作品名 作者名 カップリング
「享楽的進化論」 トマソン氏 坪井先生xマリア先生


 小笠原高校の校舎に、しとしとと秋雨が降り注ぐ。
 午後から降りだしたある秋の夕方、加藤キョウコ先生と一年生の矢野アキは、連れ
立って昇降口に向かっていた。
「こういうとき、折りたたみって便利ですよね」
「場所とらないものね」
 折りたたみ式の置き傘を手に提げて、笑顔で談笑しながら出口に向かう二人。その
後ろから、とある女性が声をかけた。
「そーデスよねぇ、ペニスバンドも折りたたみ式なら、常時着用していつでもどこでも
プレイできるノニ」
 二人は反射的に声の主から距離を取り、物陰に身を隠す。
 声の主は、アメリカから語学研修でやってきたマリア=ルーズベルト先生。見事な
金髪の長髪を持つ美人だが、いささか過激な百合派である。
「そう思いませン?」
「思わないから急に人の会話に混ざってくるな」
「Oh, 残念デース、この道の素晴らしさをご存知ないトハ」
 無念そうにマリア先生が立ち去る。その日はそれで済んだのだが……。






 数日後、ある日の放課後。
「♪〜」
 マリア先生が英語の教材を手にして上機嫌で廊下を歩いているところへ、矢野アキが
声をかけた。
「マリア先生、ご機嫌ですね。あれ? なんか、前が膨れてませんか?」
 言われて見れば、マリア先生が着ているロングスカートは、腰の前のあたりが微妙に
隆起している。
「矢野サン、これに気がつきマシタか。人前じゃ出せないから、ちょっとココへ……」
 マリア先生はそばの視聴覚教室へ矢野アキを連れ込むと、何を思ったか、スカートの
前をめくりあげた。
「ちょ、ちょっと先生……」
 引きまくるアキの前に現れたのは、紫色の、布地面積最小クラスの過激なショーツ。
そしてその中にくっきりと膨らんだコレは……?
 マリア先生はショーツの中に手を伸ばした。折りたたまれていたらしいなにかを伸ば
し、カチリとストッパーを起こしてはめる。
 僅かな布地から、あっさりとはみ出したそれは、怒張した男性器の形状を見事に再現
していた。無駄にエロい友人たちのおかげで? 性知識はそこそこ豊富なアキだが、
これにはさすがにドン引きである。

 マリア先生が満面の笑みで口を開いた。
「ハンドメイドの折りたたみ式ペニスバンドデス! これでいつでもどこでも、プレイ
が楽しめマス。これを特許申請して、大もうけしてハーレムを作るのデス!
 矢野サン、調子を試したいので早速……」
「きゃああああっ!」
 矢野アキ、貞操の危機。ダッシュで部屋から逃げ出すが、廊下に一歩を踏み出した
ところで、お目々キラーン状態のマリア先生に後ろから腕をつかまれた。
「いやあああああっ! 誰かーっ!」

「……ちょっと、一体何事?」
 ただならぬ悲鳴を聞きつけて廊下を向こうから走り寄ってきたのは、国語を教える
美人教師、家庭では一歳になったばかりの赤ちゃんの母親にして貞淑な妻でもある、
加藤キョウコ先生。
 スカートの前を派手に膨らませ、アキを部屋に引きずり戻そうとしているマリアを
認め、割って入った。
「マリア先生! 一体何をしているんです!」
「Oh、加藤先生。アナタも一緒に繋がりマショウか」
「ふざけないで!」
 矢野アキの手を引き、とりあえず職員室まで逃げた加藤先生。
 おびえたアキをなだめすかし、親しい教師達を集め、緊急会議を開いた。




「女子達の貞操の危機なんです!」
 物静かな加藤先生が珍しく興奮している。めったに物を叩くことのないたおやかな
手が、机をバンと叩いた。
 ここは小笠原高校の職員室の隣にある会議室。机を囲んで会議に参加しているのは、
化学の小宮山先生、英語の坪井先生に、今机を叩いた加藤先生。そして矢野アキは、
会議室の隅っこで小さくなっている。
「マリア先生をあのまま放っておいたら、女子達がどんな目に会うか……私だって……」
 顔を真っ赤にして口をつぐんだ加藤先生。そこで小宮山先生が地雷を踏む。
「ま、それならそれで面白」
「違うでしょ!」
 ピシ!と加藤先生の右手が突っ込みポーズ。望んでもいないツッコミスキルが着実に
上達しているのがなんともはや。
「でも、どうするんです? その折りたたみ式のヤツを取り上げたって、マリア先生、
また作るだけでしょう?」
 坪井先生は思いを巡らすが、良案などあるはずもない。

 小宮山先生が何か策を思いついたのか、きっと顔を上げた。決意を秘めたその横顔。
これがアクション映画の主人公なら、りりしい横顔に危険な香り……となるところだが、
この人の場合は間違いなく、違う意味で危険だ。
「……こうなったら、ショック療法しかないわね」
「ショック療法……とは?」
「マリア先生に、男の味を教えるのよ」

