作品名 作者名 カップリング
「小笠原高校第九番目の不思議」 ピンキリ氏 今岡×シンジ

よほどの新設校でない限り、学校には必ず伝説と呼ばれるモノがある。 
有名なのは、所謂『○○学園の七不思議』と言われる類だ。 
一部の生徒が面白半分で周囲に広めた話が、先輩から後輩へと伝達され、年代を重ねるにつれ、 
様々な嘘・類推・当てずっぽう・妄想が加わり、怪奇的な内容に変貌してゆく。 
ここ小笠原高等学校にも当然、『小笠原高校の七不思議』が存在する。 
『中庭の初代校長の像は、深夜0時に涙を流す』 
『家庭科教室の二列目の右から三番目のミシンは呪われており、必ず針で指を怪我する』 
『放送室の奥の棚の一番上のケースのカセットテープのどれかに、いじめで自殺した生徒の泣き声が吹き込まれている』 
『美術室に飾ってあるモナリザの複製品には人の血で作った絵の具が使われている』 
『夕方の6時6分6秒に職員室の扉を開けた生徒は、一年以内に確実に死ぬ』 
『元墓地の上に学校が建てられており、真夜中に時折幽霊が運動会を行っている』 
『守衛室の布団が入っている押入れは、昼間は妖怪が寝ている』 
……とまあ、以上がそれなのだが、はっきり言って明確な証拠などあるわけが無い。 
中庭の初代校長の像は、昨年の台風何号かの際に壊れてしまって、新しく作り直されて校門脇に移された。 
家庭科教室の二列目の右から三番目のミシンは、数年前に安全装置付きの最新型に買い換えられ、今のところ故障も無い。 
放送室の奥の棚の一番上のケースのカセットテープは、 
いつぞやの大掃除の時にケースごと処分された。テープは全部演歌だったらしい。 
美術室に飾ってあるモナリザの複製品は、機械で印刷されたものだ。 
夕方の6時6分6秒に職員室の扉を開けた生徒は、今までに相当な数に上るが、 
誰も正確に時間も人数も調べてなどいないので詳細追求は不可能。 
最後の二つは、もはやゲゲゲの○太郎の世界であり、論ずるに値しない。 
全て信憑性や現実感に欠ける話であり、その意味では『七不思議らしい七不思議』と言えるだろう。 

しかし最近、一部の生徒が第八番目の不思議を発見、確認した。 
怪奇性は無く、言われてみると誰もが「確かにそうだ」と納得出来てしまうその第八番目の不思議とは――― 

『風紀委員の担当が、何故か“あの”小宮山先生である』 

「城島くん、今岡さん、こんな時間までご苦労様だったわね」 
化学室の窓からは、夕日の光が淡く差し込んでいる。 
部屋の中には、化学教師にして風紀委員担当の小宮山と、 
3年2組の風紀委員である城島シンジ、今岡ナツミの三人が居た。 
「いえ先生、そんなことないですよ」 
「もののついでってヤツですから」 
今日は月イチの風紀委員会の日だったのだが、 
終了後に二人は小宮山に呼び止められ、化学室の整理の手伝いを頼まれたのだ。 
化学室は広く、また実験道具も結構量と種類があり、 
その全てを整えて片付けるのには三人でもかなり時間がかかってしまった。 
「二人とも準備室の方へ来てくれる?手伝ってくれた御礼に、コーヒーでもいれてあげるわ」 
「え、いいんですか?」 
「当たり前よ。それとも3Pでベッドマナーの伝授のほうがいいかし」 
「「コーヒーでいいです」」 
「……あら、そう」 
ここらへんのエロボケに対する防御法は、シンジもナツミもある程度は心得ている。 
最後までボケをさせないことにポイントがあるのだ。 

