作品名 作者名 カップリング
『お似合いの二人』 ピンキリ氏 -

 ぽかぽかと初夏の陽気がまことに気持ちよい、六月半ばの日曜日の午後。
城島シンジと今岡ナツミは連れ立って町へと遊びに出た。
「蒸し暑いけど、いい天気で良かったな」
「うん、そうだね」
 今日の予定は決まっている。
これから駅前に出て、最近話題になっているイタリアンカフェでまず昼食。
次に映画を観に行って、その後はショッピングなどブラブラと。
そして、最後は恋人たちのホテルを一時利用、という計画だ。
まあ、よくあるデートの形である。
 それで、何故この二人がデートをするのかというと、答は簡単。
二人がつきあっているからに他ならない。
小笠原高校を卒業するときにナツミがシンジに告白し、無事めでたく……というわけだ。
交際スタートからまだ数ヶ月しか経っておらず、
互いに名前を呼び合うのがまだまだ慣れないといった感じではあるものの、立派に恋愛しあっている。
高校では同じクラスに同じ委員だったわけで、気心は十分にわかっており、気後れはない。
それにもともと、恋人云々の前に二人は仲が良いのもある。
異性とは言え、自然に会話出来る関係だったのだ。
「映画なんて観に行くの、久しぶりだな……」
「そう? 私はこの前ケイと一緒に『海犬〜リミット・オブ・ラブラドール〜』を観に行ったけど」
「ああ、あの海難救助犬の話な」
「そうそう、それ」
 シンジとナツミは、同じ大学を受験しともに無事合格。
今は通学するのも一緒、講義に出るのも一緒、昼食を食べるのも一緒。
違うのはトイレに行くときくらい。
もちろん、同性の友人と過ごすこともあるが、大学では常に一緒の行動が基本になっている。
キャンパスライフを満喫しまくり、青春謳歌の真っ最中という、まこと他人も羨む状況なのだった。

                 ◆                     ◆

 イタリアンカフェは当たりだった。
狭くもなくだだっぴろくもなく、屋内と屋外にスペースが別れ、採光も風当たりも問題ナシ。
値段もそこそこでボリュームもまあまあ、味は舌が蕩けるとまではいかないが、ケチのつけるところがない。
全てにおいて十分に満足出来る中身だった。
 しかし、その後の映画がいけなかった。
二人が悩んだ末に選んだのは、今世界で絶賛上映中の話題作、『駄ベンチ・コード』。
「モナリザ」と異名をとるくらいに微笑が素敵な大リーガー監督の指揮っぷりと、それに左右される人々を、
おもしろおかしく、そしてちょっぴり切なく描いたスポーツ感動巨編だ。
で、このモナリザ監督であるが、采配能力は極めて低く、人柄だけで監督になったような人物。
ヘッドコーチがしっかりしていたおかげで、元々弱い戦力でもないチームは連戦連勝するが、
地区優勝を決める大事な試合に、何とそのヘッドコーチが盲腸で緊急入院してしまう。
そこで全ての指揮をモナリザ監督がとることになったから、さあ大変。
ツーアウトなのに送りバントのサイン、左ピッチャーに左の代打と常識外れの采配、
さらには一球ごとに複雑なサインを出すのでチームは上へ下への大混乱。
だが、中心選手のミケランジェロは不意に気付く。モナリザ監督のサインに裏の意味があることに。
ミケランジェロとチームメイトはモナリザ監督の出す複雑怪奇なサインの意図を見抜けるか、
また何故モナリザ監督はそのようなチームが混乱するような采配を振るうのか、
そしてチームは優勝することが出来るのか……という内容。
盛りだくさんと言えば盛りだくさんであり、俳優の演技も熱が入っていて演出も迫力があったのだが、
いかんせん話の展開がまことに理解しづらいことこの上なかった。
映画館を出た二人は、新聞の評論欄に載っていた、
「原作を読破していないと完全に理解出来ない」という一文を思い出すハメとなったのだった。


