作品名 作者名 カップリング
『「秋」「月」「怪談」』 ピンキリ氏 ミホ×シンジ

 怪談は夏の暑い時期にするものと、相場が決まっている。
だが、夜の気温が下がり始める九月半ば頃にやってみるのも乙なものだ。
月を見上げ、頬に優しい涼風を受けながら怖い話をする……それはそれで興がのっておもしろい。

 ここひだまり幼稚園でも、夜空に浮かんだ十五夜の月を見上げつつ、今まさに怪談大会が始まろうとしていた。
と言って、別に最初からそれを目的にして皆が集まったわけではない。
日中に幼稚園で秋祭りを行い、その打ち上げなのだ。
十五夜の月を観賞しつつ大人だけで小宴会、和やかに進み穏やかに終わるはずだったのだが…。
園長の長渕ハジメの妻、ミナコがコンビニの袋(つまみの差し入れ)片手にやって来た辺りで文字通り風向きが変わってしまった。
もっとも、ミナコ本人が変えたわけではないのだ。
変えたのは―――

 佐々岡アヤ。
 
 一を聞いて十を淫汁、九死に一生をエロ、口技八丁手技八丁。卑猥唄わば穴三つ。
まだ二十も半ばを越していない若い女性なのだが、その前歴は相当に怪しい。
何がどうしてどうなって保母になんぞなったのか、今だに謎だ。
些細なことでも確実に下品な方向に持っていくことを特技(と言うか趣味、生き様)とする彼女が、
雰囲気のレバーをちょいと動かし、和やかな月見宴会の場を変質させていったのだ。


「子どもの頃は本当に月にウサギがいると信じてたわねー……」
 月を指差し、何気無しにミナコが言った言葉。これに佐々岡アヤは食いついた。
「ウサギはウサギでもバニーが餅をついているというのは妙にソソられませんか」
「思いません」
 即答で宮本レイコが否定したが、それで引っ込むような佐々岡アヤではない。
「バニー姿の女性が餅をつく。この、“つく”という行為がまたエロスを感じさせるわけで」
「感じさせません」
「口を微妙に開き、斜め上をトロンと見上げ、ただひたすらに餅をぺったんぺったん…」
「いい加減にしろや、オイ」
 流れがこうなってくると、ミナコも黙ってはいなかった。
「実は餅ではなく、別れた男性を臼に押し込め杵でぺったんぺったん…」
「アンタもやめろ!」
 さあ、こうなると止まらない。止まるわけがない。
「おもしろいですね」
「おもしろくない!」
「どうして私とあの子を置いて逃げたの、あなた…?その恨み、今日こそ…ぺったんぺったん」
「やめろ」
「ああ、あの女が悪いのね…?あの女があなたを狂わせたのね…?ぺったんぺったん」
「やめろやめろ」
「それで男餅をその女に喰わせたらまるで恐怖!日本昔話ね」
「やめろやめろやめろ」
「ウサギと亀頭、あそこがカチカチ山、鶴のまんぐり返し」
「やめろやめろやめろやめろ」
 三人以外の関係者を全て置き去りにして、淫猥トークが炸裂。
もはや風情も何もあったものではない。
「よし!」
 佐々岡アヤは立ち上がった。
その足元には、空になった缶ビールが何本も転がっていた。
結構いいペースでカパカパと飲んでいたのだが、酔いはさほど回ってはいないようだ。
その証拠に、立ち上がる動作にふらつきが無い。
「怪談大会をしましょう」
「……何故」
 宮本レイコの突っ込みは至極当然のものだった。
どこをどう捻くりまわしてみても、今の会話から怪談大会をしようなんぞという結論が導きだされるはずがないのだ。
「あら、おもしろそう。やりましょう」
 賛同の意を表明したのはミナコだった。
その言葉に頷きながら、佐々岡アヤは腰に手をあてて、ぐるりと皆を見回した。
宮本レイコが口を開きかけたが、声にはならなかった。
彼女らが“やる”と言ったら、必ずやるのだ。止めたら止めたで、また揉めるだけだ。
皆も黙っているが、どうやら同じ思いらしかった。
「では、怪談大会をやるということで、よろしいですね?」
 そう言うと、佐々岡アヤは滑り台に登り始めた。
てっぺんまで行くと、ちょいちょいと手を動かして、缶ビールを要求した。
まるでアメリカの某プロレスラーのようである。
「まずは、言いだしっぺの私から」
 プシュ、と缶ビールを開け、滑り台の上で直立でごくごくと飲む佐々岡アヤ。その後ろには、妖しく輝くまん丸の月。
「……」
 以前見たB級吸血鬼映画にこんなシーンがあったな……と、宮本レイコは思った。
「始めます」
 おっさん臭く、げふっと息を吐き、佐々岡アヤは語り始めた。


