作品名 作者名 カップリング
「アキの苦手克服」イントロ編 トマソン氏 -


「親戚からリンゴがたくさん送られてきて、二人じゃ食べきれないんだよね。協力して」
 城島家で勉強会が行われた、ある秋の日のこと。
 一息入れたタイミングで、カナミは集まった友人達──黒田マナカ、矢野アキ、それ
に岩瀬ショーコ──にリンゴをむいて振る舞っていた。
 もちろん、食べ盛りの女子高生達に異論があろうはずもない。それぞれに手を伸ばし
シャクシャクと新鮮なリンゴを頬張る。
 真っ赤なリンゴを手にして、アキが口を開いた。
「なら、焼きリンゴにしてみたらどお? 皮むくと中から汁がトロトロ出て来て、
おいしいのよね」
 アキとしては別に他意があったわけではない。腐らせてしまうのは勿体無いと思って
の無邪気な提案である。しかしカナミとマナカにかかると、反応はこうだ。
「そういえば、包茎の人間が射精するとそんなカンジですよね」
「つまり皮オナ」
 頷きあうカナミとマナカ。相変わらずの耳年増ぶりだ。

 ショーコは賢明にもあっさりスルーした。
(私の彼はズル剥けだもん、関係ないわね)
 それはそれで女子高生らしからぬ感想なのだが、まあダメージがないのは何よりだ。
 が、アキは大ダメージを負った。もはや突っ込む気力もない。
 大好物だった焼きリンゴを頭に思い浮かべようとすると、皮をかぶった男性のそれが
イメージとして浮かんでくるばかりだ。皮をむくと、そこから甘いリンゴの汁ならぬ、
白濁した液体がトローリと……わあ〜!
 アキはぶんぶんと手を振ってそのイメージを振り払った。
(もう、食べられない……焼きリンゴ……)



 その日の夜。
 食卓にカナミの心尽しの料理が並び、皆が夕食の席についた。料理の香りと彩りに
各々が感心する中、ただ一人アキだけが、机に並んだメニューを見て絶句していた。

「いただきまーす」
(そーいえば、ウチの食卓の席が埋まったのって久しぶりだな……ウチの両親ってアレ
だから……まあたまには、こう騒がしい家もいいかもな……)
 感慨に浸りつつ料理を口に運ぶシンジだったが、隣に座ったアキが全く手を動かして
いないことに気づいて声をかけた。
「アキちゃん? どうしたの、体の調子でも悪いの?」
 皆も一斉にアキを見る。
「アキさん、おいしいですよ?」
「ダイエットでもしてるの? アキちゃん」
「そうじゃない。ていうか、このメニュー」
 食卓の上に並んだ品々は───。
イカたっぷりのシーフードスパゲッティ。まるでシンジの部屋のようにイカ臭さ全開。
サラダとつけ合せた皮つきの鳥肉。剃って一日たったあとみたいなブツブツが一面に。
飲み物はリンゴジュース。あたかも黄金水のようなこの色、この輝き。
デザートに焼きリンゴ。包(以下略)

「……お前、明らかに狙ってるだろ。私を飢えさせる気か?」
「え、おいしいよ、アキちゃん。どうして食べないの?」
 カナミは屈託のない表情だが、この顔で破壊的な真似をするのも、彼女のいつもの
パターンである。
「お前のせいだ」
 ビシッ! とカナミを指差すアキ。
 状況をかすかに理解しはじめたシンジが、事実を確かめようと口を開いた。
「えーと、アキちゃん。好物がどんどん減っているって言ってたけど、もしかして……」
「……かくかくしかじかこういう訳で、これ全部、もとは好物だったものなんです」
「カナミー!」




 シンジはとりあえずエロ例え話をやめろとカナミに説教はしたものの、アキの空腹が
それでどうにかなるわけではない。
「とにかく、ごめんねアキちゃん……カナミのせいでどんどん食べられるものが減って
しまっているんだもんね」
「ううー……」
 ぐ〜。
 空腹をこらえるアキの腹が鳴った。女の子としてはあまり聞かれたい音ではない。
赤くなって席を立つアキ。
「あ……あの、失礼します……」
 外で何か食べてこようと、上着を羽織った。
「いや、もう暗いし、一人じゃ危ないよ……付き合うから、一緒に行こう」
 シンジもアキを追って席を立つ。すかさずマナカがからかった。
「あら、お二人さんデートですか?」
「何をいってるのよ、もう」
 アキは一応否定する。が、シンジは本気で怒っていた。もはやエロボケに付き合う
気もない。かすかな笑みすら浮かべず、冷たい視線をカナミとマナカに向けた。
「そうだよ」
「え」
「ちょ、ちょっとお兄ちゃん……」
 あっさり肯定されて立つ瀬がないマナカとカナミ。アキも少し赤くなったりして。
「あ、あの、お兄さん」
「その通りじゃないか、二人で食事に行くんだから。さあ行こう」

