作品名 作者名 カップリング
『あなたならかまわない』 白帯侍氏 シンジ×アキ

「アキちゃん、なんか今日機嫌悪かったね」
カナミを誘っての下校途中。
会話が途切れた時、不意にそう尋ねられた。
「・・・なんで」
自分としてはいつも通りに振舞おうとしていたのだがやっぱりダメみたい。
返す言葉で思いっきり認めてしまってる。
「なんか今日、ムス〜っとしたオーラ出てたよ。それに・・・」
カナミは1度言葉を切って、私の反応を窺いながらまた言葉を紡いだ。
「今日はお兄ちゃんと・・・帰ってないし。昨日何かあったの?」
それに対して私は無言で答える。
カナミはそれを肯定の意として受け取ったみたいだった。
「何か、お兄ちゃんにされたの?」
心配そうに聞いてくるカナミ。兄と友人との関係を真剣に考えてくれてるからなのであろう。
カナミの真摯な思いを目のあたりにすると、なんか決まりが悪くなってくる。
こんな顔されたら黙ってるわけにもいかないよね。
大体親友兼彼氏の妹に対して誤魔化して、不安にさせたままにするってのも酷だし。
・・・・・いや、これは建て前。
多分私はカナミに相談したくて一緒に帰ろうと持ちかけたのかもしれない。
言い難い事ではあったが、私はおずおずと言葉を紡いだ。
「実は・・・」

それは昨日のデートでのこと。
秋というのはやはり日が暮れるのが早い。
いつものように街を2人で回っていたのだが
店を出たときに赤い日差しを受けて、もう夕暮れ時になっていることに気付いた。
「もうこんな時間・・・・帰りましょうか」
こんなに早く別れるのは名残惜しいけど仕方が無い。
いつものように私はシンジさんと一緒に途中まで帰ろうとした。
するとシンジさんは申し訳なさそうに顔の前で両手を合わせた。
「ごめん。今日はちょっとこれから用事あるんだ」
「そう、なんですか」
はぁ〜、今日はここでさよならか・・・でも我侭言うわけにもいかないよね。
「分かりました。じゃあまた・・・明日」

ちょっと背伸びしてさよならのキス。
街中だったからちょっと恥ずかしかったけど今日はここでお別れだからね。
触れるだけのキスの後、私は手を振りながら、家路につくためにシンジさんとは反対方向へと足を進めていった。
乾いた風が吹く道を首をすくめながら歩く。1人で受ける秋の風はやたら冷たく感じる。
「う〜〜〜さみ〜〜〜・・・・あっ」
しばらく歩いていて私は、ふとあることを思い出して足を止める。
「今日ってあの映画のビデオ出てる日だ」
今日は前から楽しみにしていたアクション映画のレンタル日だ。デートだったのですっかり忘れていた。
レンタルショップはここから少し戻った場所にある。今から戻ってあるかな?
しばらくその場で考えていたが、そんな時間も勿体ないと思い、私は来た道を引き返す。
店に着いて新作のビデオが置いてあるコーナーに向かう。
え〜〜と・・・・うわっ、全部無いじゃん・・・・
やっぱり遅すぎた。黙って帰っとけばよかった。
まさに骨折り損のくたびれもうけ。手ぶらで帰るってのもなんか癪だ。
私は他に何か見てみたいものが無いかとあちこち歩き回る。
アクションもののコーナーで物色をする。代わりになるものないかな。
そう探していると、通路の向こうに見知った後姿があることに気付いた。
「あれって、シンジさん?」
いつも見ているから間違いない。着ている服も同じだ。
手には数枚のDVDと思しきものが持たれていた。
用事ってもしかしてビデオ借りにくることだったのかな?
せっかくここで見かけたのだ。声かけてこ。
私はまっすぐその後ろ姿に近づいていく。少し後ろで立ち止まって様子をみる。
どうやら私に気付いてないみたい。よ〜〜し、それなら・・・・
「シ・ン・ジ・さん♪」
私はそっと身を寄せて、甘ったるい感じで耳元に囁きかけてみた。
「うぉぉぉぉっ!!?」
予想以上の反応。手に持ってたビデオまで落としちゃった。
シンジさんは振り向いて私を視界に捉える。
「ア、アキちゃんっっ!!?」
「アハハハ♪また会いましたね」
「な、なんでこんなところに?」
「ちょっとビデオ探しに」
思いがけないところでの遭遇に自然と顔が綻ぶのが分かる。
つくづく好きなんだなぁと実感させられる。
しかしそれとは対照的に、シンジさんはかなり狼狽している様子。
はて?どうしたのかな?
「どうかしました?」
「え!?いや、な、なんでもない!ははははは」
「そうですか?・・・・・・・あ、ビデオ落ちましたよ」
私は屈んでさっきシンジさんが落としたビデオを拾おうとする。