 私がこの幼稚園に勤める前の話です。
当時、私はあるお店で仕事をしていました。
ああ、その店の名前をここで出すと問題があると思うので言いませんが、ま、そういう店ということで。
えーと、丁度今と同じくらいの時期で、初秋の風が気持ちいい時分でした。
で、深夜0時を過ぎた頃、私は店から出ました。
本当ならオールナイトで勤務なんですが、次の日から店内が改装に入るので、早めに仕事を切り上げることになったんです。
自動販売機で缶ビールを買い、鼻歌なんぞ唄いつつ、公園脇の道を通った時でした。
不意に電信柱の影から一人の男が現れて、私に抱きつき、公園の方へ引っ張り込もうとしたんです。
あまりに急なことだったんで私も一瞬動転しまして、声も出せず抵抗も出来ず、草むらに押し倒されました。
それで乱暴に胸を鷲掴みにされ、揉まれました。
もうここまで来るとわかりますよね。ええ、レイプ魔だったんですよ。
だけど、なんと言うか、手馴れたレイプ魔じゃなかったですね。
見たところ歳も若かったし、何よりマスクもグラサンもしていない。
襲う時も本当に無理矢理といった感じで、計画性も何もあったもんじゃない。
仕事に疲れたか何かで、最近ヌイてなくて、それで暴発した……。大方そんなところですよ。発作的ってやつですね。
それでね、そいつ、私の胸を揉みながら、血走った目で言うんです。
「おとなしくしろ、おとなしくすれば、乱暴なことはしない」って。
馬鹿言ってんじゃねー、ですよね。
草むらに引っ張りこんで胸揉んで、それでおとなしくすりゃ乱暴なことはしないだなんて。
脳みその代わりにオガクズでも詰まってるんじゃないかと思いましたよ、その時は。
じゃ何だ、私が叫んだり暴れたりしたらどうするつもりなんだ、と。
それで、私が黙っているのを見て、諦めたかとでも思ったんでしょうね。スカートの中に手を突っ込んできたんです。
もう、その手が震えてて、何かいっぱいいっぱいなんですよ。
私も色んなお客さんを相手にしてきまた。
中には、天然カンチガイ君も、筆おろしお願いしますの童貞君もいました。
でもねー、こんなにテンパってる男の人は見たことが無かったですね。
何かもう、相当進退窮まってるな、と。仕事で大失敗でもして責任ひっかぶったんですかねぇ。
もうヤケクソ、捨て鉢、まんまそうでした。後のことは全く考えてねーなコイツ、って感じで。
馬鹿ですよねー、金払って店の中でやりゃイメージプレイで済んだのに。普通にやらせてあげたのに。
 さて、ここに至って私は決意しました。戦おう、と。ぶっちゃけ、逃げようと思えばすぐに逃げれましたよ。
私、特別に格闘技や武術を学んでいたわけじゃないですけど、多少の護身術と言うか痴漢撃退術は知ってましたし。
お客さんの中に、そーいうのに長けてた常連さんがいたので、教えてもらってたんですよ。
覚えておいて下さい。後ろから掴まれようと前から押し倒されようと、押さえるべきポイントは三つだけです。
一つ目は『手首』、二つ目は『股間』、三つ目は『小指』、これです。ここにダメージを与えりゃいいんです。
解説をすると長くなるので割愛しますが、個人的に興味がある方はまた後で聞きにきて下さい。
実演付きでお教えします。でも、宮本先生にはあまり必要じゃないですかね。
え?ああ、別に深い意味はありません。そんなに怒らないで下さい。
いや、襲われない程宮本先生が不細工だというわけじゃなくて、
宮本先生なら素拳で一発KOでき……いいえ、何でもありません。
……はい、話を続けます。はいはい。