                 ◆                     ◆


「……ここ、初めてだよね」
「ああ、初めてだな」
 映画の後、ショッピングの予定を潰して、二人はラブホテルへと来た。
日曜日の昼間っから堂々と入っていくのも恥ずかしいので、大通りに面している店は全て却下。
裏通りへ裏通りへと進み、人の通行が少ないところを探し、ようやく一軒発見した。
建物自体はかなり年季の入ったもので、ペンキが剥げたり看板のランプがえらく昔風で悪趣味だったりと、
目につく問題は色々あったものの、入ってしまったからには文句は言えない。
「……ホントーに初めてだよね」
「いや、間違いないって」
 しかし、部屋に通されてみて、ぐるりと見回してみた二人は、どこか懐かしさのようなものを感じた。
記憶をほじくりかえしてみても、ここに以前来たという覚えはない。
だが、妙に落ち着いた雰囲気があるのだ。
内装はホテルの外観に比べ、今時珍しいと言えるくらいにおとなしめで、ケバケバしいところは一切ない。
「わかんないね」
「ああ、わかんないな」
 二人は首を傾げ、視線を交し合い、そして、どちらともなく微笑んだ。
ここに来た以上、することは一つだというのに、何を変なことで語り合っているのか。
「ふふ。じゃ、シャワー浴びてくるね」
「……いや、いい」
 バスルームへと向きを変えたナツミを、両腕で引き寄せて強引に方向転換させるシンジ。
ナツミは抱きすくめられて、目をパチクリと何度か瞬かせた。
「……え、でも、汗かいたし……」
「たまにはいいだろ? いきなりってのも、さ」
「……シンジ君の『たまには』はホントたまにじゃないから」
「何だよ、それ」
 ナツミは首を回し、斜め後ろのシンジの顔を見上げ、ジト目で言葉を続けた。
「たまには騎乗位で、とか、たまには服を着たまま、とか。どこがたまにはだっていうのよ」
「や、そ、それはその。で、でも連続して要求してないじゃないか」
「ふーんだ、服を着たままってのはもう今月に入ってから三回くらいヤったけど?」
「……あう」
 シンジはナツミの視線から逃れるように顔を背け、天井を見た。
そして、何の関係も無しに、さっき感じた既視感の正体に気づいた。
落ち着いた部屋の中で、そこだけつい最近改装されたと思しき、埋め込み式の蛍光灯。
それが、大学の講義室にあるものとまったく同じ種類だったのだ。
どことなく柔らかいその光、それに見覚えがあったというわけだ。
「あー、それはその、だな」
「ふんだ」
 ナツミはシンジの腕を解くと、真正面からシンジに向き合った。
ペロリ、と赤い舌を出して唇の周りを嘗め回し、上目遣いでシンジを見上げる。
「お、お」
 扇情的なその仕草に、シンジは思わず息を飲んだ。
「いいよ、その代わり……」
「そ、その代わり?」
 ナツミは艶やかに笑うと、戸惑うシンジの胸に抱きついた。
「たっぷり、感じさせてね……?」


                 ◆                     ◆



「ん、んん……」
「む、ふぅ……」
 濃厚な口付け。
ただ重ね合わせるだけではない。
互いの唇を舐めあい、舌を絡めあい、口内の唾液を混ぜあう。
と、そこで二人は、ほわんと口の中から喉にかけて、不思議な感覚が広がっていくのを覚えた。
ブレンドされた唾液、それが二人を官能の淵へと導くクスリになっているかのようだった。
「シンジ、くぅん……」
「……ナツ、ミ」
 真正面から抱き合い、体を密着させるシンジとナツミ。
シンジの胸下辺りに当たる、ナツミの乳房の何と柔らかいことか。
ナツミの乳房に触れる、シンジの胸板の何と広いことか。
相手に全てを委ねてもいいという、不思議な安堵感。
それが、シンジとナツミの全身を、温かく、そしてふんわりと包んでいく。
「脱がせてあげるね……」
 ナツミはそう言うと、シンジの胸から一端離れ、その上着のボタンに細い指を伸ばした。
上からひとつひとつ外していくその指の動きが、奇妙にエロチックなものにシンジには感じられた。
「私ね」
 ナツミは手を止めずに、シンジに語りかけた。
「シンジ君の胸、とても好き。シンジ君は全部好きだけど、この胸が特に好きなの」
「……え、えーと」
 シンジは戸惑いの表情を顔に浮かべた。
妙に恥ずかしい上に、どう反応していいかわからないのだ。好きと言われて嬉しいことは嬉しいのだが。
「大きくて、広くて……ああ、男の人なんだなあ、って感じなの」
「そ、そうか、って、わわっ!」
 ボタンを最後まで外しきると、ナツミが不意に強くシンジに抱きついた。
その勢いのままにシンジは、背後にあった大きなベッドに押し倒される。
「あはは、何か私が強引に迫ってるみたいだね」
「……いや、みたいじゃなくて、そのまんまだと思うんだけどな」
「何よ、最初の頃は私の意思を確認する前にバンバン押し倒してきたじゃない」
「……はあ、そりゃその、そ、そうだけど」
 つきあい始めたとき、当然―――と言うのはアレだが、シンジは童貞でナツミは処女だった。
二人が本格的に恋人になった、つまりヤることをヤったのは、交際を始めて間もなくのことだ。
カズヤレベルには到底及ばないとはいえ、シンジはエロ方面の知識は豊富で、欲求もあった。
ナツミの方はもっとゆっくりと段階を踏んで深い仲にになりたかったようだが、
エロ少年の性の滾りはそこまで包み込んであげる余裕などなかったわけで。
ナツミの部屋で二人っきりになったその時、シンジの性欲は決壊してしまった。
だが、強引にレイプ紛いに事を成したわけではない。
何せ、ナツミの腕力は並大抵の男以上なのだ。
本気で抵抗されたら、シンジの手足の二本は確実にポキッといかれてしまう。
顔を赤くしたり青くしたりしながら、「抱きたい」という意思をシンジは必死に伝えようとし、
最終的にナツミがあきれながらも了解した、という次第。
ロマンティックの欠片も無いが、実際はどこもそんなものである。
少女マンガみたいにキレイに展開が流れて初セックス、なんてのはなかなかないのだ。