「インスタントだけど、モノは良いわよ」 
コーヒーカップにお湯が注がれ、香ばしい香りが湯気とともに準備室の天井に登っていく。 
「とりあえず、城島君はズボンを脱ぎなさい」 
「は?」 
「は、じゃないわよ。コーヒーにはミルクでしょ。私が手伝ってあげるから早く脱ぎな」 
「絶対に脱ぎません」 
「それじゃあ今岡さん、胸を肌蹴なさい。代わりに母乳をつか」 
「絶対に出ません」 
「ふぅ、仕方が無い、私が自分の乳で―――」 
「「素直にミルクと砂糖を出して下さい!」」 
「……ちっ」 
小宮山の舌打ち。 
「「はぁ……」」 
そして二人の溜め息。その微妙な交差。 
対エロボケの防御法は最後までボケさせないことにポイントがある……のだが、 
何せ相手はあの小宮山である。不意打ちと連続攻撃はお手の物なのだ。 
それゆえ、自然と防御回数が多くなり、精神的に疲れが溜まるのが難点でもある。 

「わーったわよぅ。出せばいいんでしょ、出せば」 
子どものように唇をとんがらせながら、小宮山は棚のひとつを開ける。 
そして棚に手を入れたその時、天井のスピーカーから構内放送が流れてきた。 
♪ピンポンパンポン♪ 
【小宮山先生、小宮山先生、お電話がかかっていますので、至急職員室までお戻り下さい】 
♪ピンポンパンポン♪ 
「あら、何かしらね」 
小宮山は棚はそのままにして、ドアに歩を進める。 
ノブに手をかけると、二人の方へ振り向いた。 
「ちょっと行ってくるわ。あ、コーヒー飲んだらもう帰ってもいいわよ。今日はご苦労様」 
そう言うと、ドアの向こう側へ姿を消した。 
部屋には、残された生徒が二人と、コーヒーが三つ。 
「……とりあえず、飲んでちゃっちゃと帰るか」 
「……そうね」 
砂糖とミルクは結局手元に無いが、二人ともブラックで飲めない程お子様の舌ではない。 
シンジとナツミはコーヒーカップを手に取ると、熱さを確かめながら口に近づける。 
物凄く色が濃い。真っ黒と言っても良い位だ。 
「ぶへっ、ごほごほ」 
「に、苦ーい」 
今までに味わったことの無い苦味。もはや濃いとかどうとかいうレベルを超越している。 
「ど、どんなインスタントコーヒーなんだ、これ」 
シンジはブランド名を調べるために、インスタントコーヒーのビンのラベルを見た。 
雰囲気的に外国のモノらしい。おどろおどろしい字体で、ラベルの中央にはこう書かれていた。 
《Angel Kiss》  
「「嘘をつけーっ!!」」 
二人は咳き込みながら、ブランド名に突っ込んだ。 

「とにかく、こんなのミルクが無きゃ飲めないぞ」 
「それと、砂糖もね」 
あまりの苦味に思考力が鈍ってしまったのか、 
『流しに捨てて飲んだことにして帰る』という、至極真っ当な解決方法は二人の頭には浮かんではこなかった。 
「そう言えば、小宮山先生はミルクと砂糖を取り出そうとしてたよな」 
シンジとナツミの視線は、開け放しのまんまの棚へと向けられる。 
シンジは棚に歩み寄ると、中を覗き込んだ。 
ミルクパックの袋すぐにわかった。だが、砂糖がどれだかわからない。 
白い粉が入ったビンがいくつか並んでいたが、名前が入っておらず、どれが砂糖か判別出来ないのだ。 
「こーゆう時は……直接舐めてみるしかないよな」 
「ち、ちょっと、大丈夫?とんでもないモノだったりしたら大変よ?」 
「とんでもないモノ?」 
「ど、毒とか」 
「まさか、そんなことあるわけが……あるわけが……あるかもな」 
そう、何しろ小宮山のことだ。鬼が出てくるか蛇が出てくるかわかったものではない。 
だが、シンジの逡巡は数秒程だった。 
「……いや、多分大丈夫だと思う」 
小宮山と言えど、コーヒーやミルクの棚に無造作にキケンブツを放り込んでおくようなことはしまい。 
化学教師としての、と言うより、人間としての最低限の常識である。 
シンジは一番手前のビンを手に取ると、フタを開けて人差し指を中に突っ込んだ。 
指先に白い粉が付着する。それを自分の舌へと持っていく。 
指が若干震えているのは、やはりどこかに一抹の不安があるからか。 
「ペロッ……」 
一瞬の間。もし本当に毒だったらと思うと、ナツミは気が気でない。 
「……ど、どう?」 
「……甘い」 
二人の肩から力が抜けていく。どうやら杞憂だったようだ。 
「そうだよな、毒物が、コーヒーがあった棚に置いてあるわけ無いよな」 

