページを捲った後、丁度章が変わるところであったことを知り、卓上時計に目をやる。
 デジタル表示で『00:57』。
「……ふぁあぁ〜」
 どうやら、夢中で読み耽っている間に眠気を忘れてしまっていたようだ。
 現在の時間を知った途端、睡魔に襲われ大きなあくびを一つ。
 男は読んでいたハードカバーの小説にしおりを挟み、脇のスタンド台に載せる。
 と、
 コンコン。
 不意に鳴ったノック音に、男は顔を上げ檜製の戸に視線を移した。 
「……キョウコかい? 起きてるよ、入って」
 妻の名を口にしながら、こんな時間に珍しいな、と男はのんびり思った。
 しずしずと、戸が開いていく。
 背の高いすらりとした影が現れ、一歩、また一歩、確かめるように足を踏み入れてくる。
 男は、身体を起こし、ベッドの端に腰かけ、
「こんな夜更けに、どうかした……」
 妻に掛ける言葉を、失った。
 目を白黒させる男の前で、妻は跪き、恥しそうに上目遣い視線だけで夫の方を盗み見る。
 スタンドライトに淡い橙色に照らし出される妻――加藤の姿は、見慣れた寝巻き姿ではなかった。
 髪にはレース付きのカチューシャ。胸には大きなピンクのリボンを蝶結びで留めてある。
 全身も同じく桃色のエプロンドレスに包まれた、いわゆるメイドスタイルである。
 そのメイド服そのものは、メイド萌えを勘違いした風俗店の店長が用意しそうな安っぽい代物だが、
それを着て羞恥心に顔を真っ赤し、短いスカートの裾を抑えるように握り締める加藤の姿は、たまらなく
扇情的だ。萌え。



「キョ、キョウコ……い、一体どう――」
「――旦那さまっ」
 夫の疑問の言葉を遮り、加藤は早口に捲くし立てた。
「私は、いつも旦那様に抱かれる事を想って自分を慰めている、ふしだらなメイドですっ!」
 唖然としている夫を前に、俯いたまま搾り出すように言葉を連ねる。
「だからど、どうか、私にお仕置きを、旦那様の……だ、旦那様の……オ……オチ……で……」
 スカートを握る手が震える。
「私の……オマ……」
 パクパクと口は動くものの、それに続く言葉は出てこない。
 黙ったままの夫の視線が、全身に突き刺されるように感じる……限界だった。
「や……やっぱりだめぇ! 言えないっ!」
 絨毯の上に座り込んだまま、加藤は両手で顔を覆ってしまう。小刻みに肩が震える。
「ごめんなさいっあなたっ!」
 顔を隠したまま、踵を返して部屋から飛び出そうとする加藤。
「待って!」
 その身体を、夫が背中から優しく抱き締めた。
 ビクンと、加藤の身体が反応する。
 暫し、そのままでいた二人だったが、やがて両者が落ち着いた頃合に夫から切り出した。
「……ごめん。今まで、君の気持ちに気づいてあげられないで」
「……あなた……」
「でも、誤解だけはしないで欲しい。君の事を好きな気持ちも、大事に想う気持ちも変わってないよ。
 ただ、仕事を続けながら、子育てまで君に任せっきりだったから、夜ぐらいは休ませてあげたい、
って思っていたんだ……だから……僕だって、ずっと……」
「……あなたぁ!」
「キョウコ……んんぅ」



『んはぁっ……! ……なたあぁ! ……きっ、だい……きぃ!!』

「……と、いうわけで、加藤先生は見事和姦に至ったようで、めでたしめでたしってとこね」
「はぁ……そのようですね」

 とあるマンションの正面に、一台の自動車が止まっている。
 運転席に座るのは坪井、その助手席にいるのは勿論小宮山である。
 ダッシュボードの上には、ティッシュ箱ほどの大きさのスピーカーが置いてある。聞こえるのは、
加藤に渡したメイド服に縫いこんだ盗聴器が拾う、秘め事の一部始終だ。(勿論、加藤には内緒)
 ちなみに、加藤が言おうとしたセリフも、小宮山の入れ知恵であることは言うまでも無い。
「いやー、イイ事すると気持ちイイわねぇ、坪井君」
「……どちらかというと、気持ちイイ事するためにイイ事を用意したような気もしますが」
「そんなの鶏と卵のレベルの話よ。いいじゃない。加藤先生にはいつもお世話になってるんだから」
「まあ、そりゃそうですが……」
 どこか含みを持つ坪井の口ぶりに、小宮山の眼鏡がキラリーンと怪しく光った。
「あら……何か不満がありそうね……まさか、加藤先生と一発ヤリたかったなんていうのかしら?」
「へっ? いいいや、いや、そんなことない、いやそんな事無いですよ!」
「……ほー、私じゃ満足できないワケ? ほー、ほー、ほー、ほー、偉くなったねぇ坪井君?」
 坪井のネクタイをクイクイ引っ張る小宮山。
「そ、そんな事一言も……んんっ」
 釈明する坪井の言葉を、唇で遮り遠慮なく舌を絡める。
「んぷはぁ……それじゃ、足腰立たなくなるまで、満足イかせてあげるわ。ほら、出しなさい!
 ……って、そっちじゃなくて車なんだけど……まあ別にどっちでもいいか……んぅ」(パクッ)
「ひぃー」
 
 こうして、教師達の夏の夜は更けていくのであった……。


(おしまい)

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