 それでまー、私の唇にむしゃぶりつこうと顔を近づけてきたんですね。
で、私は決めました。このレイプ魔君を完膚なきまでにノシてやろう、とね。
私、伊達に勤めてる店で「ナンバーワンのテクニック」と言われてたわけじゃありません。
手、口、アソコ、その他もろもろを使って、ぎゃふんと言わせて骨抜き精抜きにしてやろうと思いました。
そして足腰立たないようにしておいて、それから警察に突き出すなり路上に放置するなりしてやろう、と。
さっきも言った通り、その日は店が深夜営業をしなかったので、幸い私もまだ体力が残ってましたし。
……え?何ですか?
……やだなあ、いくら私でもそこまでアホじゃないですよ。
朝まで仕事が無くて多くのお客さんとデキなかったからと言って、レイプ魔相手に性欲発散なんてしません。
本当ですってば。何ですか、何か言いたそうですが。特に宮本先生。
……その顔は信じてませんね。ま、それならそれでいいです。
「待って……」
 私は無理矢理キスをしようとするレイプ魔君に優しく、喘ぐように囁きました。
この優しく喘ぐ、ってところがミソです。男なんて馬鹿ですから、コロリと騙されるんですね。
それで、レイプ魔君はきょとんとして動きを止めました。ちょろいもんです。
「わかったわ……何でもしてあげるから、乱暴にしないでぇ……ん……」
 ちょっと自分でも演技過剰かな、と思わないでもなかったんですが、
さぁこうなるとパニックになるのはレイプ魔君の方です。
もっと抵抗されると思ってたのに、すんなりと受け入れられてしまった。
「うふふ……いきなり襲ってくるなんて……溜まってるのね?」
 そう言ってやって、こちらから唇に吸い付いてやりました。
多少ヤニ臭かったですが、まーそんなのはお店の客も同じことなんで。
そして、舌をぐいっと捻じ込んで絡み合わせて……。
はい、これで完全に攻守交替です。
「ほら……もう一度胸を揉んで……あん、そう、強く……」
 もーレイプ魔君は目も虚ろ、こちらの完全に言いなり状態です。
主導権なんてのは、簡単に引っくり返るもんです。あっさりと覆された時程、反動は大きいものですね。
「うふっ……待ってね、今パンティを脱ぐから、ね……?」
 パンティ、なんて自分で言ってて吹きそうになりましたよ。
だけど、男の人にとっては『パンティ』という響き自体が特別なもので。
『ショーツ』とか『パンツ』とかでは燃えないし萌えないとか何とか……って、これは話がファールですね。
とにかく、私はレイプ魔君の下から這い出ました。
で、彼の目の前でスカートの中に手をやると下着をソロソロと……。
目、丸くしてましたね。ボーゼンという感じで固まってました。当たり前っちゃあ当たり前なんでしょうが。
え?固まってたんならそこで逃げれば良かった?
……さ、話を先に進めましょうか。
ち、違いますよ。別にここまできたらやっちゃえ、とか思ってたわけではありません。
懲らしめですよ懲らしめ。信じてください。
「ほら……見て?実は……あなたに襲われて、私……濡れちゃってたの」
 スカートを捲り上げて、秘所を晒して……。
ノリノリじゃないかって?って、これは嘘ですってば。いくら何でも、そこまで痴女ではありません。
公園には小さい街灯しか無かったので、薄暗いから分からないだろうと思って嘘こいたんです。
「私のを見せたんだから……次はあなたのを、見せて……」
 ペタンと尻餅をついている男に近寄って、股間に顔を寄せると歯でズボンのジッパーを挟み、ツーッと……。
変なもので、さっきまで襲う気満々だったくせに、ちょっと萎えてたんですよ、アレ。
はぁ、あまりの痴女ぶりに引いたんじゃないか、って、それは言い過ぎですよ宮本先生。
で、私は舌でペロリと舐め上げるとゆっくりと口の中に咥えて……。
あれ、園長先生の奥さん、どこへ行くんですか?これからいいところなのに。
ああ、缶ビールですか。私にも一本くれます?話しっぱなしで口の中が乾いてきました。
はい、ありがとうございます。……ゴキュ。