「!!? いいよ、拾わなくて!いや、拾わないで!!」
え?
私がDVDを拾うのと同時に、制止を受けたので驚いて顔を上げる。
シンジさんの顔は何故か強張っていて、やたらと汗をかいていた。
怪訝に思いながら視線をシンジさんの顔から、先ほど拾ったDVDに向ける。
すると・・・・・・・・

「AVだった、と」
カナミの言葉にこくりと頷く。
「シンジさん、そーゆーの好きなの知ってるから。
別に止めて欲しい、ってわけじゃないよ。でもさ・・・・」
「でも?」
「用事ってのがそれってあんまりだと思わない?仮にもデートの帰りに!」
あ〜!!やっぱ今思い出しても腹が立つ。
彼氏の妹の前だがこの怒りは抑えることが出来ない。
兄のことを悪く言われて気分悪くしたかな、と心の隅で思ったりもするんだけど。
しかしカナミはこれを聞いて、私に同調してプンプンと怒り出した。
「お兄ちゃんひどいよ!アキちゃんがいるのにまだそんなの借りてるなんて」
うんうん。
カナミの言葉に頷いて同意する。
ありがとう、カナミ。アンタも分かってくれんのね。
「我慢できなくなったならアキちゃんに頼めばいいのに」
うんうん、全くその通り・・・・・って、はっ!?
勢いのままに頷いた私を見て――さっきの怒った顔はどこにいったのか――カナミはニヤニヤしている。
「な、何故いつもそう・・・・っ!」
一応ツッコみを入れるが後の祭り。墓穴掘っちまった・・・
やばっ、顔絶対赤くなってるよこれは・・・・!
「アキちゃん欲求不満なんだ〜〜」
「ち、違うわ!!」
カナミの言葉につい語気が荒くなる。
ますます私の顔は朱に染まっていく。
さらりと流せばいいものを。図星を突かれてかなり焦ってるよ私・・・
でもそんな気持ちでいたのも束の間。
改めてカナミに言われて、また私の気持ちは心の暗い所に沈んでいった。



・・・・・事実そうなのかもしれない。
欲求不満、とは言わないがシンジさんに求めてもらいたいという気持ちがある。
なのに初めての時以降、全くそのようなことがないのだ。 
良い雰囲気になることはしばしばあるのだが、既の所ではぐらかされる。
シンジさんがAVを借りたのを見てこんなにイライラするのは
デートの帰りそんなことをしていたから、というだけではない。
情欲の捌け口として私を全然求めてくれないから。
サルみたいに求められても困るけど、適度になら全然OKなのに。
こうあまりにも行動がないと不安で押しつぶされそうになる。
もしかしたら見限られたのかも、なんて考えも最近は浮かんできたりもする。

「仕方ないな〜。アキちゃんの為だもんね」
「へ?」
私が落ち込んで無口になっていると、カナミが不意に口を開いた。
「私が一肌脱いで上げる!」
「服に手、掛けなくていいから。で、何?」
カナミがボケる前に釘を打つ。不満そうな顔をしてるが関係ない。
「お兄ちゃん、全然求めてきたりしないんでしょ」
「う・・・・」
痛いところを衝く・・・・
「なんでそう思うのよ?」
「兄妹だよ。様子見ればナニがあったかくらいは」
無い胸を得意げに張るカナミ。はいはいすごいすごい。
「だからお兄ちゃんをね、アキちゃん無しではいられない身体にすればいいんだよ」
「な!?ど、どうやって?」
そ、そんなことが可能に?
いつもなら確実にツッコみを飛ばす所なんだけど、こちらには余裕が無いのだ。
藁にもすがらなければいけない。
息を呑んでカナミの言葉を待つ。
私の様子を見て、カナミはもったいぶるように大仰にのたまった。
「ふっふっふっふっふ〜♪じゃあまず家にいこ!」