「……」
 加藤先生、絶句してます。
「……」
 アキ、同上。
「……いや、そんなこと言ったって……」
 坪井先生が最初に口あんぐりから立ち直ったものの、気の利いた答えも出来ない。
「女子生徒達の貞操の危機なのよ、坪井君」
「……でも、どうやって?」
「もちろん、男に抱いてもらって、その男が彼女に教えるのよ」
「……えーとあの、まさかとは思いますがもしかして、俺がマリア先生を抱く、と?」
「ほかに男はいないじゃないの」
「……いやあの……」
「それとも『マリア先生とヤりたい人〜!』って、男子生徒から志望者を募ってみる?」
「それはちょっと、いくらなんでもまずいのでは」
「それに、金髪の嫁さんなんて憧れでしょ?」
「……いや、そういう問題じゃ……」
「いいから!」
 良くないと思います小宮山先生。




 とりあえず落ち着いたアキを帰した教師三人組、喧々囂々の末……というか、ほと
んど小宮山先生の主導で、作戦が決まった。

・加藤先生がおとりになり、マリア先生を化学準備室におびき出す。
・そこでキスのふりをして痺れ薬を飲ませ、坪井先生がマリア先生を抱く。
 このとき、男性の味を覚えさせて百合の道から卒業させるのが目的なので、徹底的に
満足させること。
・念のために、小宮山先生がその様子をビデオに記録する。私用・販売厳禁、マリア
先生がごねた場合にのみ使うこと。

「……でも、これって犯罪じゃ……」
「マリア先生がしようとしていることはもっとひどい犯罪よ」
「いや、同罪だと……それに、徹底的に満足させるったって、自信が」
「女子生徒達がどうなってもいいの?」
「いや、そうじゃないですが」
「それじゃ、作戦開始よ!」
「いやあの……」
「早くしないと、女子生徒達が危ないわ! さあ!」
 強引に仕切る小宮山先生に、釈然としないながらも従う加藤先生と坪井先生。

 小宮山先生は手際よく準備全般を整えた。場所に提供した化学準備室を片付けて
マットレスを敷き、加藤先生には痺れ薬の小袋を手渡し、坪井先生にはコンドームと
栄養ドリンクを渡して、最後にビデオカメラを設置。
 それにしても、妙に楽しそうなのは気のせいですか小宮山先生。





 まずは化学準備室におびき出さねばならない。加藤先生は職員室にいたマリア先生を
捕まえた。
「マリア先生」
「Oh〜, 加藤先生。さっきは矢野サンを誘ったのに、邪魔してくれマシタね」
 マリア先生は少々怒った顔だ。
「そうね、さっきはごめんなさい。でも、女子生徒を毒牙にかけるのはやめて欲しい
ですね。でもその代わり、その……私が……お相手をしますわ」
 加藤先生がこんな台詞を言い慣れているはずも無い。顔を赤らめたうえ、少々棒読み
口調だが、まあやむを得ないだろう。
「Oh, fantastic! それは嬉しいデスね。このマリア=ルーズベルトの会心作、折り
たたみ式ぺ二スバンド『エニウェア・エニタイム・コック』、略してAACの威力を
試すさせてもらいマス」
(な……なんなのよ、それ……)
 背筋が寒くなる加藤先生だったが、作戦のためと思い、必死に我慢して笑顔を作る。
「小宮山先生に頼んで、化学準備室を空けてもらったから、そこへ行きましょう」
「はいデス」

 加藤先生とマリア先生は二人して化学準備室に入った。
 物陰に坪井先生と小宮山先生が隠れていたのだが、マリア先生は気づかない。嬉々と
してビデオカメラを操作している小宮山先生に比べ、コンドームを手にスタンバイして
(うーん、俺は洋モノはなぁ〜)
と逡巡している坪井先生は今ひとつ迫力に欠けるが、まあ無理もない。

「サア加藤先生、脱ぎまショウ」
 いきなりスカートを豪快に脱ぎ捨てるマリア先生。紫の超ビキニショーツと、その下
のモッコリがあらわになった。加藤先生はその隆起に目を奪われ、冷たいものが背筋を
上下するのを感じた。
「そんな、いきなりは……まずはキスからしてください……」
 立ち尽くす加藤先生、顔を真っ赤にして唇を突き出した。舌の裏に隠していた痺れ薬
の袋を、いつでも噛み切れるようにスタンバイする。
 加藤先生も決して小柄ではないが、マリア先生はさらに長身だ。わずかに上目使いに
なって唇を突き出し、おねだりするような視線で相手を見つめる加藤先生。男ならたま
らない眺めだ。そしてもちろん、百合族の女性にとっても。
「Oh, 加藤先生はキュートですネ〜」
 マリア先生はすっと顔を近づけた。