 あんまり経験無かったんでしょうかね、レイプ魔君。まあ童貞じゃなかったと思いますが……。
え?何故そんなことがわかるのか?さっきからやけに口を挿みますね。
もしかして、この話に食いついてます?あ、違う?怒らないで下さい、はいはい。
勘ですよ。その手の店に勤めてたので、そーいうのには鋭いんです。そんなもんです。
「むふっ……れろぉ……、む……ん、はむっ……」
 ちょっと過剰なくらいに音を立てて舐めたり吸ったり咥えたりしてたら、あっという間にドピュ、一発目ですよ。
あの濃さから考えて、一週間くらい出してなかったんでしょうね。あ、はいはいこれも勘ですよ。
で、唾液と混ぜるようにくちゅくちゅと、口の中で溜めて舌で掻き混ぜました。
そのままレイプ魔君の目の前に顔を寄せて、「んくっ……」と飲み込んでやりました。
「んくっ」、あくまで「んくっ」ですよ。「ごくり」じゃ興冷めですからね。
少しだけ残しておいて、唇を半開きにして、端からつーっと垂らす。これ、相当技術がいるんです。
「ふふ……濃いのね……。もっと、シテあげる」
 はい、宮本先生、トイレ行くふりして逃げない。他の先生方も座って聞いて下さい。
これからが本番なんですから、文字通り。
ああっ、空き缶投げつけないで下さいよ、痛いじゃないですか。
まったく……タンコブになったらどうするんです。……それじゃ、続けますよ。
「まだイケるわよね?じゃ、早速する?」
 私は腰を上げました。一度スカートを捲り上げ、もう一度アソコをレイプ魔君に見せました。
今度は濡れてました。と言うか、濡らしました。フェラしてる最中にアソコを自分でいじったので。
そしてバッグの中からゴムを取り出しました。ここら辺はきちんとしておかないといけませんからね。
……そういうレベルの話じゃない?はぁ、宮本先生、そーいう些細なことに拘ると早く老けますよ?
だだっ、中身が入った缶は反則です、本当にケガしちゃうじゃないですか。
もう、全ての批判や非難は終わってからにして下さい。まったく……。
とにかく、私はレイプ魔君をそっと仰向けに倒し、上の乗りかかりました。
「ああん……!」
 すんなりと入りました。レイプ魔君のモノはなかなか立派な大きさで、固さもカリもまずまず……。
ああ、園長先生落ち込まないで下さい。園長先生は御歳ですから仕方が……ゲフンゲフン。
「あっ、あっああ……」
 いやー、強姦プレイも青姦プレイもしたことがありますけど、
モノホン、そして満月の下公園の草むらで、っていいもんですねー。
気分が解放されるようで、月光には魔力があるといいますけど、それにアテられた感じでしたね。
は、月のせいにするな?……ま、それはそれです。
「はぁはぁ、はぁ……」
 私は騎乗位で腰を動かし続けました。
ベッドの上ではないので、膝立ちではなくM字開脚で。そうしないと膝が汚れるし痛いですから。
で、このレイプ魔君、モノはいいのに持久力が無いみたいで、一分足らずでウッ、と……。
だから、園長先生の話ではないですから。肩を落とさないで下さい。
レイプ魔と自分を比べてどうするんですか、本当に。
「うふふ……もうイッたの?早いのね……。そんなに気持ち良かった?」
 早い、というのは問題がありますが、まぁ好意的に見れば連戦が出来るということです。
「ねぇ、もう一回、してあげようか?」
 パイズリもそうですし、後背位や正常位とかはするつもりはありませんでした。
それをしようとすると、体が地面について汚れちゃいますしね。
木に捕まって立ちバック、は考えたんですが、レイプ魔君を誘っても呆けたまま立ち上がれなくて。
いくらペースを奪われたからって、襲おうとした人間がそんなんじゃいけませんよねぇ。
……私、何か間違ったこと言ってますか?


