作品名 作者名 カップリング
『性格診断』 ピンキリ氏 -

「ふわぁぁぁああ……」
 アキは大きく欠伸をした。
窓の外には初夏の太陽が燦々と輝いている。空も青く、雲も疎らで、まことに良い天気だ。
教室へと吹き込んでくる風がまた心地よく、暑さもそれ程感じない。
眠気を誘われたとしても、無理もなかろう。
「ふ、わぁぁぁああ……」
 それに、今は丁度お昼休み。
腹が満たされ、気分が緩んだ時というのは、特に目蓋が重くなるものである。
「平和よねぇ……」
 このまま放課後になるまで、夢の世界へと小旅行したいところだが、何分にも次の授業は英語。
こっくりこっくり舟を漕ごうものなら、それこそ飛んで火に入る夏のナントカ、まな板の上のカントカだ。
『じゅるる、お仕置きデース!』と舌なめずり&瞳キラーンなマリア先生に、どんなことをされるかわかったものではない。
「むにゅ……」 
 アキは目をゴシゴシと擦り、頬っぺたをピトピトと叩いた。
少しでも眠気を体から追い出しておかねば。
「アキさん」
「ふぇ?」
 突然後ろから声をかけられ、アキは腰を浮かせた。
「ちょっといいですか」
 声の主はマナカだった。
教室の中、しかも休み時間中なので、誰からでも話しかけられる可能性があるとはいえ、やはりいきなりの呼びかけは驚く。
加えて、マナカのあまり抑揚のない喋り方が、不意打ちを喰らった感じをより強くさせる。 
「な、何?マナカ」
 まあ、そのおかげかアキの眠気は少し鎮まった。
「お聞きしたいことがあるのですが」
 マナカがこういうふうに話しかけてくる時は、その中身がほとんどロクなものではないことを、アキは嫌というくらいに知っている。
だが、本題を聞く前から返し刀で断る程、アキは社交性のない人間ではない。
人付き合いが良いとも言うし、損な性分とも言える。

「い、いいけど……昼休みもあと十数分しかないよ」
「そんなにお手間をとらせません。簡単な質問をしますので、それに答えてくれれば良いのです」
 マナカはそう言うと、メモ帳とペンを取り出した。
「んー……」
 アキは悩んだが、それも一秒二秒のことだった。
もし内容が卑猥かつ低俗であった場合、「お断りだ」と突っ込みを入れて打ち切ればよいだけのことだ。
「わかった、じゃあ、どうぞ」
「ありがとうございます」
 マナカはどこまでも丁寧だ。口調のみ、という意見もちらほらとあるが。
「それでは質問その1。あなたは犬と猫、どちらをペットとして飼いたいですか?」
「へ……?」
 アキは首を傾げた。何とも、意図が読めない質問である。

パープルヘイズ(紫煙)?

「猫……いや、犬、かな」
 マナカが猫を飼っているからその反対、というわけではない。あくまで、どちらかと言えば犬、というだけだ。
「質問2。ジャンケンの時、あなたは一番最初によく何を出しますか?」
「え……?あー、えー、グーかなぁ。……って、コレ何?性格診断?」
 マナカは瞬きを二・三度すると、視線をアキから一度逸らし、数秒後にまたアキの方へと戻した。
「……そうですね。性格診断、です」
 微妙な間と不審な態度が気になったが、アキは追求しなかった。
まだ質問は二つ目である。ちゃぶ台をひっくり返すにはまだ早い。
「質問を続けていいですか?ではその3、喉が渇いた時、コーヒーと紅茶のどちらが飲みたいですか?」
「……コーヒー」
「質問4、お腹が空いた時、そばとうどんのどちらが食べたいですか?」
「……うどん」
「質問5、あなたは急に“誰かに見られている”と感じました。さて、どこから見られていると思いますか?」
「はあ!?何それ……えーと、後ろ」
「質問6、あなたは家の中で遊ぶ方が好きですか?それとも外で遊ぶ方が空きですか?」
「えええ、んー、あー、どちらとも言えないなぁ。気分次第かな」
「では質問7」
「まだあんの?」
「はい」
 マナカは首を縦に振った。アキはいい加減、タルくなってきていたが、マナカが続けると言うのなら、応じざるを得ない。
「質問7でしたね。えーと、あなたは……」
 結局、マナカの問いは、昼休み終了ギリギリまで続いた。