女はベッドの上で荒い息を漏らしていた。
四つん這いになり、愛液を十分に湛えた陰部を晒している。
「いい眺めだ。丸見えだよ」
男は下卑た笑いを口元に浮かべ、女の肢体を眺める。
女は男の言葉攻めに、恥ずかしそうに目をきつく瞑って耐える。
「さぁ、どうして欲しいか言ってみるんだ」
男は女に言葉を促す。
女はそれを言葉にするのを躊躇う。
それは自分が欲情しているということを認めてしまう言葉だからであろう。
男は女の様子を見かねて、屹立したペニスを女のクレバスへとあてがった。
「ふぁっ!」
突然の男の行動に思わず声を漏らす。
男の方も我慢できなくなったのであろうか。
女はそのまま貫かれると思い、じっとそれがくるのを待つ。
が、いつまで経ってもそれはこない。
怪訝に思い顔を男の方に向ける。
その潤んだ瞳は眼差しで『早く』という思いを孕んでいる。
男もそれを分かっているだろうに、ただ笑みだけを浮かべているだけだ。
そしてまた口を開く。どうして欲しい、と。
女はもう限界を感じたのであろう、自分の願いを口にする。
「そ・・・その・・・・・・・・くだ・・・さ・・・・あぁあっ!」
女のはっきりとしない言葉に満足しなかった男は、
ゆっくりと自分のモノを花弁へと擦り付け始めた。
「はぁぁん!お、おねがい・・んっ・・・します・・・もうっ・・・!」
「言えたらすぐにでも。どこに、何を欲しいか」
そう言い放ち、更に自分の性器を擦り合わせてくる。
「ふぁぁぁ!んぅ!も、もう・・・・!」
飛びそうになる意識を抑え、女はついに服従の言葉を口にした。
「ふぁっ・・・!私のアソコに・・・はっ・・・その・・・硬くて、太い・・ペニス・・・下さい・・!」
女の要求を聞いて、男の口は下品に吊り上る。
「全部言えてないけど、取り合えず合格。俺もそろそろ我慢できないしな」
女の言葉を聞き入れ、割れ目にあてがっていたモノを一気に押し入れる。
「あ、あああっ!!」
「もう洪水じゃないか。こんなに簡単に受け入れるなんて。とんだ淫乱だな」
女の花弁はすんなりとに男の竿を飲み込み、そしてそれを離さないとばかりに締め付ける。
「よし、動くぞ」
そして更なる快感を男は求めるために、腰をゆっくりと前後に動かし始めた。



“ピッ”

「何見てんだろ私・・・・」
ビデオの電源を落として深いため息をつく。
「まぁカナミの意見を聞いた私も私なんだけど」
ビデオデッキの横に積んであるビデオに目をやる。
『パイズリコレクション』『淫乱娘の腰使い』『初めてのアナル』
全てカナミがシンジさんの部屋から拝借してきたものだ。
絶対他人にこんなの見せらんないな・・・
何故こんなモノを見ているのか、それは当然カナミの提案のせいである。

『アキちゃん、これ見て勉強して』
『これって、今アンタが手に持ってるヤツ?』
『そう!』
『・・・・・・』
『テクを磨けばお兄ちゃんがアキちゃんに溺れること間違いなし!』
『・・・・・・』
『ん〜〜〜やっぱりダメ?借りない?』
『・・・・・・借りる』
『うんうん♪素直なのは良い事だよ。アキちゃん、頑張って!』