―――確かに、小宮山はその棚には『毒物』は置いてはいなかった。が、それ以上のモノが置いてあったのだ。 

シンジはスプーンで砂糖(と思しき粉)をすくうと、自分のコーヒーに一匙分入れた。 
「今岡、お前はどうする?」 
「あ、私は二杯でお願い」 
「オッケー」 
別のスプーンを取り出し、ナツミのコーヒーに二杯砂糖(と思しき粉)を入れて掻き混ぜ、カップを渡す。 
「ふぅ、これで何とか飲める味になったな」 
「ほんとだね」 
二人はコーヒーをゆっくりと喉に流し込んでいく。 
苦味が薄まれば、なかなかに味わい深いコーヒーだった。 

カップの中身が半分程になったところで、シンジは異変に気づいた。 
(な、何だ……えらく、部屋が蒸し暑い、ような、気が、する……) 
シンジはキョロキョロと部屋を見回す。 
ヒーターのスイッチはOFFになっているし、太陽は沈みかけている。 
なのに、額やうなじは汗ですでにびっしょりだ。 
「おい、今岡、何かおかしくない―――」 
シンジは最後まで言葉を続けることは出来なかった。 
目の前のナツミが、いきなりしゃがみこんだからだ。 
「い、今岡!どうした?」 
カップを机に置くと、シンジは膝を折ってナツミの顔を覗き込んだ。 
「シ、シ……ンジ……く、ん?」 
異様に頬が赤い。瞳もユラユラして潤んでいる。唇は半開きだ。 
普段は見ることの出来ない、あまりに艶かしい表情。 
(うっ!) 
シンジは眩暈を覚えた。クラクラしてくる。動悸が激しくなる。 
そして、下腹部から湧き上がってくる、凄まじいまでの衝動。 

(な、な、なんだ、こりゃ……!) 
シンジは首を思いっきり左右に振ると、混濁しそうになる意識を現実へと引き戻す。 
「い、今岡、しっかりしろ……っ」 
「シンジくん……な、何か、ヘン……。か、からだが、熱くて、ああ、おか、おかしく……」 
ナツミは最早まともに舌も動かせないようだ。 
(お、おかしい。絶対に変だ。と、とに、かく、助けを、よ、呼ばない、と……!) 
シンジはナツミを立たせようと、その肩に手をかけた。 
「ひっ、あああああっ、ダッ、ダメーッ!」 
ナツミはビクビクッと体を震わせると、両腕を自分で抱え込むような体勢で、シンジの胸に寄りかかってきた。 
獣のように、荒い息使い。 
服越しに伝わる、焼けるように熱い体温。 
掌に纏わりつく、柔らかい肉の感触。 
「う、うあ、うう、ああああ……?」 
引き戻したはずの意識が、また、強烈な欲求に引っ張られ、流されていく。 
「ひ……シ、シン……ジ……く、ぅ」 
ナツミの唇の端から、一筋つーっと唾液が垂れ落ちていく。 
その瞬間。 
シンジの思考は赤く塗りつぶされ、跳んだ。 