 唇が至近距離に迫ったところで、加藤先生は痺れ薬の袋を噛み破り、マリアに飲ませ
るべく、舌の上に粉を用意した。嫌悪をこらえて、マリア先生の唇を受け入れる。
「んっ……」
 軽くタッチしただけで、マリア先生の唇が離れてゆく。
(え……?)
 加藤先生、思わぬ計算違い。まさか軽いバードキスで済ませるとは思わなかった。
粉薬が次第に自分の舌の上で溶けていくのが分かり、彼女は焦りまくった。
(この薬をどうすればいいのよ? 舌を絡めなきゃ、飲ませられない……)
 答えはひとつ。ディープキスをねだるしかない。加藤先生は軽いめまいを感じたが、
舌の上の薬はもうすっかり溶けている。口の中に溜まった唾液を飲んだら最後、自分が
痺れてしまうだろう。必死で物欲しげな表情を作って口を開いた。
「あの、マリア先生……」
「舌を入れて欲しいデスか? ちゃんとそう言ってくれナイと、わかりませン」
 マリア先生、早くも言葉攻めですか。
「……マリア先生……もっとエッチな、大人のキスをしてください……」
 心ならずもおねだりする加藤先生。こりゃたまりませんぜ旦那イッヒヒヒヒ。って、
誰だよ旦那ってのは。
「OK, 行きマスよ……」
 もう一度、二人の唇が合わさった。軽く開いた加藤先生の口に、マリア先生の舌が
遠慮なく侵入し、加藤先生の舌を絡み取る。
「んっ……んんん……」
 だが、このままでは自分だけが薬を飲んでしまう。加藤先生は必死で逆襲し、舌を
こちらから差し入れ、薬交じりの唾液をマリア先生の口腔に流し込んだ。
 ぴちゃぴちゃと二人の唾液が混ざる音が響く。
 物陰に隠れた坪井先生、淫靡な音にリビドーを直撃されたりして。
(ううっ……こりゃ、たまらない……)
(あらあら、加藤先生もやるわねえ。私まで濡れちゃいそうじゃない)
 小宮山先生はすっとぼけたものだ。

(……? ナンだか、加藤先生の唾液は苦いデスね……)
 マリア先生の喉がこくんと動き、二人の唾液が混ざった液体を飲み込んだ。
 加藤先生、ミッションコンプリート。
 だが、同時に自分もまた呼吸の苦しさに耐えられず、口腔内にたまった液体をこくり
と飲み込んでしまった。
(やった……けど……私も……)
「ア……なん、何でスか……」
 体に力が入らなくなった二人。マットレスに崩れるように座り込み、そのまま倒れて
しまった。



「作戦成功ね、加藤先生まで痺れちゃったのは想定外だけど」
 物陰から小宮山先生と坪井先生が姿を現す。
「それにしても、どんな薬ですか、こりゃ」
 立ったままでのディープキスから崩れ落ちた二人は、完全に脱力してマットレスに
横たわっている。動こうとしても体がぴくりとも動かないようだ。その目は力なく開き、
物陰から現れた二人を、一人は救いを求めて、一人はけげんそうに見ている。
「うん、触覚も視覚も聴覚もそのままで、動けなくなるだけのヤツ。一時間くらいしか
持たないから、それまでに頑張って。あ、でもそういえば加藤先生が半分飲んじゃった
わけだから、追加でこれを飲ませて上げなさい」
 さらなる粉薬を坪井先生に手渡す小宮山先生。
「これも用意しとくから」
 別の塗り薬を机に置く小宮山先生。
「それは?」
「肌に塗るタイプの催淫剤。乳首に塗ればムズ痒くなって、しゃぶってもらいたくなる
し、アソコに塗ったらひりひりしてもうたまんなくなるわよ」
「……いや、催淫剤って、なんでそんなものが学校に……」
「ま、いいからいいから。それじゃ、ビデオはもう回っているから頑張って」

「……とにかく加藤先生を保健室までお願いします」
「そうね、あとはズッポシ楽しんでね」
『ズッポシ』と言いながら左手の指で輪を作り、右手の指をその穴に抜き差しして見せ
るあたりは、さすがに小宮山先生というべきか。
 小宮山先生は脱力した加藤先生の体ををひょいと抱え上げ、肩に担いだ。
「私達は私達でたっぷり楽しむから」
(……え?! ええええ?)
 体が痺れて動けない加藤先生、怪しい言葉に頭がパニックになった。今この二人に
裏切られたら、脱がされようが犯されようが、抵抗も出来ないではないか。
「うふ、冗談よ。もう、本当に可愛いんだから……めちゃくちゃにしてやりたい位……」
 小宮山先生、加藤先生の上気した顔に口を寄せ、耳元でささやく。まるで狼の前に
放り出された赤ん坊のような状態で、加藤先生は保健室に運ばれていった。




 マリア先生はなにが起きたのか、しばらく理解できなかった。なんとあのキュートな
加藤先生に誘われ、化学準備室でしっぽり楽しむつもりが、ディープキスをしてみたら
体から力が抜け、加藤先生と二人して崩れ落ちてしまった。。
 さらに、そこへ小宮山先生と坪井先生が現れ、作戦成功とかなんとか話している。
(……コレは一体……もしかして、薬をもりまシタね……?)
 ようやく一服盛られたことに気づき、起き上がるべく身をもがこうとするが、四肢が
完全に麻痺しており、ぴくりとも動けない。そのくせ、視覚、触覚、聴覚は正常なのだ。
どんな目に合わされようとも、無意識になることも許されず、これからされることを
全てはっきりと認識し続けなければならないらしい。
(My god……一体、どんな目ニ……)
 小宮山先生が加藤先生を運んで出て行くと、残ったのは坪井先生と、回っているらし
いビデオカメラのみ。