とまぁ、今思い出してみても自分の事ながらホント呆れ果てる。
いつもの私ならすぐに一蹴したんだろうけど・・・・
恋は盲目、昔の人はよく言ったものだ。
結局こう熱心に見てるんだから・・・・
シンジさんとあの日抱き合って以来、1度もそういうことが無い。
その理由ははっきり言って見当もつかない。
しかしこのままでいるわけにもいかないのだ。
暗闇の中では手探りで物事を探っていかなければならない。
『アキちゃんに溺れること間違いなし!』
・・・・・よし!
私は顔をピシャンと叩いて気合を入れる。
絶対にシンジさんを落としてやる!
私は心に誓いを掲げ、再びビデオデッキの再生ボタンを押した。



————次の日の放課後————
あ〜・・・・眠い・・・
結局昨日は一晩中ビデオで勉強していたので全然寝ていない。
授業中寝ればよかったんだけど、頭の中でシュミレーションしてたせいでそれも叶わなかった。
おかげで起きてたにも関わらず、全く授業内容が入っていなかった。
・・・・まぁ普段なら頭に入ってた、というわけでもないんだけど。
帰りのホームルームが終わった後、私はすぐにシンジさんの教室へ向かった。
作戦を決行するためにも今日は一緒に家に帰らなければ。
3年生は進路やらの話があったりもするので他の学年よりホームルームが長い。
私は廊下で、今か今かと3年生が出てくるのを待つ。
しばらくすると急に中が騒がしくなった。どうやら終わったみたいだ。
教室の中からちらほらと生徒が出てくる。
その中の1人の男子生徒が私を見てニヤリと笑う。そして教室に向かって、
「シンジ〜!彼女迎えに来てるぞ〜!待たせんな〜」
と冷やかすように叫んだ。
教室からクスクスと笑い声が聞こえる。口笛なんかも聞こえてきた。
そして中からシンジさん登場。かなり決まりが悪い顔をしている。
冷やかしが半分気まずさ半分、ってとこか。
まぁ昨日は私が完全に避けてたからね。少しは反省してもらわないと。
「じゃあ帰りましょうか」
「え?あ〜、うん」
出来る限り笑顔を浮かべる私。
私の態度が予想外だったのだろうか、シンジさんは狐に摘まれたような顔をしている。
私はシンジさんの手を引いて、足早に学校から退散した。

「あの〜、この前はホントごめん」
「・・・・・・」
「いつもの癖でさ、つい・・・・」
「これからは、その・・・・あまり見ないようにするから」
「・・・・・・」
「アキちゃん、聞いてる?」
「・・・えっ!あ〜・・・き、聞いてますよ」
「そう?」
やば・・・ちょっとトリップしてた。極度の寝不足でおかしくなってるんだろうか。
帰り道、私はシンジさんと手を繋ぎながら帰路についていた。
シンジさんが何か一生懸命に話してたけど私の耳にはあまり内容が入ってきてなかった。
「だから・・・ごめん。許してくれる?」
「も、もう怒ってないですから。ははははは・・・・」
正直何言われたか分かんなかったけど・・・反省してるみたいな話、よね?
シンジさんは私の返事を聞いて、安堵したような顔を浮かべる。
うん。やっぱりこっちの顔のほうが好き。
怒ってたのが馬鹿らしく思えるくらい、愛しさが込み上げてくる。
・・・・だからこそ、今日はあっちの方も進展させなければ!
「シンジさん、今日家に行ってもいいですか?」
「うん。いいよ」
シンジさんは当然私の意図に気付くわけもなく、あっさりとOKを出した。
よし、ついに計画を実行に移すときが来たわけね。
私は無意識のうちにシンジさんの手を、ギュッと強く握っていた。


くだらない雑談をしながらシンジさんの家の近くまでやってきた。
そろそろね・・・
私は携帯を取り出して、カナミにメールを送る。
“そろそろ着く。それじゃよろしく”
メールを送ってから数秒後、カナミからの返信が。
“わかった。頑張ってアキちゃん!”
カナミからの返事を見て改めて決意を固める。
そしてついに城嶋家の前へ。シンジさんがカギを開ける。
玄関を開けたところで、ちょうど電話のベルが鳴り出した。
「電話だ。先に部屋に上がってて」
言われたとおり私は階段を上ってシンジさんの部屋に向かう。
・・・・よし。計画通り。
あの電話はカナミからのもの。私が掛けてくれるように前もって頼んでいたのだ。
私はシンジさんの部屋に入って一度大きく深呼吸する。
そしてざっと部屋の中を見渡す。
どうやらあの時のビデオは借りてきてないようだ。
もしあの後借りていたのなら、この場を修羅場に変えてしまわなければいけなかった。
どうやら本格的に腹を括るときがきたようだ。
今の私の心は、何でもできるという思いが渦巻いていた。
あまりの寝不足で頭のどかがおかしくなってるのかも。
でも今はそれはとても好都合だった。なんの迷いも無く実行に移せる。
私は意を決して自分の着ている制服に手を掛けた。