 かくて、シンジとアキの初デートは、カナミの悪戯に始まった。
 カナミのおかげでデートが楽しめると言えなくもない。
(ま、感謝はしないけどな)
 アキを引き連れ、最寄りのファミレスに向かって夜道を歩きながら、内心でつぶやく
シンジであった。




 近場のファミレスに席を占めたシンジとアキ。注文を済ませ、コップの水に手を
伸ばしたアキだったが、手が震えてコップを倒してしまった。
ガチャン! 卓に水が広がる。人にかからなかったのは幸運だった。
「おっと」
「あああっ!」
 アキがあわてて、お手拭で卓を拭く。台布巾を手にウェイトレスが飛んできて、後
始末はすぐに済んだ。
「アキちゃん、大丈夫? 濡れなかった?」
「はい大丈夫です。あの、お兄さん……ごめんなさい、緊張しちゃって……私、よその
男の人と二人で食事なんて初めてだから……」
「いや、俺もだけどね」
 顔を見合わせ、思わず笑ってしまう二人。それでようやく緊張が解け、いつものよう
に会話が弾むようになった。
「その、お兄さん……ありがとうございました」
「ん?」
「レストランまで付き合ってもらって……お兄さん、カナミの手料理も食べ損ねたわけ
だし……それに本当は、少し怖かったんです。最近、この界隈にも変質者が出るって
いいますし」
「いや、もともとはカナミが悪いんだし。ごめんね、いつものことだけど……お、料理
が来たね。へえ、そのドリア、うまそうだね」
「お兄さんのイタリアンハンバーグもですよ。一口づつ交換しましょうか?」
 二人は楽しく夕食を済ませた。

 帰途についた二人、世間話をしつつ夜道を歩きながら、アキは内心嬉しかった。
(初めてのデートはシンジさんと、か……この人は、こんなトンでもない話に誠実に
向き合ってくれる……めぐり合いって、こんなものなのかな……。
 でもやっぱり好物がなくなるのはつらいなあ。シーフードを一生食べないわけにも行
かないし、なにより焼きリンゴは食べたいし、なんとか克服しなきゃ……)
 満腹のくせに大好物の焼きリンゴを頭に浮かべようとするあたり、アキも結構、食い
意地が張っている。だが、悲しいかな、脳裏にイメージとして浮かんでくるのは皮を
かぶった男性の(以下略)
 食事が済んだあとでよかった。アキは溜息をついたが、夜道のこと、幸いシンジには
気づかれずに済んだようだ。





 数日後。シンジはメールでアキに呼び出され、校庭の片隅にある木に向かっていた。
(そういえば、前にもあそこに呼び出されたことがあったような……そうだ、マナカ
ちゃんが木から下りられなくなっていた子猫を助けたときだ。あの時はいきなり
『アナタの上に乗りたいんです』といわれて、一瞬ドキッとしたっけ。その猫は、今で
はマナカちゃんが飼っているそうだけど、名前は確か……タマだったかな? もっと
おかしな名前だったような気もするな……)
 さすがにキンタマという名前だとは思い至らない。

 シンジはそんなことを考えながら歩を進め、待ち合わせ場所に指定された木が見えて
きた。残念ながら伝説の木ではないし、「ぼっ木」などという彫りこみもない、至って
普通の木である。
 アキは既に来ており、幹に寄りかかっていた。
「お兄さんすみません、呼び出してしまって……」
「アキちゃんごめん、遅くなって。待ったかい?」
「いいえ、今来たところで……」
 ぷっ。二人は同時に吹き出した。
「どこかで聞いたようなやり取り……なんだか、デートの待ち合わせみたいですね」
「ははは、そうだね。それでアキちゃん、なんの用?」
「はい……あの……」
 急にもじもじし始め、顔を赤らめるアキ。
「お兄さんに大切なお話が……」
(な、何だこのシチュエーションは……まさか、告白?!)
 たまらずシンジの心臓が高鳴る。

「あの、カナミの悪戯でいくつも好物が減っている話なんですけど……」
(……まあ、そんなもんか)
 シンジは少し落胆したが、まあ勝手に妄想に浸ったのは彼自身だ。話を進めよう。
「うん、その話はこの前聞いたけど……?」
「やっぱり私、焼きリンゴが大好きなんです。シーフードだって、一生食べないわけに
は行かないし」
「うん。それで?」
「でも、その……あんなこと言われちゃって、今は見るだけでもきついんです。だから、
その……イカ臭さに慣れれば、シーフードも平気になるんじゃないかと」
「……」
「それに、男性のアレに慣れれば、焼きリンゴも平気になるんじゃないかと」
「……」
 えーと、このボーイッシュで可愛らしく快活な女の子は、俺に何をして欲しいのか?
ひょっとして、いや、まさかとは思うのだが。
「だからお願いです、協力してください……」
「…………えーと。つまり、俺に何をしろと?」
「だから、その……お兄さんのナニに慣れさせてください」