(……さて……)
 化学準備室に残ったのは坪井先生と、マットレスに崩れ落ちたままのマリア先生。
「……ゴクリ」
 坪井先生は脱力したアメリカ人美人教師の肉体を前に、生唾を飲み込んだ。
 床に敷かれたマットレスに無防備に横たわる、見事に均整のとれたスレンダーな長身。
ダイナマイトボディ系の豊かな体付きではない、むしろ身長に比べれば、胸の隆起も
尻の肉付きも控えめと言っていいだろう。それはそうだろう、マリア先生は身長173cmに
して、体重は49kg。これで巨乳だったら化け物だ。
(ダイナマイトじゃないが、俺はこれくらいのほうが……)
 坪井先生はもう一度生唾を飲み込んだ。
 スカートはさっき自分で脱ぎ捨てたため、上半身はトレーナー姿、下半身は紫色の
ショーツのみを身に着けている。だらんと投げ出され、マットレスの上に伸びた白磁の
太腿がまぶしい。しかし、ショーツの中のモッコリした隆起には少々萎える。早いとこ、
はぎ取ってやろう。
「マリア先生」
 坪井先生はそっとマリア先生の体の下に腕を入れ、その長身を抱き上げてマットレス
の上に優しく座らせた。
(意外と軽いんだな……)
 腕に感じる女の肉体の量感に、彼も気分が乗ってきた。
「今日は、男の味を覚えてもらいます」

(……何を言っているデスか?)
 マリア先生は、幼少の頃より姉と絡み合ったのを手始めに百合経験は豊富だが、その
体に男性を受け入れたことはない。子供の頃から刷り込まれた、男性=不潔で対象外、
という先入観は自発的に抜けることはない、いやおそらく、抜こうと考えすらしない
だろう。
(……男のアジ? まさカ……)




 一方の小宮山先生は、痺れ薬で脱力した加藤先生の体を運び、保健室のベッドの上に
横たえたところだった。たまたま保健の先生も不在で、部屋には小宮山先生と動けない
加藤先生の二人きりだ。
「あとは坪井君にがんばってもらわないとね……さて……」
 小宮山先生は何を思ったか、目に妖しい光を浮かべ、横たわる加藤先生の上にかがみ
こみ、耳元にささやいた。
「ところで加藤先生、あなたの母乳を味見してもいいかしら? 後学のために、男共が
夢中になる味を知っておきたいのだけれど」
 といいつつ、豊かに盛り上がった加藤先生の胸のボタンに指をかける小宮山先生。
(……! ちょ、ちょっと……)
 パニックに陥りながらそれでも身動きも出来ずにいる加藤先生、次の小宮山先生の
一言に心底ほっとした。
「うふふ、驚いた? 冗談よ、大切なお友達にそんなことはしないわ」
 動かぬ目に、安堵の光が宿った。が、安心する間もなく、小宮山先生は今度はデジカ
メを取り出した。
「その代わり、写真撮らせてもらっていいかしら? 『熱烈熟女投稿』っていう雑誌が
あって、採用されると一枚五千円の賞金なの。だから、ちょっとスカートをめくって
パンツを下ろした写真を……」
 小宮山先生の指が加藤先生のタイトスカートのすそをつまむ。
(!!!)
 またしても加藤先生はパニくったが、動けないのでは抵抗のしようもない。
「あはは、また本気にしちゃった? ごめんなさいね、冗談ばっかりで」
(ああ……よかった、冗談で……)
「もう、本当に素直で可愛いんだから……そうね、可愛さのご褒美にこの薬なんかどう
かしら? コロンビアから友人に密輸してもらったいわくつきの媚薬で、一錠飲んだら
三日三晩、アソコが濡れ続けるって噂なんだけど……」
 ポケットから小瓶を取り出し、蓋をゆるめて見せる小宮山先生。またしても、加藤
先生のつぶらな瞳に恐怖が宿った。
「……うふふ、これも冗談。もう、からかい甲斐があるわねえ……」
 いいおもちゃを手に入れた小宮山先生の悪ふざけは、加藤先生のしびれ薬が切れる
まで続いた。加藤先生、気の毒。





 化学準備室に戻って。
「それじゃマリア先生、脱ぎましょうね」
 坪井先生は、脱力した女の体を抱き起こし、トレーナーのすそを持ち上げていく。
(OH, No! ノオオー!! 坪井先生、やめてくだサイ!)
 マリア先生はようやく自分が犯されようとしていることをはっきり理解した。触れて
くる男性の手に激しい嫌悪に囚われたが、体は動かない。なされるがままにトレーナー
の裾が持ち上がっていくに従い、次第々々に真っ白な肌が面積を広げていく。ほっそり
と締まった腰、ひそやかに小さな穴を見せている臍、そしてやはり紫のブラジャーが
覗いていった。
 苦心して腕と首をトレーナーから抜き去ると、マリア先生はブラとショーツのみの半
裸になった。自分もマットレスに座り、隣に座らせた形で支えてやる。ぐったりと自分
の体にもたれ掛かってくる女の体を、坪井先生はじっくりと眺めた。
「マリア先生……綺麗ですよ……」
 毎日の泡風呂によるものか、石鹸の匂いがする。
 日本女性の場合も、雪のような肌とか白磁の肌という表現はあるが、白人女性の肌の
白さはまた一味違っていた。どこか病的でか弱げな日本女性の白い肌ではなく、健康的
な、それでいて抜けるように真っ白な肌である。やはり色素が薄いのだろうか、全身の
真っ白な肌の中にところどころ赤い静脈が通じているさまがはっきり見て取れた。
 崩れないように支えた肩をそっと撫でてやると、どこまでもすべすべの手触りが
返ってくる。