階段を上る音が聞こえてくる。
その音が大きくなっていくのに比例して、私の鼓動も速くなっていく。
そして足音はこの部屋の前で止まった。
私はドアに面した壁の端でドアが開くのを待つ。
「ごめん、カナミから電話が・・・アレ?」
話しながら部屋に入ってきたシンジさんは部屋の中を見て途中で言葉を切った。
シンジさんは部屋に私がいないと思ったみたい。そして・・・
「なんだコレ?」
そして意識は部屋の真ん中にある衣服へと移った。
真っ直ぐにそれに向かっていって拾い上げようとしている。
よし、今だ!
私は忍び足でシンジさんの背後に回りこむ。
「こ、これは・・・!!」
「シンジさん・・・・」


拾い上げた衣服が——私の制服だと理解したようだ。更に後ろを振り向いて私を視界に捉える。
そして、その顔は瞬時に驚愕の色に彩られた。
「ア、アキちゃん!?そ、その格好は・・・!?」
シンジさんは私の下着姿を見て顔を赤らめる。そして恥ずかしそうに顔を背けた。
フフフ・・・・動揺してる♪ホント可愛いんだから・・・
私は彼の顔を両手で押さえ、視線を無理矢理私のほうへ向けさせる。
「どこ見てるんですか?私を見てくださいよ〜」
「ど、どうしちゃったの?アキちゃん」
「好きだからこんなことしてるんです」
「いや、でも・・・っ!!」
今だ混乱しているシンジさんの唇を塞ぐ。当然塞いでいるのは私の唇だ。
深い口づけをしてそのまま口内に舌を入れる。
いつもならここで応えてくれるのだろうが、まだ状況を理解できていないシンジさんは私の唇をもぎ離した。
勢いあまってそのまま尻餅をつく。荒い呼吸をして信じられないものを見るような目で私を見つめる。
「もう・・・・なんで逃げるんですかぁ?」
「なんでって・・・アキちゃんどうしたの!?」
「・・・そんなに私、魅力ないですか?」
「へ?」
「祭りの時以来、一回も私を抱いてくれないじゃないですか。
 私、男っぽいから仕方ないとも思うけど・・・」
「それは違っ・・!」
「だから私、気に入ってもらえるよう勉強したんですよ?だ・か・ら・・・」
私はシンジさんに触れるために足を進めた。
「いや、アキちゃん?俺の話も聞いて欲しいんだけど」
シンジさんは手と足を使ってズリズリと後ろに下がっていく。
「・・・・うおっ!」
だが後ずさってどこまでもいけるわけもない。シンジさんはすぐベッドに背中をついた。
ホラー映画でよくこんな場面あるなぁ。
さしずめ私がモンスター、シンジさんが犠牲者ってとこね。
相手がこれ以上どうしようもない状態を見る。すると顔が自然と緩んでくる。
チェックメイト、もう逃げられない・・・
「それじゃあ」
私はシンジさんの前で膝をついて向かい合う形になる。
ついに私が求めていたものが手に入る。彼との、確固たる愛の証が。
「いただきまぁす♪」
そして彼に抱きつくべく、私は倒れるように彼の方へと凭れかかる。
だんだん近づいていくシンジさんの顔。あと少しで・・・・