「ふあー……」
 今日も朝からよい天気だ。
気象予報士は、『日中はところにより20℃の半ばをオーバーする地域もありますが、
全般的に穏やかな風が吹き、過ごし易い一日になるでしょう』と天気予報の最後に言っていた。
「眠たいな……こんな日は、のんびりと野原でうたた寝でもしていたいな」
 アキはもう一度欠伸をした。
「アキちゃんってよく寝るね」
「寝る子は育つって言うけど、だから胸が大きくなったのかしら」
 側にカナミやショーコがいたら、きっとこんな台詞を口にしただろう。
何も、アキだって常に眠たがっているわけではない。
今朝に関して言えば、きちんと理由がある。

「この質問の意味、ですか?……それは、明日教えてあげます」
 昼休み終了のチャイムが鳴って、マナカが自分の席に引き上げる時、そう言った。
それがどうにも気になって気になって、昨晩なかなか寝付けなかったのだ。
「うー、性格診断にしてはおかしいような……いったい何なんだろ……ん?」
 校門まで後数十メートルというところで、その質問者が前を歩いているのが、アキの視界に入った。
「おーい、マナカァ」
 アキは駆け足で近づくと、おはようのあいさつもそこそこに、早速昨日の質問について尋ねた。
「……で、あれはどういうことのなの」
 それに対し、マナカは微笑んで答えた。
「そうですね、ここじゃ何ですので、またお昼休み、お弁当の時間にでも」
「あ……そう」
 残念、という風にアキは肩を落とした。何だか、ますます気になってくる。
「気になりますか」
「へ?そ、そりゃ……気になるわよ、どんな結果だったのか」
「お昼休みまで楽しみにしていて下さい……まあ、一種のじらしプレイのようなも」
「オッケーオッケー、昼休みまで楽しみに待ってるよ」
 エロボケへの対処法は、最後まで台詞を言わせないこと。
アキは強引に会話を打ち切ると、早足で校門をくぐった。

 お昼休み、屋上。
そこに、アキ、マナカ、カナミ、ショーコの四人が集まった。 
お弁当を広げ、それぞれ思い思いにパクつく。
育ち盛りは食べ盛り、お昼ご飯の時間は、学校で最も楽しいひと時だ。
「モグモグ、でさあマナカ、モグモグ、もう教えてくれてもいいんじゃない?」
「アキちゃん、頬張りながらしゃべるとこぼれるよ。……って、マナカちゃんが何を教えるの?」
「モグモグ、ええと、かくかくのしかじかでコレがこうでアレがああで……」
 アキは、カナミとショーコに昨日の昼休みの顛末を話して聞かせた。
「へー、おもしろそう。マナカちゃん、私にも教えてよ、それが何なのか」
 カナミも興味津々といった態だ。
ショーコもその隣で、パックのジュースを飲みつつ、うんうんと頷いている。
「……そうですね。別にアキさん以外の人に隠すわけでなし、いいですよ」
 マナカはそう言うと、お弁当と一緒に持ってきた手提げ鞄から、一冊のノートを取り出した。
瞬間、アキは凄まじく嫌な予感がした。悪寒に近い震えが、腰から頭へと上っていく。
「まだ書きかけなんですが」
 まさか。
「それでは、質問の解説からいきましょうか」
 もしかして。
「質問その1は、『あなたは犬と猫、どちらをペットとして飼いたいですか?』でしたね」
 いや。
「これらの質問はですね、簡単に言うと、その人の性奴隷としての資質を計るもので……」
 やっぱりか。
「性格診断と言えば性格診断ですね。性奴隷の格の診断、という意味では文字通り」
 やっぱり、そっち方面の質問だったのか―――!