「うふふ……」
 ナツミは妖艶に微笑むと、シンジに跨ったまま今度は自分の上着のボタンに手をかけた。
シンジにした時と同じように、上から順番に外していく。
ゴクリ、とシンジは唾を飲み込んだ。
ナツミが発散する、淫らな気を感じて。
「ナツミ……」
 シンジは、自分の上で素肌をさらしていくナツミに見とれた。
かつてのナツミなら、考えられない行動だ。
だが、ナツミとてお花畑に囲まれたお屋敷の純情無垢な令嬢だったわけではない。
あのカズヤのエロボケに瞬時に反応出来る程、知識は持っていたのだ。
素養は十分にあった、ということなのだろう。
シンジと体を重ねる度に、ナツミは一枚一枚と本性を露わにしていった。
もっとも、普段の生活でそれを見せることはない。
その場になってこそ、表に出てくるナツミの姿なのだ。
「んん……」
「む……」
 上着を脱ぎ、ブラジャーを取り、上半身裸になった状態でナツミはシンジにキスをした。
シンジも、その濃い口付けを受け止め、しっかりと返す。
一秒、口を重ねては離し、また重ねる。
その行為を何度も何度も繰り返す二人。
「や……ん」
「……すごくキレイだな、ナツミは……」
 シンジは両の手をナツミの腰に伸ばし、腰から脇腹、脇腹から脇の下へと、擦るように動かした。
シンジの手が上へ上へと登っていくにつれて、ナツミの体がブルブルと波打つように震える。
「くすぐったいよ……」
「くすぐってるんだよ」
「何それ、イジワルなの……きゃっ!」
 ナツミは悲鳴とも喜声ともつかない声を上げた。
シンジが脇の下から、乳房へと掌を移動させたのだ。
そのままふにふにと、ナツミのお椀型の乳房を、優しく、だがはっきりと指を動かして揉んでいくシンジ。
「あっ、や、やだ……ぁ」
 シンジの上で、ナツミの体が跳ねる。
自身の手をシンジの腕に添えるが、引き剥がす程の力はそれに無い。
「ナツミ、柔らかい……」
「あっ、あ、ああ……んん、んっ!」
 ナツミは巨乳とまでいかないが、スレンダーなこともあり、身体に比して十分な大きさを持っている。
そして引き締まった身体には、贅肉の欠片も見られない。
女性特有の丸みはもちろんある。
だが、二の腕も、腰周りも、太股も、弛みらしい弛みは一切無い。
高校時代はスポーツが得意だったのも関係しているのだろう。
何せ、運動部でもないのに体育祭で一着になったり、男のカズヤをパンチで吹っ飛ばしたりしてきたのだ。
 一方のシンジも、立派な筋肉とまではいかないが、ナツミが言ったように、それなりに男らしい肉体を持っている。
妹のカナミと二人暮らしで、食生活が偏らないように気をつけていた影響が大きいのかもしれない。
「や……!」
 ナツミの身体の震えがより大きくなった。
シンジがスカートの中に手を突っ込み、お尻をぐっと掴んだのだ。
胸と違い、形が変わる程に力を入れてシンジは強くナツミのお尻を揉む。
そして、その指先を徐々にお尻の谷間の中心にある、小さなすぼみへと移していく。
「だ、めぇ……!」
 下着越しで、直接触れられているわけではないが、ナツミに衝撃を与えるには十分な動きだった。
指の動きに合わせて、ナツミの身体にピリピリと電流に似た何かが、お尻から背中を通じ、脳へと流れ走る。


