作品名 作者名 カップリング
「妄想<現実」 トマソン氏 -


 ある日の朝。
 静かな住宅地の中を、一人の通学途中とおぼしき男子高校生が歩いていた。
(ありゃ、赤か……)
 信号待ちで立ち止まった彼の名は城島シンジ。今日は妹のカナミは当番で早めに登校
したため、一人で小笠原高校への道を歩いている。
(むっ………)
 赤信号を前にした城島シンジは横断歩道をじっと見つめ、精神を集中した。
 アスファルトの上に描かれた白線の模様に心を任せ、それ以外の意識を空白にする。
やがて、彼の脳内にあるものが浮かび上がった。
(……しまパン……白と青のしまパン……)
 今やシンジのまぶたには、ムッチリと引き締まった真っ白な太腿、丸みを帯びた豊か
な尻たぶ、そして蠱惑的なラインを覆うストライプのショーツがくっきりと映っていた。
 手を伸ばしてそっと触れれば、柔らかい木綿の手触りが返ってくる。布切れを通して
柔肉を撫で回すと『いやぁ……』と可憐な声が響き、脳内に描かれた少女の腰がモジモ
ジと身をよじった。
 ちなみに脳内での声の出演は、時には妹の友人である矢野アキ、時には同級生の今岡
ナツミ、そして今日はやはり同級生の木佐貫ケイである。やはりこういう恥じらい役の
女性はそれなりのキャラでなくては。
(この次は加藤先生で試してみよう)
 そんな冷静な? 思考がシンジの意識のごく一部に浮かんだが、思い浮かべたケイの
尻の蠱惑的な曲線の前に、そんな考えは脇へ押しやられ、妄想はさらに進んだ。
(……なんて……手触りだ……)
 シンジの掌が、恥ずかしげに腰をもがく少女の抵抗をものともせずに、優しく尻たぶ
を捕まえ、やわやわと揉み始めた。
『ああ……だめ……あっ……』
 か細い抗議の声が次第に甘い吐息に変化してゆく。
『ひゃあっ!』
 豊かなヒップの中心にひそやかに走る溝を指先で撫で下げられ、少女は小さな悲鳴を
上げた。
『だ、駄目ぇえっ!』
 やがて、指先が少女の敏感なところへとそっと忍び込んでゆく。




 このところ、彼は信号待ちに引っかかるたびにこうして妄想に浸っている。先日こう
やって信号待ちの時間をつぶすことを妹のカナミに教わって以来、少々ハマっていると
いうわけだ。
 だが、そんなことをやっていれば注意力が散漫になるのも当たり前なわけで。
「ブッブ〜」
(おっと)
 クラクションを鳴らされ、我に返ったシンジ。なんと横断歩道の中央にいる自分に
気づいた。妄想に浸っている間、ゆっくり歩きすぎたらしい。
 既に歩行者用の信号は赤に変わっている。
「ちょっと、気をつけなさいよ……あら、城島君」
 クラクションを鳴らした車の窓が開き、女性の顔がのぞく。この声は……。
 車を運転していたのはご存知、小笠原高校の名物化学教師、小宮山先生。
「えええ、えーと……」
 小宮山先生の顔に視線を向けたシンジは少々当惑した。小宮山先生の頭に掛けられた、
というか頭にかぶっている何かに、先生の顔は中央が、漆黒のショートヘアの髪はその
ほとんどが覆い隠されている。
 初めはプロレスラーのマスクか何かと思ったが、そうではない。これは……帽子でも
ない、サンバイザーでも、もちろんヘッドフォンでもない。
 シルクとおぼしき艶やかな生地の、一部だけ厚くなっているこれは……やっぱりアレ
ですか?

「……小宮山先生……何かぶっているんですか……」
 はい、どう見てもパンツです。本当にありがとうございました。
「あ、いけない。パンツかぶったままだったわ」
 彼女はそれをひょいと引っ張ると、その布切れはするりと頭から抜けた。
 慌てていたのか、パンツの上からかけていた眼鏡までが当然ながらすっ飛んだ。
「あらあら、眼鏡まで。まいったね」




 膝の上に落ちた眼鏡を掛けなおした小宮山先生、再びシンジに顔を向ける。
「それより、何ぼーっと歩いてるの? もう時間が危ないわよ」
「お、おおおっ! や、やばい!」
 いつの間にか、走ってもどうかという時間だ。腰を落としてスタートダッシュの体勢
に入ったシンジに、神の声が響いた。いや、この場合は女神か。
「しょうがないわねえ、乗りなさい」
「え……いいんですか? 小宮山先生」
「受け持ちの生徒に遅刻してほしい担任はいないわよ。というか私も危ないの」
 シンジは言われるままに助手席に乗り込み、ベルトを締めた。小宮山先生は車を発進
させる。
「ふー、助かりました……うおっ!?」
「あ、やっぱり」
 いつの間にやら小宮山先生の手がシンジの股間に伸び、アレが勃っているのを握って
確認していた。
 パニクるシンジをよそに小宮山先生は落ちついて車を進めつつ、口を開いた。
「なにやらズボンの前がかすかに膨らんでたから……横断歩道を歩きながら妄想に浸って
コレを大きくしてるって、一体何を考えてたのよ」
「……(い、言えねえっ!! 妄想で同級生の木佐貫の尻を揉んでたなんて!)」
 反応に困るシンジをよそに、小宮山先生は冷静そのものだ。ま、この女性の悪ふざけ
はいつものことだが。というか、まだ握ったままなのを何とかしてください。
「どうせエロい妄想してたんでしょ? 何を考えてたのか、言っちゃいなさいよ」
 どんなに詰問されようと真実を言えるわけがない。なんとか反撃せねば……!
「い、いや、なんでもないですよ、はい。先生こそ、なんてモノかぶっていたんですか」
「あ、これ? 寝癖を直すためにパンツをかぶっていただけよ。それに、あんただって
被ってるんじゃないの? 皮」
「……」
 駄目だ。パンツをかぶるのも人としてどうかという突っ込みを入れる間もない。反撃の
ほうが百倍厳しい。
「あ、でも今は大きくなってるから先端が出てるか♪」
「……」
「言いたくないんだったらいいわよ? その代わり、アンタが溜まっているって噂を
クラス中の女子に」
「うわああああああああああああああ(AA略)」

 シンジの長い一日は始まったばかりだった。

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