作品名 作者名 カップリング
No Title ピンキリ氏 -

 女三人寄ればかしましい、という。
三人で十分賑やかなのだから、五人も集まればその騒々しさは推して知るべしだろう。
 さて、そこで城島邸だ。
普段はシンジとカナミの兄妹二人だけが暮らしているのだが、よくカナミの友人が遊びにやって来る。
今日もそうで、矢野アキ、岩瀬ショーコ、黒田マナカ、金城カオルの四人が集まっていた。
明日は休日ということで、お泊まり会をすることになったのだ。
いつもはカナミ一人の部屋だが、今日は五人もいて少しばかり窮屈な状態だ。
 それで、だ。
普通なら、恋の話とか好きなアイドルの話とかになるところだが、
この面子でそうならないのは火を見るより明らかなわけで。
そいで、こういう場合に標的になるのは、大抵アキなわけで。
「アキちゃん、こうして見るとやっぱり胸おっきいねー」
 またその話か、とアキはやれやれという感じに首を振った。
返事はしない。迂闊に答えようもんなら、何をどう突っ込まれるかわかったもんではないからだ。
「腹が立ちますね」
「1cmでいいからわけてくれないかしら」
「アキずりぃー」
 腹が立つもずるいも何も、発育は個人差によるものだ。
そんなんで責められても、アキにはどうしようもない。
「何を食べたらそんなに大きくなるのかなあ」
「カナミちゃん違いますよ、アキさんはきっと夜な夜な自分で揉みしだいて……」
「でも私、彼氏にいつも揉まれてるけどこの大きさだよ」
「サンタさんに『もっとバストをおっきくしてください』ってお願いすれば良かったなー」
 アキは成長した。
や、胸の話ではない。精神面のことだ。
これぐらいのボケではいい加減キレたりしなくなった。
キレて突っ込むから、余計にいじくられるのだ。
「ねえ、マナカちゃん、ショーコちゃん」
「……そうですね、ここはやはり」
「……そうね、ちょっと」
「どうした、三人とも?」
 出た、秘術アイコンタクト。
カナミ、マナカ、ショーコの間に、電波がビビビと飛び交う(一名置いてきぼり)。
「……?」
 アキは体を退いた。
何かある、企んでいる、そう勘が告げている。
経験上、連中がこんな態度を取る時はたいていとんでもない目にあう。
「じゃ」
「剥いちゃいますか」
「そーれ」
「あ、え、ほえ?」
 逃げるヒマも無かった。あっという間に三人に飛び掛られ、アキは絨毯の上に押し倒された。
変にいじくられたくないから無言の行を貫いていたのだが、まさか実際にいじくられることになるとは。
「ちょ、ま、な、ひえええええ」
 何と言う連携プレー。
サッカーのワールドカップ、ドイツ大会の本命と噂されるブラジル代表とて、このようにスムーズに動けただろうか。
ショーコがまずアキの足を押さえた。
続いてマナカがアキの右手を押さえ、そしてカナミがアキの腰の上に飛び乗った。
まさに流れるような動き。
ジーコが見ていたら『素晴らしい統一感だ』と絶賛したに違いない(嘘)。
「ぐふぇ」
 アキは一瞬息が詰まり、抵抗する力を奪われてしまった。
「むっふっふっふ」
 親父臭い笑い声をあげて、カナミはアキの服のボタンに手をかけた。
「ぐふっ、ちょ、ま、何をするぅぅぅぅ」
 残された左手でカナミを払いのけようとするアキだったが、それをカナミはいとも簡単に封じ込める。
カナミレベルになれば、避けつつ片手でボタンを外していくことなど朝飯前のちょちょいのちょいだ。


「ふっふっふっふ、さーて御開帳〜」
 親父臭いというより、親父そのものの発言のカナミ。
「体育の着替えの時に見たことはありますけど」
「一度ナマでじっくり拝んでみたかったのよね、この年齢不相応のおっぱい」
「うげ、こ、たい、体重がモロに、ぎっ、こ、腰が痛い、あぐ、か、カオル、助けてぇぇぇ」
 残念、カオルは呆然自失中。
女が女の服を脱がすという異常事態に、カチコチの石になっております。
仮に動けたとしても、この三人相手には勝てません。
これがスポーツならカオル一人で圧勝出来るだろうが、これはまったく別の“競技”なわけで。
「わ」
「……むっ」
「おお」
 左右に割り開かれたシャツの間から、白い清楚なブラジャーに覆われた二つの肉の丘が姿を現した。
「いやあああ」
 嗚呼、何ということだろう。
こんな日に限って、フロントホックのブラジャーをアキがしていようとは。
「じゃ、次はいよいよ」
 妖しくワキワキと手を動かすカナミ。
「こっからが本丸ですね」
 ムカツき半分、興味半分という表情のマナカ。
「ババッと一気にやっちゃった方が後腐れ無いわよ」
 一番実体験を積んでいるせいか、妙に落ち着いているショーコ。
「やめてくれぇぇぇぇ」
 暴れたくとも動けないアキ。
「………………」
 そして固まっている石像、もといカオル。
「じゃ、いくよ……」
 今、陵辱(?)は本番を迎えようとしていた。
カナミの指が、アキのブラジャーに伸びて、ホックを―――