「きたな、い、よぉ……」
「……でも、感じてるんだろ?」
 少々イジワル気味に、シンジは言った。
シンジがアナル好きであるということは、ナツミも知っている。
最初の体験をしてから間もなく、シンジにアナルを要求された時は、彼女は全力で突っぱねた。
やはり、相当の抵抗があったのだ。
しかし、それで簡単に引き下がるシンジではない。
だいたい、素直にあきらめるようなら性癖とは言わないだろう。
とにかくシンジは、セックスする度に交渉を重ね、ナツミのアナルを『開発』していった。
「あ……だめ、だめ……って、ば……っ」
「抵抗してもいいんだぜ?」
「……バカァ」
 先述したように、ナツミは性的に秘めたものを持っていた。
ただ、年頃の女の子として恥じらいもあったし、抵抗もあった。
カズヤのように露骨に性的行動を表す人間が側にいれば、拒否反応が出てしまうのも仕方がないと言えよう。
だが、一皮剥ければ、受け入れるだけの許容量をも持っていたのも、また事実。
カズヤに対する当たりの強さは、言ってみれば自身の淫らな部分を覆い隠す行為でもあったわけだ。
「やだ、お尻でなんて……ぇ、や、だぁ……!」
 拒否の言葉とは裏腹に、ナツミの身体からはゆっくりと力が抜けていった。
がくり、と前傾姿勢になり、シンジの首の横に手をついてしまう。
アナルを責められて、明らかに感じているのだ。
「ナツミは感じやすいな……」
「バカ、バカ……私、お尻なんて……す、好きじゃない……よぉ……ッ」
 シンジが念願の(?)ナツミのアナルを征服したのは、それ程前のことではない。
ゴールデンウィークが終わって、五月の半ば辺りのデートでのセックスで、初のアナルセックスに及んだ。
当然、ナツミは最初嫌がったし痛がった。
シンジは出来る限りにゆっくり、そして優しくしたつもりだったが、やはり最初から双方感じるというわけにはいかなかった。
膣とは違うきつい締め付けでシンジはすぐにイッてしまい、ナツミはただ涙を流すのみ。
考えてみれば当たり前なのだ。元々、お尻の穴というのは、繋がる場所ではないのだから。
ゼリー付きのゴムを着けるとか、ローションを使うとかで解決する問題ではない。
膣よりも収縮性が強く、そして傷つきやすく、デリケートな部分であり、
いくらか感じるようになってきたとはいえ、そう簡単にコトが行えるものではないのだ。
「なあ……今日、いいか?」
「え……?」
 シンジはお伺いをたてた。
本当は強引にでも、ナツミのアナルを自身のペニスで貪りたいのだが、
初めての時と違って、今の彼には歯止めをかけるだけの理性がある。セックスに慣れてきた、とも言えるだろう。
「……お尻、だけど……」
 最初の時は暴走してしまったが、シンジはそれ以降こうやってナツミに尋ねるようにしている。
無理をしてナツミを傷つけたくないし、また、ナツミにも十分に感じてほしいと思っている。
アナルセックスが最初の一回だけで、二回目に及んでいないのは、そういう理由があるからだ。
「……」
 ナツミは数秒、逡巡し、そして、ゆっくりと首を横に振った。
「ゴメンね……その、私……」
 指はともかく、大きなペニスで快感を得られる程には、まだナツミのアナルは開発されきっていない。
好奇の気持ちは正直、あると言えば彼女の中にある。だが、やはり恐怖や嫌悪がまだ先に立っている。
「……いや、いいよ。ゴメンな」
「ううん……私こそゴメン」
 シンジは本当はしたかった。
だが、焦る必要はないと自分自身に言い聞かせた。
アナルセックスは双方の同意があって、尚且つノーマルなセックス以上に準備が整っていないと難しい。
「じゃあ……普通に、いくよ」
 普通に、というのもおかしな表現ではあるのだが、シンジはナツミの言葉を受け入れ、アナルでのセックスをあきらめた。
まだまだ開発段階と考えれば、性癖を押さえ込めるというものだ。
いずれ、完全に後ろで感じてくれるようになってから。
そう、それからでも遅くはないのだ。まだまだ、二人の恋人としての未来は広がっているのだから。