 手を腰の後ろに回して木に寄りかかり、羞恥に顔を真っ赤にして、それでも目の前の
シンジから視線を外さずにとんでもないことを言うアキ。その姿たるや鼻血もの、可愛
いぜコンチクショー、なのだが、言ってることは可愛いどころではない。
 さしもの思わずシンジも絶句した。
「……」
「あの、お兄さん?」
「……いやあの、アキちゃん、君だって嫁入り前の女の子なんだから……」
「そんなこと、分かってます! 私だって恥ずかしいんです……でも、あの、お願い
ですから……」
「で、でもさ…………」
 逡巡するシンジ。二人をしばらく沈黙が支配した。
 沈黙に耐えきれず、数秒後、アキは目を伏せてしまった。
「やっぱり……そうですよね、好きでもない女の子に見せるのはいやですよね……」
 こんな悲しそうな表情をされたら、男はいたたまれない。
「いやその、アキちゃんのことは好きだけど……」
 アキの瞳に涙がたまっているのを見て、シンジもたまらずフォローしようとしたが、
思わず口が滑った。
 いやその、好きって、だからそういう意味じゃ。
 アキの顔がぱっと明るくなった。
「お兄さん……嬉しい……私も、お兄さんのこと、好きです」
「……え」
 突然の告白に固まった。いやこの場合、先に告白したのはシンジのほうか? 少なく
とも、シンジの台詞がアキの背中を押したのは間違いない。
「好きでもない男の人に、『ナニを見せてください』なんて言うと思いますか?」
「……それはそうかも知れないけど……でも」
「お兄さんも私のこと、好きっていってくれたじゃないですか」
「う、うん」
 アキ、積極的ですな。というか、うらやましいぜシンジ。
「抱いてくださいなんて言いません。慣れたいだけですから、その……見たり触ったり
させてもらえばいいんです」
 ここに至ってシンジの理性も半壊。だが、触られるだけ触られて、我慢する自信など
あるはずもない。
「……アキちゃん……分かったよ。でも、これだけは言っておく」
「……何でしょう?」
「アキちゃんみたいな可愛い女の子に触られてまで、理性を保つ自信はない。
いやむしろ、俺は君を抱きたくてどうしようもない。俺も男だから……だから、こんな
節操なしに抱かれてもいいのなら、引き受けるよ」
 今度はアキが逡巡し始める。
「あ……あの、お兄さん……可愛いといってもらえるのは嬉しいです……それに、お兄
さんのいうことはもっともだとも思うんですけど、私まだその……処女を捨てるつもり
はないんです……」
 アキ、意外とこの方面には保守的かも。というより、エロ面子に囲まれている反動と
いうべきだろうか。





 シンジは両手を握りしめた。彼の脳内で、己の欲望と目前の女の子の幸福が天秤に
かけられ、天秤があっちへ傾いてはこっちへ振れる。シンジは手が白くなるほど拳を
握り締め、必死でどす黒い欲望を抑えた。 
 やがて、彼の両手から力が抜けた。
 まあ、いくら煩悩満タンの高校生にして互いに告白した仲とはいっても、即エッチと
は限るまい。それに、目の前の女の子が自分を大切にしたいと思っているのは、シンジ
にとっても嬉しいことだ。アキの体を諦めるのは惜しかったが……無理強いは出来ない。
「……うん、大事にするのがいいと思う……だから、この話はなかったことに」
「で、でもあの……あの、エッチ以外でしたら、何でもしますから……」
 今度はアキがあわててフォロー。ここで見捨てられたら、焼きリンゴがもう二度と
食べられない。そんな思いがアキの口を滑らせた。
「いや、だからね、俺にはそれが我慢できないから」
「だったら、あの……口で……」
「……あ、アキちゃんあのね……」
「お兄さんが良かったら、その……胸ででも……しますから……」
 アキは顔を真っ赤にして、はにかみながら無茶なことを言い始めた。その上目使いと
刺激的なセリフが、改めてシンジの煩悩を直撃した。目の前にある、ピンク色の唇が
自分のアレを咥えてくれる。眼前で揺れている豊かな胸の隆起で、アレを挟んでくれる。
 そう考えたたけで、シンジの下半身がビクッと鎌首をもたげた。
「あ、あの、お兄さんだったら、お尻ででも……」
 半壊状態から一旦立ち直ったシンジの理性だったが、ここに至って音を立てて崩壊し
た。がらがらどっしゃん。
 シンジはえいと両手を伸ばし、木にもたれるアキの両肩に置いた。軽く腕に力をいれ、
アキの体を木の幹に押し付けてやる。
「あ……」
 つぶらな瞳にわずかなおびえが浮かぶ。こんな体勢で男性に迫られるのはアキは初め
てなのだから、無理もない。
「アキちゃん……それじゃ、俺のアレに慣れてもらう代わりに、アキちゃんの口やお尻
で俺を気持ちよくしてくれる、というんだね?」
 改めて言われて、アキは自分がものすごいことを頼んでしまったことに気付いた。
だが、もう後戻りは出来ない。
「……はい。でもあの、ごめんなさい、本番だけはなしで……」
「……分かった。協力する。というか、俺のほうが頼むよ」
「……はい……」


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