「うおぉおぉおぉっ!」 
腹の底から搾り出すように吼えると、シンジは制服の上からナツミの胸を思い切り掴んだ。 
「ひぃっ!」 
悲鳴を無視し、乱暴に捏ね繰り回す。 
あまりの力の強さに、制服が乱れ、ボタンがプチプチと千切れ飛び、宙を舞う。 
清楚な感じのブラジャーに包まれた、ボリュームのある乳房が覗く。 
シンジは捻り込むように手を突っ込むと、ブラジャーを引き抜き、音を立てて桜色の乳首に吸い付いた。 
「うあああ、あああ、ああーっ!」 
ナツミの声に官能の響きが混じる。 
実際、ナツミは感じていた。乱暴にされるほどに、シンジの掌が、舌が、胸を弄る度に、 
身体の芯から例えようもない快楽が噴きあがり、槍となって頭の奥を刺激する。 
嫌悪や戸惑いといった感情は無い。考えることも出来ない。熱い快感の波が、全てを呑み込んで流していく。 
「はむぅぅぅッ……」 
お互いの唇が重なる。恋人同士の優しい口づけでは無い。ただただ貪るように舐め合い、舌を絡め合う。 
唾液が混ざり、溢れ出て、二人の顎を濡らす。 
息の限り続け、離し、肺に空気を入れると、また唇をぶつける。 
もう、正常な男女の交わりでは無い。 

シンジは右手をナツミの太腿の間に滑り込ませた。 
そこは汗と、そして別の液体でべとべとになっていた。 
火傷しそうなほどの熱さが、掌を通じてシンジの脳を焼く。 
シンジの指は躊躇わなかった。ナツミの秘所へ一直線に辿り着く。 
ショーツの上から、細かい部分を探ろうともせず、勢いに任せて撫ぜ繰る。 
そこはもう、濡れているという表現では追いつかない状態だった。 
「うぁぁ!シンジくぅーん!はぁぁっ!」 
快楽の大きな波が、ナツミを蹂躙し、突き上げる。 
シンジの指がショーツの中に潜り込む。さらに大きな波。 
周辺を掻き乱される。イク。中に入れられる。イク。クリトリスを擦られる。イク。 
「あは……かは……ッ、うう、あああッ!」 
ナツミを絶え間なく襲う、波、波、波。 

シンジは指を止めると、もう一度ナツミの唇にむしゃぶり付いた。 
そして顔を上げ、両手でナツミの太腿を荒々しく広げる。 
制服のズボンのジッパーを下ろし、中から痛い程に張ったモノを取り出す。 
「はぁ、はぁ、はぁ……い、いまおか、いま、おかッ……!」 
「ううぁ、シ、シンジくぅ、ん……!」 
シンジはスカートをたくし上げ、ショーツを剥ぎ取った。ナツミの秘所が露わになる。 
(入れたい。すぐに、もう、入れたい。入れたい。入れたい。入れたい……) 
シンジは己のモノをナツミのそこにあてがった。 
そして前屈みになり、腰を前に突き出そうとして―――やめた。 
「ぐ、ぐむ、ぐうっ」 
目を瞑って、思い切り唇を噛み締めるシンジ。じわりとその端に血が滲む。 
(いい、のか?これで、ホントに、シテしまっても、いいのか?これで、こんなんで) 
理性の最後のひとかけらが、シンジを抑制の岸辺へ繋ぎ止めた。 
(ダメだ、ダメだ、ダメ……だ!) 
今岡とは友達じゃないか。仲の良い友達じゃないか。 
何が原因でこうなってしまったのかわからないけど、 
ここで欲望に負けて、今岡の純潔を奪ってしまうようなことをしてはならない。 
今岡を傷つけちゃ、いけない! 
「ううううう、うっ……!」 
今岡ナツミという女性への、思いやり。それが理性の最後のひとかけら。 