 シンジは上に覆いかぶさっていたナツミを優しく抱き、体勢を入れ替えると、うつ伏せにした。
次にナツミのスカートを取り去り、腰をそっと持ち上げ、お尻を突き出すような姿勢にする。
ナツミのショーツの中心辺りは薄っすらと濡れているのが、シンジには見て取れた。
胸とお尻への愛撫で、しっかりと身体が反応していたのだ。
「……ナツミ」
 シンジはショーツを膝の辺りまでずらした。
露わになったナツミの秘所とお尻の穴、そして太股に引っかかった下着。
すさまじいまでに、男の欲望を刺激する光景だ。
「や、だ……見ないで……っ、くうううっ! やめ、て……ぇ」
 顔はおろか、身体全体の肌を羞恥で赤く染まらせるナツミ。
もちろん、シンジはやめるつもりなどない。
口内に唾液を溜め、ナツミの菊座と秘所に舌先でつーっと垂らし、
中指と薬指の二本をナツミの秘所の中へと侵入させる。
「あ、はぁ……っ!」
 ナツミは身体をぎゅっと縮こめた。
顔をベッドに押し付け、両の掌で皺が寄るくらいにシーツを掴む。
恥ずかしい格好で、恥ずかしい場所を見られ、恥ずかしい行為をされている。
そのことが、逆にナツミの心の奥の淫らな炎を、煌々と燃え上がらせていく。
「ああっ、あんっ、はぁ、やあ、あっあ……っ!」
 シンジは掻き混ぜるように中指と薬指を回転させ、同時に親指でナツミの最も敏感な真珠の部分を攻めた。
快楽に悶え、ナツミは大きく開けた口から涎と嬌声を外へと流す。
はしたないから声を出さないようにしよう、感じてしまう身体を押し留めようという気持ちは、雲散してしまっている。
シンジの姿がはっきりと見れない、というのも、ナツミの心を昂ぶらせる一因になっていた。
シンジの指の動きだけが感じられ、ナツミは悦びの沼の奥へトロトロと沈んでいく。
「ナツミ、すごくいやらしいな……」
「はぁあっあ、いやっ……あ! ああっ……!」
 ナツミの声が一段と高くなったのを、シンジは感じ取った。
それに伴い、指の動き加速させ、激しくしていく。
「あ、あ! あんっ! は……むぅ……あ!」
 シンジの指、いや、指だけでなく手、そして腕に至るまで、ナツミの愛液でびしょびしょになっていた。
何滴か、小さい透明な玉となって飛び散り、シンジの顔や髪にかかる。
「は……あ、あ、あ……あーっ!」
 ぶるぶるっと、まるで瘧のように大きく身体を震わせるナツミ。
シーツをぐいっと握り締め、顔半分をその歪んだシーツに押し付ける。
首筋から背中にかけて、まるで桜の花が咲いたかのように、さーっとピンクに染まっていく。
「ナツミ……」
 シンジは思った。とてもキレイだ、と。
桃色の肌に浮かんだ、いくつも汗の粒。
部屋の灯りを受けてキラキラと輝き、実際、官能的な美しさを放っていた。
「……あ、あぁ……」
 一際多量の淫液が溢れ出し、太股を伝って垂れ落ちて、膝で止まったショーツをさらにぐしょぐしょにしていく。
自分の腕とナツミの太股、そこにねっとりと絡みついたいやらしい液体を交互に見て、シンジは自身の腰を浮かした。
上着を取り、ベルトを外し、ズボンとトランクスを蹴り上げるように脱ぐ。
優しくしよう、傷つけないようにしようと心に誓っても、まだシンジは十九歳。
少年をやっと卒業したばかりの歳だ。
欲望を何時までも鉄の鎖で雁字搦めに縛りつけておくなど、出来はしない。
「ナツミ……」
 それでも、シンジは一応ナツミに声をかけた。
だが、答えは返ってこなかった。
首を伸ばし、シンジはナツミの横顔を覗き込んでみる。
唾液に塗れた唇は閉じられておらず、頬と目蓋の辺りが時折ピクリピクリと震えているのが、シンジにはわかった。
ナツミの身体が、頂点に達した余韻の中にまだあるという証拠だった。