(洋物は趣味じゃないけど……この体はすごいな……)
 現金なもので、目の前に無抵抗な据え膳を置かれては、和風好みの趣味などどこかに
吹き飛んだらしい。マリア先生の上半身を抱き抱えたまま、坪井先生はそっと女のあご
を支えて顔をこちらに向かせ、唇を合わせていった。
(ノオオー! Stop! Mr.ツボイ! ムーッ....)
 マリアは接近してくる男の顔にパニックになったが、抵抗のしようもない。チュッと、
二人の唇が合わさった。坪井先生はそのまま舌を出し、色の薄い女の唇を嘗め回す。
 幼いころに父親にキスされた以外には男には許したことのないピンク色の唇を、坪井
先生は存分に蹂躙した。

「ふう……おっとそうだった。このままじゃあまり持たないんだった」
 つと唇を離すと、坪井先生は新しい痺れ薬を用意した。最初に作戦通りに飲ませた
痺れ薬は、半分加藤先生が飲んでしまったため、今のマリア先生の脱力状態は長くは
持たない。
 坪井先生は口の中に唾液をためて粉薬を自らの口に含むと、再び唇を合わせ、口移し
でマリア先生の口腔に流し込んだ。マリア先生の喉がコクンと動いたのを確認する。
「これで、しばらくは貴方は動けません。ゆっくり楽しませてもらいます」
(Oh, My God....これはレイプでス……絶対に、許せまセン……)
 動けぬマリアの瞳に、絶望と怒りとが浮かぶ。
 坪井先生はそんなマリア先生の心情は百も承知だが、もはや賽は投げられたのだ。
 こうなったからには、マリア先生を徹底的に感じさせて、男の味を教え、気に入って
もらうほかはない。そうでなければ、彼自身が犯罪者になるのだ。



 男は絡みつくような視線で女の体を嘗め回した。紫色のブラとショーツ、そしてショ
ーツの中にの異形の代物が邪魔だ。坪井先生は女の背中に手を伸ばしていった。
「もっと可愛い下着のほうが、似合うと思いますよ?」
 軽く言葉で可愛がってやりつつ、ブラジャーの背中のホックをぷちんと外す。脱力し
た女の体から苦心してブラをむしりとると、形のよい乳房がぷるんと弾け出た。
(No──! ノオオオオー!)
 女は嫌がっているのだが、抵抗の意を示すことすら出来ない。

 さらけだされた乳房に、坪井先生は思わず溜息をついてしまった。
「……おぅ……素敵なオッパイですね……」
 真っ白な肌が、決して大きすぎない見事なお椀型の隆起を作っている。そっと触れて
みると、すべすべの肌が掌に吸い付いてくる。ゆっくりと揉んでやると、やわやわと掌
にしたがって柔肉が形を変え、どんな動きをしても男の手のひらに貼り付くようだ。
 膨らみの先端には、可愛らしい、ごく色の薄い乳首が息づいていた。やはり色素が
薄いのだろうか、子供の乳首のような色の薄さとはまた違った、唇の色に近い感じだ。
 体臭はやはり日本女性より少しきついが、毎日の泡風呂のおかげか、石鹸の匂いが先
に立っており、不快な感じはしない。
 坪井先生はマリア先生の体を再び優しくマットに横たえると、柔らかく張った胸の
隆起にむしゃぶりついた。
 片方の乳房は掌で存分に揉みしだく。先端に息づく乳首をツンツンとつつき、そっと
嬲りまわす。つまんで、軽く引っ張っては離してやると、隆起全体が三角錐になっては、
ぷるんと元の形に戻った。
 もう一方の乳房には、唇と舌で攻め込み、隆起の周辺から始めてじらすように乳首の
周囲を嘗め回す。そうやってしばらく肌の匂いを存分に嗅いでから、乳首を口に含んで
舌で思い切り嘗めまわし、思いのままに吸った。見る見るうちに真っ白な肌が上気して
薄いピンク色に染まり、乳首がピンと立ってきた。
「いい反応ですね……やっぱり、好きなんだな、エッチが」
(Nooooo! やめテ、Mr.ツボイ……)
 マリア先生は無防備に横たわったまま、動かぬ体を散々に弄ばれたが、抵抗すること
も反応を示すことも出来ない。それでいて、性感はいささかも普段と変わらずに体を
流れ、その美しい体は点火され、燃え上がっていった。





「やはり、コレが気になるな……」
 存分に乳房を楽しんだ坪井先生は、マリアの下半身に目をやった。やはり、ショーツ
の中の妙な膨らみが気になる。
「こんなの、取ってしまいましょう」
 自分も背広を脱ぎ捨てトランクス一枚になると、震える手でそっとショーツの縁に
指を掛け、邪魔なモッコリをものともせずに剥き下ろした。
 あとはマリア先生の体を覆うのは、ベルトで腰に固定されている、二つ折になった
男根状のものだけだった。
「へえ……これがお手製のペニスバンドですか」
 遠慮なくベルトを外し、マリア先生の体を隠す最後のアイテムを取り去ってしまうと、
とうとう女の体を覆うものは一糸とてなくなった。
(ノオオオーッ……)
 男の視線に全てを晒して、マリア先生は恥辱に身もだえしたかった。が、今の彼女は
身もだえすら出来ないのだ。