ゴツッ

衝撃。
激痛。
そして暗黒。
あれ?シンジさんどこ?
つーか・・・・いっ・・・たい・・・・・
「アキちゃん?・・・・・丈夫!?・・・・ちゃん!・・・・」



目を開けると見慣れない天井があった。
寝た状態のまま、首だけ動かして部屋の中を見渡す。
あぁ、最近よく自分がやってくる部屋だ。
壁についてある時計の針はちょうど9時を指している。
でもなんで私こんなトコで・・・・
起きたばかりなので頭が働かない。
寝ぼけている頭で寝る前のことを思い出そうする。
とその時、不意に部屋のドアが開いた。
「アキちゃん、起きた?」
シンジさんは微笑を浮かべながらこちらにやってきて、ベッドの近くのイスに腰を下ろした。
「あの・・・私なんで・・・・」
「凭れ掛かってきたときにベッドに頭ぶつけてね。そのまま今まで寝てたんだよ」
凭れ掛かったとき?
「昨日全然寝てなかった?そのまま熟睡してたけど」
寝不足?
だんだん頭の回転が戻ってきて、少しずつ事の顛末の断片が頭に浮かんできた。
・・・・・・・・・・
・・・・・?・・
・・・・!!
!!!
ぼーっとしていた顔が青ざめ、そして朱に染まる。
ガバッとベッドから上半身を起こす。慌ててシンジさんへの弁解の言葉を探す。
「あの!あれは・・・その・・・・極度の眠気のせいでっ!」
必死でいいわけをしようとする私。
が、シンジさんは私から視線を外していた。何故か顔も少し赤い。
「シンジさん?」
「あのさ、アキちゃん・・・・」
「はい?」
シンジさんはそのまま布団の上に自分のTシャツを置く。視線は依然逸らしたままだ。
「取り合えず・・・それ着て」
なんで?
怪訝に思い自分の視線を下に向けた。そこには私のブラ(勝負用)が・・・
!!!
一拍おいて瞬時に胸を腕で隠す。
も、もう!何やってんのよ私!!いくら眠たかったからって!
「あのっ!あ〜〜〜その〜〜!!」
「う、後ろ向いてるから」
そう言ってクルリと後ろを振り向くシンジさん。
私はそそくさとTシャツに袖を通す。
「もう大丈夫です・・・・」
さっきと同じように向き合う形になる。
が、私の頭は完全にさっきまでのそれとは違う。
あの行動は今思えばどうかしてた。いつもの私なら絶対やらない。
恥ずかしくて今すぐにでもここから立ち去りたい思いに駆られる。


「あの・・・ごめんなさい。驚きましたよね」
「ん。まぁ、ね」
少し苦笑するシンジさん。
私はそれを見ていられなくて俯いてしまう。
「あまり寝てなくて・・・・頭おかしくなってたんです。
 だから・・・・その・・・・忘れて、ください・・・さっきのは」
本当のことは言えるはずもない。
自覚があってやってたなんて言ったら、それこそ色情魔だ。
黙り続けるシンジさん。俯いているせいで、どんな表情してるのかも分からない。
う・・・・やっぱり幻滅とかされたのかな・・・
折角恋人同士になってこれからって時なのに、墓穴を掘ってしまった。
ホント、私ってどこまでもバカ・・・
なんか視界が歪んできた。もう、何してんだろ・・・・
「・・・・アキちゃん」
泪が瞳からこぼれそうになったとき、シンジさんが私の名前を呼んだ。
「顔、上げて」
そこにはどんな顔が待っているのだろうか。
当惑?侮蔑?憐み?どれがきても私の心が傷つけられるのは確かだろう。
でも、それは受け入れなくちゃいけない。
私はゆっくりと顔を上げる。
そこには・・・・優しい微笑を浮かべている大好きな人の顔があった。
「ごめんな」
「・・・なんでシンジさんが誤るんですか」
「アキちゃんが不安抱いてたのに気付けなくて」
「あ・・・・」
不意にそっと抱きしめられる。
恋人を抱きしめるというよりも子供を慰めるような抱擁。
「アキちゃんが寝ちゃった後にカナミ帰ってきてね。そのとき問い詰めたんだ。
 お前アキちゃんを唆したんだろ、って」
「!? 違います!あれは私が」
私はカナミの弁護をしようとしたがシンジさんは気にせずに言葉を紡いだ。
「案の定そうだったんだけど、話聞いて・・・そこに至る原因が俺にあったってこと、分かったんだ」
「シンジさん・・・・」
「あんまり求めるのも悪いと思って我慢してたんだけど・・・逆に不安にさせてた」
私を抱く腕に力がこもる。
「だから、ごめん」
再び謝って、それっきりシンジさんは口を噤んだ。抱きしめる腕の力は緩めず。
ホント、バカよね、私・・・・
そして、彼も・・・
私はシンジさんの背中に手を回した。私の方からもしっかりと抱きしめる。
そのまま言葉も発しないで私たちはただただ抱きしめあった。
ただただ・・・相手の鼓動と暖かさを感じて。