「おーい、カナミー、みんなー、晩御飯どう、す、っ……る……」
 アキの乳房が空気にさらされた、まさにその瞬間だった。シンジが部屋のドアを開けたのは。
さて、シンジの名誉のために弁解をしておこう。
彼はドアの前で聞き耳をたて、機会をはかっていたわけではない。
そももそ、シンジは風紀委員の仕事があったので、帰ってきたのはついさっきだ。
で、今日の夕食の当番はシンジなわけで、皆が泊まるのは知っていたわけで。
ほいでまあ、親切心から夕食のリクエストを聞こうと、帰宅早々にカナミの部屋にやって来たわけで。
タイミングが悪いのは、何と言うか、シンジ自身が生まれ持っている運みたいなもので。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
 石像が六体になった。一秒、二秒、三秒、時間だけが過ぎていく。
「……お取り込み中失礼しました」
 最初に動いたのはシンジだった。
ペコリと頭を下げると、180度回れ右をして、ドアの向こう側へと消えた。その際、足と手の同じ側で歩いていた。
まあ、ノックをしなかったのは確かにシンジが悪い。
だが、ドアを開けて、まさか生乳が目に飛び込んでこようとは、誰が想像しえるだろうか。
「ちょ、ちょ、ままままままま!」
 火事場の馬鹿力か、ガバッとアキは跳ね起きた。
ふひゃあ、と振り飛ばされるカナミ、マナカ、ショーコの三人。
「まままま、待ってください、これは違うんです、待ってー!」
 そして蹴破らんばかりの勢いでドアを開けると、アキはシンジの後を追いかけた。
「まままま」
 ままま、という声がドアの向こう、廊下の奥へと遠くなっていく。
後に残された面子は、無言で顔を見つめあった(まだ石のまんまの一名は除く)。
やがて、「ぎゃあああ」「うわぁぁぁ」という叫び声が、階下から部屋に届いた。


「あ、やっぱり」
 カナミはボソリと呟いた。
そりゃ叫ぶわな、という感じにマナカとショーコが頷く。
アキはカナミに襲われた時の格好でシンジを追いかけていった。
つまり、乳をモロにほり出したまんまというわけで。
「……どうだった?二人とも」
「……憎い」
「……妬ましい」
 この事態を引き起こした責任を感じているのかいないのか、
ジト目でアキのおっぱいの感想を述べるマナカとショーコ。
カナミもその言葉にうんうんと頷いた。
「アキちゃん、いいなあ……」
「……憎い」
「……妬ましい」
 どこまでもしつこい三人である。
「……何か、ドタバタしたらお腹空いてきちゃった」
「そうですね、私も」
「何か、肉まんが食べたいなあ」
 巨乳=肉まん、わかり易いというか何というか、露骨というか。
「じゃ、買いに行こっか」
 そう言ってカナミはよっこらしょと立ち上がった。
この分だと晩御飯は期待出来ないし、という言葉はあえて飲み込んで流す。
「では角のコンビニに行きましょうか」
「私も行く」
 三人はコートを手に取ると、部屋から“そっと”出て行った。
“そっと”というのがポイントだ。
堂々と出て行こうもんなら、揉めている(乳がではない)シンジとアキに見つかってしまう可能性があるからだ。
「…………」
 かくて、部屋にはカオル一人が残された。
まだカオルは固まっている。
ペタンと腰をつき、目を大きく見開き、口をまん丸にしたまんまで。
しかしなんとまあ、激動の数分間であったことか。

 カナミたちがコンビニに行ってから数分が過ぎた。 
まだ三人は帰ってこない。
アキも戻ってこない。
部屋の中にはカオル一人。
ポロンポロン、とかわいらしい音が時計から流れてきた。
「……」
 石像と化していたカオルが、ようやく体を動かした。
フラフラと立ち上がり、四人が組んずほぐれつしていた場所と、自分の胸と交互に見て、ボソリと一言。
「……アキ、ずりい」
 女一人では、かしましくなるはずもなく。
「肉まん……」
 固まっていたとはいえ、どうやらカナミたちの会話は耳に入っていたようだ。
「肉まん……胸……憎まん……」
 わけのわからんことを口にしつつ、ハンガーからオーバーコートを外して羽織った。
「お腹減った……。私も肉まん……」
 財布の中を確認し、ややよれる足でカオルは部屋から出た。
「肉まん食べたら、腹は出るけど胸は出ない……」
 と、ぶつぶつ呟きながら。

 そして、部屋には誰もいなくなった。
騒がしかった部屋は、静かになった。


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