「……」
 シンジの心に、少し黒い欲望が芽生えた。
この状態のまま、ナツミを犯したいという思い。
「……ナツミ、ナツミ」
 シンジは、激しくいきり立った自身の怒張にコンドームを被せ、その先端を、ナツミの秘所にピタリと当てた。
視界に、ヒクヒクと僅かに小さく開閉するナツミのアヌスが入ってくる。
今なら、抵抗なくそちらに入れることも出来るが、シンジは理性を総動員してその欲求を抑え込んだ。
さすがに、それは卑怯だし、ナツミを痛めつけてしまうと考えたのだ。
「行く、よ……」
 ぐっ、と腰に力を入れ、前へと進んでいくシンジ。
同時に、熱い肉の襞が、シンジの分身を包み込んでいく。
「……う、あ」
 スゴイ、とシンジは思った。
ナツミはまだ意識が朦朧としており、自分の意思で締め付けをしていないというのに、
膣は自動的にシンジのペニスをぎゅっと受け止め、蠕動させて、射精を促してくる。
「ナツ……ミィ」
 プチン、とシンジの頭の中で何かが切れた。
本当の限界だった。これ以上は、男としての獣欲を縛りつけておくことなど出来ない。
むしろ、それが当然で、よく今までナツミを思って我慢したと言えるだろう。
シンジはジゴロでも、場数を踏んだAV男優でもない。
余裕なんて無い、スケベな若い男なのだ。
「ナツミ!」
 シンジはナツミの背中に覆いかぶさると、激しく腰を動かした。
バックの変形姿勢だ。
ナツミが腰を浮かせていないため、深い挿入感こそは無かったが、
意識が薄いゆえのダイレクトな膣内の締め付けが、シンジを高みへと登らせていく。
やがて、シンジのはぁはぁという荒い息に、もうひとつ別の息の音が絡みつき始めた。
「ナツ、ミ……ッ、」
「……っ、あ……、はぁ……ぁ」
「ナ、ツ……ミ?」
「……シン、ジくぅ……あっ、んんっ……」
 ナツミの感じ易い身体は、彼女を眠らせてはおかなかった。
シンジから受けた快楽を強引に脳に送りこみ、覚醒させてゆく。
イッた後の気だるさを追い出し、また性の悦びを目覚めさせる。
もっとも、先の行為で体力を瞬間的に使い果たしていたので、シンジのリズムに合わせることがなかなか出来なかったが。
「ナツミ……ッ、手を……」
 シンジはナツミの手首を掴み、斜め後方に引っ張り上げた。
シンジが膝立ちになるに伴い、ナツミの上半身も吊り上げられるように浮く。
「はっ……あ、ふぁあ……、かは……っ」
 掠れた声がナツミの口から漏れ出て行く。
断続的にナツミの身体は小さくイき、一番大きな波へと飲み込まれていく。
「ナツミ……ナツミィ……ッ!」
「あ、ああっ、あぁ、あッ、くぅんッ、シン、あぁッ、はうっ」
 言葉にならない声。そして、パンパンと腰と尻がぶつかりあう音。
身体から立ち上る、汗の匂い。
性器から脳へ、そして全神経の末端まで送り込まれていく、凄まじいまでの快感。
「……ッ!」
 ナツミの締め付ける力が一段と強くなったのを、シンジは感じた。
「ア……!」
 シンジの突きこむ勢いがより増したのを、ナツミは感じた。
「ナツ、ミィィッ!」
「シンジ君、シン、ジくん……っ、あぅ、イク、う、んんーッ!」
 限界は突然に訪れた。
シンジは熱い精の塊を、コンドームの中に放出した。強く、長く。