「さむ〜〜・・・・」
外に出ると一陣の風が私を通り越していく。
「最近、夜冷え込むからね」
私達は木枯らしが吹く通りを腕を組みながら歩いていた。
空には吸い込まれてしまいそうな真円の月が。
ほの白い明かりを放ちながら、静かに夜空に佇んでいた。

あの後私たちは気が済むまでただ抱きしめあった。
離れて向き合うと何故か気恥ずかしくなってしまって。
視線を彷徨わせ、ふと時計に目をやったらすでに時計の針は10時を指していた。
時間も時間だったのでお暇しようとしたところ、もう遅いからという理由でシンジさんに家まで送ってもらうことになった。

「ホント冷えますね。でも・・・・」
「ん?」
「前に1人で帰ったときよりかは、暖かいです」
絡めた腕を引き寄せる。少し歩きづらいけど、自然に腕の力が強まる。
それにシンジさんは気恥ずかしいような、ばつが悪いような顔を浮かべた。
照れるのと同時に、ビデオの一件があった日のことを思い出したのだろう。
「あ、別にあの時のこと掘り返そうとしたわけじゃなくて」
「う、うん・・・・」
ありゃ、変なこと気にさせちゃったかな。
ここは一つお茶を濁さないと。
何かいい言葉がないかと思案していると、ある一つの考えが頭に浮かぶ。
んふふふふ・・・・
「まぁこれからはそういうモノ、借りる機会減りますよ」
「えええっ!?」
必要以上に驚くシンジさん。そんなに吃驚しなくても。
やっぱ好きなものは好き、ってこと?
あー・・・こほん。気を取り直して・・・
「これからは、私が満足させてあげますから」
「・・・・・・」


「・・・・・・」
「・・・・・・」
「もう!なにか言ってくださいよ」
折角雰囲気を変えようとしたのに・・・
赤くなって黙るシンジさんを見てると、こっちまで恥ずかしくなってくる。
「アキちゃんさ」
「はい?」
「結構・・・エッチだね」
「なっ・・・!!!?」
なんでですか!と言おうとするも驚きと恥ずかしさで言葉が詰まってしまった。
シンジさんはそんな私を見て少し余裕を取り戻したのか。
意地の悪い笑みが浮かんでいたりするんですが。
「アキちゃんを不安にさせないためにも頑張らなきゃいけないな。ね?」
「〜〜〜〜〜〜っ!!」
こ、この人は・・・
あの妹あってこの兄あり、とでも言おうか。本質的な所は結局同じなのかもしれない。
城嶋家の血筋はどこまでも私を苛めるのが好きみたいだ。
「なんてね。ハハハハ・・・・あ、ちょっと待って!?」
腕を解いて早足で離れようとする私を見て、慌てて追ってくるシンジさん。
まったく、この人は・・・
・・・でも。
でも、そのつもりでいてくれるなら
「冗談冗談!嘘だって!怒んないで!」
「・・・・さっきの言葉忘れないで下さいね」
「へ?」
私は何がなんだか分かっていないシンジさんの腕をグイッと引き寄せる。
そして彼の耳元に私はそっと囁いた。
「私がシンジさんを満足させるって言ったこと。
これからは、我慢しないで下さいね♪」

こんな気持ちを抱いてるなんて、カナミたちにも絶対に言えない。
シンジさんの望むことならなんだって叶えてあげたい。
あなたの好きなように。私をどうしたってもいい。
あなたなら、かまわない。

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