「あ……!?」 
シンジは頬に何かが触れるのを感じた。 
目を開けると、ナツミが両手で頬を挟んでいる。 
「い、いま、今岡……」 
「いいよ……」 
「え?」 
「いいよ、きて……!」 
言葉が耳からだけでなく、頬に添えられている掌からも流れ込んでくる。 
俄かには、信じられないその内容。 
ナツミの顔は快楽に蕩けているように見える。 
シンジよりも、ナツミの方がより身体的に興奮しているらしい。 
「だ、だめ、だ。いまおッ……」 
ナツミの手が、シンジの口を押さえる。 
「私……押さえきれないよぅ……」 
「…………」 
「シテ欲しい。シンジくんに、シンジくんが、好き、だから……!」 
(…………!!) 
「好き、だったの。ずっと、前から……」 
ナツミの目から涙が、零れて落ちていく。 
押さえきれない、性の、快感への欲望。そして、だからこそ、より強く燃え上がる愛しい人への想い。 
再び、熱い衝動が、シンジの心臓から、全身へと流れていく。 
(……い、ま、お、か……!) 
キレた。 
「う、ああ、あああああああっ!」 
一気に。 
シンジは一気にナツミを貫いた。 

小宮山は腹を立てていた。 
教材用に注文した薬品のリストに漏れがあったらしく、 
あれはあるかだのそれは載ってるかだの電話で延々と業者と確認しあったのだ。 
「まったく、手間がかかるったらありゃしない」 
小宮山は化学準備室の手前まで来ると、妙な感じを覚えて立ち止まった。 
彼女の豊富な数々の経験に裏打ちされた、高性能レーダーがビンビンに反応している。 
(何、この感じ……すっごーくイヤな予感がする) 
レーダーは化学準備室でとんでもないことが起こったと知らせている。 
(城島くんと今岡さん……二人はコーヒーを飲んでとっくに帰っているハズ……) 
脳内でアラームが鳴り響く。 
出来れば無視したい。 
しかし、無視すれば自分に災いが降りかかってくる。レーダーはそうも告げている。 
小宮山はゴクリと唾を飲み込むと、ドアに手をかけ、そーっと中を覗いてみて――― 

言葉を失った。 

「シンジくん、一緒に帰ろう」 
「ああ、今岡」 
シンジとナツミは、最近はほとんど一緒に下校している。 
もうどこからどう見ても立派な彼氏彼女の関係だ。 

「っきしょー……シンジの裏切りもーん……」 
教室から出て行く二人の背中を見つつ、ぼやく男がひとり。新井カズヤだ。 
最近カズヤはナツミをエロのネタにしていない。 
迂闊な事を口走ると、ナツミだけではなくシンジからも鉄拳が飛んでくるからだ。 
「っきしょー……シンジのあんぽんたーん……」 
もう二人はカズヤの視界の中には居ない。 

「それでね、今度の日曜日なんだけどさ」 
「ああ、どこでも付き合うよ」 
二人は楽しげに会話しながら、校門を出て行く。 

「うううう、せんぱぁぁぁい」 
校門横の初代校長像の影に隠れて、涙を流す少女が一人。叶ミホだ。 
最近ミホはシンジにアタックしていない。 
どんなことをしてもシンジが完全に無視、というか視界にすら入っていない様子だからだ。 
「うううう、せんぱぁぁぁい〜」 
ミホの視界が涙で滲み、二人の背中が霞んで見える。 

「とってもかわいいお店見つけたの」 
「じゃあ、そこに行ってみようか」 
横断歩道の信号待ち、立ち止まっている時も二人は繋いだ手を離さない。 

「……お兄ちゃん」 
「……」 
「……」 
「……」 
角のポストに身を隠し、二人の様子を伺う集団が一組。城島カナミ、矢野アキ、岩瀬ショーコ、黒田マナカの計4人だ。 
最近4人は二人に絡んでない。 
割り込む隙間も、からかう隙間も、冷やかす隙間も、ボケをかます隙間も無いからだ。 
「……お兄ちゃん」 
「……てかさ」 
「……ポストに隠れるのに4人はちょっと」 
「……多すぎますね。傍から見ればただのバカかと」 