「……かは、あッ……」
「……っあ、あ」
 ナツミは顎を上げた。
強張った身体から力が抜けてゆき、乱れてぐしゃぐしゃになったシーツの中にその身を埋める。
その上に、同じように身体を被せていくシンジ。
耳元でシンジの息の音を聞きながら、ナツミはぼうっとした頭で思った。
吐き出されたシンジの精が自分の中を満たしていく、と。
コンドームを着けているのだから、実際は違う。
だが、ナツミはハッキリと感じていた。シンジの精が身体の中に広がっていくのを。
それは子宮からゆっくりゆっくりと身体に広がっていき、塗り潰していくのだ。
乳房を、肩を、太股を。
腕を、首を、頭を。
「……あ、あ」
 フッ、とシンジの重さがナツミの上から無くなった。
シンジがどいたわけではない。
ナツミが感じなくなったのだ。
最高の快楽の代償として、身体は疲労しきっている。
「……」
 薄れいく意識の中で、ナツミは思った。
ああ、自分の中を満たしていくのは、シンジくんの愛なんだ―――と。

「はぁ、はぁ……」
 正直、身体を少し動かすのも、シンジにとっておっくうだった。
こんなに疲れるのなら、そのうちホントに腹上死するのではないかと思える程だ。
だが、シンジは全力でセックスする以外の方法を知らない。
自分を完全にコントロールする術も、相手を完全に支配化に置く技も体得していない。
「ナツミ……?」
 右手の指を伸ばし、ナツミの髪を掻き分け、頬の辺りをトントンと叩いてみる。
だが、ナツミからは何の反応も返ってこない。
「……また、気を失っちゃったのか」
 セックスでイク時、女の感じる快感は男のそれの数倍とも数十倍とも言われる。
確かめた人などいないだろうから、風説の類かもしれないが、
さっきの手による愛撫の時といい、今のセックスといい、ナツミが意識を失っているのを見ると、
あながち間違っていないようにシンジには思えた。
実際、シンジは疲れてはいるものの、気を失ってはいない。
「ん……」
 シンジは重りをつけられたかのように鈍くなった身体を動かし、ナツミの上からどいた。
にゅる、と半分程柔らかくなった自身のペニスが、ナツミの中から抜け出てくる。
そして、コンドームを外すと、それを口のところで縛り、ティッシュで包んでゴミ箱へと放り投げた。
「あ、いててて」
 腰と首に痛みを感じ、シンジは顔をしかめた。
無理もない、結構強引な姿勢で繋がったのだから。
「ふう……」
 ここでタバコの一本でも吸えれば格好良いのかな、などとくだらないことを考えつつ、シンジはバスルームへと向かった。
ナツミが復帰するのは、もう少し後になるだろう。
とにかく、それまでに自分は身支度を整えておくべきだとシンジは考えた。
このままここで一夜を過ごしたいという思いもあるが、二人は学生であり、明日も講義がある。
それに、シンジはカナミが、ナツミは家族が家で帰りを待っているのだ。
何時までもここでちんたらとしているわけには、いかなかった。