 坪井先生は剥ぎ取ったペニスバンドを試しにカチリと起してみた。それは精巧に
男性のシンボルを、それも自分の股間のそれより一回り大きいものを模して作られて
おり、男性としては少々劣等感にさいなまれたりして。
「……ええい、こんなもののことは忘れてもらいます!」 
 そう、この行為の目的は、マリア先生に男のよさを認めてもらうこと。坪井先生は
マリア先生の会心作を投げ捨て、決意も新たに女の体を見やった。
「それにしても、なんとパイパンとは……」
 金髪の縮れっ毛を予想していたマリアのそこは、綺麗に剃られていた。
「そうか、毛があると、あれを起こしたときに挟まってしまいますもんね……」
 さっきの折りたたみペニスバンドを思い出し、坪井先生は剃毛済みの理由を理解した。
「それにしても……可愛いな……」
 ごく色の薄い、無毛の、それでいて成熟した女性の秘奥が眼前にある。
 坪井先生は何度目か分からない生唾を飲み込んだ。



 横たわるマリア先生の両手両足を大の字に開くと、坪井先生の眼前に蠱惑的な眺めが
広がった。真っ白な肌の全裸の女が、隠すものなど何もない、という風に体を開いて、
男の視線に身を晒している。
「いい眺めだ。まるで露出狂ですよ、マリア先生……」
 坪井先生は女の体を舐めるように眺めた。すらりとした裸身が長々とマットレスに
仰向けに横たわり、無防備に大の字になっている。
 可愛い乳房はたっぷりもみ込まれてほんのり上気し、その先端の乳首はツンと立った
うえ、男の唾液を塗りつけられ、てらてらと光っている。
 下半身はといえば、だらりと投げ出された白磁の太腿が大きく左右に開かれ、その
付け根には、女のかぎろいを持たぬ熟れた女の芯がひそやかに息づいていた。大陰唇ま
でもが色が薄く、褐色というよりごく薄いブラウン、あるいは濃い肌色というところだ。
そこはまだ開いてはおらず、数本の縦筋にしか見えない、使い込んだ感じもない。
 もちろんバイブレータやペニスバンドの経験は多いのだろうが、生きた男性自身を
受け入れたことはないのかも知れない。
(……とすると、この人は処女とは言えないまでも、初めての男は俺なのかも……)
 しばしビデオカメラにマリア先生の裸体が写るように身を引いていた坪井先生だが、
そんなことを考えながら、これでもかと開いた女の体を眺めているうちに次第に興奮が
高まり、たまらなくなってきた。
「マリア先生……そろそろ、行きますよ…」

 坪井先生はトランクスも脱ぎ捨てた。こちらも全裸になると、既に充血していきり
立つ男根をマリア先生に示す。
「これが本物の男の体です。作り物じゃなく、コレを好きになってくださいね」
 坪井先生は、マリアの体にそっと覆いかぶさっていった。



 覆いかぶさった男は、まずはもう一度唇を合わせ、なんの遠慮もなしにその舌を
マリアの口腔に侵入させ、中を存分に嘗め回した。ついで、耳たぶをひと舐めしたと
思うと軽く噛み、柔らかい耳たぶに歯型を残しては、耳の穴を舌でつつく。ついで唇は
首筋へ移り、ところ構わずキスの雨を降らせ、舌を這わせていった。
 片方の手は肩口から始まって乳房、脇腹、背中と丹念に撫で回し、だんだんと
下半身へ侵攻していく。
 もう一方の手はつややかな膝を撫で回し、ゆっくりと白磁の太腿を遡って行った。
 すべすべした感触を楽しみつつ、もう少しでそこに届く、というところで円を描く
ように指で撫で回し、いったん太腿に退却してはまたさかのぼりと、たっぷりじらして
やった。
 普通なら、これで女が身をよじらないはずがないのだが……。
(うーん……反応がないってのも、張り合いがないなあ)
 坪井先生はそんな贅沢なことを考えながら、思うがままに愛撫を加えていった。
「さて、いよいよここを楽しみましょうか……」
 坪井先生は体を起こすと、大きく割った女の両脚の間に腰を据えた。目の前に広がる
秘奥を改めてじっくりと眺め、そっと指を伸ばす。
 まずは触れるか触れないかの微妙な強さで縦筋をなぞり、柔肉をつついてやる。次第
に愛撫の圧力を強めたかと思うとまた軽く撫で、ついでそっと花びらを指で押し開き、
その内側に指を蠢かせた。
 百合限定とはいえ十分に開発された体である。熟れた体は何をしても敏感な反応を示し、
あっという間に花弁は恥ずかしく開き、露を溜めた中身が丸見えになっていった。男の
指が、丁寧に丁寧に、襞々をなぞりながらめくってゆき、奥へ奥へと侵入していく。
くちゅ……くちゅ……。
 淫靡な音までが響き始め、女の蜜が溢れ出て、つーっと垂れた。