「アキさんは犬を飼う方を選びました。ちなみに、飼うということは、逆にして飼われる、つまり奴隷として扱われることを意味します」
 アキは眩暈がした。やはり、マナカはマナカだったのだ。
怪しむべきだった、質問なんぞ受けなければ良かった、と思っても、もはや後の祭りだ。
「飼い犬は首輪と引き綱をつけられます。これはすなわち、自主性の放棄、完全なる服従です」
「猫は、私も飼っているのでわかっているつもりですが、元来が気ままで自己アピールが強く、その一方で甘え上手です」
「猫を選んだ場合は、奴隷として若干の自由、つまり、甘えたり拗ねたりすることが許されるようなライトな関係を望んでいるということです」
「さて、質問その2ですが、『ジャンケンの時、あなたは一番最初によく何を出しますか?』というものでした」
「グーは拳を握り締めた形、パンチです。パーは平手、ビンタです。チョキはツーフィンガー、秘所への愛撫です」
「どんなセックスを望んでいるか、がここから導き出されます。チョキはノーマルなプレイ、パーはバシバシ叩かれる激しいプレイ」
「アキさんはグー、パンチを選びました。殴られ、愛撫も何も無しに一方的に犯されるアブノーマルなプレイを望んでいるということです」
「質問その3、『喉が渇いた時、コーヒーと紅茶のどちらが飲みたいですか?』ですが」
「これはあまり説明がいらないですね。コーヒーは茶褐色で濁っています。紅茶は透き通っています」
「コーヒー=スカトロプレイ好き、紅茶=飲尿プレイ好き、アキさんは、えーと……コーヒーを選びましたか」

 マナカの無慈悲な解説は続く。
カナミとショーコはお弁当を食べながら、ひたすら聞き入っている。
アキもアンパンにちびりと噛り付き、もそもそと唇を動かした。だが、はたして味がわかっているかどうか。
もう片方の手の中の缶ジュースは、一度も口をつけられていない。
「質問その4は、『お腹が空いた時、そばとうどんのどちらが食べたいですか?』というものなんですが」
「これは少しわかりづらいかもしれませんが、そばとうどんの形を思い出して下さい」
「強引ですが、そばは荒縄、うどんは包帯を意味します。アキさんはうどんと答えましたので、緊縛プレイより包帯プレイをしたいということです」
「『あなたは急に“誰かに見られている”と感じました。さて、どこから見られていると思いますか?』これが質問その5でした」
「これはズバリ、どの体位が好きかということです。アキさんは後ろと答えました」
「様々な体位で快楽を楽しむのは、人間の特権でもあります。ですが、アキさんは獣のように後ろから突かれたいと思っているのです」
「その次の質問6、『あなたは家の中で遊ぶ方が好きですか?それとも外で遊ぶ方が空きですか?』えー、非常にわかり易いです」
「外出し派、安全なセックスライフなのか。それとも中出し派、妊娠の危険と隣あわせのゾクゾクとした刹那的なセックスライフなのか」
「アキさんは気分次第と答えました。とてもいい加減ですね。中出し派云々の前に、こーゆー人が出来ちゃった若年結婚するんですね」
 いつの間にやら、カナミとショーコはお弁当を全て食べ終わっていた。
どうやら、話を聞きたいがために、急いでかき込んだらしい。
逆にアキは、さっきのアンパンですら、まだ大半が手の中に残っている。

「さて、今までの質問とその答から、アキさんの本性を暴きだしてみましょう。つまり、アキさんはですね」
 マナカはそこで言葉を区切り、ペットボトルのお茶を口に含んで喉を潤した。
疾走前にガソリンを補給した、といったところか。
「奴隷願望が強く、殴られながらも感じるマゾ体質で」
 ぐにっ。
アキの掌の中のアンパンが形を変えた。
「スカトロプレイや目隠しプレイも大好きで」
 びびっ。
アキの指の間からアンパンのアンコが飛び散った。
「バック体勢でズコバコと獣のように犯されたいと願っていて」
 ぶちっ。
アキの額から血管が切れる音がした。
「避妊なんてハナから頭の中に無く、その時々で外出し中出しをせがむような軽い脳みそをしている、と」
 ぶわっ。
アキの体からオーラのようなものが立ち上った。