                 ◆                     ◆



「すっかり暗くなっちゃったね」
「ああ、きっとカナミ怒ってるだろうなー」
 既に夜の九時を回り、街には夜の闇が落ちてきていた。
「ゴメンね、私が起きなかったから」
「いや、ナツミのせいじゃないよ」
 結局、ナツミが目を覚ましたのはコトが終わってからゆうに三時間は経った頃だった。
あまりにナツミがぐったりとして目を瞑っているので、シンジは声をかけるのを躊躇ったのだ。
で、目覚めたナツミは慌ててシャワーを浴び、帰り仕度をし、
二人して逃げ出すようにラブホテルから出てきたというわけだ。
ナツミが眠ったままだったら、下手したら休憩ではなくて宿泊扱いになっていたかもしれない。
「お、メールが……」
 シンジの携帯が軽やかなメロディーを奏でる。
シンジは恐る恐るといった風に、携帯を取り出し、受信メールを見た。
「何? カナミちゃん?」
「……うん」
 ナツミはシンジの手元にある携帯を覗き込んだ。
メールにはただ一言、『ご休憩ご苦労様』とだけ書かれてあった。
「……これって、カナミちゃん物凄く怒ってない?」
「……多分怒ってると思う」
「今日は遅くなるかもしれないって言ってあるんでしょ?」
「ああ、いや、九時までには帰るって言ってあったんだよ」
 それじゃ仕方ないわね、という風にナツミは肩をすくめた。
ナツミの方はと言えば、「遅くなる」とハッキリ親に伝えてあるので、携帯に電話もメールも入っていない。
ナツミの親は厳しい方ではあるが、父母ともにシンジのことをいたく気に入っているので、
多少帰宅が遅れようとも、逆に歓迎の態度すら示すのだ。何なら泊まってこいと言ったことさえある。
今後二人が別れずに、いずれ結婚することになったとしても、
それはかなり先の話になるのだから、何とも気の早い両親ではある。
「ね、シンジ君、御飯どうする?」
「あー、そうだな。どうするって言っても、ここら辺りじゃファミレスかラーメン屋……って、またメール?」
「え、またカナミちゃん?」
「そう……。えーと、『晩御飯は食べましたか? 冷えたカレーならありますことよ、ホホホホ』だとさ」
「……ねえ、もしかしてカナミちゃん、カレー作って待ってたんじゃない?」
「……そうかもしれない。あれ、でも晩御飯は食べてくるって伝えたはずなのに」
 首を傾げるシンジ。
その背中に、ナツミは思い切り平手を叩きつけた。
「いってー! 何するんだよ!」
「うふふ、丁度いいじゃない?」
「何が?」
「晩御飯よ。今からシンジ君の家に言って、そのカレー食べましょ?」
「え、本気か?」
 シンジは驚いた。
確かに、シンジ一人で帰るより、ナツミと連れ立って帰った方が、カナミも怒りをぶつけにくいだろう。
幸い、カナミとナツミはとても仲が良い。
たった一人の兄を奪い取った憎いヤツ、と敵対視されてもおかしくなかったのだが、
カナミはスムーズにナツミの存在を受けれた。
ナツミが間に入れば、緩衝材として十分な役割を果たすだろう。


「でも、お前の帰りがもっと遅くなるぞ?」
「うふ、そしたらシンジ君、泊めてくれる?」
「いや、それはちょっと」
 シンジは躊躇った。
自分と妹だけなら別に普通、自分と恋人でも問題ナシ。
だが、自分と妹と恋人の三人で一泊、というのはどうなのか。
問題が無いと言えば無いし、あると言えばある。
いくらナツミとカナミが仲良しとは言っても、物凄く微妙な空気が流れそうだ。
「じゃあ、ここからシンジ君の家まで競走して、シンジ君が勝ったら私は素直に帰るわ。私が勝ったら泊まるということで」
「な、ちょ、待て! 競走でお前に勝てるわけないだろ!」
「問答無用! よーい、ドン!」
「おい! 待て! 待ってくれー!」
 あっという間にダッシュでシンジとの差を開いていくナツミ。
何と皮肉なことか、ここでシンジの優しさと思いやりが裏目に出てしまおうとは。
ラブホテルでさっさとナツミを叩き起こしていれば、ここで競走などというハメに陥らなかっただろう。
それが、ナツミを寝かせてしまったがために、気力と体力を回復させてしまったのだ。
ナツミが目を閉じている間、シンジはずっと手持ち無沙汰で起きていたわけで、回復の度合いは歴然としていた。
「待って、はぁはぁ、待ってくれぇ、ナツミ」
「待たない!」
 シンジは必死で追いかけたが、追いつくはずがない。
星明かりと街灯に照らされたナツミの姿は、徐々にシンジの視界から小さくなり、やがて角の向こうに消えた。
「く、そっ。蒸し、暑いったら、はぁ、ありゃしない」
 シンジは立ち止まると、膝に手をつき、大きく息を吐いた。
今日がいい天気だったことを、シンジはちょっとだけ、ほんのちょっとだけ恨んだ。
「おーい、シンジくーん、このまま行っちゃうわよ?」
 シンジは顔を上げた。
角の向こうに消えたと思っていたナツミが引き返してきたのだ。
どうやら、全然ついてこないシンジに呆れて戻ってきたらしい。
「これじゃ競走にならないじゃない」
「はぁ、はぁ、だから言っただろ、勝てるわけない、って」
「……じゃ、自動的に私の勝ちってことでいいわね? それじゃ、先に言ってカナミちゃんに事情説明しておくから」
 手をひらひらと振ると、ナツミはまた駆け足でシンジの前から去っていった。
「……今度ラブホテルでヤる時は、寝ても回復しなくらいに思いっきり何度もイカそう」
 ナツミの後ろ姿を見ながら、シンジは心に決めた。
そして、一分程その場で立ち止まり、息を整えてから、また歩き出した。
ナツミが駆けていった、その道を追って。

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