 マリアは思うがままに女体を弄ばれ、耐えるしかなかった。
(ノオー……アッ……アアッ……)
 性感が高まっているのに、身をよじることもあえぎ声も出せぬもどかしさ。体を流れ
る電流が、行き場を失って何度も往復して体中に浸透しているようだった。
(ンーッ……)
 男の指が小さな豆を探りあてた時、マリアの体に強烈な電流が駆け巡った。
 そっと坪井先生がクリトリスに舌を伸ばす。
(ン、ンンンンーッ!)
 もし体が動けば、マリア先生は激しい女の反応を示して、いくらかでも性感を発散し
たに違いない。しかし今はただ愛撫を受け止めるだけしか出来ない。体の中を走り回る
電流に、急速に追い上げられていった。





「……おやおやマリア先生、あそこから、何かがおいでおいでしてますよ」
 存分に濃厚な愛液を味わい、舌で媚肉を弄んだ坪井先生が顔を上げてみると、すっか
り開いたそこの上端から、小さな突起が顔を出していた。目の前の女体は、もういつ
でもOKといった趣でピンク色の中身が覗き、愛液をマットレスにまで垂らしている。


「もう、十分そうですね……行きますよ……」
 坪井先生は手早くコンドームを装着すると、熱く燃えたぎる肉棒を、マリア先生の
そこに突き立て、ゆっくりと、ゆっくりと侵入させていった。
(No───! 男は嫌イ……アアアアアーッ……)
 マリアは、生きた男の熱いそれが、初めて自分の体内に侵入してくるのをはっきり
感じていた。

 奥まで挿入した坪井先生だが、女の中にどっぷり男根を沈めながらも、いまいち燃え
きれないものを感じていた。
 もちろん、女の体は自らの男のシンボル全体を暖かく包み込んでくれており、十分に
気持ちが良いのだが、締め付けが弱いというか、圧力が足りない感じだ。このままでは
単純にはイケそうにない。
「うーん……ともかく、動いて見るかな……」
 そっと腰を引いてみた。襞々が吸い付いてくる感じが薄く、カリの内側で膣壁を
こすってやっても、どこかひっかかりが軽いような気がする。それならと今度は突き
出してやっても、先端がなにかにぶつかる前に、腰と腰とが当たってしまう。
(えーと、これはつまりガバマン? 大きなペニスバンドばかり使っていたのかな?)
 アメリカンサイズのペニスバンドのことを思い、気が重くなる坪井先生。
 そのとき、組み敷いた女の体がかすかに動いた。
「Uh……」
 かすかにピンク色の唇から声が出る。
「お、薬が切れてきましたか? やっと女の反応を楽しめますね……」
「Oh……アアーッ……」
 マリア先生は少しづつ体が動くようになってきたらしく、坪井先生を押しのけようと
腕が弱々しく伸び、閉じ合わせようと脚をもがき始めた。
 だが、ここで逃すわけには行かない。坪井先生は上体を倒し、全身を密着させ、腕を
マリア先生の体に回して抱きしめた。
(後は、腰の動きで勝負だ……)

「アアッ……ど、どいテ、やめてくだサイ……」
 マリア先生の体はともかく、意識はいまだに男性を拒否していた。がっちり抱きしめ
られながら、覆いかぶさっている坪井先生の体から逃れようとしびれの残る身を無理に
よじり、脚を閉じ合わせようとしたが、貫かれたままのこの体勢ではそれもかなわず、
両脚は坪井先生の腰に絡みついた。





「うおッ……」
 坪井先生はそっと腰を動かしつつ、マリア先生の体の変化に驚いていた。体が動く
ようになってあちこちの筋肉が活性化したのか、何倍にも締まりが良くなったのだ。
「う、ううっ……マリア先生、すごいです……」
 薬で動けなかった時とはまるで違う。腰を前に出すと、それを受け止めたマリア
先生もまた体をピクンと震わせ、
「アアーッ……」
と甘い声が漏れる。ゆっくりと引いてやると、男根を暖かく締め付けていた襞々が、
それを逃すまいと絡みつき、吸い付いてきた。
 それを確認したところで坪井先生は必死に我慢し、一旦腰を止めた。マリア先生に
男のよさを認めてもらわなければならないのだ。
「はぁ、はぁ、マリア先生……男も、悪くないでしょ?」
 女の両腕はいまだ抵抗を示し、上にのしかかった男を押しのけようとするが、力が
入らないようだ。
「No, ノオーッ……女の子がイイ……抜いてくだサイ……アアッ……」
 口ではそういいつつ、腰に絡めた脚は外そうとはしなかった。動きを止めた男根に
シビレをきらし、マリアが自ら腰を振り始めたところで勝負は決した。
「ア、アアッ……」
「う、ううっ、男も、いいでしょ?」
(も、もう出そうだ、あと少し……少し我慢だ……)
 頑張れ坪井先生。人間辛抱だ。
「そ、そんなコト……」
「認めてくれないと、僕は動きませんよ? おおうっ……」」
「アアアッ……」
 マリアはもじもじと腰を振り続けるが、組み敷かれ抱きしめられた姿勢では限界が
ある。これでは今ひとつ、絶頂には達しないだろう。
「ううっ……ほら、男もいいって、言ってください……うお……」
 とうとう陥落の時がきた。坪井先生、GJ!
「ン、ンンッ……アアッ……男も、男もいいデス……お願い、イカせてくだサイ……」
「よく言ってくれました。行きますよ……うおおっ!」
 坪井先生ももう限界がすぐそこまで来ていた。もう一度優しくキスしてやると、我慢
していた腰の動きを再開した。熱い肉棒が、マリアの体内で再び暴れ回り始める。
 パンパンと腰と腰とがぶつかる音、くちゃくちゃと粘膜が絡み合う淫靡な音が部屋に
響き、ほどなく男と女は共に絶頂へと昇りつめていった。
「アッ、アアアアアアーッ……」
「う、うおう……」
 お互いの体に回した腕に力がこもる。かつてないほど密着した二人の体が同時に硬直
した。女の膣がキュッと収縮し、強烈に吸い付く。男のそれは最後の一撃で奥まで突き
こまれ、断末魔のようにビクビクと震える。マリア先生の体内で坪井先生は果て、コン
ドームの中に大量の精液が吐き出された。