「以前アキさんを主人公にした官能小説を書こうとしたのですが、上手くいかずに中断してしまいました」
 マナカがノートをパラパラとめくる。
その先のページに、何が記されているかというと、アレしかない。
「しかし、この質問に答えていただいたおかげで、昨晩は筆が進みました」
 ここで、カナミがアキの怒気に気がついた。
肘でショーコをつんつんと突付き、これはヤバイ、という合図を送る。
ショーコもそれを理解し、高速で弁当箱を包みの中に片付けた。
マナカはといえば、語りに集中しているせいかアキの闘気を全く察知していない。
それどころか、書き足した部分を読み始めた。
「……男はアキの体を無造作に冷たい床に転がすと、淫らな笑みを浮かべた。
 アキは恐れと、そして若干の期待のこもった瞳で男を見上げた。
 アキの身体の芯がジンジンと疼く。トロリと、股間から蜜が垂れていく。
 早く苛めてほしいのだ。酷いことをしてほしいのだ。
 男はそんなアキの心を見透かしたように、棚から何かの液体の入った大きな注射器を取り出した。
 アキの肩がぶるりと期待に震えた。
 『ほら、わかるよな……?』
 『……ハイ』
 『へっへっへ、すっかり従順になったな。よし、それじゃあケツを上げな……』
 アキはおずおずと尻を男の方に向け、突き出した。
 早くして下さい、という素振りを見せてはいけない。それでは奴隷失格だ。
 『どうぞ、ご主人様……』
 男は注射器をゆっくりと掲げた……」

「どうですかアキさん、このまま続きを書いてもよろしいでしょうか?」
 ばきっ、べきべきっ、ぶしゃっ。
アキが缶ジュースを握り潰した。
カナミとショーコが中腰の状態で、あたかもエビのようにズザザザと後方に逃げ滑る。
 すうっ、とアキは大きく息を吸い込んだ。
そして、口を開き、溜めに溜めた怒りを解き放って―――

「
    へ          へ|\ へ     √ ̄|        へ
   ( レ⌒)  |\   ( |\)| |/~|  ノ ,__√    /7 ∠、 \ .  丶\      _ __
|\_/  /へ_ \)   | |   | |∠  | |__   | /   !  |     | |_〜、  レ' レ'
\_./| |/   \     .| |( ̄  _) |     )  | |    i  |  へ_,/    ノ   ,へ
  /  / ̄~ヽ ヽ.   | | フ  ヽ、 ノ √| |   ! レノ  |  !. \_  ー ̄_,ー~'  )
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  \_ノ_/ /     (____)     し'      ノ/      / /  | 〜-,,,__
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                                                        」


 アキの叫びは、学校中に響きわたった。

 当然、その轟きはシンジの教室にも届いた。
クラスの全員が、空気が揺れるのを確かに感じた。
「……ねぇ、シンジ君、今物凄い声が聞こえなかった?」
 シンジは今岡ナツミの問いかけに、眠たげな顔で「ああ」と頷いた。
無論、彼には今のが誰の声かはわかっている。
カナミかマナカがいらんことをして怒らせたのだろう、ということも察しがついている。
「ふわぁぁぁああ……」
 シンジは大きく欠伸をした。
今日の怒声は特に大きかったとはいえ、これぐらいは彼にとっては驚くべきことではない。
体が、脳みそが慣れてしまっている。

 窓の外には初夏の太陽が燦々と輝いている。空も青く、雲も疎らで、まことに良い天気だ。
教室へと吹き込んでくる風がまた心地よく、暑さもそれ程感じない。
「ふ、わぁぁぁああ……」
 シンジはもう一度、大きく欠伸をした。
目をゴシゴシと擦り、のんびりとした口調で一言、
「平和だなぁ……」

 そう、何時ものように何時ものごとく、何とも平和な昼休み―――


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