城島シンジと今岡ナツミが付き合い始めるきっかけになった、化学準備室での出来事。 
その責任は“小笠原高校第八番目の不思議”小宮山にあった。 
小宮山が怪しげな伝手を頼って手に入れた、強力かつ即効性のある媚薬。 
事もあろうに、そんな危ない薬物を、 
コーヒーや他の食品が入っている棚にほったらかしにしてあったことがそもそもの原因だったのだ。 
その媚薬はちょっと見は砂糖と何ら変わりはないし、舐めても甘いだけなので、 
シンジとナツミが勘違いしたのも無理はない。 

あの日、二人が精魂尽き果ててぐったりしているところに帰ってきた小宮山は、瞬時に状況を理解した。 
自分も混じって3P、などと阿呆な行動は取らなかった。 
何しろその媚薬の存在自体が、法に触れるか触れないかギリギリの代物なのだ。 
迂闊なことをして、二人の口から媚薬の話が学校に広まってはかなりマズいことになってしまう。 
ともかく、小宮山の行動は速かった。 
【媚薬を隠す→二人に服を着せる→カップや床の掃除などを済ませる→ 
 二人を車に載せて自宅のマンションへ連れて帰る→道すがら媚薬の説明→ 
 マンションで二人の診察→拝み倒して媚薬の口封じ】 
この間、実に二時間に満たない。 

二人は最初は戸惑っていた。 
強力な媚薬で、不可抗力だったとはいえ、セックスという行為に及んでしまったからだ。 
しかもナツミはシンジに想いを告白している。 
これからお互い、どのようにしてゆけば良いと言うのだろうか。 

だが、案ずるより産むが易しというところか。 
ナツミの『シンジくんが好き』という気持ちは変わらない。 
一方のシンジも、ナツミに対する感情の変化を自覚していた。『今岡と一緒に居たい』 
初めてを奪ってしまったことに対する責任感でも、欲望の赴くままに行動してしまったことへの後ろめたさでも無い。 
現金な話だが、抱いてみて、そして告白されてみて、そこで初めて今岡ナツミという女性の魅力を知ったのだ。 

学校からの帰り道。 
シンジとナツミは、ちょっと寄り道して公園のベンチでジュースを片手に一休みをしていた。 
「ねぇシンジくん、『小笠原高校第九番目の不思議』って、知ってる?」 
「……?いや、知らないなぁ。どんな話?」 
「あのね、ここ数週間で、校内のカップルの数がどんどん増えてるらしいの」 
「……それが、第九番目の不思議?」 
ナツミは首を横に振る。 
「ううん、違うのよ。告白した場所の問題」 
「?」 
「小笠原高校第九番目の不思議、それは、『化学準備室で好きな人に告白すれば、必ず想いが伝わる』」 
「……へ?」 
「ただし、条件があるの、『告白する前に、小宮山先生に相談すること』」 
「……それって、つまり……」 
「そう、そういうこと」 
シンジは苦笑すると、ジュースを一気に飲み干す。 
「……あの人、ホント、転んでもタダで起きない人だなぁ」 

同時刻の化学準備室。 
小宮山は机に向かい、ノートパソコンにカチャカチャと何やらデータを打ち込んでいる。 
ノートパソコンの横には、白い粉の入ったビンが置かれている。 
「ふんふん、量はもう少し減らさないと、理性を保てないみたいね……」 
と、背後でドアをノックする音。 
「はい、開いてるわよ」 
ドアを開けて、一人の少女がおずおずと入ってくる。 
「あの、小宮山先生、お暇でしたら、相談にのってほしいことがあるんです……」 
「あら、いいわよ。どんなことかしら?」 
ニコリと笑ってそう言うと、小宮山はインスタントコーヒーを準備するために、カップを棚から取り出した。 

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