 荒い息をつき、軽く抱き合ったまま脱力する二人。
「はぁ、はぁ……マリア先生、すみません……薬を使って強引に抱いたりして……でも、
どうしても男のよさを知ってもらいたくて……」
「ハァ……Mr.ツボイ……ハァ……これハ、レイプでスよ? 相手の意思を無視してコト
を進めたら、犯罪なんデスよ?」
「わかっています。でも何もせず放っておいたら、貴方が女子生徒に同じことをしたで
しょう……。僕、教え子達を守りたかったし、なにより、貴方に犯罪者になって欲しく
はなかった……」
「ウフフ……そういってくれルと嬉しイ……それに、確かに気持ちよかっタし……私に
一言言ってくれタら、許してあげマス」
「……? なんて?」

「───"Lovin'you" って言ってくだサイ」

 坪井先生は苦笑した。小宮山先生が言っていた、金髪の奥さんが実現しそうな雲行き
だが、言わずにごまかす手段も思いつかない。
 期待に目を潤ませて、男の言葉を待つマリア先生の耳にそっと口を寄せる。ビデオに
は録音されない程度の声で、そっとささやいた。
「───Lovin'you」
「アア……嬉しイ……」





 放っておいたら二回戦に突入しそうな二人だったが、そのとき外野から声がかかった。
「お疲れ様、坪井君、マリア先生も」
「……え?? あれ小宮山先生、いつの間に……」
 いつの間にか、小宮山先生が化学準備室に戻ってきていた。ビデオカメラのそばで
じっくり観戦していたらしい。慌てて二人は体を離した。
(やばいとこ、見られちゃったかなあ……)
 焦る坪井先生。はじめからやばい企みだという事実は忘れているらしい。
 二人は急いで服装を整えた。

「マリア先生、私からも謝るわ。強引なまねをして、ごめんなさい。でもマリア先生に
男の味を覚えてもらわないと、女子生徒たちが危ないと思ったから……でも、男もいい
ものだったでしょ?」
「……そうデスね」
 男も悪くないことを自ら認めてしまったマリア先生。顔を真っ赤にして、肯定するし
かなかった。
「それにしても、催淫剤を使わずに成功なんて、やるわね坪井君」
「あ……忘れてました……」
 苦笑する坪井先生。確かに、使わずに済めばそれに越したことはない。
「ところで、加藤先生は?」
「保健室でしばらく寝ていたけど、飲んだ薬は少しだけだったから、もう回復して、
職員室に戻ったわ」
 例の脅迫というか、悪ふざけは省略ですかそうですか。
「そうですか、良かった。めでたしめでたしですね」



 後始末を終えて、教師四人がさっきの会議室に集まった。
満ち足りてつやつやした表情のマリア先生、精を放出して少々疲れた表情の坪井先生、
いい映像が撮れたと満足そうな小宮山先生に、とりあえず『卑猥!』とでも絶叫したい
気分の加藤先生。どんな気分だ。

「皆さん、今日は私のためにさんくすデス。おかげで男もいいものダと知りまシタ」
「良かった良かった。これで矢野も安心して……」
「おかげで、これからは男の子もツマミ食いできマス」
「「……え?」」
 加藤先生と坪井先生の声がハモった。
「『も』っていうことは……」
 小宮山先生はうすうす察していたのか、(あちゃ〜やっぱり)という表情だ。
「もちろん、女の子も楽しめマスから、楽しみが二倍になったのデス」

(……あの、僕の努力は? 百合派が両刀使いに進化しただけですか?)
 反応に困る坪井先生を尻目に、加藤先生があわてて立ち上がる。
「そうじゃなーい! 女子生徒達から手を引いてもらうために……」
 しかし、マリア先生の暴走はもはや止まらない。
「そうダ、男の良さを教わっタお礼に、今度は私が加藤先生に女の良さを教えてあげ
マス! AACの威力もまだ試していまセンし、さっきは途中で痺れてしまいまシタ
から、、今度はしっぽりと最後まデ……」
「いやあああああああっ!」
 逃げ出した加藤先生、それを追いかけるマリア先生、マリア先生を止めようとする
坪井先生。そして、
(そうなったらなったで面白いわね。ビデオテープの在庫はまだあったかしら)
目を細めて三人を眺める小宮山先生。
 相変わらずの小笠原高校の光景であった。

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