 すいません、園長先生の奥さん、また新しい缶ビールを貰えません?
え、もう無いんですか……。わかりました。もう語ることも少なくなりましたし、いいです。
「うふふ、これで七発目……ね。まだまだよ、まだまだなんだから」
 よく、絞り尽くされると先っちょから赤い玉が出る、なんてへんちくりんな迷信がありましたけど、
まー、赤い玉が出てもおかしくなかったですね、あのレイプ魔君。
回数が重なるにつれ感覚が鈍くなって、量が少なくなり放出が遅くなるんですが、最後のほうはほんとカスカスでした。
で、私も腰振り続けるのはしんどいので、間に休憩を挟んで、十回はヤリましたか。
正確なところは覚えちゃいません。面倒臭くなったんで、数えるの。
レイプ魔君がウンともスンともいわなくなったし、出るモノも出なくなったので、よし私の勝ちだ、と思いました。
はいそこ、変に突っ込もうとしない。私が勝ちだと思ったから勝ちなんです。
 私は腕時計を見ました。表示は午前の三時半くらいだったでしょうか。
つまり、かれこれ三時間ばかりヌイてヌイてヌキまくったわけです。
いやー、オールナイトも経験済みでしたから、ま、コレぐらいは何とか。
それで、私は動かなくなったレイプ魔君はほっといて、服の乱れを直し、下着を替え、
とっととそこから立ち去りました。や、いい運動でしたよ。
レイプ魔君もぎゃふんと言わせることが出来たし……って、言ってませんけどね、言えないくらい消耗させましたから。
文字通り気持ち良く帰路につきました。
は?警察?いや、呼びませんでしたよ。最初はそう思ってましたが、やめました
まあ、これくらいで勘弁してやるわ。、ということで。人生棒に振ってもねぇ、こんなことで。慈悲ってやつですよ。
ほったらかしにしてるんだから慈悲でも何でもない?
そりゃーそうですが、通報しなかっただけでもアリガタイと思ってもらわないと。
何たって、タダでこんなにいい女とヤレたわけですし。
宣伝のつもりで、店が配ってる住所と電話番号入りのティッシュの袋は置いてきてあげました。
結局、その後そのレイプ魔君は二度と姿を見ることがありませんでしたけどね。


「はい、終わります」
 佐々岡アヤは滑り台からすーっと滑り降りてきた。
その顔は、長い話を語った満足感でいっぱいだった。
「と、いうわけで……どうでしたか?」
 感想を求める彼女だったが、ミナコがパチパチと拍手した以外、それにすぐに答える人間はいなかった。
「……何ですか、だんまりで。せっかく話してあげたのに」
「……佐々岡先生、ちょっといいかしら?」
 ようやく、佐々岡アヤとは逆に疲れきった表情で、宮本レイコが口を開いた。
「これ、怪談とは違うんでは」
「え、でも暗い夜道で女性がレイプ魔に襲われるなんて、怖い話じゃないですか」
 宮本レイコは拳を握り締めた。最後の怒りの爆弾に、火が点いたようだ。
「……そうかもしれないけど、それは怪談じゃないです」
「はぁ」
「と言うかね……」
 握り締めた拳を大きく振り上げて、宮本レイコが、月まで届くような大声で……。

「 そ れ は 『 猥 談 』 っ て 言 う ん で す っ ! ! 」




 空に浮かぶは、秋の満月。
下界で開かれるは、怪談ならぬ猥談。
ひだまり幼稚園では、この手の話は毎日毎日アキもせず、そしてツキもせず―――。

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